児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

原審の裁判員裁判では被害者の供述を全面的に争って無罪を主張したが有罪となり控訴し,控訴審では一転して犯罪事実を全面的に認めた上,被害弁償をして示談が成立した事案について,控訴審が刑訴法397条2項により原判決を破棄し,原審の量刑を軽くした事例

 求刑6年
 原判決 3年
 控訴審 3年4月

「原審裁判所が損害賠償命令手続において認容した金250万円の慰謝料額を150万円上回る金400万円の賠償金を支払うことで示談し,被害者及びその母親は,被告人を宥恕し,処罰を求める意思がなくなった」とのことです。
 道弁連会報で紹介されていました。
 一審判決後に刑事損害賠償命令があると、お金を受け取るということで、弁償に向かいますよね。

       強姦致傷被告事件
大阪高等裁判所判決平成23年5月19日
【掲載誌】  判例タイムズ1363号208頁
       主   文
 原判決を破棄する。
 被告人を懲役3年4月に処する。

       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人巽昌章作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に各記載のとおりであるから,これらを引用するが,論旨は,本件は計画性のない出来心での犯罪であること,被害者の負傷は軽微であること,直接的なわいせつ行為はしていないこと,世話をしなければならない高齢の両親がおり,ことに父親の病状がよくないこと,原判決後,被告人は事実を認めて,被害者との間で400万円を賠償することで示談が成立し,被害者は被告人を宥恕し,処罰を求める意思がなくなった旨の上申書を作成していること等の事情を考慮すると,原判決の量刑は重すぎて不当である,というものである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
 本件は,ファッションモデルの紹介等を営む株式会社の代表取締役である被告人が,平成21年10月19日午後6時5分ころ,東大阪市所在の同社事務所兼当時の被告人方において,モデルの募集に応募してきた被害女性(当時17歳)に対し,無理やり姦淫しようと考え,「服を脱げ」,「静かにしとけよ」,「静かにしとかな切るぞ」などと脅しながら,カミソリを喉元に突き付け,左腕に2回切り付けるなどの暴行に及んだが,被害者がすきをみて逃走したため姦淫することができず,その際,前記暴行により,被害者に約1週間の安静加療を要する左前腕切創等の傷害を負わせた,という強姦致傷の事案である。
 被害者は,被害直後の前同日午後6時10分ころ,被害現場のあるマンションの7階から1階まで上半身半裸のまま駆け下りてマンション1階のビデオ店に駆け込んで店員に助けを求めたものであるが,被告人は,本件犯行を隠蔽するため,被害者が逃げた直後,自ら110番通報した上,「私の会社のモデルが事務所から突然いなくなった。心配なのですぐに来てほしい。」などと虚偽の事実を述べて,犯行直後から罪証隠滅を図っていた。被告人は,犯行当日に警察署に任意同行されて強制わいせつ致傷の被疑事実で逮捕された後も,平成21年10月28日までは一貫して被疑事実を否認していた。しかし,同日夜に弁護人と接見し,翌同月29日の取調べに際して,警察官に対し,被疑事実を認める旨の供述をし,同日の検察官の取調べに際しても被疑事実を認める旨の供述をして強姦目的で犯行に及んだ旨の検察官調書が作成され,その後,同年11月9日に起訴されるまで,捜査段階では一貫して犯行を認めていた。起訴された後,本件は,裁判員裁判であったことから公判前整理手続に付されて,主張及び証拠の整理が行なわれることとなったが,被告人は再度否認に転じ,平成21年12月8日から平成22年7月2日までの間に6回打合せ期日が開かれ,同年9月1日から同年11月24日までの間に4回整理期日が開かれて,主張及び証拠の整理がされ,第1回公判期日が同年11月29日に開かれて,被害者の証人尋問が,被害者の母親を付添人として,被告人及び傍聴人との間で遮蔽の措置を取った上で実施され,その後,同年11月30日及び同年12月1日の第2,3回公判期日で所要の証拠調べを経た上,同年12月3日に論告弁論等を経て結審し,同月6日の第5回公判で判決が言い渡された。被告人は,原審の公判では否認を貫き,被告人の前記検察官調書の任意性を争うとともに,被害者の供述の信用性をも争って,被害者の検察官調書を不同意にし,原審では,前記のとおり,被害者の証人尋問が実施された。そのような審理を経て,原審は,平成22年12月6日の第5回公判期日において,被告人に対し,被告人を懲役3年8月に処する旨の有罪判決を言い渡した。