児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

sexting(映像送信要求罪+不同意わいせつ罪+性的姿態撮影罪+児童ポルノ製造罪)の罪数処理

 だいたいこういう公訴事実で4罪を科刑上一罪で起訴されることが多いようです。

公訴事実例
被告人は、A(13歳)が16歳未満の者であり、かつ、自らが前記Aの生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることを知りながら
正当な理由がないのに、
令和6年12月26日午前10時02分ころ大阪府大阪市北区の被告人方において、前記Aに対し、自己が使用する携帯電話機のアプリケーションゾフ卜「LINE」のメッセージ機能を利用し、「陰茎見せてよ」などと記載しメッセージを送信し、その頃、同人にこれらを閲覧させ、もって性的な部位を露出した姿態をとってその映像を送信することを要求し、
同日午前11時20分頃、同人に、その陰茎を露出した姿態をとらせ、
これを同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、
同日午前11時27分頃、その画像データ12点を同携帯電話機から前記「LINE」を利用して被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、同画像データ123点を株式会社が管理する日本国内に設置されたサーバコンピュータ内に記録、保存させ、
もって16歳未満の者に対じ、わいせつな行為をし、13歳以上16歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影する行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。

一罪になるか検討するするにあたっては、各罪に該当する事実に分類する必要があります。

 

 要求罪・性的姿態撮影罪は実行行為がピンポイントなので、他罪との重なり合いが小さく、観念的競合にはなりにくいと思います。
 
 最決h21.10.21の罪数判断の手法(児童淫行罪と姿態をとらせて製造罪とは併合罪)が効いてくると思うんだよ

      最決h21.10.21
      所論は,上記両罪は併合罪の関係にあるから,児童ポルノ法違反の事実については,平成20年法律第71号による改正前の少年法37条によれば,上記家庭裁判所支部は管轄を有しない旨主張する。
      そこで,検討するに,児童福祉法34条1項6号違反の罪は,児童に淫行をさせる行為をしたことを構成要件とするものであり,他方,児童ポルノ法7条3項の罪は,児童に同法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造したことを構成要件とするものである。本件のように被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,
      一部重なる点はあるものの,
      両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,
      両行為の性質等にかんがみると,
      それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。

 

      判例タイムズ1326号134頁 最高裁判所第1小法廷 平成19年(あ)第619号 児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件 平成21年10月21日
      匿名解説
             4 刑法54条1項前段の観念的競合の要件である「一個の行為」に関しては,最大判昭49.5.29刑集28巻4号114頁,判タ309号234頁が,「一個の行為とは,法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう」としているが,具体的な当てはめについては,必ずしも容易でなかった面もあったように思われる。数個の罪名に触れる行為が完全に重なっていれば,これを「一個の行為」と解すベきことについては異論はないであろうし,行為の重なり合いが「一個の行為」性の判断において重要な要素であることも間違いないと思われる。しかし,上記大法廷判決に関しても,行為の重なり合いは「一個の行為」であるための必須の要件とは解されていなかったと指摘されていたのであり(本吉邦夫・昭49最判解説(刑)113頁,金築誠志・昭58最判解説(刑)322頁等参照),同判例における酒酔い運転と業務上過失致死のように,継続犯とその一時点で成立する他の罪については,行為に重なり合いがあるともいえるものの,「一個の行為」ではないとされるのが通常である。また,最一小判昭58.9.29刑集37巻7号1110頁,判タ509号88頁においては,覚せい剤取締法上の輸入罪と関税法上の無許可輸入罪について,それぞれの実行行為は重ならないと考えられるのに,「一個の行為」であることを認めている(同様の関係は,戸別訪問の罪とその機会に行われた各種違法選挙運動の罪が観念的競合とされていることについても存在するとの指摘もある。)。
        本件で問題となった3項製造罪については,「姿態をとらせ」の要件の意義をどう理解するかによって,同罪と児童淫行罪等との行為の重なり合いの判断も異なってくる可能性もあるが,本決定は,「被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの」としており,行為の重なり合いがあること自体は認めている(本決定が「姿態をとらせ」を構成要件として規定された行為ととらえていることは明らかである。)。その上で,
      「両行為が通常伴う関係にあるといえないこと」や,
      「両行為の性質等」
      を挙げて,結論として両罪は併合罪であるとの判断をしており,「一個の行為」であるかの判断における考慮要素として,興味深い判示であるように思われる。実際に生じ得る事例を考えてみても,前記最三小決平成18年によれば複製行為についても3項製造罪を構成し得ることになるから,児童淫行罪等と児童ポルノ製造罪のそれぞれを構成する行為の同時性が甚だしく欠けることがあり,一事不再理効の及ぶ範囲等を考えても,併合罪説の方が妥当な結論を導くことができるように思われる。

