児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

江口寛章ら「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部改正」警察学論集第67巻第10号p97

3 児童ポルノの定義
いわゆる三号ポルノの定義を「衣服の全部又は一部を着けない児童
の姿態で、あって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、瞥部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」に改めること。(第2条第3項第3号関係) ・「殊更に」とは、どのような意味か。
(1) 「殊更に」とは、一般的には、「合理的理由なく」「わざわざ・わざと」の意味と解されているが、これは、当該画像の内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものかどうかを判断するために加えられたものである。
(2) その判断は、性的な部位が描写されているか、児童の性的な部位の描写が画像全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に基づいてなされるものと考えられる。
(3) これにより、例えば、水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のため撮影したようなケースは、その画像の客観的な状況から、内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価されるものでない限り、「殊更に……露出され、又は強調されているもの」とは言えず処罰対象外となる。
(4) このように、「殊更に……」との文言を追加することにより、画像の客観的な状況から三号ポルノの該当性判断を行うとの趣旨が明確となり、処罰範囲をより適切に規定することができると考えられる。
・「児童の性的な部位」とは、どのような意味か。
具体的には、①まず、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態の
うち、児童の「性器等(=性器、旺門又は乳首)が露出」しているものを真に可罰的な「コア」の要素ととらえつつ、②「性器等」のみで児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部改正は処罰範囲が狭すぎ、たとえば裸の児童を後方から撮影し、性器等が写っていない場合まで対象外となることから、性器の周辺部・脅部・胸部を含む「児童の性的な部位」にまで対象が広げられたもの。
・「強調」とは、どのような意味か。
(1) 「露出」のみでは、性的な部位が隠れてはいるけれども強調・誇張されている場合が含まれないことから、性的な部位の「強調」も対象とすることとされたものである。
(2)具体的にどのような場合が「強調」に当たるかについては、描写の方法を含めた、写真・映像等の全体から判断されるものである。
(3)例えば、着衣の上から撮影した場合や、ぼかしが入っている場合や、児童が意識的に股聞や胸を強調するポーズをとっていない場合であっても、性器等やその周辺部を大きく描写したり、長時間描写しているかどうか、着衣の一部をめくって該当部分を描写しているかどうかなどの諸要素を総合的に勘案して、性的な部位を「強調」していると判断されることはあり得る。
※本規定に関する上記解釈は、平成26年6月4日衆議院法務委員会における自由民主党橋本岳委員の質疑に対する自由民主党・ふくだ峰之委員の答弁で示されている。





6 自己の性的好奇心を満たす目的による児童ポルノ所持等についての罰則
自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処するものとすること。同様の目的で、これに係る電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とすること。(第7条第1項関係)
二 ーに係る国民の国外犯は、これを処罰するものとすること。(第
10条関係)
・「自己の性的好奇心を満たす目的」とは、どのような意味か。
(1)所持の態様としては、
①嫌がらせなどによりメールで送り付けられた場合
② ネットサーフインによる意図しないアクセス
③パソコンがウイルスに感染し、勝手に児童ポルノをダウンロードした場合
④ インターネット上の掲示板に児童ポルノが掲載された場合における掲示板の管理者やサーバの管理者
などの事例も想定されることから、処罰範囲を合理的に限定するため、「自己の性的好奇心を満たす目的」での所持を対象とすることとされたもの。
(2) したがって、上記①から④のような事例は、処罰の対象とはしないこととされた。
(3) なお、この「自己の性的好奇心を満たす目的」という文言は、現行法でも、第2条第2項の児童買春の定義において用いられており、解釈上確立されている。また、所持の目的については、所持の態様、分量、所持している対象の内容等の客観的事情からの推認により立証される。
<参考>平成21年6月26日衆・法務委員会政府答弁
大野政府参考人法務省刑事局長)「自己の性的好奇心を満たす目的でありましでも、そうしていわゆる児童ポルノを所持するに至ったいきさつ、偶然飛び込んできたものなのか、それとも例えば買い集めたものなのか。それから所持している児童ポルノの内容ということもございます。普通の写真なのか、特別に、いわゆるえげつのない内容のものなのか。もちろん量もございますし、それから、どういう形で所持しているのか。たまたま一つだけ持っていたのか、大量に持っていたのか等々の、そうした外部的事情から立証することになるだろうというふうに考えております。」