原判決は,その量刑の理由として,本件犯行が,モデルの募集に応募してきた当時17歳の被害者に対して,あわよくばセックスしたいとの欲望を抱き,事務所を訪れた被害者がトイレに行った際に,被害者の持ち物の中にカミソリがあるのを見つけて,これを使って無理矢理にでもセックスをしようと考えて犯行に及んだものであって,被害者の心情や苦痛,さらには今後の健全な成長に及ぼす悪影響を考えることなく,自己の性的欲望を満たすためだけに本件犯行に及んだものであって,身勝手極まりないこと,姦淫自体は未遂に終わったが,それは被害者が勇気を振り絞って逃げたからであって,犯行態様は危険で悪質であること,偶発的な面はあるが,モデル志望の未成年の少女と二人きりで事務所で会うこと自体が自らの立場をわきまえない不適切な行為であって,犯行を招きやすい事態を被告人自らが作り出しており,偶発的であることを格別被告人に有利に考えるべきでないこと,被害者が受けた苦痛や恐怖感は大きく,その後も不安な日々を送り,法廷での証言まで余儀なくされて苦痛をさらに強めていること,被害者は,モデルになりたいという夢を被告人に踏みにじられ,生活が一変し,人生を狂わされてしまったこと,被害者が正当な処罰を求め,被害者の母親が厳しい処罰を求めているのも当然であること,他方で,被告人は,不合理な弁解を繰り返し,罪を免れることばかりに懸命になっており,反省は認められないことなどを指摘した上,被告人には平成に入ってからの前科がないこと,姦淫は未遂であり,Tシャツを脱がせる以上のわいせつ行為をしておらず,怪我の程度も比較的軽いことなどの被告人に有利な諸事情をも考慮し,裁判員と裁判官との評議に基づいて,懲役6年という検察官の求刑よりも相当軽い懲役3年8月の実刑に処したものであって,その言渡し時点において,原判決の量刑が重すぎて不当であるとはいえない。
 他方,被告人は,原審の実刑判決を受けた後,当審においては,事実をすべて認めるに至り,被害者との間で,原審裁判所が損害賠償命令手続において認容した金250万円の慰謝料額を150万円上回る金400万円の賠償金を支払うことで示談し,被害者及びその母親は,被告人を宥恕し,処罰を求める意思がなくなったという旨の上申書にそれぞれ署名押印している。被害者が示談に応じ,上申書を作成したのは,被害者は被告人のことを許せない気持ちを持っているが,母親としては,いつまでも被害者に事件のことを引きずってほしくなく,被害者にも事件のことを忘れてほしいとの気持ちから,そのようにしたものであり,被害者も母親の気持ちを理解して了承したというのである。
 ところで,本件は,裁判員裁判であり,原審においては,国民から選ばれた裁判員の意見を反映して量刑判断がされており,その判断は,十分に尊重すベきものである。他方,刑事訴訟法393条2項は,「控訴裁判所は,必要があると認めるときは,職権で,第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる。」と規定し,これを受けて,同法397条2項は,「393条2項による取調の結果,原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは,判決で原判決を破棄することができる。」と規定している。
 そこで,本件において,被告人が当審に至って事実を認めた上,400万円の賠償金を支払う旨の示談が成立し,被害者側から被告人を宥恕し,処罰を求める意思がなくなったとする上申書が提出されていることをどのように考えるかが問題となる。
 被告人は,控訴審において,本件犯行を自認し,捜査段階で自白したその内容が本当のことであったと述べている。そうすると,被告人は,原審公判では否認を通しているが,原審においても,事実を認めた上で被害者に謝罪し,適正な賠償をして,できるだけの被害回復を図るという手段を取ることは可能であったのであり,被害者の心情を真に思いやる気持ちがあったのであれば,そのようにすべきであり,そうしておれば,原審の量刑判断も前記のものとは当然異なった判断に至ったであろうと思われる。しかし,被告人は,原審ではそのような手段を取らずに,処罰を免れんがために,被害者がありもしない虚偽の事実を述べており,その供述は信用できないとの態度を維持し,被害者の証人尋問まで求めて,遮蔽措置等が取られた上ではあるが,裁判官及び裁判員の面前で被害者に被害状況を詳細に供述させて更なる精神的苦痛を被らせ,いわば二次的被害まで負わせたものであり,平成22年10月時点において,被害者が受診した精神科でPTSDと診断されており,その精神的苦痛は今なお癒されていないものとみられる。被告人は,そのような経過を経て原審で有罪判決を言い渡された途端,いわば手の平を返したように事実を認めて,被害者と示談をし,刑を軽くするよう求めて控訴したものであって,訴訟手続を適正に進行させる面においても狡猾で卑劣な態度を取っていると評価できるものである。訴訟手続面では一審を充実させる必要があり,ことに一審が裁判員裁判である場合には,基本的にその時点でできる主張はすべきであり,提出できる証拠はすべて提出した上で,裁判官と裁判員との判断を受けるべきであり,当該主張を一審でできなかったことや証拠の提出ができなかったことについてやむを得ない事情がなければ,一審判決後においては原則として新たな主張や新たな証拠の提出ができないとしなければ,一審の充実は覚束ないこととなる。また,そのようにしなければ,訴訟戦術として,被告人に有利な証拠を一審判決後に提出して控訴審において一審のときより軽い刑を求めることを許すこととなるが,そうなっては,一審での審理が軽視され,その充実は一層害されることとなる。また,一審が裁判員裁判である場合には,裁判員が考慮の対象としていない証拠を,裁判員の参加のない控訴審が裁判官だけの判断で評価することとなり,そういうことになれば,それは裁判員の評価及び判断を経ていないこととなり,裁判員裁判の潜脱とも評価できる。一審充実という訴訟手続面からすれば,そのような事態は極力避けなければならない。
