児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項所定の児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造する行為は,それが児童に当該姿態をとらせた上でのものであるか否かにかかわらず,同法7条5項の製造罪に当たる」 大阪高裁r5.7.27 判例タイムズ1519号

 最判r6.5.21の原判決の匿名解説です

ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項所定の児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造する行為は,それが児童に当該姿態をとらせた上でのものであるか否かにかかわらず,同法7条5項の製造罪に当たる
対象事件|令和5年7月27日判決
大阪高等裁判所第1刑事部
令和5年(う)第419号
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制性交等未遂,強制性交等被告事件
裁判結果|控訴棄却,上告
原審|神戸地方裁判所姫路支部令和4年(わ)第640号令和5年3月23日判決
参照条文|児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項,4項,2項,2条3項1号,2号,3号
判例掲載データベース|判例秘書INTERNETTKCローライブラリーWestlaw JapanDl-Law.com判例タイムズアーカイブスI
解説
4 本判決について
(1)本判決は,上記のように高裁判例が分かれている点について,「児童に本法7条3項(筆者注:「7条」は「2条」の誤記と思われる。)所定の姿態をとらせた上で,ひそかにその姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造した行為について,4項製造罪として公訴提起するか5項製造罪として公訴提起するかは,検察官の裁量に属する。」として,起訴状の公訴事実や罰条からすると検察官が本件各児童ポルノ製造について5項製造罪として公訴提起したことが明らかな本件において,「裁判所は,それらの行為について,『ひそかに』の点を含めて同項(筆者注:本法7条5項)の構成要件に該当する事実が認められる以上,同項を適用すべき」であるとして,本件各児童ポルノ製造の事実について本法7条5項を適用した原判決に法令適用の誤りはない旨判示した。
(2) (1)の本判決の判断は, 3(3)の東京高裁判決と同趣旨のものであるが,本判決は,その理由をより具体的に示している。
すなわち,
①ア本法の一部改正法に係る国会における審議内容等の立法経過を踏まえると,5項製造罪は,ひそかに描写して児童ポルノを製造する行為は,その態様において悪質であるとともに,当該児童の尊厳を害する行為であり,児童を性的行為の対象とする風潮を助長し,流通の危険を創出するものであることに鑑みて,そのような態様による児童ポルノの製造も規制対象に加え,処罰範囲を拡大する趣旨で設けられたものと解されるところ,
児童ポルノの製造において,ひそかに描写して製造するという態様の悪質性や児童の尊厳を害すること等は,就寝中で意識のない児童の姿態をそのまま撮影した場合と,撮影の際に一定の姿態をとらせるという撮影者の行為を伴う場合とで何ら異なるものではないから,立法趣旨との関係では後者の場合を除外すべき理由はないこと,
②所論のように解すると,検察官が5項製造罪での起訴を検討する際や当該起訴を受けた裁判所が同罪の成否を判断する際に,実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものではないかについて常に判断を要することになるが,①アの立法趣旨に照らすと,検察官や裁判所にそうした判断を求める意味はなく,所論のような解釈は立法趣旨にそぐわないこと,
③3項製造罪,4項製造罪及び5項製造罪の法定刑は同じであるから,前2者に当たる児童ポルノを製造した者が,それがひそかに描写して製造したものでもあるときに5項製造罪で処罰されても不利益はないことを指摘している。
(3)その上で,本判決は, 3(1)の弁護人の主張や同(2)の諸見解の根拠とされている「前二項に規定するもののほか」との規定は,実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく,それら製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される旨の判断を示し, (1)の結論に至っている。
これは,本件事案との関係で端的にいえば,「ひそかに本法2条3項所定の児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造する行為は,それが児童に当該姿態をとらせた上でのものであるか否かにかかわらず,本法7条5項の製造罪に当たる。」との判断を示したものである。
5 最後に
4(2)②の指摘を踏まえてより具体的にみるに,3(1)のように解すると,裁判所は,5項製造罪で起訴された事案について,所定の児童の姿態をひそかに描写して児童ポルノを撮影した事実が認められる場合であっても,さらに,被告人の内心において提供目的を有していた可能性(3項製造罪該当性)がないか検討するとともに,所定の姿態をとらせた事実を伴う可能性(4項製造罪該当性)がないかを検討し,それらが排斥されてようやく5項製造罪で有罪と判断でき,しからざる場合は検察官に対し3項製造罪又は4項製造罪への訴因変更を促すということになろう。
各製造罪の法定刑も同じであるのに,このような煩雑な処理を求めることは,本判決が指摘するとおり,本法の一部改正により5項製造罪が設けられた趣旨にそぐわない,不合理なことであり,本判決の判断は,その理由を含め,かなり説得的であるように思われる。

5項製造罪と他の製造罪との適用関係については,以上のとおり高裁判例が分かれていることから,いずれ上告審による判断が示されるものと期待されるが,それまでの間,本判決は,3の各高裁判決と並び,同様の事案における実務上の判断の参考として意義を有する。