・「自己の性的好奇心を満たす目的」のような、人の内心に踏み込むような要件を課することに問題はないのか。
(1)「自己の性的好奇心を満たす目的」という文言は、現行法でも、第2条第2項の児童買春の定義において、用いられている。
(2)所持の目的については、所持の態様、分量、所持している対象の内容等の客観的事情からの推認により立証されるものであり、主観的要件があるからといって、捜査当局による自白の強要を誘発するおそれはない。また、上記のとおり、既に現行法制上用いられている概念であることから、解釈上も確立されており、捜査当局による恋意的な運用を招くものでもない。
※「自己の性的好奇心を満たす目的」に関する上記解釈は、平成26年6月4日衆議院法務委員会における公明党・園重徹委員の質疑に対する公明
党・遠山清彦委員の答弁で示されている。・「所持」及び「保管」の意味如何。
(1) 「所持」及び「保管」の意義について
児童ポルノの「所持」とは、有体物(写真、DVD・ハードデイスク(記録媒体)など)である児童ポルノを、自己の事実上の支配下に置くことをいう。
② これに対し、電磁的記録の「保管」とは、電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことをいう。
具体的には、当該電磁的記録をコンビュータのレンタル・サーバに保存したり、自己が自由にダウンロードすることができるリモート(プロパイダのメールボックスに入れられたメールを閲覧できる機能)の記録媒体に保存する行為がこれに当たる(これに対し、自己の所持するパソコンのハードディスクに保存している場合は、ハードディスク(有体物)の所持罪に該当する。)。
(2)故意について
①所持罪が成立するためには、児童ポルノであることを認識し、かつ、所持について認容している必要がある。
② メールで児童ポルノを送り付けられた場合や、パソコンがウイルスに感染し勝手に児童ポルノをダウンロードしてしまった場合でも、そのことを知らない場合は、所持罪は成立しない。
・「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った」とは、どのような意味か。
「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持・保管した者」を限定する趣旨で付加されたもの。これは所持・保管開始の時点において、「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った」ことが必要であり、この点を証拠により立証することを要する趣旨である。
・「当該者であることが明らかに認められる」とは、どのような意味か。
(1)取得の時期などを含めて「自己の意思に基づいて所持するに至った時期や経緯などについて、できるだけ客観的・外形的な証拠により確定するべきであるとの趣旨を明らかにするもの。
(2)現在でも、提供目的等の所持罪について実際の捜査・訴追実務では、取得の時期・経緯について自白が得られた場合には、必ず起訴前にその裏付け捜査をする取扱いがなされているところ。
※「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った」及び「当該者であることが明らかに認められる」に関する上記解釈は、平成26年6月4日衆議院法務委員会における公明党・園重徹委員の質疑に対する公明党遠山清彦委員の答弁で示されている。
・「自己の性的好奇心を満たす目的」と「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った」との関係如何。
(1) この規定は、実務者協議の結果、「自己の性的好奇心を満たす目的での所持罪」との骨格を維持しつつ、その「所持」について「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った者であり、……」という文言を追加することとされたものである。
「自己の性的好奇心を満たす目的」は、立件対象となる所持の時点での目的についての要件であるのに対して、「自己の意思に基づいて所持するに至った」は、当該所持を開始した経緯及びその時点での認識についての要件である。
(2) そして、「自己の性的好奇心を満たす目的」と「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った」との関係については、前者の目的がいわゆる目的犯としての「構成要件」を意味するものであるのに対して、後者は「所持罪という継続犯を前提にした上で、処罰範囲に限定をかけたもの」で、「自己の意思に基づいて所持するに至った時期」や「そのような所持に至った経緯」などを証拠により立証することを要請する趣旨を明らかにするものと整理されたところである。
・第三者から嫌がらせなどで児童ポルノをメールで送り付けられた場合などは、「自己の意思に基づいて所持するに至った者」に該当しないという理解で良いか。
(1)個別具体的な証拠により認定すべき事柄ではあるが、一般論としては、児童ポルノをメールで送り付けられたというだけであれば、基本的に、「自己の意思に基づいて所持するに至った者」には該当しないものと考えられる。
(2) もっとも、送り付けられた時点では「自己の意思に基づく」ものでなかったとしても、その後、メールに添付された児童ポルノ画像を聞き、当該ファイルが児童ポルノであることを認識した上で、性的好奇心を満たす目的で、これを積極的な利用の意思に基づいて(次問参照)自己のパソコンの個人用フォルダに保存し直すなどしたときは、その時点で新たに「自己の意思に基づいて所持するに至った」に該当すると考えられる。