 本件において,被告人は,原審での主張を撤回し,控訴審において,事実を認めて反省の弁を述べ,損害賠償命令手続によって認容された金額を150万円上回る金400万円の賠償金を支払う旨の示談が成立しており,被害者及びその母親からは前記のとおりの上申書が提出されている。しかし,事実を認めて被害者に謝罪し,その被害回復を図ることは,一審においても,被告人がやろうとさえ思えばいつでもできた事柄である。それを,被告人はしなかったのであり,その結果,そのような事情を考慮に入れての裁判員裁判での量刑判断を潜脱する結果になっており,量刑判断面での一審の充実という点がないがしろにされている。現に示談が成立し,相応の金額の賠償金が被害者に支払われることとなっている点は被告人に有利に斟酌すべき事情であるといえるけれども,それは被告人がやろうとさえ思えば原審の段階でできた事柄である上,被害者に与えた精神的苦痛を慰謝するのは当然すべきことであるともいえ,損害賠償命令手続によって認容された金額を150万円上回る金額を支払うとの点も,被告人が事実を争った結果,被害者は証人として呼び出されてつらい記憶を思い出して尋問に晒されなければならなかったのであり,その上積み分はいわばそのような二次的被害の賠償とみてよいとも考えられ,示談が成立したこと等を被告人に過大に有利に評価するのは相当でないと言い得る。そうすると,本件控訴を棄却することも十分に考えられるところである。
 しかし,一方で,被告人は,当審でも事実を認めずに争うこともでき,損害賠償の点も原審裁判所が認容した金額の支払に留めるという選択もできたが,遅ればせながらとはいえ,ようやく被害者のつらい気持ちに思い至り,また,原判決における厳しい量刑に思いをいたして,少しでも刑を軽くしたいとの自己保身の思いはあろうが,事実を認め,前記金額の賠償金を支払うことを決意し,その旨の示談を成立させたのであり,このことによって幾分かでも被害者の気持ちは癒されたのではないかと推測できる。被告人が本件で取った訴訟手続面での思慮のなさやあわよくば処罰を免れたいとの思いは被害者の心情を思えば取るべき態度でなかったことは言うまでもないが,被告人があわよくば処罰を免れたいと思う気持ちを自己保身の面から優先させた心情は,よくないことではあるが理解できないわけではない。そうすると,被告人は,原審における態度と同様に当審でも争うことはできたが,そうはしないで,事実を認めて前記の示談を遂げ,被害者及びその母親も前記の上申書を提出していることをまったく考慮しないというのも被告人にとって酷な面があるといえる。また,控訴審において,原審と同じ態度をとらせるよりは,原審での誤った否認の態度を改めて真に反省し,事実を認めて被害者に対する慰謝の措置を講じさせることの方がよりよいことであり,そのためには,変節ではあるというものの,控訴審でとったよりよい措置を一定程度評価することが必要である。そして,刑事訴訟法397条2項の「破棄しなければ明らかに正義に反する」とは,原判決後に生じた情状と量刑不当の明白な関連性を要求する趣旨と解されるところ,被告人が事実を認めて,それなりに被害者の心情に思い至り,遅ればせながら反省の態度を示し,原審裁判所が認容した損害賠償額を150万円上回る賠償金を支払う旨の示談を成立させ,被害者も被告人を宥恕し,処罰を求める意思がなくなった旨の上申書を提出していることは,同条項を適用する要件として欠けるものではないというべきである。また,原審の裁判員の意向としても,原審の段階で,被告人が否認しているとはいえ,このような事情が現れていたとすれば,その量刑は,原審が定めた前記量刑よりは軽減されていたであろうと考えられ,裁判員の参加のない控訴審において,原判決後の前記情状を考慮して多少刑を軽くしても,必ずしも原審裁判員裁判における量刑判断をないがしろにするものとはいえないと考えられる。
 以上のような諸事情を総合勘案すると,裁判員裁判での一審の審理を充実させ,当事者に一審での攻撃防御を適正な手続のもとで真剣に尽くさせるためには,控訴審としては事後審としての立場をできるだけ堅持するのが相当であると思われるものの,控訴審には一審判決後の事情による当事者の救済を職権で図ることができるという面もあり,これを強調し過ぎると一審軽視の風潮が生ずると考えられ,その兼ね合いは慎重に検討する必要はある。しかし,本件では,原判決後に被告人が事実を認めて反省の態度を示し,被害者との間で示談が成立し,被害者側から前記内容の上申書が提出されていること等の事情を原判決が被告人に有利な事情として指摘している前記の諸点と併せ考慮すれば,裁判員裁判における一審重視の要請から実刑の量刑は維持すべきであると考えられるけれども,その刑期の点においては,原判決の量刑をそのまま維持するのは被告人にいささか酷であるというベきである。
 よって,刑事訴訟法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書によりさらに判決することとし,原判決の認定した事実にその掲げる各法条(訴訟費用を被告人に負担させない点については当審分も含む。)を適用して,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官・上垣 猛,裁判官・佐野哲生,裁判官・三浦隆昭)

