児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項(176条3項)に該当する

16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項(176条3項)に該当する
 事例としては、15歳女性が、21歳の者を脅迫して。15歳の乳房をもませた・陰部を触らせたような場合でも、21歳の行為は不同意わいせつ罪の構成要件に該当すると説明されていています。
 不同意わいせつの被害者になりますが、「例外的な場合については、構成要件に実質的要件を設けないこととしても、刑法総則の規定により、処罰から除外され得る」とか「そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられる」とかで被疑者扱いされるようです。


法務省逐条説明では「○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができない」とされていたのが
法曹時報では「16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項に該当することとなり得る」とされていて、正反対にブレています。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律について法曹時報 第76巻01号
(2)「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る」の意義
「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」とは、13歳以上16歳未満の者の生年月日の前日から起算して5年以上前の日に生まれた者をいう。
本項は、相手方が客観的に「5年以上前の日に生まれた者」である限り、わいせつな行為に至るまでのやり取りの中で、13歳以上16歳未満の者の判断にその影響がすべからく及ぶと考えられることを前提として、当該13歳以上16歳未満の者の判断能力や当該行為者の影響力などの個別(注32)の状況とは無関係に、一律に犯罪が成立する要件としているもので(注33)ある。
(注32)
このような考え方を前提とすると、16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項に該当することとなり得るが、そのような場合におけるその者の行為については、刑法総則の違法性阻却に関する規定などにより、処罰されないこととなり得ると考えられる。
(注33) 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第10回会議で示された「試案」においては、「刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢の引上げ」についての制度案として、「13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上16歳未満の者の対処能力(性的な行為に関して自律的に判断して対処することができる能力をいう。2において同じ。)が不十分であることに乗じてわいせつな行為をしたときも、同様とするものとすること。
2 13歳未満の者に対し、性交等をした者は、5年以上の有期拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて性交等をしたときも、同様とするものとすること。」とされ、「当該13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて」との実質的要件を設けることとされていた。
もっとも、同部会におけるその後の議論では、
○ 行為者と相手方の間に年齢差が5歳以上ある場合には、性的行為についての自由な意思決定の前提となる対等な関係は存在しないといえる
○ 13歳以上16歳未満の者が、5歳以上年長の者に対して暴行・脅迫を用いるなどして性的行為をした場合といった真に処罰されるべきでない極めて例外的な場合については、構成要件に実質的要件を設けないこととしても、刑法総則の規定により、処罰から除外され得るといった意見が述べられ、これらを踏まえ、要綱(骨子)案では、前記の実質的要件を設けないこととされた。

法務省逐条説明
13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でないと考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていないと考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない。