児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

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愛知県青少年保護育成条例の無罪判決(名古屋簡裁H19.5.23)

 国賠事件の判決でだいたいわかります。
 刑事事件の判決は見せてもらいましたが、公表できないそうです。
 

名古屋地方裁判所判決平成22年2月5日
判例タイムズ1325号97頁
判例時報2086号73頁
LLI/DB 判例秘書登載
主   文
 1 被告国は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成19年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告愛知県は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成19年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,原告に生じた費用の5分の1を被告国の負担とし,原告に生じた費用の5分の1を被告愛知県の負担とし,被告国に生じた費用の5分の4及び被告愛知県に生じた費用の5分の4を原告の負担とし,その余を各自の負担とする。
 5 この判決は,第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。ただし,被告国が100万円の担保を供するときは,第1項の仮執行を免れることができ,被告愛知県が100万円の担保を供するときは,第2項の仮執行を免れることができる。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 本件性行為等
 ア 原告は,昭和49年C1月C2日生まれの男性である。
 イ 原告は,平成18年7月24日午後8時30分ころ,名古屋市C3区C4町C5番地ホテルB1(以下「本件ホテル」という。)201号室において,A子が17歳であることを知りながら,A子と性行為をした(本件性行為)。
 ウ A子は,本件性行為当時,17歳9か月であった。
(2) 本件被疑事件及び本件被告事件の経緯
 ア 本件被疑事件の捜査の端緒等
(ア) A子は,平成18年8月28日,A子の母とともに愛知県瀬戸警察署(以下「瀬戸署」という。)に出頭し,本件性行為につき被害の申告をした(以下「本件申告」という。)。
瀬戸署では,本件申告について,A1警部補,A2警部補,A3巡査部長,A4巡査,A5巡査などが所属する瀬戸署生活安全課少年係が捜査を担当することとなった(以下,瀬戸署所属の司法警察員・司法巡査らを「本件警察官ら」という。)。
A5は,同日,A子から事情を聴取し,供述調書(甲22,50)を作成した。なお,A子は,被害届と題する文書は作成していない(証人A3)。
A3は,同月31日,A子の写真撮影を行い(甲25),また,原告の住民登録地に対する視察にかかる捜査報告書(書証として提出されていない書類(以下「未提出」と表示する。))を作成した。
(イ) また,本件警察官らは,平成18年9月2日,A子の案内により,本件ホテルなど現場の引き当たり捜査を行い,同月4日付けで被害現場等確認に関する捜査報告書(未提出)を作成した(甲27,51,証人A3)。
(ウ) A3は,平成18年9月5日,A子の母の事情聴取をし,供述調書(甲21,49)を作成した。
また,A2は,同月7日,A子から事情聴取をし,本件被疑事実に関する供述調書(甲23,51)及びA子の身上関係についての供述調書(未提出)を作成した(甲1,15)。
(エ) 本件警察官らは,本件被疑事件の裏付け捜査のため,平成18年9月12日,本件ホテルからジャーナル等の領置手続を行い(甲26),本件ホテルの部屋などの写真撮影を行った(甲29)。
A2は,犯行場所の特定に関する同日付けの捜査報告書を作成した(甲27)。
 イ 逮捕状の請求等
