児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

教員・保育士・シッターによるわいせつ事案の量刑理由

 判例DBから令和の事件の量刑理由が抽出しました。

 教員・保育士・シッターによるわいせつ事案の量刑理由をみても、前科の指摘はありません。

  日本版DBSでは初犯のわいせつ事件に対応できないことを示そうと思ったんですが、件数が多すぎて集計できません。

 

 

横浜地裁   H28.7.20 懲役26年     ベビーシッター (量刑の事情)
 量刑上最も重い犯罪である殺人罪についてみると,その犯行態様は,体重が100kgを超える被告人が,2歳児であるIの鼻口部を少なくとも3分から5分間にわたって手で塞ぎ続けるなどというものであって,両者の体格差は歴然としており,現場が逃げ場のない密室内であったことにも照らして,抵抗は不可能に近く,凶器を使用していなくても,生命に対する危険性の高いものであったといえる。しかも,かなり強い力で数分間にわたって塞ぎ続けるという態様から,突発的に生じた犯行であるとはいえ,強固な殺意に基づくものと認められる。以上によれば,本件犯行態様は同種事案と比較してやや悪質といえる。そして,Iが僅か2歳の幼さで将来を奪われたことは誠に痛ましいというほかなく,結果が極めて重大であることはいうまでもない。Iらの母親は,自身も被告人にだまされてIらを誘拐され,その末に大切な子の死に接することとなったのであり,その悲しみは察するに余りあり,この点も被害結果として考慮すべき事情といえる。
 本件殺人の動機は不明であるものの,その経緯についてみると,被告人は,わいせつな行為をするためにIらを誘拐し,自らの意思でIらを自己の支配下に置いた上,その目的どおりにIに対してわいせつな行為に及んだのみならず,最終的にはIを殺害するに至ったのであり,正に犯罪の上に犯罪を重ねたのであって,非常に強い非難に値する。
 次に,わいせつ誘拐の態様は,まず代役を確保してから実行に着手するなど計画的である上,別人を装ってIらの母親に接触し,預ける相手が被告人ではないように偽装するなど非常に巧妙である。また,Iに対する強制わいせつの態様も,痛々しいもので悪質である。そればかりか,被告人は,Iと一緒に誘拐したHに対する保護責任者遺棄致傷の罪をも重ねており,自分で空腹を満たすことができない生後9か月の乳児が泣いているにもかかわらず,約12時間という長時間放置しておくことは危険というほかない。実際にHの生命に重大な危険を及ぼすおそれのある低血糖症等に陥らせているのであって,救急搬送されたHがその日のうちに回復したことを考慮しても,結果を軽視することはできず,強く非難されるべきである。
 また,一連の強制わいせつ致傷,強制わいせつ,児童ポルノ製造事件は,ベビーシッターの立場を悪用し,親の信頼を裏切った上,抵抗できない多数の乳幼児らに対し,常習的に行っていたという点で非常に悪質というほかない。その態様は,ひもやガムテープを用いてわいせつな行為を行うなど陰湿であり,それにより被害児童が受けた苦痛はもとより,今後心身の成長に与える影響も懸念されるのであって,犯情として相当悪いというべきである。
 以上によれば,本件は殺人罪1件を中心とする事案の中で非常に重い部類に属するというべきであるが,殺人には計画性がなく,殺人を想定して誘拐したものでもないことなどからすると,最も重い部類に属するとまではいえない。
 その他の事情についても検討すると,被告人は,不合理な弁解をして真摯に事実と向き合っておらず,反省の情は乏しいといえる。加えて,L医師は,被告人が小児性愛障害を有すると指摘し,その治療は被告人がこれを否定している状況下ではより困難が予想される旨述べていることなどからすれば,小児に対する性犯罪に限っては再犯のおそれを否定できない。
 他方,被告人の父親の支援を受けて,強制わいせつ致傷等の被害者F,強制わいせつ等の被害者B及びA,E並びにGに対して被害弁償が一部なされていることは,被告人の有利に考慮すべき事情ではあるが,考慮する程度には限度がある。また,被告人が今後子供に関わる仕事はしない旨供述していることや,被告人の両親がそれぞれ被告人の更生に協力する旨述べていることは被告人の改善更生を期待させる事情として,僅かではあるが有利に考慮した。
 以上の事情を総合考慮すれば,検察官の無期懲役の求刑は重すぎるといわざるを得ないのであり,主文掲記の量刑をしたものである。
 (求刑―無期懲役及びスマートフォン等の没収)
 (裁判長裁判官 片山隆夫 裁判官 大森直子 裁判官 西沢諒)
東京地裁   R4.8.30 20年     ベビーシッター (量刑の理由)
 本件は、保育士の資格を有し、児童養護施設職員やシッター、児童キャンプのボランティアスタッフという立場にあった被告人が、その立場を利用して、各犯行当時5歳から11歳の被害者20名に対し、被害者の陰茎を被告人の口に入れたり、被告人の陰茎を被害者の口に入れたりして口腔性交し、性具を用いて又は就寝中で抵抗できない被害者に対してその陰茎を弄ぶなどした強制性交等22件及び強制わいせつ14件、並びにその様子をスマートフォンで動画撮影して電磁的記録媒体に保存した児童ポルノ製造20件からなる事案である。
 一連の上記犯行は、いずれも、被害者らを指導し、信頼される立場を利用し、被害者らの性的知識の未熟さに付け込んだ悪質なものであり、約4年4か月にわたり同種犯行を繰り返していて、常習性も顕著に認められる。一部の被害者は、本件被害の意味を認識し、多大な肉体的及び精神的苦痛を現に味わっているところ、幼少で被害の意味を十分に理解していない者を含め、今後の被害者らの健全な成育への悪影響も強く懸念される。しかるに、被害者らに対する慰謝の措置はとられておらず、保護者らが厳罰を望むのも当然である。
 以上によれば、本件は、同種事案の中でも、被害者の人数及び犯行の件数が際立って多い上、犯行態様も悪質であって、特に犯情の重い事案である。同種事案の量刑傾向を踏まえると、被告人が、反省、謝罪の弁を述べていること、性依存症の治療に取り組み、再犯防止に努める旨誓約していること、姉や元雇用主が被告人を支援する意向を示していること、被告人には前科がないことなどの酌むべき事情を十分考慮しても、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑 懲役25年、主文同旨の没収)

