児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

タナー法については児童ポルノ法施行当時から「なるほど、当審証人医師Aの証言及び同人作成の前記鑑定書によれば、本件各写真の被撮影者が思春期遅発症や小人症である可能性を医学的に否定することはできず、各被撮影者の年齢が一八歳未満であると、一〇〇パーセントの確率で断言することはできないという。」だったんですが、「もとより、刑事訴訟における証明は、医学等の自然科学における証明とは異なり、裁判官に合理的な疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りるもので」(大阪高裁h12.10.24)なんて言われて、その

本田守弘「判例研究 児童ポルノビデオテープの画像自体から,被撮影者が実在する18歳未満の者であると認定した事例児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項各号に掲げる「児童」は,実在する者であることを要するが,具体的に特定することができる者であることを要しないとした事例(大阪高判平成12.10.24)研修634号

平成一二年一〇月二四日宣告 裁判所書記官 池 田 豊
理由
一 本件控訴の趣意は、弁護人奥村徹作成の控訴趣意書その3、同その4、平成一二年六月一九日付け、同月二〇日付け、同月二九日付け各控訴理由補充書及び同年七月四日付け釈明書(なお、弁護人は、控訴趣意書その1及び同その2は陳述せず、また、平成一二年六月一四日付け控訴理由補充書は職権による判断を求める趣旨のものとして陳述する旨法廷で釈明した)に、これに対する答弁は、検察官柿原和則作成の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。
なお、文中の略語は以下のとおりであり、また、見出しに付した「控訴理由第O」とは、前掲各控訴趣意書及び控訴理由補充書における控訴理由の番号である。
検         原審検察官請求証拠番号
当審弁       当審弁護人請求証拠番号
本件各ビデオテープ 原判示児童ポルノであるビデオテープ「   」          等六巻
本件各写真 本件各ビデオテープの内容を抽出したスティル写真で各捜査報告書(検一九、      二〇)及び写真撮影報告書(検二二)に添付のもの
各被撮影者 本件各ビデオテープないし本件各写真の被撮影者

児童ポルノ法又は法 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
児童 満一八歳未満の者(法二条一項)
二 控訴趣意中、事実誤認の主張について
 論旨は、本件各ビデオテープの各被撮影者が実在する児童ではない可能性があるのに、これを実在する児童であると認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というのである。しかし、被告人の各検察官調書、警察官調書、捜査報告書(検一九、二〇)、写真撮影報告書(検二二)及びの警察官調書(検四七)など、原判決が挙示する関係証拠によれば、右各被撮影者が実在する児童であることを認定することができ、この結論は、当審における事実取調べの結果によっても左右されないが、所論にかんがみ、当裁判所の見解を若干敷衍して説明する。
1 各被撮影者が人間ではない可能性(控訴理由第1)
所論は、本件各ビデオテープないし本件各写真の各被撮影者が何人であるかは特定されておらず、それらが人間であることについてすら合理的な疑いを容れる余地がある、という。
しかし、捜査報告書(検一九、二〇)、写真撮影報告書(検二二)、杉谷秀夫の警察官調書(検四七)及び被告人の警察官調書(検六五)など、原判決が挙示する関係証拠によれば、本件各ビデオテープにおいては、本件各写真の被撮影者である少女が性交又は性交類似の行為を行っている模様や全裸になって陰部を拡げている模様などが撮影されていることが認められるから、本件各ビデオテープの被撮影者が実在する人であることは明らかである。
2 各被撮影者が児童ではない可能性(控訴理由第2)
所論は、本件各写真からは、各被撮影者の体格や発育状況をかろうじて識別できるものの、一般に、身長や乳房の発育状況などには個人差があり、思春期遅発症や小人症のために一八歳以上でも第二次性徴が見られない女性が存在することなどを考慮すると、体格や発育状況は、実際の年齢とは必ずしも一致しない。したがって、乳幼児を除けば、写真によるだけでは、その被撮影者が、医学的見地からみて、一〇〇パーセントの確率で一八歳未満の者であると断言することはできない。医師A作成の鑑定書(当審弁四)によれば、本件各写真の被撮影者の年齢が、一八歳以上である可能性があると指摘されている。したがって、本件各ビデオテープの各被撮影者が一八歳未満の児童であることについて合理的な疑いを容れる余地がある、という。
しかし、前記関係証拠、ことに捜査報告書ないし写真撮影報告書中の本件各写真から窺われる各被撮影者の容貌、体格、発育状況などに照らすと、本件各ビデオテープの各被撮影者はいずれも児童であると認められる。なるほど、当審証人医師Aの証言及び同人作成の前記鑑定書によれば、本件各写真の被撮影者が思春期遅発症や小人症である可能性を医学的に否定することはできず、各被撮影者の年齢が一八歳未満であると、一〇〇パーセントの確率で断言することはできないという。しかし、もとより、刑事訴訟における証明は、医学等の自然科学における証明とは異なり、裁判官に合理的な疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りるものであるところ、Aの当審証言によれば、本件各写真の各被撮影者が、思春期遅発症や小人症などであることを窺わせる徴候はないというのであるから、右の証言及び鑑定書によっても、本件各写真、ひいては本件各ビデオテープの各被撮影者が一八歳未満の者であることに合理的な疑いを容れる余地はないというべきである。
3 なお、所論は、本件各ビデオテープのうち、原判決が児童ポルノ法二条三項三号に該当するとした二本のビデオテープ(起訴状別表五、六)について、同号に該当するものではないと主張するが、前記1に掲げた関係証拠によれば、右各ビデオテープは、いずれも、児童が、全裸になり、大腿部を開き、自己の陰部をビデオカメラに向けている姿態などが撮影されているものであると認められるから、これらが法二条三項三号に該当する児童ポルノビデオテープであることは明らかである。
4 各所論はいずれも採用することができない。その他所論がるる指摘するところについて検討してみても、原判決に事実の誤認はない。
論旨は理由がない。