(ア) 本件警察官らの上記捜査に基づき瀬戸署警視(刑事訴訟法199条2項による指定を受けた司法警察員)A6は,平成18年9月21日,瀬戸簡易裁判所裁判官に対し,原告について,逮捕状請求書(甲39。以下「本件逮捕状請求書」という。)により逮捕状を請求した(以下「本件逮捕状請求」という。)。本件逮捕状請求書記載の「被疑事実の要旨」は,別紙1(甲39)のとおりである。
本件逮捕状請求時以前に,本件警察官らにおいて作成又は入手していた書類は,別紙2「各時点で捜査機関が把握していた事実関係(一覧表1)」(以下「一覧表1」という。)の「? 逮捕請求の時点(警察(被告県))」欄記載の書類等である。
また,原告の居室及び使用車両に対する捜索差押許可状を請求した(甲28,52)。
(イ) 瀬戸簡易裁判所裁判官は,平成18年9月21日,原告についての逮捕状(甲38。以下「本件逮捕状」という。)及び原告の居室及び使用車両に対する捜索差押許可状を発付した(甲28,38,52)。本件逮捕状記載の「被疑事実の要旨」は,「別紙逮捕状請求書のとおり」として,本件逮捕状請求書の「被疑事実の要旨」(別紙1)の記載をそのまま引用している。
(ウ) 本件警察官らは,平成18年9月25日午前8時4分から10分にかけて,原告の居室の捜索を実施し,原告の使用する携帯電話機1台を差し押さえた(甲52)。
また,本件警察官らは,同日午前8時12分から20分にかけて,原告の使用する普通乗用自動車の捜索を実施した(甲28)。
本件警察官らは,原告を瀬戸署に任意同行し,A4は,同時57分,瀬戸署において,本件逮捕状により原告を逮捕した(甲38。以下「本件逮捕」という。)。
(エ) A3は,平成18年9月25日午前9時00分ころ,原告につき弁解録取の手続を行い,弁解録取書を作成し(甲46),原告の取調べを行い,本件被疑事実に関する簡単な事実関係を記載した供述調書(甲45)及び原告の身上関係に関する供述調書(未提出)を作成した。
また,A4は,上記差押えにかかる原告使用の携帯電話機1台について写真撮影を行った(甲53,乙ロ2)。
(オ) なお,原告は,A子から本件申告をしたことなどの連絡を受けたため,本件逮捕前の平成18年9月7日ころ,勤務先の顧問弁護士であった原告訴訟代理人弁護士(以下「本件弁護士」という。)に,A子との関係について捜査が行われていることに関して相談していた(甲36,44,原告本人)。
 ウ 勾留請求及び勾留状の執行
(ア) 瀬戸署司法警察員は,送致書(「犯罪事実」以外の部分は未提出。以下「本件送致書」という。)を作成して,平成18年9月26日午前9時00分,本件被疑事件を原告の身柄と共に名古屋地方検察庁所属の検察官に送致する手続を行い,名古屋地方検察庁所属の検察官は,同時20分,その送致を受けた(甲38。以下「本件送致」という。)。
(イ) 名古屋地方検察庁検察官事務取扱副検事A7(以下「A7」又は「本件副検事」という。)は,平成18年9月26日,原告について,弁解録取の手続を行い,弁解録取書(甲47)を作成し,原告を更に勾留する必要があるとして,同日,名古屋地方裁判所裁判官に,原告について勾留請求書(甲54。以下「本件勾留請求書」という。)により勾留の請求をした(以下「本件勾留請求」という。)。
本件勾留請求書(甲54)は,別紙3のとおりであり,「被疑事実の要旨」について「司法警察員送致書記載の犯罪事実に同じ」と記載して,本件送致書の「犯罪事実」(別紙4。甲55)を引用している。
本件勾留請求時以前に,本件副検事が送付を受けあるいは作成していた書類は,一覧表1の「? 勾留請求の時点(検察(被告国))」欄記載の書類等である。
(ウ) 名古屋地方裁判所裁判官は,平成18年9月26日,原告に対し,勾留質問を行い,勾留状(甲40。以下「本件勾留状」という。)を発し,同日午後4時26分,本件勾留状の執行がされた(以下「本件勾留状執行」という。)(甲40)。本件勾留状記載の「被疑事実の要旨」は,別紙5(甲40)のとおりである。
原告は,同月26日,本件逮捕前から本件被疑事件について相談していた本件弁護士を,本件被疑事件の弁護人として選任した(甲41)。
(エ) 本件弁護士は,平成18年9月27日,名古屋地方裁判所裁判官の行った上記勾留の裁判に対し,原告が全治2週間の見込みの顔面打撲の傷害を負い,通院加療中である旨の平成18年7月31日付け診断書及び原告の妻の身柄引受書を添付して,準抗告を申し立てた(乙イ1)。
