児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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コインパーキングの「違約金10万円を管理者に支払う」という罰則が適用されなかった事例(岐阜地裁h21.10.21)

「看板を見て駐車場内に駐車しただけでは被控訴人に本件契約の承諾の意思表示があるとはいえない。」そうです

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/293/038293_hanrei.pdf
岐阜地方裁判所判決平成21年10月21日

       主   文

 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成20年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (3) 訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。
  (4) (2),(3)項につき仮執行宣言
 2 被控訴人主文同旨
第2 当事者の主張
 1 控訴人の請求原因
  (1) 控訴人と被控訴人は,平成20年6月19日,次の駐車場利用に関する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
   ア 控訴人が名古屋市a区bc丁目で管理する時間貸有料駐車場「d」(以下「本件駐車場」という。)に一定の時間,被控訴人の車両(以下「本件車両」という。)を駐車し利用する。
   イ 利用代金 40分 100円
   ウ 利用時間 48時間以内
   エ 代金支払時期 出庫前
   オ 利用方法 入庫時には,所定の位置にフラップ板が下がっていることを確認の上,完全にこれを乗り越えて駐車する。出庫時には,料金精算後フラップ板が下がったのを確認後,出庫する。
   カ 不正行為又は利用方法,利用規約に違反した場合,駐車場利用者(所有者及び同乗者を含む。)は,(1)正規駐車料金,(2)損害賠償金(チェーン施錠,レッカー移動費用等実損諸費用)及び(3)違約金10万円を管理者に支払う。
  (2) 被控訴人は,同日,本件車両を本件駐車場に駐車する際,本件車両が車輪止めを踏みつけた状態で駐車し,駐車料金の支払いがないまま,出庫した。
  (3) よって,控訴人は,被控訴人に対し,本件契約(賃貸借契約)の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,違約金10万円及びこれに対する平成20年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
 2 請求原因に対する被控訴人の認否
   請求原因事実は否認する。
第3 当裁判所の判断
 1 請求原因(1)につき検討する。
  (1) 証拠(甲1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
   ア 控訴人は,名古屋市a区bc丁目で本件駐車場を管理している。
     本件駐車場は無人の駐車場で,駐車代金の精算は駐車場の利用者が精算機に千円札又は硬貨を投入することによってなされている。
   イ 本件駐車場には,「昼間8:00〜18:00 100円/40分 夜間18:00〜8:00 200円/40分 土日祝 昼間 8:00〜18:00 100円/30分」と大きな文字で書かれ,「入庫時 フラップ板(ロック板)が下げっていることを確認の上,ゆっくり入庫してください。フラップ板を前輪又は後輪で完全に乗り越えて車室枠線内に駐車してください。」「出庫時 料金精算後,フラップ板が完全に下がったことを確認の上,5分以内に出庫願います。」「駐車場のご利用は,48時間以内に限ります。ロック板が上がっていたり,車高が低く,車に破損を与えそうな車両は十分に注意していただくか,又は駐車を見合わせてください。料金精算後にロック板が完全に下がって,車両が出庫出来るのを確認の上,車を出庫させてください。不正行為又は利用方法,利用規約に違反した場合,・・・駐車場利用者(所有者及び同乗者を含む。)は,(1)正規駐車料金,(2)損害賠償金(チェーン施錠,レッカー移動費用等実損諸費用)及び(3)違約金10万円を管理者に支払わなければなりません。」などと小さな文字で書かれた看板がある(甲4,5)。
   ウ 被控訴人は,平成20年6月19日,本件車両を本件駐車場に駐車した。その際,被控訴人は,本件車両がフラップ板を踏みつけた状態で駐車し,駐車料金の支払いをしないまま,出庫した。控訴人の関係者は,同日午前11時19分ころ,本件車両が車輪止めを踏みつけた状態で駐車しているのを見つけ,写真を撮影した(甲6)
  (2) この点,被控訴人は,「平成20年6月19日ころ,本件車両を修理に出してあって,修理代金が支払えなかったことから,本件車両を引取りにいくことができなかった。したがって,被控訴人は,本件駐車場に本件車両を駐車していない。」旨主張する。
    しかし,被控訴人は,平成20年6月ころ本件車両を使用していたものであること(甲3),被控訴人は本件車両を修理に出したと主張しながら,どこに修理に出したかも明らかにしないことからすると,被控訴人が本件駐車場に本件車両を駐車したものと推認するのが相当であって,被控訴人の同主張は採用できない。
  (3) ところで,財又はサービスの提供を受けようとする者が,自ら硬貨や紙幣等を入れて代金を精算するという無人の設備でもって,財又はサービスの提供を受けた場合,財又はサービスの提供者と利用者の双方とも契約の申込み又は承諾の意思表示をしたとはいえないものの,財又はサービスの提供者と利用者の双方が契約を成立させる意思を有すると認められる限りにおいて,その契約が成立したものと解するのが相当である。
    これを本件についてみるに,被控訴人が,フラップ板を踏みつけた状態で本件車両を駐車し,駐車料金の支払いをしないまま,出庫していることからすると,被控訴人は,そもそも本件駐車場の駐車料金を支払う意思は全くなく,本件契約を締結する意思がなかったものと認められる。そうとすると,控訴人と被控訴人との間で本件契約は成立していないというべきである。
    この点,控訴人は,「控訴人が,管理する駐車場を利用者に対し一定の内容で賃貸する意思があることを駐車場内の看板で表示していること,被控訴人が,控訴人の掲示した看板に表示された意思内容を十分に認識していることから,控訴人と被控訴人間に意思表示の合致がある。」と主張するが,控訴人が駐車場施設を設置して看板に賃貸する意思があることを掲示しただけでは,本件契約の申込みの誘因があったというにとどまり,控訴人に本件契約の申込みの意思表示があるとはいえず,また,被控訴人が看板を見て駐車場内に駐車しただけでは被控訴人に本件契約の承諾の意思表示があるとはいえない。また,被控訴人の本件駐車場の利用形態からして,被控訴人に本件駐車場の駐車料金を支払う意思がないと認められることは上記認定のとおりである。したがって,控訴人の同主張は採用できない。
 3 以上によれば,控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。
   よって,原判決は,結論において相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
    岐阜地方裁判所民事第2部
        裁判長裁判官  内田計一
           裁判官  永山倫代
           裁判官  山本菜有子