児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「前2項に規定するもののほか」という法文なのに「実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。」東京都立大学 名誉教授 前田雅英

「前2項に規定するもののほか」という法文なのに「実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。」東京都立大学 名誉教授 前田雅英


 h26改正の条文を、r06になって、「前2項に規定するもののほか」という法文なのに「実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。」っていうんだ。
 判例DBで検索すればわかることですが、ひそかに・姿態をとらせた場合は、法文上は、姿態をとらせて製造罪になるのは明らかなので、みんな姿態をとらせて製造罪で起訴して判決を書いているのに、稀に「盗撮」に気を取られてひそかに製造罪で起訴してしまう検察官がいて、そのまま判決を書いてします裁判官がいるのを、救済した判決です。

https://www.westlawjapan.com/pdf/column_law/20240607.pdf
《WLJ 判例コラム 臨時号》第319号 児童ポルノの「姿態をとらせ製造罪」と「ひそかに製造罪」の関係 ~最高裁第三小法廷令和6年5月21日判決1 ~ 文献番号 2024WLJCC013 東京都立大学 名誉教授 前田 雅英
2024/06/07
5.たしかに、一つの行為に適用可能な複数の構成要件が存在し、それらが相互に両立し難い場合、それらの内の一個のみが適用される法条競合(択一関係)が認められている7。そうだとすれば、「姿態をとらせ製造罪」該当性を認めた行為に「ひそかに製造罪」が成立することはあり得ない。しかし、「熟睡中の児童に、陰部を露出する姿態をとらせ、ひそかに、撮影した行為」を、「ひそかに製造罪」に該当するとして公訴を提起し、それに対して、「ひそかに製造罪」の成立を認める判断が、違法となるかは、別個の問題である。
6.「ひそかに製造罪」の立法時の説明は、新たな構成要件を設定することにより処罰範囲を拡大するもので、既存の「姿態をとらせ製造罪」の構成要件の成立範囲に影響しないとされ8、その趣旨を明確にするため、法文上も「前2項に規定するもののほか」と規定したとする。そうだとすれば、「姿態をとらせ製造罪」に該当しない場合のみ成立するものと解されるように見える。
ただ、法改正の実質的理由が、「通常の生活の中で誰もが被害児童になり得ること」や、「発覚しにくい方法で行っている点で巧妙であるなど、行為態様の点で違法性が高く、児童の尊厳を害する行為である」という点にあり、児童を性的対象とする風潮が助長され、抽象的一般的な児童の人格権を害する行為であることも強調されていたのである9。このような問題に対応するために「ひそかに製造罪」が新設されたとする。そうだとすれば、「二つの構成要件のいずれに該当するかが明白でない以上、『疑わしきは被告人の利益』として、ひそかに製造罪は成立し得ない」とする解釈が、立法の趣旨に合致するとは思われない。
7.そこで、最高裁は、「児童に姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は、同項を適用することができると解するのが相当である」と断じたのである。「ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造するという行為態様の違法性の高さ」という実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。
8.そして、最高裁はさらに踏み込んで、熟睡中の児童の陰部を露出する姿態等をとらせてひそかに撮影した行為に、「ひそかに製造罪」の成立を認めなければ、「事案によっては、同罪で公訴を提起した検察官が同条4項の児童ポルノ製造罪の不成立の証明を、被告人がその成立の反証を志向するなど、当事者双方に不自然な訴訟活動を行わせることになりかね」ないとし、さらには、「ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造したことは証拠上明らかであるのに、裁判所が同条5項を適用することができないといった不合理な事態になりかねない」と判示した点が注目される。刑法の解釈論では、「手続の視点は当然重視している」としつつも、刑法条文の形式的文言解釈を重視してきた面があることは否めない。しかし、法解釈にとっては、「結論の実質的妥当性」もさることながら、「妥当な結論に辿り着き得る手続法的視点も含めた綜合的衡量」も、決定的に重要なのである。
9.本判決は、児童ポルノ製造罪に関する下級審の無用な混乱を除去するのみならず、妥当な実質的構成要件解釈を示したものとして、重要な判例といえよう。


ちなみに、ひそかに製造罪説は、大阪高裁H28.10.26で否定されています。

阪高裁H28.10.26
第10,第12及び第13の各2の事実における法令適用の誤りの主張について。
論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。
所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。
しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。
いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。

※ 裁判所に指摘されて、姿態をとらせて製造罪に訴因変更された
訴因変更請求
公訴事実第2, 第4及び第6中,「ひそかに,被告人が同児童の性器等を露出させた上,それを触る行為を」とあるのを,いずれも「同児童の性器等を露出させる姿態及び被告人が同性器等を触る行為に係る姿態をとらせ,これらを」に改め,「ひそかに他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び」とあるのを,いずれも削除し,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の後に, いずれも「及び他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であっで性欲を興奮させ又は刺激するもの」を加える。