 判タの解説

4 まとめ
 本判決は,このような事案の場合は控訴を棄却することも考えられるとしており,一審の訴訟手続面での充実を重くみればそのような見解もあり得るところである。被告人が事実を認めて反省の態度を示して審理に臨んでいる場合と,事実を争って被害者の供述が嘘であると主張し被害者を証人尋問するなどしている場合とで,審理の在り方や量刑に違いが出て来ると思われるが,裁判員裁判において,この違いはどのようになるのか,被告人は捜査段階及び控訴審で犯行を認め,一審段階では嘘をついていたと自認しているが,ある意味,裁判員の参加した裁判に有罪無罪の判断をかけていたところがある。その結果,有罪になった途端に事実を認めて示談の努力もし,控訴審において判決後に生じた有利な情状として考慮を求めることは原審でもなし得たことをせずに,控訴審で自己に有利な判断を求めているということもできる。それをどう評価するかが議論になった一事例である。本件のような場合にどのような見解を取るのが相当であるかは議論の余地があるところであり,今後も同様の事例が出る可能性も高いと思われるので,実務上参考になると思い紹介する次第である。本件につき最高裁に上告されているが,基本的には量刑の問題であり,上告審の判断が簡単な棄却判断になるかどうかも注目される(なお,本件の上告審の第一小法廷決定は平成23年9月12日〔平23(あ)1115号〕にあり,「弁護人の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。」として格別の理由を付すことなく上告を棄却した。)。