児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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単純所持の当罰性・可罰性

木村光江「強姦罪・強制わいせつ罪の研究―ジェンダーの視点から」(平成18年3月)P52
六 単純所持の当罰性
特定少数への送信を処罰することとなると、それとの権衡上、そもそも単純所持を処罰する必要が生ずるのではないかとの疑問がある。なぜなら、不特定多数への頒布目的の所持は、個人的な単純所持との区別が客観的にも主観的にもある程度明白に区別が可能であるのに対し、特定少数への送信目的での所持は、単純所持との区別が理論的にも、また事実上も極めて困難だからである
単純所持の当罰性については、旧法制定時においても大きな論点となった。サイバー犯罪条約上は、単純所持罪についての留保が可能であるから、これを留保すれば、当面問題は生じない。
しかし、3つの点で検討すべき課題があるように思われる。
(イ)前述のように、特定少数者への送信を処罰する規定を設けると、当該行為は、事実上単純所持を処罰することと区別が極めて困難となるという点、(ロ)わが国においても、そもそも単純所持を処罰すべきであるとの要請は強いことから、これを正面から認める必要があるかという点である。そしてその判断の際には、(ハ)主要国の法令比較でも、アメリカ、ドイツ、フランスをはじめ多くの諸国で単純所持を処罰しており、しかも世界規模で、処罰化の方向へとの動きがあるという点も考慮に入れなければならない。
(1)特定の者への送信目的所持
制定時の7条2項は、頒布・販売等の目的がある場合に限り、児童ポルノの所持を処罰対象としている。これらの目的がある場合には、児童の法益侵害性が大きいと解されるからである。
しかし、上記のように特定少数者への送信行為も処罰対象とすると、個人的に保有している情報であっても、友人に送信する意図を有している場合には、処罰の対象とされることになる。
さらに問題なのは、特に情報の場合、特定少数への送信の意図と、不特定多数への配信の意図との区別が、事実上極めて困難であるという点である。すなわち、有体物であれば、例えば、数百枚の写真を保有していれば頒布の意図は明らかであろうが、情報の場合には複写・多数への同時送信が瞬時に行えることから、1つの情報ファイルを有していたしても、いずれの目的を有するのかが不明だからである。
この点、旧法制定時の議論では、基本的に有体物であるとの前提で立法がなされた経緯があることから23)、当然、頒布・販売等目的所持とそれ以外の所持との区別が可能であるとされていたと解される。しかし、情報を対象とすると、このような区別は不可能であるし、無意味となる。
しかも、情報の単純保有を処罰するとすれば、それとの権衡から、有体物についての単純所持も処罰せざるを得なくなるという問題が生ずる。これは、立法時には、争点となったものの立法が見送られた経緯がある。
(2)単純保有・所持の当罰性
たしかに、わが国の現行法上、単純所持を処罰する規定は、銃刀法、薬物事犯等、極めて限られてはいる。しかし、児童ポルノについても、今度処罰の可否を検討する価値はあろう。すなわち、冒頭で述べたように、インターネット利用の児童ポルノの摘発が増加しており、放置できない状況であることは明らかである。そして、実際に摘発された事例を見ると、たしかにインターネットを利用してはいるものの、有体物をネットを通じて売買する形態である。これは、現行法が有体物である児童ポルノのみを暗黙の前提としていることから、当然であり、情報の送信行為が行われていないのではなく、処罰されていないにすぎない。
しかし、逆に言えば、実際にインターネットを通じてでも有体物の頒布行為が非常に多くなされているという事実がある。そうだとすれば、有体物の頒布・販売も、少なくとも情報と同程度に当罰性を認めるべきであろう。
たしかに、画像送信付きの携常電話の普及を見ても分かるように、情報自体の送信が極めて頻繁になされるようになっている。このような状況を前提とすると、情報自体の売買が激増する事態は容易に想像できる。しかも、複写の容易さ、送信の容易さの観点から見ると、情報と有体物とは相当程度の相違がある。情報については、単純な保有を処罰する必要性が高いことは明らかであるが、これと比較し、同程度に有体物の単純所持については、当罰性に差があることもまた確かであろう。
しかし、?有体物の頒布・売買が実際に非常に頻繁になされているとと、?情報の単純保有を処罰対象とする場合、有体物についておよそ無罪とすることにより、処罰の権衡を欠くことの問題性からみて、有体物の児童ポルノの単純所持についても、処罰せざるをえないように思われる。
たしかに、児童ポルノは、現行法上単純所持が処罰されている銃や覚せい剤と比べ、人の生命・身体に対する危険性が大きいとはいえない。しかし、児童ポルノが児童に対する虐待であることが法により明らかとされた以上、成人を対象としたわいせつ物の単純所持とは自ずから当罰性に差があるといわざるを得ない。
児童ポルノの単純所持については、児意ポルノが単なる「わいせつ画像」ではないという実態も見逃すわけにはいかない。前掲「児童の商業的性的搾取に係る犯罪に対する国際捜査協力に関する会合」報告書(前述1(2))において、ICPO事務総局人の密輸担当課長マックロツコ氏は、「普通の人は児童ポルノというと子どもが裸で写っている写真をイメージするが、真実は児童ポルノは強姦されている子どもの画像である。児童ボノレノの実際の意味するところは重大犯罪の永久的なビジュアル記録なのである」と述べている。そして、それ故に児童ポノレノ画像の所有が許されないことを強調している。
わが国の対応としては、当面画像データの単純保有のみを処罰対象とすることも採りうる選択肢ではあるが、少なくとも将来的には、単純所持一般を処罰対象とすべきであろう。