※「自己の性的好奇心を満たす目的」及び「自己の意思に基づいて所持するに至った者」に関する上記解釈は、平成26年6月4日衆議院法務委員会における民主党枝野幸男委員の質疑に対する民主党階猛委員の答弁で示されている。
・当初の所持・保管が自己の意思に基づかずに開始された場合であっても、「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った」と評価し得るための「積極的な利用の意思に基づき新たな所持・保管が開始されたと認められる事情」はどのような基準で判断されるか。
「積極的な利用の意思に基づき新たな所持・保管が開始されたと認められる事情」の判断基準としては、自己の利用に向けた積極的(能動的)な行為の有無という基準が考えられ、この基準を採用すると、種々想定し得る事例については、以下のように整理できるのではないかと考えられる。
<当該行為のみをもって「自己の利用に向けた」と評価し得る事例>
① 送り付けられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルをプリントアウトしたものをファイリングして書庫に置いていた場合
② 送り付けられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルを受信フォルダに入れたままにしていたが、当該添付ファイルを繰り返し閲覧していた場合
③ 送り付けられた児童ポルノ本を貸倉庫を借りて預けた場合
<当該行為のみをもって「自己の利用に向けた」と評価し得るか微妙な事例>
① 送り付けられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルをPCのフォルダ・UsB 等に入れて保存した場合(例えば、他のポルノ画像が入ったフォルダ・ UsB に入れた場合は自己の利用に向けた行為と言えるであろうし、削除の趣旨でゴミ箱フォルダに入れた場合には、それのみでは自己の利用に向けた行為とは言えないであろう。)
② 送り付けられた児童ポルノ本を開封して自宅に保管した事例(例えば、他のポルノ本と並べてよく使う書棚に保管した場合には自己の利用に向けた行為と言えるであろうし、いずれ廃棄予定の不要な雑誌等を平積みしている場所に一緒に保管した場合などは、ぞれのみでは自己の利用に向けた行為とは言えないであろう。)
<当該行為のみでは「自己の利用に向けた」と評価し得ない事例>
① 送り付けられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルを聞いたが、その後削除せずにPC内にデータとして残っていた場合
② 送り付けられたメールがメールソフトの自動ソート機能でPC内に保存された場合
③ 送り付けられた封筒を開封して児童ポルノ本と確認したが、その
・正犯者に「自己の意思に基づく所持」が観念できず、7条1項の括弧書きを満たさないような場合に、狭義の共犯を処罰すべきか5)。
(1) 上記のような場合には狭義の共犯を処罰することは消極に解される。
(2)本罪の構成要件は、基本的に括弧書きの外側で規定されているところである。
(3)他方、この括弧書きの法的性質については、その前半が「所持の開始時点の認識」を規定し、その後半が「立証の程度」について規定していることから、これを処罰条件とすることも、構成要件そのものとすることも適当ではないと考えられる。また、同様の立法例も見当たらない。
(4) しかしながら、このように括弧書きの法的性質は必ずしも明らかではないものの、その前半が「構成要件の認識に関するもの」であることから、いわば「構成要件に関係する要素」と理解することができると考えられる。
(5)仮にこのように7条1項の括弧書き前半を「構成要件に関係する要素」であると理解した場合には、要素従属性の各説のいずれも「正犯が構成要件を満たさない場合には共犯を処罰しない」との立場をとっていることを踏まえると、正犯が括弧書き前半の要件を満たしていない場合には、狭義の共犯を処罰しないとの整理になるものと考えられる。
(6) また、実質的にも、この規定の趣旨は、性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持した行為につき、その処罰範囲を括弧内を満たす者に限定するものであるため、正犯が処罰できないのに狭義の共犯について処罰することは相当ではないと考えられる。
※「積極的な利用の意思に基づき新たな所持・保管が開始されたと認められる事情の判断基準」及び「正犯者に自己の意思に基づく所持が観念できない場合の狭義の共犯の可罰性」に関する上記解釈は、平成26年6月4日衆議院法務委員会における結いの党・椎名毅委員の質疑に対する民主党階猛委員の答弁で示されている。.
・自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持罪の法定刑を1年以下の懲役又は100万円以下の罰金としたのはなぜか。
児童ポルノの所持が児童の権利を侵害するものであることに鑑み、これを抑止するに足りる法定刑を定める必要があること
②提供目的の所持罪とのバランス
・特定かつ少数の者への提供目的の所持については、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
−不特定又は多数の者への提供目的の所持については、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科
などに鑑み、このような法定刑が定められたものである。