以前、誘拐事件の弁護人だったときに、最高裁から資料をもらってきて調べた事がありますが、わいせつ目的誘拐未遂罪のみの起訴事例は珍しく、前科がないと実刑事案もないんじゃないかなあ。警察官の地位利用を考慮しても最初から実刑はないよね。
本当に悩むときは、上訴されることも念頭にいれて、判決の量刑理由で悩んだ経緯を延々説明しますよね。
第225条(営利目的等略取及び誘拐)
営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する
刑事訴訟規則
第221条(判決宣告後の訓戒)
裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる
「警官の地位利用、悪質」 誘拐未遂、猶予付き判決 /群馬県
2015.06.06 朝日新聞
小学4年の女児に好意を抱き、わいせつ目的で誘拐しようとした元警察官に、執行猶予付きの判決が言い渡された。「現職の警察官で、卑劣で悪質な犯行を決意したのは極めて厳しい非難が値する」ととがめた裁判長は、最後、被告を実刑にすべきかどうか悩んだと語った。「主文、被告人を懲役2年6月に処する。この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する」
5日、前橋地裁の高山光明裁判長は、わいせつ目的誘拐未遂罪に問われた元巡査被告(24)に判決を言い渡した。
判決によると、被告は渋川署吉岡町交番で勤務をしていた1月15日午後4時過ぎ、町内の女児宅近くで、女児に「父親が交通事故で病院に運ばれた」などとうそを言い、乗ってきた車で連れ去ろうとした。
巡回連絡の時などに見かけた女児に好意を抱き、わいせつな行為をしたいと考えるようになっていた。巡回連絡カードで女児や父親の名前を確認し、知人を装って犯行に及んだ。
高山裁判長は「警察官としての地位を利用して得た個人情報を悪用し、計画的に犯行に及んだ行為態様は極めて悪質」と非難し、事件後に女児が情緒不安定になったことに触れ、「女児と家族は強い恐怖感や不安感を覚え、多大な精神的苦痛を被った」と強調した。
判決を言い渡した後、高山裁判長は被告に語りかけた。「大変悪質で言語道断、許されることはない。被害に遭った女児や家族の気持ちを考えると、刑務所に入るべきかと大変悩んだ」と明かし、「反省を深め、更生を強く期待しています」と力を込めた。
女児誘拐未遂 「地位利用し個人情報悪用」 地裁・猶予判決=群馬
2015.06.06 読売新聞
判決は、事件で女児が情緒不安定になった点など被害結果を重視する一方で、車に乗るのを女児に拒まれた被告がすぐに立ち去った点なども考慮し、執行猶予とした。スエット姿で直立したまま判決を聞いた被告に対し、高山裁判長は「あなたのやった行為は言語道断。刑務所に行ってもらうか、大変悩んだ事件です」と反省を促した。
判決後、被告の弁護人は「厳しい非難が与えられるべき事案で、妥当な判決。控訴は検討していない」と述べた。
◆疑問にこたえ信頼回復を(解説)
事件は、現職警察官が職務で得た情報を悪用していた点で、警察への信頼を大きく傷つけた。
判決は「実刑に処することも十分に考えられる」と述べ、執行猶予期間は刑法で定められた最長の5年間とした。
事件後、地域住民は「何を信じればいいのか」と戸惑い、現場の警察官は「連絡先を教えてもらいにくくなった」と打ち明けた。
県警は4月から、巡回先に対し、個人情報を県条例に基づき適正に管理していることなどを書面で説明。人格を見極めるため、採用試験で面接の配点割合を高める方策などを県人事委員会と協議している。
「なぜ事件は起きたのか、改めて検証してほしい」。判決後も、渋川署管内の住民たちは警察に疑問を投げかけていた。信頼回復は、住民の疑問にこたえる不断の努力にかかっている。(上村健太)
■判決の要点
・警察官としての地位を利用して得た個人情報を悪用し、計画的に犯行に及んでおり、極めて悪質だ。
・情緒不安定になるなど女児や家族は強い恐怖感や不安感を覚え、多大な精神的苦痛を被っている。
・社会秩序を維持すべき警察官が卑劣で悪質な犯行を決意したことは、極めて厳しい非難に値する。わいせつな行為をしたいという犯行動機に酌量の余地はない。
・深く反省しており、父親が慰謝料など約100万円を供託し、今後の監督を誓約している。