児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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師弟関係の強制わいせつ罪の量刑理由(立川支部H21.4.21)

 立場利用、常習性、犯行後の経緯

判例秘書
【量刑の理由】 
本件は,吹奏楽部の名門として知られた高校で音楽講師をする傍らプロの音楽家としても活動していた被告人が,音大受験を目指していた同校の女子生徒(被害者)に対し,自宅で個人指導をする機会をとらえて,被告人を怒らせると個人指導が受けられなくなり音大に行けなくなるとの思いから被告人の理不尽な指示・要求に逆らえないでいた被害者の弱みにつけ込み,演奏指導にかこつけて,被害者に服を脱ぐように命じ,乳房や陰部をもてあそんだり,自己の勃起した陰茎を握らせるなどのわいせつな行為に及んだ,という強制わいせつの事案であるが,自己の性的欲求を満たすために被害者の人格を無視した卑劣な犯行であり,音楽講師の立場を悪用した点において極めて強い非難に値する。
被告人の供述するところによっても,被害者の供述によっても,本件は,一過性の犯行ではなく,常習的に行われていた犯行の一部であることが明らかであって,この種事犯に対する常習性が否定できないばかりか,一連の犯行を通覧すると被害者の羞恥心を殊更にあおっていたぶる行為も見受けられ,嗜虐的な性癖が認められる。
それまで一度も男性と付き合ったことがなかったのに,密室の中で耐え難い辱めを受けた被害者の被った精神的衝撃は甚大であって,被害者の将来に及ぼす悪影響は計り知れないものがある。
その上,被告人は,本件犯行後,被害者に送ったメールの中で,悪戯目的でやったものではない以上謝罪するつもりはない,芸術のプロに必要なメンタルを鍛えるためにあえて苦行を強いたものである,事前にしつこいくらい説明して理解と合意を得たつもりだった,なぜ裸になるかは羞恥に慣れ,自分を隠さなくなるようにするためである,何故身体に触れるかは音楽表現のほとんどは,SEXの感覚の移し替えなので,身体を触られる感覚,それもSEXに関係した場所を触られる感覚を知ると,自分が表現する側にまわった時,人と人との間に存在する間や緊張感,相手を壊さずに刺激を与える際の手加減の度合い等を上手くコントロール出来るようになるからです,と強弁するなど,被害者の感情を逆撫でする極めて不誠実な態度をとった。
被害者やその両親が被告人の厳罰を強く望んでいるのも,極めて当然のことである。
以上の諸点に照らすと,被告人の刑事責任は重いとみるほかなく,?被告人が罪を認め,被害者に宛てた自筆の謝罪文を作成し,金300万円を用意して示談の申し入れをするなど,被告人なりに反省の態度をみせていること,?被告人の両親が今後の更生を支えていく旨述べていること,?被告人が,本件が発覚したのを契機に,(自業自得ではあるものの)妻から離婚されることになり,音楽家として長年にわたって築き上げてきたキャリアを全て失うなど,一定の社会的制裁を受けていること,?被告人に前科前歴がないことなどの,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,主文の刑が相当である。
 なお,弁護人は,被害者の服を脱がせるなどしたことについて,演奏を失敗したことに対するペナルティとして行う旨の説明と了解をとった上で行ったことであるから,被害者の一応の同意のもとに行われていたと評価できるなどと主張している。
しかし,被害者は,前記したとおりの理由により被告人の理不尽な指示に逆らえないでいたにすぎないのであるから,弁護人の主張は失当というほかない。
また,弁護人の指摘する,被告人の指導方法が嫌ならば他の指導者の指導を受けることができたし,被告人もその機会を与えていたといった事情も,本件においては,被告人の刑事責任をいささかたりとも軽減する要素にはならないものと思料する。
(検察官の求刑 懲役4年)  
平成21年4月21日    
東京地方裁判所立川支部刑事第1部2係
裁判官  柴田 誠