これは誰も反対しないだろう
青少年愛護条例(以下、「本条例」という。)21条1項の「何人も、青少年に対し、わいせつな行為をしてはならない。」という規定は、13歳以上、特に婚姻適齢以上の青少年とその自由意思に基づいて行うわいせつ行為についても、それが結婚を前提とする真摯な合意に基づくものであるような場合を含め、すべて一律に規制しようとするものであるから、処罰の範囲が不当に広汎に過ぎるものというべきであり、また、本条例21条1項にいう「わいせつな行為」の範囲が不明確であるから、広く青少年に対するわいせつ行為一般を検挙、処罰するに至らせる危険を有するものというべきであつて、憲法31条の規定に違反する。
しかるに、原判決は漫然とこのような憲法違反の条例を適用して有罪とした点で、法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。
この点に関しては、最判S60.10.23は限定解釈をして、違憲判断を回避すると思われる。
すなわち、条例は(みだらな性行為等の禁止)
第21条
何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。としており、「みだらな性行為」については、判例(最判S60.10.23*3)により「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔しまたは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交または性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交または性交類似行為をいうものと解すべきである。」と合憲限定解釈がなされているのであるから、「わいせつな行為」についても同様の限定解釈が必要であるので、その限定解釈を引き出すための控訴理由である。
本条例21条1項にいう「わいせつな行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔しまたは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う「わいせつ行為」のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような「わいせつ行為」のことであり、さらに「性交及び性交類似行為以外の性的行為」をいい、そのような限定解釈をしなかった原判決は憲法31条に違反する。
これが、条例21条1項にいう「わいせつな行為」の解釈についての弁護人の主張である。
文献
高橋省吾調査官 最高裁判例解説S60 P201
本判決の影響等について
本判決は、まず、青少年の性という極めて今日的な問題に最高裁が真正面から取り組んだものとして注目されよう。次に、本判決は、近年青少年保護育成条例違反の検挙件数が増加しているといわれる状況の下において、淫行処罰規定の合憲性を肯認するとともに、「淫行」概念の具体化、明確化を図ったものであって、他に影響するところが大きいであろう。以下、本判決の影響として考えられる点につき記してみたい。
(ー)本判決の多数意見に示された「淫行」についての限定解釈、
及び個別意見に指摘された淫行処罰規定による地域的な処罰の不均衡・不統一の存在は、右規定の慎重な運用や規定自体の整備等を今後の検討すべき課題として提供したといえるであろう。
(二)本条例と同様、淫行処罰規定は「淫行」又は「みだらな性行為」のほか、「わいせつの行為」を禁止しているが、「わいせつの行為」についても、本判決の多数意見の示した限定解釈が及ぶということになると思われる。