名古屋地方裁判所は,上記準抗告申立書の写しを本件副検事に送付し,本件副検事は,これを閲読したうえで,名古屋地方裁判所に対し,意見書(未提出)を提出した(証人A7)。
名古屋地方裁判所は,翌28日,上記準抗告を棄却する決定をした(乙イ2)。
 エ 勾留後の取調べ等
(ア) A3は,平成18年9月27日の午前・午後,同月28日の午前・午後及び同年10月2日の午前に,原告の取調べをし,それぞれ供述調書を作成した(平成18年9月27日に甲30,同月28日に甲31・32,同年10月2日に甲33)(以下,これらの取調べを「本件各警察官調べ」といい,本件各警察官調べによる各供述調書を「本件各員面調書」という。)。
(イ) 本件弁護士は,平成18年9月29日ころ,原告と警察署の留置施設で接見し,その際,本件警察官らとも面会し,なぜ原告を逮捕したのか,恋愛関係があるのにいん行に該当するのかなどと尋ね,また,A子の母の交際相手が,原告の勤務先に押しかけたり,原告に暴力をふるったりしたことなどを伝えたが,本件警察官らは,法律論争はしないなどとして取り合わなかった(乙ロ1,証人A3)。
(ウ) 本件副検事は,同年10月3日及び5日,原告の取調べをし,それぞれ供述調書を作成した(甲34,35)(以下,これらの取調べを「本件各副検事調べ」といい,本件各副検事調べによる各供述調書を「本件各検面調書」という。)。
本件副検事は,上記10月5日の取調べを終えた後,原告に対して,略式手続について説明を行い,原告から略式手続について異議がない旨の申述書(甲42)の提出を受けた(乙イ3)。
 オ 公訴提起及びその後の経緯
(ア) 本件副検事は,名古屋区検察庁の検察官として,平成18年10月5日,名古屋簡易裁判所に対し,原告について,本件条例違反の罪で起訴状(甲2。以下「本件起訴状」という。)を提出して公訴を提起し,略式命令を請求した(平成18年(い)第××××号,以下「本件公訴提起」という。)。本件起訴状記載の「公訴事実」は,別紙6(甲2)のとおりである。
本件公訴提起時以前に,本件副検事が送付を受けあるいは作成していた書類は,一覧表1の「? 公訴提起の時点(検察(被告国))」欄記載の書類等である。
(イ) 名古屋簡易裁判所裁判官は,平成18年10月5日,原告を罰金40万円に処する旨の略式命令を発令し(甲3),同日,同命令が原告に送達され(甲4),原告は,同日,40万円を納付して釈放された。
原告は,同月10日,名古屋簡易裁判所に対し正式裁判を請求した(平成18年(ろ)第××号。甲5)。
(ウ) 本件副検事は,平成18年10月17日,A子からはじめて事情を聴取し,供述調書を作成した(甲24)。
(エ) 平成18年11月30日,本件被告事件の第1回公判期日が行われ,原告は,本件性行為は淫行に当たらないとして無罪を主張した(甲6)。
(オ) 名古屋簡易裁判所は,平成19年5月23日,本件被告事件について,原告の行為が淫行に当たるとはいえないとして,原告に対し,無罪の判決を言い渡し(甲1),同年6月7日,控訴期間経過により,同判決は確定した。

判例タイムズ1325号97頁の解説
3 判例・学説との対応
 (1) 本件被疑事件・本件被告事件における嫌疑等
 ア 本判決は,本件規定について,福岡県青少年保護育成条例に関する昭和60年大法廷判決における「いん行」の定義が妥当するものとしている。これについて,本判決の引用する本件条例の愛知県総務部青少年女性室編集発行の解説(『愛知県青少年保護育成条例の解説』)のほか,高橋省吾・昭60最判解説(刑)251頁も同趣旨を述べている。
 昭和60年大法廷判決については,論点が多岐に亘り,各論点について種々の見解があり,特に,憲法31条に関しては,罪刑法定主義に基づく淫行処罰規定の犯罪構成要件の明確性,実体的適正処罰の原則に関わる議論がなされているところである(詳しくは,後掲の各文献のほか,高橋・前掲261頁〔補注〕記載の文献,西森英司「青少年育成条例の淫行の禁止」長沼範良ほか編『警察基本判例・実務200』520頁を参照)。