刑事第1部

 (裁判長裁判官 古玉正紀 裁判官 水越壮夫 裁判官 竹内瑞希
東京地裁   R2.10.30 3年   執行猶予 ベビーシッター (量刑の理由)
 被告人は、派遣されたシッターとして、被害児童と緊密な関係にあることを奇貨として、いまだ幼い被害児童に対して、身体の中で最もプライベートな部分である陰部を直接触るというわいせつな行為に及んだものである。犯行態様は、卑劣かつ巧妙で、被害児童の保護者の信頼を裏切り、シッター業全般の信頼性をも揺るがしかねない悪質なものである。被害児童は、現時点において既に被告人に対する嫌悪感を明らかにしており、今後成長するに伴って更なる悪影響がないか懸念されるところであり、被害結果は重大である。被害児童の父母は、その意見陳述において、本件被害による家族への影響を述べるとともに、被害児童に対する心配の気持ちを切実に述べており、示談成立後も被告人に対する適正な処罰を望んでいることも当然である。シッター業務を始めて、児童と1対1の関係になったことなどから、女児に対し性的な興味を抱くようになり、本件各犯行に及んだという動機や経緯に酌むべき点はない。
 そうすると、計画性までは認められないとしても、被告人の刑事責任は相当に重い。
 他方、示談金250万円を支払った上、被害児童の両親との間で、被告人の厳罰は望まない旨の文言を含む示談が成立していること、被告人の母が情状証人として出廷し、今後親として最大限の協力をしていく旨述べていること、被告人が各事実を認めて、反省文を書き、子供に関わる仕事はしない旨述べ、保釈中に性障害について専門医療機関のアセスメントを受け、今後は、専門医療機関で治療を受けることを約束するなどして、反省する態度や更生の意欲を具体的に示していること、被告人には前科前歴はないことなど被告人のために酌むべき事情も認められる。
 以上の事情を総合考慮して、被告人に対しては、主文掲記の刑を科した上、今回は、社会内での更生を図ることとするが、本件事案の性質・内容及び被告人の更生環境等に鑑みて、被告人の更生及び再犯防止の観点から、保護観察を付して刑の執行を猶予することが相当であると判断した。
(求刑 懲役3年)
静岡地裁 沼津 R5.2.3 5年 6月   保育士 (量刑の理由)
1 本件は、保育士である被告人が、勤務先保育園の2歳から5歳の女子園児18名に対して、約1か月の間に、着衣を脱がせて陰部や臀部等を露出させ、うち8名についてはそれらを直接指で触った上、その様子を動画撮影して児童ポルノを製造したという事案である。
2 被告人は、被害児童らが通う保育園の保育士という本来被害児童らを保護するべき立場にあったにもかかわらず、その立場を悪用し、安全であるべき保育園内において、被告人の行為の意味を理解できず、抵抗や逃れる術のない幼い被害児童らに対して、自己の性的欲求の赴くままわいせつ行為と児童ポルノ製造を繰り返したものであって、卑劣極まりない犯行であり、常習性も顕著である。わいせつ行為の程度についても、被害児童らの陰部等を露出させて撮影した上、それらに直接触れるという行為も多数含まれることからすれば、軽いとは評価できない。そうすると、暴行脅迫を用いていないことを踏まえても、本件の犯行態様の悪質性は非常に高いというべきである。
