児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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アスリート盗撮罪についての法制審議会の議論

法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会
第5回会議 議事録
○長谷川幹事
もう一点は、撮影の対象です。スポーツ選手のユニフォームなどが問題となってくるのですが、衣服に覆われているということでこの犯罪の対象から一律除外されるということはないようにというか、それも検討に残しておきたいと思っています。下着が明確に入ったら、それはそれでいいのですが、ユニフォームなどについても、これは、例えばスポーツジャーナリストの写真はどうだとか、そういう区別の難しさはあるのですが、実際に撮影されたものが、見る者をしてやはり性的な羞恥心を覚えさせるような形で、着衣の上からでも撮影されているようなものについては、犯罪化の検討は論点として残しておいていただきたいと思います。
○井田部会長 それは、スポーツ選手が競技しているところを撮影する行為をすべて処罰すべきだということではないですよね。どういう場合に処罰すべきだということなのでしょうか。
○長谷川幹事 撮影行為と撮影の成果物、なかなか切り離すのが難しいかもしれないですけれども、撮影された者がスポーツをしているところを普通に撮影しているものと評価されないもの、例えば、殊更に、胸の谷間のところを強調して撮影しているだとか、見ている人が性的な羞恥心を覚えたりするようなものについては対象とすると、そういうものを撮影したことが構成要件としてなっていく形を考えています。
○橋爪委員 一点質問させていただきたいのですが、具体的にどのような処罰規定を設けるべきという御提案でしょうか。
○長谷川幹事 処罰規定というのは、法定刑などでしょうか。
○橋爪委員 むしろ具体的な構成要件の内容です。スポーツ選手の臀部や胸部などをアップにする写真を撮影する行為を対象にされていると思いますが、具体的にどのような行為態様を規定した上で、どのような構成要件を設けるべきとお考えかについて、お伺いさせてください。
○長谷川幹事 ほかの要件についてまだ分からないのですけれども、着衣の有無にかかわらず、人の性的な部位、臀部とか、そこの定め方は少し置いておきますが、そういったものを強調又は露出するような方法で、かつ、人に羞恥心をもたらすような画像とか、何かそのような、すみません、まだ練れていないですが。わいせつ物頒布罪の判例の定義とか、いろいろな定義を参考にして持ってきたらと思うのですが、そういう二つの要素を構成要件にした形を考えています。
○橋爪委員 今の点に関連しまして、私も意見を申し上げたいと思います。長谷川幹事がおっしゃったとおり、スポーツ選手の臀部とか胸部をアップにしたような画像がネットには拡散しており、そして、このような画像の公開・拡散によって、被害者の方が強い羞恥心や不快感を抱くことは当然でありまして、このような被害を極めて深刻に受け止める必要があると考えております。ただ、既に今日も議論がございましたけれども、性的な姿態の撮影を処罰する根拠は、やはり性器や臀部、胸部などの性的な部位あるいは下着など、本来は衣服の下に隠されており外部から視認不可能な部位を撮影し、かつ、その画像を固定化する点にあるように思われます。
したがいまして、この問題につきましても、性的な部位や下着など、本来は外部から視認不可能な部位が写り込んでいる場合と、水着やユニフォームなど外部から視認可能な部位のみの撮影であり、性的部位や下着が写り込んでいない場合とに分けて検討する必要があるように思われます。このうち前者の類型、すなわち、性的な部位や下着が撮影されている場合については、被害者の性的自由の侵害が明らかでありますので、これは処罰対象に含めるべきです。例えば、赤外線を用いた撮影装置を利用して水着やユニフォームを透視して性的部位や下着を撮影する行為は、当然に可罰性があると思われます。また、特殊な装置を用いていなくても、例えば、ユニフォームがずれる、透ける等したことにより、性的部位や下着が写り込んでいる場合についても、撮影者に故意がある場合には同様に処罰可能であると思われます。