 イ 第2形態の性行為
 本判決は,逮捕状請求等について検討をする前提として,昭和60年大法廷判決における第2形態の性行為について検討している。
 (ア) 「結婚を前提としない性行為」
 a まず,本判決は,昭和60年大法廷判決における第2形態の性行為に該当するために,「結婚する意思の有無は,結婚する意思があれば淫行には該当しないという意味で重要な事実であるものの,結婚する意思がなければ直ちに『淫行』に該当するものではな」いとしている。
 これは,昭和60年大法廷判決が第2形態の性行為について,結婚する意思の有無を要件として明示していないことからして,自然な理解であり,後述の昭和60年大法廷判決以降の評釈においても,昭和60年大法廷判決をして,結婚する意思がなければ直ちに「淫行」に該当するとするとの解釈をしたとの理解をするものは見当たらない。
 なお,東條伸一郎ほか編『シリーズ捜査実務全書(9)風俗・性犯罪』320頁以下は,「捜査上の留意事項」として「結婚を前提としない性行為であることが『淫行』の前提であるから」「具体的な事案では青少年と行為者が婚姻を前提とする関係か否かを認定しなければならない」としているが,結婚する意思がなければ直ちに「淫行」に該当するとするものではない。
 b なお,昭和60年大法廷判決以前の高裁判決においては,「淫行とは,みだらな性行為のことであり,健全な常識を有する一般社会人からみて,結婚を前提としない,専ら情欲を満たすためにのみ行う不純とされる性交又は性交類似行為をいう。」との解釈が主流をなしていた(例えば,東京高判昭39.4.22東京高裁刑事裁判速報1182号3頁)。
 しかし,上記解釈も,結婚を前提としないことだけで十分とするものではなく,「専ら情欲を満たすためにのみ行う不純とされる」性交又は性交類似行為であるとしているのであり,結婚を前提としない性行為のすべてが淫行に当たるとするものではない。
 上記高裁判決の主流の解釈と昭和60年大法廷判決の関係については,議論のあるところである(たとえば,田宮裕「青少年保護条例における『淫行』処罰規定の意義と合憲性」判時1174号10頁等)が,牧補足意見では,上記解釈について,「専ら情欲を満たすためにのみ行う」という点は,性行為の範囲を限定する作用をほとんど営まず,従って,右の解釈では,結婚を前提としない性行為のうちどの範囲のものが不純とされる性行為に当たるのかは必ずしも明確でなく,もし,青少年を相手とする結婚を前提としない性行為のすべてがこれにあたるとするのでは,やはり現在の社会通念からみて,余りにも処罰の範囲が広きに過ぎる点で問題があるとしている(高橋・前掲222頁,松浦恂〔刑事局青少年課長〕・研修451号53頁も同旨)。
 いずれにせよ,昭和60年大法廷判決は,不倫や不純というような抽象的,多義的な用語を避け,犯罪の構成要件の明確化を図るため,より具体的に定義を試みたものであり(高橋・前掲222頁など),昭和60年大法廷判決以降は上記の定義に従った運用が必要とされてきたところである。
 (イ) 第2形態の性行為の具体的判断要素
 本判決は,第2形態の性行為について,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素としてあげている諸事情(当時における両者のそれぞれの年齢,性交渉に至る経緯,その他両者間の付合いの態様等)を考慮すベきとしている(牧裁判官の補足意見も同旨)が,この点に関して,昭和60年大法廷判決後に公刊された実務家の判例評釈は,以下のとおりである。
 a 宮崎礼壱(法務省刑事局付参事官)「青少年保護育成条例による『いん行』処罰の合憲性(最判昭和60.10.23)」ひろば39巻1号76頁,79頁は,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素を挙げていることに留意すべきとし,立証上の問題点として,昭和60年大法廷判決「の指摘する要素に沿って,十分な証拠収集と立証を図る必要がある」としている。