3 被害結果をみるに、被害児童らの年齢に鑑みれば、現時点では被害の意味を正しく理解できていないと考えられるが、将来の被害児童らの健全な成長に悪影響を与える可能性が懸念されることからすれば、被害結果は大きいというべきである(この点につき、被害児童らが低年齢であることをもって、精神的苦痛が小さく、ひいては被害結果が小さい旨をいう弁護人の主張は採用できない。)。そして、本件では、そのような被害を被った被害児童の数は18名と、この種事案としても著しく多数に上っているのであるから、本件の重大性は明らかである。被害児童らの保護者らが一様に被告人の厳罰を望むのも至極当然である。
  なお、弁護人は、被告人が撮影した被害児童らの画像が外部に流出していない点を有利な事情として主張するが、上記のような被害結果の重大性を大きく減じるような事情とは認められない。
4 幼児を自己の性的欲求のはけ口としたという本件の犯行動機は、身勝手というほかないのであって酌量の余地はなく、被告人の意思決定は厳しく非難されるべきである。
  なお、弁護人は、被告人が小児性愛という生来的な性質を有すること、被告人の勤務先が保育園という性的対象となる女児が多く性的誘惑の多い環境であったことから、被告人に対する非難可能性は小さい旨主張する。しかしながら、被告人が自認するところによっても、被告人は自身の性的嗜好を相応に認識した上で、あわよくば園児によってその性的嗜好を満たそうという意図を内心に秘めて、保育士の資格を取得したというのであり、実際にも令和4年6月6日に本件保育園で勤務を開始した翌日には早くも本件犯行に着手している。また、犯行の態様も、他の職員がいない機会を捉え、防犯カメラの位置を把握し、その視界外を犯行場所に選ぶなどして巧妙に犯行を繰り返し、犯行終盤には、犯行に及んだ女児と犯行未了の女児を名簿で管理した上で、犯行未了の女児を狙っている。このような経緯及び犯行態様によれば、背景に被告人の小児性愛という問題があったことを踏まえても、被告人は、本件において、自身の性的嗜好の充足という目的に向けて、一貫して合理的、合目的的に自身の行動をコントロールしていたと認められる。また、職場環境の問題をいう点も、上記経緯に照らせば、被告人は、自身の性的嗜好を満たすべく意図的に女児と接することのできる職業、職場を選び、進んで身を置いたことは明らかである。そうすると、弁護人の主張を踏まえても、被告人に対する非難を有意に減少させるような事情があるとは認められない。
5 以上によれば、本件の犯情は非常に悪質であり、被告人の刑事責任は誠に重いというべきである。そうすると、被告人が事実関係を認めた上で反省の言葉を述べ、保釈後に小児性愛について通院を開始し、相応に濃密な治療プログラムを受けるなど被告人なりの再犯防止の努力を始めていること、情状証人として出廷した被告人の父親が監督を誓約していること、被告人に前科はないことその他弁護人が指摘する被告人に有利な一般情状を考慮しても、刑の執行を猶予するのが相当でないことはもとより、刑期の点でも相当長期間の服役は免れないと判断した。
(求刑・懲役6年)