これに対して後者の類型、すなわち、性的部位や下着が写り込んでいない場合には、性的部位を撮影したことを処罰の根拠にはできませんので、先ほど御提案がありましたように、別の観点から処罰の根拠を見いだす必要がございます。先ほど長谷川幹事からは、撮影行為に際して臀部や胸部を過度に強調する撮影行為を処罰対象とする旨の御提案がございました。
もっとも、仮にこのような規定を設ける場合には、具体的にどの程度まで強調すれば構成要件に該当するかに関して明確な判断基準を設ける必要があると思いますが、この点を法文上明確に規定することは極めて困難であるように思われます。また、仮にこのような規定を設けた場合でも、その場合には、性能の高いカメラを用いて通常の撮影行為を行った後、特定の部位だけを拡大する行為が横行するだけですので、このような罰則は実効性という観点からも疑問が生じます。
さらに、別の規定ぶりとしましては、行為者の目的に着目した上で、性的な目的に基づく撮影行為を処罰対象にすることも考えられます。しかし、撮影行為が通常の態様で行われた場合に、性的な意図、目的を撮影段階で認定することは極めて困難であるように思われ、このような規定形式も実効性に疑問が生じます。また、客観的には通常の撮影行為として認められているものが、本人の目的だけを根拠として可罰的な行為に転ずるというのは、理論的にも正当化し難いように思われます。
さらに考えますと、撮影者の行為態様が、例えば、被害者を羞恥させ困惑させるものであるとして、撮影行為の態様に着目した処罰規定を設ける可能性もあるのかもしれません。実際、このような観点から盗撮行為を条例違反で処罰している事例も散見されます。しかし、こういった事案は、行為者が被害者に執拗に付きまとったり、至近距離から撮影しようとするなど、行為態様の異常性を重視した判断である点が重要です。したがいまして、たとえ胸部や臀部をアップにしていても、撮影の外見や行為態様自体が一般の撮影者と変わりない場合については、撮影態様に着目した処罰も困難であろうと思われます。
このように、いろいろ考えてまいりましたけれども、性的部位や下着が写り込んでいない撮影行為については、処罰対象を明確に限定した上で、かつ実効性がある罰則を設けることは困難であるように思われます。このことは、性的部位や下着が写り込んでいない撮影については、実はその後の画像の加工行為や公開などを含めて法益侵害性が顕在化するにもかかわらず、これを撮影行為だけを切り取って処罰することの困難性に起因するものと思われます。既に性犯罪に関する刑事法検討会でも申し上げたところですが、これらの行為につきましては、まずは撮影場所や撮影方法に関する規制の強化、さらに、性的に加工された画像のアップロードに関する規制等を検討した上で、被害の可及的防止を図ることが先決ではないかと考える次第です。
○長谷川幹事 いろいろな問題点を御指摘いただき、私もまた考えたいと思います。最後の方におっしゃっていただいた、撮影行為と切り離して、加工やアップロードの時点で規制することの検討ということは、大いに進めていただきたいと思います。

p29
○井田部会長
さらに、スポーツ選手、アスリートに対する撮影について、それを処罰対象にすべきだという御意見もありましたけれども、これは犯罪を構成する行為を明確に切り分けることは難しいのではないか、また、実効的な罰則にならないのではないかということが指摘され、他方で、着衣の上からであっても、例えば透視機能のある撮影機器を用いて撮影する場合には、当然これは撮影の処罰範囲に含まれる行為になるのではないかといった御指摘がありました。また、アダルトビデオへの出演強要を処罰対象とすべきではないかという意見がありました。
これについては、別途検討している強制性交等罪、それから、撮影罪の要件を検討するときに併せて議論することがよいのではないかという御指摘がありました。言い換えると、アスリートの撮影の問題とアダルトビデオの出演強要の問題は、別途の特有の問題、あるいはそれについての特有の規定を設けるような問題としてではなくて、この撮影罪の規定ぶりの問題、処罰範囲の問題、あるいは、そもそも強制性交等罪、強制わいせつ罪の要件を考える際に併せて検討すべきだということで恐らく合意が得られたのではないかと思われました。
以上、まとめさせていただいたような御意見・御指摘を含む本日の議論を踏まえて、事務当局において更なる議論のたたき台を作っていただき、二巡目の議論では、それを基に更に議論を深めるということにしたいと思います。そういうことでよろしいでしょうか。
(一同異議なし)

法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会