 

文献

最高裁判例解説刑事篇平成21年度496頁 平成19年(あ)第619号

最高裁判所判例解説刑事篇平成21年度
三浦透ルノ等処罰法7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされ
た事例〔22〕
2    本決定の罪数に関する判例違反及び法令違反の主張に対する判示につ
いて
(1)    判例違反の主張に対する判示
本決定は,「上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用
するものであって,本件に適切でないか,実質は単なる法令違反の主張であ」る
としている。
上告趣意は,【判例①】ないし【判例⑦】を判例違反として引用しているが,そ
れぞれ上記の理由から判例違反の主張としては不適法とされたものである。
(2)    罪数に関する法令違反の主張に対する判示
本決定は,前記のとおり,「本件のように被害児童に性交又は性交類似行為をさ
せて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児
童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一
部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両
行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上
別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判
決?刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係には
なく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。」と判示してお
り,【判例①】の判断枠組みを前提とし,行為が一部重なり合うこと自体は認め
ながら(本決定が「姿態をとらせ」ることを構成要件として規定された行為と
とらえていることは明らかである。),両行為が通常伴う関係にあるとはいえな
いことや,両行為の性質等を理由として挙げて,一個の行為であることを否定し
ている。
その背景には,以上のような考察があるのではないかと推察される。
本決定が,「一個の行為」に関する判断に際して,両行為の重なり合いだけでな
く,両行為が通常伴う関係にあるといえるか,あるいは,両行為の性質等にも言
及していることは,本件における児童淫行罪と3項製造罪との関係についてだけ
でなく,他の犯罪の組み(注 50)合わせにおいても参考となるところであり,ひ
いては観念的競合の判断一般との関係においても興味深い判示であると思われ
る。
(注50)東京高裁平成19年判決が判示するところのほか,菅原・後掲84頁参照。

 

 

菅原暁 最新・判例解説(第3回)児童福祉法第34条第1項第6号違反の児童に淫行をさせる罪と,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条第3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例[最高裁判所第一小法廷平成21.10.21決定] 捜査研究720号78頁

2 観念的競合の判断基準
ところで, 刑法第54条第1項前段は, 「1個の行為が2個以上の罪名に触れ
(中略)るとき」を観念的競合として「その最も重い刑により処断する。」と規
定しているところ.児童をして淫行させながらその様子をデジタルピデオカメ
ラで撮影する行為は 一見すると1個の行為のようにも思われる。
そうすると.本決定がこれを「1個の行為」とは考えなかった理由は何なのか
複数の罪が観念的競合の関係にあるかどうかの判断基準が問題である。
この点について判示しているのは,本決定が引用する最高裁昭和49年判決であ
る。
同判決は,酒酔い運転の事実と,運転中における酒酔いに基づくいわゆる運転中
止義務違反を過失とする業務上過失致死の事実について,「刑法54条1項前段
の規定は, 1個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競
合する場合において,これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものである
ところ,右規定にいう 1個の行為とは,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象
した自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をう
ける場合をいうと解すべきである。」と判示した上,酒酔い運転の罪とその運
転中に行われた業務上過失致死の罪との罪数関係について,「もともと自動車
を運転する行為は,その形態が,通常時間的継続と場所的移動を伴うものである
のに対し,その過程において人身事故を発生させる行為は,運転継続中における
一時点ー場所における事象であって,前記の自然的観察からするならば,両者
は,酒に酔った状態で運転したことが事故を惹起した過失の内容をなすものか
どうかにかかわりなく,社会的見解上別個のものと評価すべきであって,これを
1個のものとみることはできない。」として,両罪は併合罪の関係にあると結
論づけたものである。
したがって,上記昭和49年判決によれば,「法的評価を離れ構成要件的観点を
捨象した自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価
をうける場合」に当たるかどうかにより,複数の罪が観念的競合の関係にある
かどうかが判断できるはずであるが,本件では,同じ基準によって,第二審が,
「児童に淫行させる行為とその姿態を撮影する行為は,法的評価を離れ構成要
件的観点を捨象した自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上一個のも
のと評価されるものである」として,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪
とは観念的競合の関係にあると判断する一方,本決定は,これらの行為が「一部
重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行
為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別
個のものといえる」として,両罪は併合罪の関係にあると判断している。
このような結論の違いが生じたのは,本件の第二審が,児童に淫行させる行為
と,これをデジタルビデオカメラで撮影する行為につき本件犯行の際に,実際に
行われた行為を前提として,時間的・場所的に重なり合っていることを重視し
たと思われるのに対し,本決定では,犯行の際の時間的・場所的な重なり合いだ
けでなく.両行為が通常伴う関係にあるかという点や両行為の性質等をも考屈
したために生じたものではないかと考えられる。
本決定のように行為が通常伴う関係にあるかという点や行為の性質等を考應し
て親念的競合の関係にあるかどうかを判断するとの考え方は.先に挙げた平成
21年東京高裁判決における 「淫行行為と撮影行為という二つの行為が同時的
にたまたま併存しているにすぎない」との判示や.「児窟ポルノ製造罪は.児箪
ポルノと評価されるものを撮彩するなどして写具屯磁的記録に係る記録媒体そ
の他の物として記録化すれば成立するのであって撮影の対象として児磁の淫行
が必要というものではなく.したがって製造行為に児童の淫行が常に随伴する
というものではない 」とする他の裁判例(注い において既に現れていた考え
方と.その趣旨を同じくするものではないかと思われる。
この意味で,本決定は昭和49年判決の判断基準をあてはめる際の考慮要素を示
した事例としての意義を有すると考えられる。
3 関連する判例
なお.昭和49年判決の判断基準をあてはめた重要な判例としては.本決定以前にも最高裁判所昭和58年9月29日第一小法廷判決(刑巣第37巻第7号頁)が存在する。
同判決は,保税地域税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に.外国から船舶又は航空機により覚醒剤を持ち込み.これを携帯していわゆる通関線を突破し又は突破しようとした場合に成立する此せい剤取締法第13条第4条の輸入罪と,関税法第lll条の無許可輸人罪の罪数について両罪の既遂時期が異なる(無許可輸入罪の実行の着手時期が,党せい剤輸入罪の既遂後であると解した揚合には両罪の実行行為は時間的な重なり合いがない)にもかかわらずこれらが観念的競合の関係にあるとしたものである。
本決定を踏まえて上記昭和58年判決の事案を考えてみても 「1個の行為」かどうかは時間的・ 場所的な重なり合いだけでなく.行為が通常伴う関係にあるかという点や行為の性質等をも考慮して判断されていると評価することができ,本決定も,従来の判例を踏まえ.時間的・場所的な重なり合いがあっても,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあると判断したものと考えられる。