刑事部

 (裁判官 室橋秀紀)
松江地裁   R5.3.22 4年     保育士 (量刑の理由)
 本件は、当時、幼稚園教諭であった被告人が、その園児や卒園児である女児6名に対し、延べ12回にわたって、下着の上から陰部を撫でるなどした強制わいせつ12件、及びこの6名を含む11名の女児に対し、常習としてその着用する下着等を36回にわたり撮影した島根県迷惑行為防止条例違反の事案である。
 本件により、被害児やその保護者に多大な嫌悪感、不安感を与えたもので、被害児の保護者らの処罰感情にも厳しいものがある。被害児の多くは、現時点では自分のされたことの意味を理解していないかもしれないが、今後の成長につれ、その意味を真に理解する時期が来ると、今以上に辛い思いをさせ、その健全な成長に悪影響を及ぼすことすら懸念される。
 また、こういった犯行を繰り返したことで、本件幼稚園だけではなく幼稚園全体に対する信頼をも失墜させかねない面があることも見過ごせない。
 もとより、自己の性的欲求を満たすという犯行動機等に酌量の余地など微塵も認められない。
 被告人は、自身が幼い女児を性的な対象としてみている自覚がありながらあえて幼稚園教諭となり、本件幼稚園に就職してからは園児らが自身を慕い、信頼していることに乗じ、教諭の立場を悪用して本件幼稚園内や通園バス内等において本件のような犯行を重ねていたというのであるから、その犯行は卑劣かつ大胆で悪質というほかなく、被告人自身の性癖に根差すこの種の犯行の常習性も顕著であるといわなければならない。
 総じて、本件犯情は悪質というほかない。
 そうすると、強制わいせつの態様がいずれも下着の上から陰部やその付近を触るといったものであること、一部の被害児の保護者に対し、相応の弁償金を払い、受け取ってもらっていること、これまでに前科もなく、事実関係をすべて認めて謝罪の弁を述べ、今後は加害者向けの心理治療プログラムを受け続ける意向を示し、反省の態度を示していること等の事情を考慮しても、本件については主文の実刑が相当である。
(求刑-懲役6年)
大分地裁   R5.2.20 3年 6月   保育教諭 (量刑の理由)
 被告人は、保育教諭として勤務する傍ら、同僚の目を盗み、性欲の赴くまま、就寝中で無抵抗の園児の陰部を露出させた上で陰部を手指で弄んだり(判示第1)、撮影したり(判示第2)するなどのわいせつ行為に及び、また、園児が行為の性的意味を理解していないことに乗じてその下着姿を撮影したもので(判示第3)、卑劣で身勝手な犯行というほかないし、性的好奇心を満たすため児童ポルノの製造(判示第2)や所持(判示第4)に及んでもおり、児童を性的に搾取することに対する抵抗感がみじんも感じられない。
 わいせつ行為を受けた園児ら(判示第1、第2)は就寝中で被害に遭ったことを認識していないとしても、将来何かの機会に被害を認識した際に受けるであろう衝撃の大きさは、被告人に懐いていたことも相まって計り知れない(下着を撮影された園児〔判示第3〕については就寝中でもない。)。被告人のことを信頼して大切な子供を預けていた保護者らが、裏切られたというやり場のない怒り、悲しみ、苦しみを抱き峻烈な処罰感情を有するのも当然である。
 そして、本件各犯行は、平成31年から令和4年にわたり、保育教諭の職責を果たすどころかその立場を悪用してなされたもので、常習性も明らかであって、保育の制度や現場に対する安心感を強く損なうものとして、厳しい非難に値するというべきである。
 弁護人が指摘するように、本件よりも程度や態様が悪質と評価されるわいせつ行為が存在することや、本件の児童ポルノに関連するデータ等が拡散されたわけではないことは否定されないし、被告人も園児の性器内への侵襲行為は行わないなど被告人なりの線引きをしていたようではあるが、既に一線を大きく超えた上での相対評価の話であって、上記非難の程度が減じられるものでもない。
