児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪否認事件で、匿名起訴状が貫かれた事例(某地裁)

 被害者の証人尋問が行われています。

被害者匿名起訴状について公訴棄却の主張
→訴因制度は裁判所に対して審判対象を限定するとともに被告人に対して防御の範囲を示すことを目的とするものであるから、こうした目的に反するものでないかぎり 特定できる事項についてずべて公訴事実中に明示しなければならないものではない
 公訴事実には 被害者と携帯サイトで知り合ったという関係が記載されており 被害者は当サイトで自己を特定する名称として「花子」という名称をもちいていたと理解できる 従って本件公訴事実の記載上 被害者の特定として他者との識別は十分に可能であり 審判対象の限定にかけることはない
 被告人にとっても 自分が上記サイトでやりとりしていた「花子」と名乗る者に対して本件公訴事実記載の行為に及んだとして起訴されたと理解することができるから、被告人の防御の範囲が示されていると言うべきである
従って 本件公訴事実において被害者の氏名が固有名詞によって特定されていないとしても訴因明示にかけるところはない

 不合理弁解で実刑になりましたが、控訴審では無罪になっています。そういう意味では訴因に実名が出て無くても防御に不都合はなかったということでしょうか。

強制わいせつ被告事件
仙台高等裁判所秋田支部判決平成26年1月14日
       主   文
 原判決を破棄する。
 被告人は無罪。
       理   由
 1 本件控訴の趣意は,弁護人古谷薫作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は検察官小林弘幸作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,事実誤認及び予備的に量刑不当の主張である。
 2 事実誤認の論旨
 論旨は,次のとおりである。すなわち,原判決は,罪となるべき事実として,要旨,「被告人は,平成24年12月20日,秋田市卸町1丁目1番2号株式会社「R秋田店」(大型ゲームセンター。以下「R」という。)駐車場に駐車中の自動車内において,携帯電話サイトで知り合った自称A(当時19歳)に対し,その背後から手で同人の顔を掴んで無理矢理振り向かせ,同人の唇にせっぷんし,さらに,その背後から同人の着衣の中に手を差し入れ同人の胸を揉むなどし,もって強いてわいせつな行為をしたものである。」との事実を認定判断した。しかしながら,被告人が,被害者にせっぷんし,胸を揉んだ事実は認めるが,?被害者の明示又は黙示の同意があった,?仮に同意がなかったとしても,嫌がっているという認識がなかったので故意がない,?暴行又は脅迫もしていない,というのである。
 3 当裁判所の結論の概要
 原判決は,被害者の原審公判における供述(以下,単に「被害者供述」という。)につき,?被告人の言動について自ら体験したのでなければ供述し得ない内容を,その時々の心情を交えながら具体的に供述しているのであって,その内容も自然であり,記憶にないことやあいまいな部分についてはその旨述べるなど供述態度も真摯である,?被告人から彼女と会うことを求められ,会いたくないと思ったことは被害者がそのとき母親に送ったメールに記載されている,?被告人に胸を触られたこと,精神的なショックを受けたこと,被告人が怖かったが必死に抵抗したことなどは,被害者が被告人の車から降りてから母親に送信したメールに記載されているが,その記載には通常では考え難い誤変換等が存在することやその表現振りから事態の緊迫感,迫真性が認められ,被害者供述の裏付けとなっている,?被害者の母親は,被害者から泣き叫びながら助けを求める電話があり,その電話の向こうで男の怒鳴り声がしたと供述しているところ,同供述は,被害者との携帯電話によるメールのやり取りの内容や通話の状況に沿うものであり,被害者から助けを求める電話や状況を伝えるメールを受けた際の心情等も自然であり,信用性を認めることができ,これによれば,被害者からの電話の前に,被害者が被告人から何らかの被害を受けるなどしたものと推認することができ,また,被告人の被害者に対する態度が急変し,被告人に怒鳴られたという被害者供述を裏付けるものということができる,?被害者の捜査段階供述と公判供述との間には相違点はあるが,できごとの順番に多少の記憶の混乱があったとしても,被害者供述の信用性を左右するまでの事情とはいえないなどとして,被害者供述には高い信用性を認めることができる,他方,被告人の弁解は不自然,不合理で到底信用し難いなどとして,被告人が,被害者に対し,強制わいせつの故意をもって無理矢理被害者にせっぷんをし,その胸を揉んだ事実を優に認めることができると判示した。
 しかしながら,原審記録及び当審における事実調べの結果を調査して検討すると,上記結論は是認できない。本件では,そもそも外形的事実関係に関して,被害者供述と被告人の原審公判における供述(以下,単に「被告人供述」という。)との間にそれ程大きな相違がある訳ではなく,極端にいえば,せっぷんしたり,胸を触ったりする前に,被告人が承諾を求めたか否か,これに対して被害者が頷いたか否かの点だけが違うにすぎないともいえるところ,上記?の点はともかくとして,?の点は承諾の有無とどう関係するのか不明であるし,?,?の点も,後記4(5)オ記載のとおり,被害者供述を前提にしても,強制わいせつ罪の成否を左右するものとはいえず,上記?の点は,後記4(3)冒頭記載のとおり,明らかに誤っている。その上,後記4(3)記載のとおり,被害者供述には自分の心理状態等に関する供述について疑問な点が見受けられ,他方,後記4(5)記載のとおり,被告人供述には,被害者の同意の点を含め,虚偽と断定できる部分がさしてあるとはいえず,原判決が被害者供述に高い信用性を認め,被告人供述を信用し難いとした判断には疑問がある。
 結局,被害者供述のうち,間違いなく信用できる部分のみでは,?被害者の同意がなかったとは断定できない,また,同意がなかったと仮定しても,?強制わいせつ罪にいう暴行があったといえるか疑問がある,?被告人の故意も認定できない,したがって被告人は無罪である。