「被告人は,A(当時25歳。以下「A」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成28年12月15日午前3時40分頃,宇都宮市〈以下省略〉aビル南側歩道上において,同人に対し,いきなり正面から抱き付いた上,同人の左腕を右手で引っ張って前記aビル西側路上に連れて行き,同所において,その背後から同人の口を手で塞ぎ,同人の右乳房を着衣の上からもみ,もって強いてわいせつな行為をしたものである。」という強制わいせつ被告事件で無罪とした事例(宇都宮地裁h29.10.18)
宇都宮地裁平成29年10月18日
主文
被告人は無罪。
理由
1 本件公訴事実と争点
本件公訴事実は,「被告人は,A(当時25歳。以下「A」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成28年12月15日午前3時40分頃,宇都宮市〈以下省略〉aビル南側歩道上において,同人に対し,いきなり正面から抱き付いた上,同人の左腕を右手で引っ張って前記aビル西側路上に連れて行き,同所において,その背後から同人の口を手で塞ぎ,同人の右乳房を着衣の上からもみ,もって強いてわいせつな行為をしたものである。」というものである。
本件公訴事実について,弁護人は,被告人が公訴事実記載の日時場所においてAと一緒にいたことは否定しないが,被告人がAに対し公訴事実記載の行為をしたことは一切ないから無罪であると主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。したがって,本件の主たる争点は,被告人が公訴事実記載の暴行行為やわいせつ行為をしたと認められるか否かである。
2 前提事実
関係証拠によれば,検討の前提となる事実関係として,次のとおりの事実が明らかである。
(1) Aは,平成28年12月14日の夜,宇都宮市内のバーで飲んでいたところ,居合わせた被告人の職場の同僚から話しかけられ,翌15日午前1時頃まで,バーのカウンターに同人と並んで座って,お酒を飲みながら話をすることになった。この間,Aは,元カレの友人(B。以下「B」という。)に対し,スマートフォンの無料通話アプリのLINEで,「からまれてしまった」「楽しいけどもうかえりたい」「カウンターで飲んでて 話しかけられた おじさまに」「さり気なく肩タッチされんの 勘弁してくだせえ」といった内容のメッセージを送っていた。
なお,Aは,本件以前に被告人と面識はなかったが,上記同僚と一緒にバーに来ていた被告人が,Aらの所に来て話に加わることもあったことから,被告人との間に面識が生まれた。
(2) Aは,同月15日午前1時頃,被告人らと一緒に上記バーを出た。その際,被告人の同僚から「一緒にカラオケに行こう」と誘われ,被告人からもそのように勧められたが,これを断り,被告人らと別れて,一人でカラオケ店に入った。この頃,Aは,上記友人Bに対し,LINEで,「くっそしつけえくっそ」「やっと解放された」「つかれた」といった内容のメッセージを送っていた。
(3) 一方,被告人は,Aと別れた後,上記同僚とも別れて,一人で時間をつぶしていたところ,同日午前3時30分過ぎ頃,上記カラオケ店から出てきたAと再会した。
(4) 被告人は,タクシーが停車している方向に向かって歩くAの横を歩きながら,Aに話しかけた。Aからは気乗りしない反応しか得られなかったが,タクシーの近くまで来てAがタクシーに乗車しようとした際,Aにタクシーに乗るのを止めさせ,さらに,Aとともに近くの路地まで移動した。しかし,その後ほどなく,Aは,小走りで上記路地から出て,上記タクシーに乗り込み,その場を離れた(なお,この間に,被告人が公訴事実記載の暴行やわいせつ行為をしたかが争われている。)。
(5) Aは,同日午前3時50分過ぎ頃,上記タクシーで,上記友人Bの家に行った。そして,同人の勧めで,同日朝,同人とともに警察署に赴き,本件公訴事実と同旨の被害に遭った旨の申告をした。
・・・
6 結語
結局,本件公訴事実については,合理的な疑いを超えた証明がなされたとはいえず,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
宇都宮地方裁判所刑事部
(裁判官 柴田誠)