 そうすると、被告人の刑事責任は重く、被告人に前科前歴がないこと、情状証人として父親が出廷し被告人の今後の更生支援を行う旨誓約していること、被告人が事実を認め、謝罪文の作成も含め反省や後悔の態度を示していることなど有利に斟酌し得る事情を踏まえても、主文の実刑は免れない。
(求刑 懲役4年6月)
岡山地裁 倉敷 R3.1.22 1年 6月 執行猶予 学童保育施設支援員 (量刑の理由)
 本件わいせつ行為は、抵抗困難な状況の被害者に対し、相応の時間にわたって、被告人の着衣の上からその陰茎部分に触れ続けさせたものであり、その態様はかなりよくない。被害者は本件犯行により相応の精神的衝撃を受けたと見られる上、それにより将来への悪影響が懸念されることも看過できない。被告人は、判示施設の支援員としての職務に当たり、女子児童への距離が近すぎるなどとの指導を受けてきたというのに、同施設利用者に対する本件犯行に至ったもので、被告人のこの種の行動に対する規範意識の在り様には疑問がある。
 本件の犯情はよくなく、被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。
 しかし、被告人は、弁護人を介して、被害者側との示談を成立させ、被害者の保護者は、被告人への厳しい処罰は望まない旨の意思を示した。そして、被告人は、その認識の範囲内においては事実関係を認め、謝罪と反省の言葉を口にした上、今後は児童への福祉や教育の現場から離れて稼働するとの意思を示し、被告人の父は、当公判廷に出廷し、同人の認識に基づいて被告人を監督していく旨誓約した。加えて、被告人に前科はない。
 以上によれば、被告人に科すべき懲役刑については、その執行を猶予する情状があるものと判断した。
横浜地裁   R3.9.6 10年     保育士 (量刑の理由)
1 犯情について
(1) まず、本件の量刑判断の中核となる判示第1~第5の各強制わいせつについて検討する。
  被告人は、保育士として、平成26年1月から平成27年3月までの間はW保育園に、平成30年から令和元年11月までの間はY保育園に勤務していたものであるが、判示各強制わいせつは、被告人が、平成26年8月から平成31年4月までの間に、W保育園の園児である被害者A(当時4歳又は5歳)に対し6件、卒園後の被害者A(当時6歳)に対し2件、Y保育園の園児である被害者B(当時3歳)に対し2件、同保育園の園児である被害者C(当時3歳)に対し1件と、約4年8か月の間に合計11件もの強制わいせつに及んだものである。
  幼い園児等を狙って多数回繰り返された常習的な犯行である上、犯行態様も、現行刑法では口腔性交に該当する口淫や被害者の陰部に自己の陰茎を押し当てるなど性交と紙一重のものなど、強制わいせつの行為態様の中でほぼ上限と見得る強度のわいせつ行為が含まれてもいることから、悪質性は甚だしいというほかない。ことに、被告人は、一部の犯罪事実を除いて、前記のとおり保育園の保育士という立場にあり、園児を保護すべき職責を担っていたにも関わらず、従前から密接な関係にある園児等が被告人を信頼していることに乗じ、当時勤務していた保育園内という園児の安全が保障されるはずの場所において、抵抗力の乏しい幼児に対し強制わいせつに及ぶなど卑劣さは際立っており、加えて、わいせつ行為の際に犯行状況を撮影してもいるから悪質性は一層顕著であって、厳しい非難を免れない。
  年少の被害者らが本件各強制わいせつによって受けた精神的肉体的被害も重大であって、今後、犯行の意味を理解した際に受けるであろう精神的苦痛にも深刻なものがあると思われる。このことからも犯行結果の重大さが裏付けられている。
