児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

原審が没収した携帯電話が親族の所有だったとして原判決を破棄した事例(大阪高裁H23.6.1)

 控訴審の刑期も一緒なのでたいしたことがないように見えますが、原判決は前年12月なので、控訴審未決が6か月くらいあるので、執行刑期は、
  宣告刑期1年−原審未決80日−控訴審未決180日
になってしまいました。
 没収とか盲点ですが、そこを論難すると刑期がかなり短くなることがあるので、弁護人はこういうところもチェックしましょう。
 なお、原判決は供用物件で没収していますが、東京高裁H23は、児童ポルノ製造罪の記録媒体は、犯罪生成物として刑法19条1項3号で没収するとしていますので、ここにもミスがあります。

原判決
     主  文
 被告人を懲役1年に処する。
 未決勾留日数中80日をその刑に参入する。
 地方検察庁で保管中の携帯電話機1台及びマイクロSDカード1枚を没収する。
     理  由
(法令の適用)
 被告人の判示各所為は児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項、1項、2条3項にそれぞれ該当するところ、判示各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■以上は同法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し、同法21条を適用し未決勾留日数中80日をその刑に算入し、地方検察庁で保管中の携帯電話機1台(は判示第1及び第2の各犯行の用に供した物であり、いずれも被告人以外の者に属しないから、同法19条1項2号、2項本文を適用してこれらを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

阪高裁H23.6.1
 主   文
 原判決を破棄する。
 被告人を懲役1年に処する。
 原審における未決勾留日数中80日を上記刑に算入する。
 理   由

第4 控訴趣意中、本件電話機等の没収について(事実誤認及び法令適用の誤りの主張)
 論旨は、本件電話機等は被告人の親族(以下「親族」という)の所有物であるのに、被告人以外の所有に属さないものとして没収した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認、法令適用の誤りがある、というのである。
 そこで記録を精査し、当審における事実取調べの結果も併せて検討すると、本件電話機等が被告人に属するとまではいえない上、被告人の親族に属する合理的可能性は否定できず、本件電話機等を被告人以外の者に属しないと認めるには足りないといわざるを得ず、この点で事実誤認があるというべきである。
 以下所論に鑑み、補足して説明する。
 所論は、本件電話機等を取得した具体的な経緯を見ると、被告人では携帯電話の利用契約を締結することができない状態にあったため、平成年月日ころ、父母及び兄夫婦と携帯ショップに行き、親族が利用契約を締結して、被告人に支払能力がつくまでとの約束で貸したものである。なお、領置調書には被告人が所有者とあるが、これは被告人が差し出したことから警察官が事実関係を確認することなく短絡的に所有権を推測して記載したに過ぎず、被告人自身が確認した上のものであるとは認定できないし、供述調書や被告人質問における「私の携帯電話」という表現も、自分が使用していたとの趣旨での表現に過ぎない、と主張する。他方、検察官は、回線利用契約の名義人は親族であるものの、被告人が専ら使用するのみならず、利用代金について被告人が支払うことになっていたこと、その他、所有権放棄の手続の際に、被告人において親族が所有権者である旨の話をしなかったこと等を踏まえると、所有権が被告人にあることに疑いはない、と主張する。
 この点、関係証拠によれば、本件電話機の回線契約が親族名義と認められるところ、確かに検察官の指摘のとおり、親族の契約締結行為はいわゆる名義貸しに過ぎない疑いは強いものの、他方で、親族がその所有権を主張し、また、一般には、携帯電話機及びその購入時における外部メモリー等の付属物の所有権が回線契約者に属することからすれば、証拠上、被告人以外の者に属しないことが合理的疑いを排して認められるとまではいえない。
 したがって、本件電話機等を被告人以外の者に属しないとして没収した原判決には事実誤認があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。
第5 破棄自判