 b 瀧賢太郎(法務省刑事局付検事)「福岡県青少年保護育成条例の淫行禁止処罰規定の合憲性について――最高裁昭和60.10.23大法廷判決」警論39巻1号82頁は,「性行為に至る経緯と背景事情,性行為に出た動機・意図,両者間の精神的緊密性,将来の結婚へ向かっての意図とその実現可能性など個々の事件ごとの要素」の究明が必ず要求されるとしている。
 c 杉本啓二(鹿児島家庭裁判所判事補)「青少年条例における淫行処罰規定と少年事件――最高裁昭和60年10月23日大法廷判決を契機として」判タ586号17頁は,具体的判断要素についてそれぞれ検討し,「性交渉に至る経緯」については「両者の出会いから初めて性関係を持つまでの期間,その間の交際状況等」が重要であるとし,「両者間の付合いの態様」については「両者の交際を保護者の側で了承しているかどうか,性関係を持った後の両者の交際状況等」から「真摯な交際関係にあると認められるような事情が,両者の中に窺えるかどうか」であるとし,「婚姻の意思がないという場合にこれを過大視し『淫行』に該当すると安易に決めつけてしまうのは問題であろう」としている。
 d 昭和60年大法廷判決の調査官解説(高橋・前掲223頁,252頁)は,上記の評釈の内容も踏まえ,「被告人の内心の事情のみならず,性交渉に至る経緯,両者の付合いの状況等客観的事情を含めた,従来の裁判実務におけるよりもきめの細かい立証が必要とされる」としている。
 e 原田國男(東京地方裁判所判事)「青少年保護育成条例」佐藤文哉編『刑事裁判実務大系(3)風俗営業・売春防止』488頁は,「一般にいって,若い男女の機微にわたる面があるだけに,認定が微妙になることが十分考えられる」とし,具体的判断要素を総合して判断するほかないとしている。
 (ウ) 淫行処罰規定については,捜査機関の恣意的な運用のおそれがあることが指摘されており(阿部泰隆「青少年保護条例による『いん行,みだらな性行為』等の処罰(下)」法時57巻5号91頁ないし93頁,同「行政法解釈のあり方(6)」自研83巻12号37頁,38頁,前野育三・法教65号10頁,安部哲夫『青少年保護法』164頁以下),昭和60年大法廷判決においても,島谷六郎裁判官の反対意見が「犯罪構成要件が不明確であることは,取締りにあたる捜査機関にとっても,取締りの対象領域がはなはだ曖昧となり,場合によって,取締りの行過ぎを招来する危険性がある」として明確に指摘していたところでもある(伊藤正己裁判官,谷口正孝裁判官の各反対意見も同旨。)。
 そして,本判決も引用する愛知県総務部青少年女性室編・前掲でも,本件規定については,「種々の問題が含まれているので,適用に当たっては,関係機関で慎重に対処していく必要がある。」としている。
 本判決は,上記の議論があることをふまえ,捜査機関は,昭和60年大法廷判決により第2形態の性行為に関する正確な理解を前提に,当該行為が当罰性のある行為か否か,具体的事実への適用について抑制的で慎重な姿勢が求められるなどとしたものと考えられる。
 また,本判決は,申告に至る経緯等について,捜査機関としては,申告に至る経緯に疑義があれば,これを明らかにするなど慎重な対応が求められたとしている。これは,本件の結論に直ちに結びつくものではないが,不明確な部分が残ることが否めない淫行処罰規定が,現実に捜査機関により恣意的な運用がなされた可能性があることを指摘する趣旨と解される。

・・・・
 4 昭和60年大法廷判決以降の淫行処罰規定(特に第2形態の性行為)の運用の状況について,「裁判例が僅かであり,その該当性をめぐる議論が見当たらないと言うことは」「解釈が定着しつつあるとみてよいかもしれない」(原田・前掲488頁)との論評もあるが,淫行処罰規定違反の大部分が略式命令で処理されている現状では,その運用状況が十分に検証されているとはいえない。本件における捜査機関が昭和60年大法廷判決の限定解釈を正確に理解しているかには大いに疑問があり,限定解釈の有効性についても再検討が必要であろう。
 本判決は,逮捕状請求等について個別に詳細に論じ,その一部について国家賠償法上の違法性を肯定したものであり,淫行処罰規定に不明確な部分があることが否めず,捜査機関の運用次第では恣意的な運用がなされる危険があることについて改めて警鐘を鳴らす一例として,実務上参考となると考え,紹介する。