第5 おわりに
以上のほか,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪にそれぞれ該当する各行為について,両行為が通常伴う関係にあるかや,両行為の性質等を考慮して, これらが刑法第54条第1項前段の「1個の行為」に当たらないとした本決定の判断は,他の犯罪の罪数関係の判断にも影響を及ぼすものと思われる。
例えば,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第4条の児童買春罪や,児童に対する強姦や強制わいせつ罪は,自己を相手方として児童に淫行させる罪と同様その行為態様に児童との性交等を含むものであり,そうした性交等を行いながら,その行為をカメラで撮影するなどして,児童ポルノ製造罪に当たる行為をも行った場合,時間的・場所的に重なり合っているとしても,二つの行為が「通常伴う関係にある」とはいえず,両行為の性質等も異なるものと考えられるから,本決定の考え方によれば,観念的競合ではなく,併合罪と評価されるのではないかと思われる(注 7)。
また,本決定は,前記のとおり,昭和49年判決において示された観念的競合に関する判断基準をあてはめる際の考慮要素を示したものとして,意義を有すると考えられるが,本決定を踏まえても,その判断基準は個別の事案における罪数関係を一義的に明らかにできるというものとは言い難い。
したがって,実務上は,裁判例の集積のない罪数関係の判断は,行為の時間的・場所的な重なり合いのみにとらわれず,行為が通常伴う関係にあるかという点や行為の性質等をも考慮に入れた慎重な検討が必要となるであろう。
(すがわら あきら)

(注 7) 束京高等裁判所平成19年11月6日判決(研修716号111頁参照)は,
児童買春.児童ボルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第4条の児童買春罪と,その機会に犯した同法第7条第2項の児童ポルノ製造罪とは併合罪の関係にあると判断しているが,その理由においては「児童買春罪のみを犯し. 2項製造罪には及ばないことも,逆に. 2項製造罪のみを犯し,児童買春罪には及ばないことも共に十分可能なのである。
(中略)『買春』と『製造』はむしろ異質な行為であって,行為者の動態としての一個性は認めがたいというべきであろう。」と判示しており.本決定と同様の判断手法を採っていると考えられる。
なお.同判決は.児童買春罪と2項製造罪は.その実行行為が部分的にも重なり合う関係にないとした上で.「このことは.児童に対する強姦や強制わいせつの状況を撮影した場合に.強姦行為や強制わいせつ行為が2項製造罪の実行行為の一部とはいえないのと同様である。」とも.併せて判示している。