児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判員裁判対象事件である住居侵入,強盗強姦,強盗致傷(認定罪名 住居侵入,強盗強姦)被告事件について,控訴審において,懲役11年に処した一審判決の量刑が重過ぎるとし,量刑不当の主張を認め,一審判決を破棄し,懲役8年に処した事例(広島高裁H23.5.26)

 1項破棄。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110615171014.pdf
主 文
原判決を破棄する。 被告人を懲役8年に処する。 原審における未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
・・・・
しかし,他方で,原判決は,被告人の刑を軽くする方向に働く事情として,被害女性に対する損害賠償として,被告人及び被告人の父親が計106万円を支払ったことや,被告人を心配する被告人の母親の存在が更生の一助となることを考慮したとしており,これらの説示も正当であるが,被告人が,被害女性を強姦し,その際に傷害を負わせたことなどについて事実を認め,謝罪文や反省文を作成し,原審公判廷においても反省の弁を述べていることを指摘するものの,被告人は,原審公判廷において,自身の刑事責任を軽くしようとして,被害女性方への侵入はわいせつ目的であり,金品を盗むつもりはなかったとも供述しており,また,被害女性に対する暴行,脅迫等の際に金品を要求したのは演技であったなどと供述して強盗の故意を否定するなどしており,このような不自然,不合理な弁解及び供述態度に照らすと,その反省や謝罪が真摯なものであるとはいい難く,被告人の反省や謝罪の言葉は,本件の量刑上考慮するに値しないものといえるとしているところ,この判断には賛同し難い
すなわち,被告人の強盗の故意を否定するなどの弁解は,前記1にも説示したとおり採用できず,その点では,不自然,不合理な弁解をしていると評価せざるを得ない。しかし,被告人は,本件の核心部分である強姦を行ったことについては,DNA鑑定結果等の決定的証拠を突き付けられるまでもなく,逮捕以降一貫して認めており,原審公判廷において,事後強盗の限度ではあるにせよ,強盗強姦罪の成立も争ってはおらず,それなりに事実関係を認めて反省の態度を示しているものと評価でき,上記弁解をしている供述態度から,被告人の反省や謝罪の言葉は量刑上考慮するに値しないとすることは,適切な評価であるとはいえない。のみならず,被告人は,本件と同種の罪を含む前科の刑の執行終了後,2か月ほど経ったころから,盗みを始めたこと(被告人の検察官調書(原審検乙4)),ピッキングの技術は,刑務所の中で興味を持ち,覚えようと思ったこと(被告人の原審公判供述)を供述しており,これらの事情については,いずれも被告人の供述以外に認定できる証拠がないのであり,被告人が敢えて自身に不利なこれらの供述をしていることも,その反省の顕れとして評価できるところ,原判決は,これらの供述に基づく認定を行い,被告人の刑を重くする事情として相応に考慮するものとしているのであり,その一方で,このような供述をしていることも含め,被告人の反省や謝罪は量刑上考慮するに値しないとするものであって,適正な量刑判断を行っているとすることはできない。 そして,本件は,確定裁判のあった罪の余罪であって,有期懲役刑の長期が引き上げられた刑法改正前に犯された犯行であり,さらに,量刑に当たっては,行為責任を基本として公平の理念から,同種事案に対する従来の量刑を参照すべきであるところ,量刑判断は,個別,具体的な事情を総合考慮して行われるものであり,とりわけ,本件は,裁判員が参加して審理,判決がされたものであり,単純に従来の量刑との軽重を論じることはできないことはいうまでもないが,本件と同種事案である単独犯による住居侵入,強盗強姦の事案に対する近時を含めた量刑傾向に照らしても,原判決の量刑は著しく重いといわざるを得ない。 以上のとおりであり,前記のとおり,被告人の刑事責任は重大というべきであるが,他方で,被害女性に対し,損害賠償金の一部として,被告人において,86万円を支払っており,被告人の父親においても,20万円を支払っていること,被告人の反省の態度や謝罪も相応に評価すべきものであることのほか,被告人の母親が,社会復帰後の被告人を同居させ,監督する旨述べていることなどの被告人のために酌むべき事情に加え,同時審判を受けた場合との刑の均衡の観点から,既に刑の執行も終了した原判示の確定裁判があること,本件と同種事案についての量刑傾向を考慮すると,被告人を懲役11年に処した原判決の量刑は重きに過ぎるというべきである。 論旨は理由がある。