第7回会議 議事録
○井田部会長 大変有益な問題提起だと思います。一つは、フィギュアスケートの選手が、あるいはもうちょっと一般化すると、海水浴場などで、水着姿を撮影するような行為について、どの範囲であればいわば許容限度にとどまり、どの範囲から撮影罪の対象になってくるのかの線引きの問題ですかね。もう一つは、二次提供についてどう考えるかということですが、どうでしょうか。
○橋爪委員 前半について、一言、私の理解を申し上げます。
撮影罪の処罰根拠とは、性的姿態等、すなわち一般に外部からは見られないもの、つまり、下着姿であるとか、あるいは性的部位のように、一般には外部からは見られないように衣服で覆われているものが撮影されることに伴う法益侵害に求められると思われます。そのような意味で、例えば、水着やスポーツのユニフォームなどは、外部から見られないものとはいえませんので、配布資料19の「1(1)対象」の「①」から「③」には該当せず、今回の原案では処罰対象からは除かれていると理解いたしました。
○浅沼幹事 今、橋爪委員から御発言がありましたけれども、たたき台を作成した事務当局としましても、この案としては、そのような水着姿やユニフォーム姿は、処罰すべき撮影対象には含まれていないという案として作成しています。その上で、それが適当かどうかは御議論いただきたいという趣旨でございます。
○齋藤委員 水着などもそうなのですけれども、性的な部位だと思われるところ、衣服に覆われているけれども、そこを特に強調して撮った場合みたいなことを想像したのですけれども、それは、この中には入っていないという理解でよろしかったでしょうか。
○橋爪委員 以前の部会で発言した記憶がございますが、確かにアスリートの性的な部分を強調した撮影行為が横行しており、大きな問題であると認識しております。ただ、仮に性的に強調した撮影行為を処罰するとしても、例えば、精巧なカメラを使うと、普通の撮影行為でも後から加工などをして一部だけを強調することもできます。そうすると、性的に強調した撮影行為というものを、そもそも構成要件上、処罰対象を明確に規定できるかという問題もありますし、また、性的な部分を強調した撮影行為、あるいは性的な目的の撮影行為を処罰対象にするとしても、それを実効的に処罰することは困難ではないかとも思われまして、深刻な問題ではありますが、今回の撮影罪をめぐる議論では、一応分けて考えた方がいいだろうと考えている次第です。

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○今井委員
他方で、このような撮影行為やこれによって生じた画像の提供行為と比べると、当罰性を下回るものではないか、あるいは、処罰すべきかどうかについて意見が分かれる、そういった外延的といいますか、撮影行為とやや距離感があるような提供等、拡散行為について、どこまでを処罰対象とするかということは、保護法益を侵害する危険性の程度を、具体的に慎重に検討して決定すべき問題だと思います。例えば、先ほども、スポーツ選手がユニフォームを着ていて、そして、その一部にフォーカスし、クローズアップするというような行為でありますとか、部会長もおっしゃっておりましたけれども、水着を着るのが当然の海水浴場でありますとかプール等で、水着の一部について焦点を当てているような行為、多々そういうことが生じていると思いますけれども、そういったことが、この部会で、ほぼ合意されつつある法益との関係で、その侵害の程度があるやなしやという点から、そうした行為を処罰対象に取り込むかを検討すべきものだと思います。
保護法益を自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られない性的自由あるいは性的自己決定権とした場合には、今のように衣服を着けた状態の性的な部位が、画像上拡大されるなどして強調されたことによって、どの程度保護法益の侵害が生じているといえるだろうかということ、あるいは、具体的にどの程度まで強調すれば、ここで想定しています罰則の構成要件に該当するのか、そこに明確な線引きができるかという観点から、改めて慎重に検討すべきであると思います。そして、こうした加工行為、クローズアップするような行為が、保護法益の侵害を生じさせるとはいえないのだとしますと、その提供行為についても、やはり保護法益の侵害がより遠くなりますので、処罰するのは難しいのではないかと私は思いますが、また、皆さんと慎重に検討すべきだと思います。