児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童が覚醒して裸でいるのを視野外からスマホで撮影する行為はひそかに製造罪(東京高裁R5.3.30 大阪高裁r5.9.28)だが、児童が熟睡中にスマホで撮るのは、姿態をとらせて製造罪(大阪高裁r5.1.24)

児童が覚醒して裸でいるのを視野外からスマホで撮影する行為はひそかに製造罪(東京高裁R5.3.30 大阪高裁r5.9.28)だが、児童が熟睡中にスマホで撮るのは、姿態をとらせて製造罪(大阪高裁r5.1.24)
 児童を描写する行為の客観的態様についての要件だからカメラを構えてあからさまに撮るような場合は、「ひそかに」にならない筈ですが。
「客観的」と言いながら、児童が具体的に気付いていれば「ひそかに」ではなく、具体的に気付いていなければ「ひそかに」になるいという解釈になっています。

坪井麻友美「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」(法曹時報66巻11号29頁)
イ要件
(ア) 「ひそかに」「ひそかに」とは,「描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」という意味であり,児童が利用する脱衣所に隠しカメラを設置して盗撮するような場合が典型例である。
この要件は,児童を描写する行為の客観的態様についての要件であって,児童の承諾の有無を問題とする要件ではなく,また,当該児童が当該描写を認識しているか否かも問わない。

(注18)
「描写の対象となる児童に知られることのないような態様」に当たるかどうかは,一般人を基準に判断することとなる。客観的にこのような態様に当たる場合,通常,被写体となる児童は描写されていることを認識・承諾していない場合が多いと考えられるが,たまたま児童が隠しカメラの存在に気付き,盗撮されることを内心認容していた場合や,撮られる間際にカメラの存在に気付いた場合なども盗撮製造罪は成立し得る。
(注19) 「ひそかに」の他法令での用例としては,軽犯罪法の窃視の罪(問、法第1条第23号「正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」)があるところ,同法上の「ひそかに」は,「見られないことの利益を有する者に知られることなく」という意味であり,見られる者の認識(承諾)を問題とする文言と解されている(注釈特別刑法第7巻,風俗・軽犯罪編111頁)。軽犯罪法の窃視の罪の保護法益はプライパシー権であって被害者の承諾があれば法益侵害がないと考えられるのに対し,児童ポルノの盗撮製造罪の保護法益及び処罰の趣旨は上記のとおりであるから,両法における「ひそかに」の文言の意義は異なるものと解される。

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法務省刑事局付坪井麻友美「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」について月刊警察2014. 10 No.373
第7条第5項の「ひそかに」とは,どのような意昧ですか。
「ひそかに」とは,「描写の対象となる児童に知られることのないような態様で」という意味であり,児童が利用する脱衣所に隠しカメラを設置して盗撮するような場合が典型例です。
この要件は,児童を描写する行為の客観的態様についての要件であって,児童の承諾の有無を問題とする要件ではなく,また,当該児童が当該描写を認識しているか否かも問いません(たまたま児童が隠しカメラの存在に気付き,盗撮されることを内心認容していた場合や,撮られる間際にカメラの存在に気付いた場合等も,盗撮製造罪は成立し得ます。)。
本項の児童ポルノの製造罪の趣旨は, Q11で述べたとおり,かかる行為が児童の尊厳を害し,児童を性的行為の対象とする風潮が助長され,抽象的一般的な児童の人格権を害するなどの点にあり,その保護法益が児童のプライパシー権そのものではない上,本項が,児童ポルノを製造する行為のうち,盗撮によるものを特に処罰することとした理由が,盗撮が行為態様の点において違法性が高いと考えられたことによるものであるため,盗撮製造罪は,児童の承諾の有無にかかわらず成立するのです。

d1-law ■28311761
東京高等裁判所
令和05年03月30日
 上記の者に対する強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ被告事件について、令和4年8月30日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官榎本淳並びに主任弁護人奥村徹(私選)及び弁護人森田悟志(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
3 まず原判示第15の3についてみると、原審において、被告人は、同第15の3の事実を認め、弁護人もこれを争っていないところ、画像上の児童の視線等からみると、むしろ、描写の対象となる児童に知られることのないような態様で撮影したものと推認できる。したがって、証拠がないとの所論は前提を欠き、原判示第15の3について、児童ポルノ法7条5項の製造罪が成立するとした原判決の認定が、論理則、経験則等に照らし不合理であるとはいえない。
。。。
■28302509
東京地方裁判所
令和04年08月30日
第15
3同年10月23日午後6時46分頃、前記O方において、同人(当時9歳)に対し、ひそかに同人が全裸で四つん這いになり、陰茎が露出した姿態をデジタル機器で動画撮影し、その頃から同月24日午前2時28分頃までの間に、東京都内又はその周辺において、その動画データ1点を同デジタル機器に装着された前記マイクロSDカードに記録して保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る児童ポルノを製造し、


本法7条5項の「ひそかに」というのは、客観的に見て、撮影等の描写行為が対象児童に気付かれないような態様によるものであることをいうと解される

阪高裁r5.9.28
  イ 本法7条5項の「ひそかに」というのは、客観的に見て、撮影等の描写行為が対象児童に気付かれないような態様によるものであることをいうと解されるところ、アのとおり、被告人は、被害児童の背後からその肛門や女性器を撮影する際、そのことを同児に気付かれないようにしていたのであるから、被告人が同児の姿態を「ひそかに」撮影したものと認められる。

阪高裁R5.9.28の事案では、直後に児童に気付かれましたが、気付いてからの撮影行為は、製造罪では起訴されていません。起訴検事におけるひそかに製造罪でもなく、姿態をとらせて製造罪でもないことになるからという解釈からでしょう。撮影態様は同じなので、気づかれる前の撮影行為も、ひそかに製造罪ではないことになります。