男湯の男児裸体は、性欲を興奮・刺激するものであることは明らかである(某地裁R06)

 男湯の男児裸体は、性欲を興奮・刺激するものであることは明らかである(某地裁R06)
 
 5項製造罪の「ひそかに」は客観的な撮影態様で決まるので、被告人とか被害者の主観は関係無いはずです。

某地裁r06
(争点に対する判断)
1 弁護人は、~(4)判示第4の事実について、被告人は、携帯電話機を堂々と児童に向けて撮影をしており、ひそかに撮影していないし、公衆浴場の男湯における男児の存在は、社会的に許容されているから、被告人が撮影した画像や動画は、性欲を興奮又は刺激するものではなく、児童ポルノに該当しない旨主張する(以下、各主張を指して「弁護人の主張(1)」などという。)。
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5 弁護人の主張(4)について
  携帯電話機を人に向けるという行為の外観から、一見して携帯電話機の撮影機能を利用して撮影していることを看破することは必ずしも容易とはいえず、被告人が、児童を撮影する際、携帯電話機を、児童から認識できるように向けていたとしても、そのことから直ちに「ひそかに」撮影したとの構成要件該当性が否定されるものとは解されないし、被告人が、犯行時の状況について、「~~」旨供述していることからすれば(なお、これらの供述は、性欲を満たす目的で、見ず知らずの児童の裸体を撮影する状況を説明するものとして自然なものであり、信用できる。)、被告人が、犯行時に児童らに撮影していることを知られないような態様で携帯電話機を向けたことは優に推認できる。また、被告人が撮影した画像等は、いずれも殊更に性器が露出された男児の姿態であり、それ自体として、見る者にそのような男児の姿態を盗撮したものであることを想起させるものであることからすれば、性欲を興奮・刺激するものであることは明らかである。弁護人の主張(4)は採用できない。

鎮目征樹「児童ポルノ禁止法2条3項3号の意義—児童ポルノ販売事件—京都地判平成12・7・17」メディア判例百選2版
5  上記判断基準については,第1 に,「一般人」を標準に据えたこと,第2 に,性欲の興奮・刺激要件該当性の判断資料である「裸体等の描写叙述方法」として,性器等を強調していないか,ポーズや動作に扇情的な要素がないか等の要素に加え,「裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性」に言及したことが注目される。
まず,第1 の点は,一般人の「性欲を興奮させ又は刺激する」とはいいがたい乳幼児の裸体等について,裁判例(前掲富山地判平成24・10・11,横浜地判平成28・7・20LEX/DB 25543577)が本罪の成立を肯定していることに鑑みると,本罪の成立範囲を限定する効果に乏しく,第2の点,特に,必然性・合理性の要素が,幼児の自然な姿の記録や学術・芸術的な作品と,当罰的な3 号児童ポルノとを切り分ける上で重要な機能を有する。
しかし,描写内容のみから撮影の必然性や合理性を判断するのは,困難な場合がある。
たとえば,全裸でスポーツをする姿の描写は,内容自体が異常なものであり,必然性・合理性の欠如を容易に肯定できようが,幼児が水遊びをする場面のように,描写内容自体から裸体等を撮影する必然性・合理性(それが自然な姿の描写か否か)を判断できない場合もある。
このような場合には,性器等の強調や扇情的なポーズ・動作の有無を検討して,客観的に,3 号児童ポルノ該当性を判断することが考えられるが,必然性・合理性は,性器等の強調や扇情的描写が無くても認められない場合がある。
問題は,必然性・合理性なき裸体等の描写がいかなる範囲で児童ポルノに該当しうるかであり,①性器等の強調や扇情性と必然性・合理性の欠如とを重畳的に要求するか,あるいは,②前者に代替する限定要素を持ち込むかしないかぎり,必然性・合理性なき撮影は直ちに3 号児童ポルノに該当することになる。
 6  現在に至る裁判例を概観すると,性器等の強調や扇情性と必然性・合理性の欠如を重畳的に要求する考え方(①)は,実質的に放棄されるに至ったように思われる。
2004(平成16)年改正により,他人に提供する目的を伴わなくても,児童に2 条3 項各号に掲げる「姿態をとらせ」,これを撮影等する方法による児童ポルノの製造行為が犯罪化され(同法7 条4 項),さらに,2014(平成26)年改正により,「ひそかに」2 条第3 項各号に掲げる児童の姿態を撮影等する方法による製造行為が犯罪化された(同法7 条5 項)。
4 項製造罪にかかる典型的事案は,児童に対する性犯罪(強制わいせつ・性交等,児童福祉法違反〔児童に淫行をさせる行為〕,児童買春,淫行条例違反)に随伴して,児童の裸体等の撮影・録画がなされる場合であるが,医師が通常の診察行為の一環として,女子児童(13 歳未満)の着衣をずらして乳房を露出させた様子(広島高判平成23・5・26 LEX/DB 25471443),保育士が身体測定の機会に児童(6歳)に指示して上衣を脱がせた様子(前掲富山地判平成24・10・11)等,性器等の強調や扇情性といった要素が希薄な姿態を撮影する行為も,同罪により処罰されている。
また,5 項製造罪についても,入浴施設の脱衣所において,男子児童(推定年齢12歳)が全裸になっている様子(横浜地判平成29・7・19 LEX/DB 25546811),自然学校に参加した男子児童ら(当時10歳および11歳)の浴室脱衣場における裸体(神戸地判平成30・1・12 D1―Law28260879),保健室で内科検診を受診している女子児童計35 名の上半身裸の姿態(函館地判平成30・4・17 D1―Law28262463)等,性器等の強調や扇情性の存在に疑問がある姿態の盗撮事案について同罪の成立が肯定されている。
かねてより,裁判例の中には,性欲の興奮・刺激要件につき,「同要件は相当程度緩やかに認められる」と述べるもの(前掲富山地判平成24・10・11)が見られ,また,客体該当性判断において,撮影目的(「自己の性的し好を満足させる目的」)などの主観的要素を考慮することができると明言するもの(前掲仙台高判平成21・3・3)も見られる。
しかし,性器等の強調や描写内容の扇情性という要素が極端に希薄化したときに,撮影目的という主観的要素を,これに代替して当罰性を基礎づける客体の要素(②)とすることが理論的に可能か,あるいは,製造行為がもたらす法益侵害性(この点につき,仲道・後掲63 頁以下参照)を考慮することによって,客体たる児童ポルノがもつべき法益侵害性の要求を緩和すること(すなわち,行為類型による児童ポルノ概念の相対化)を認めてよいか等が,問題として残るであろう。
●参考文献 園田寿= 曽我部真裕編著『改正児童ポルノ禁止法を考える』[2014],坪井麻友美「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」曹時66 巻11 号3017 頁,松井茂記ほか編『インターネット法』[2015]90 頁以下〔曽我部真裕〕,渡邊卓也『ネットワーク犯罪と刑法理論』[2018],仲道祐樹「児童ポルノ製造罪の理論構造」刑事法ジャーナル43号63