  被告人は、被害者らに恋慕の情を抱いて将来の結婚相手と考え、早くから性行為に慣れさせるためわいせつ行為に及んだ旨を供述する。その内容自体甚だ不自然不合理なものというほかないが、この供述を前提にしても、犯行動機は、結局は身勝手なわいせつ目的によるものであって、当然ながら酌量の余地などない。
  以上によれば、判示各強制わいせつにかかる犯情は甚だしく悪いというほかなく、被害者の保護者らが被告人に対する厳罰を求めるのも至極当然である。
(2) さらに、判示第6(未成年者略取)については、オンラインゲームで知り合った当時9歳の被害者をその手足をガムテープで巻いて段ボール箱に押し込むなどして自動車で連れ去り約2日間にわたって支配下に置き、被害者及びその両親に多大な精神的苦痛を与えたものであるから、計画性はなく、被告人は最終的には被害者を帰宅させようと考えていた等の弁護人の指摘を踏まえて検討しても、犯情は決して良くないのであって、両親の処罰感情が厳しいのも十分理解できる。
  また、判示第7(児童ポルノである電磁的記録媒体を内蔵したパソコン所持)についても、被害者Aに対する強制わいせつ事件の際に撮影した動画データを自慰の際に視聴するため所持していたものであるから、やはり犯情は悪い。
(3) そして、関係証拠によれば、以上の各犯行、特に判示各強制わいせつ及び判示第7については、被告人の幼児に対する異様な執着、特異な性的嗜好を背景とする根深い犯罪傾向に基づいて敢行されたものであることがうかがわれ、この点からも犯情の悪さが一層裏付けられている(なお、検察官が園児らに対する多数のわいせつ行為や願望が記載されたと主張する「系譜」と題する書面(甲95)について検討すると、関連性や証拠収集の適法性等の点を含めて証拠能力に問題はないから、証拠排除を求める弁護人の主張は理由がないが、他方で、検察官の論告における各指摘を十分に踏まえて検討しても、被告人が供述するように妄想や創作的要素を相当程度混在させて作成されたとの疑いは排斥しきれず、結局、上記「系譜」から検察官が指摘する被告人の性的嗜好や性癖、性的願望等を直ちに推認できるとまではいい難い。)。
  なお、被告人は、園児らに対する判示各強制わいせつにとどまらず、これとは異なる態様の女児に対する犯罪(判示第6)に及ぶに至るなど犯罪傾向の拡大も懸念される。
(4) 以上によれば、被告人の刑事責任は誠に重大といわなければならない。
2 一般情状について
  被告人は、当初、年少者に対するわいせつ行為を処罰することへの疑問、強制わいせつ行為に及んだ理由に関する独自の見解等を述べており、自らが犯した判示各犯行に真に向き合っているのか疑問もないではないが、相当長期間にわたり身柄を拘束されて反省の機会を与えられ、公判期日においては、判示の各事実自体については認めて被告人なりの反省の言葉を述べた上、今後、専門のクリニックに継続的に通院し小児性愛に関する治療を受け、二度と今回のような犯罪に及ばない旨を述べてもいるから、その限度では斟酌すべき事情があると見ることが可能である。
  また、被告人は、判示強制わいせつの被害者2名(A、B)に対して合計300万円の(弁15、16)、判示未成年者略取の被害者Dに対して300万円の各被害弁償をしており(弁14)、各犯行の罪質に照らして考慮できる程度は限られているとはいえ、量刑上無視できない額の被害弁償がされたことは間違いないのであって、それ以外の被害者Cにも被害弁償の申入れをするなど被害弁償に努めている点を含めて、被告人のために一定程度斟酌すべき事情があるといえる。
  以上に加えて、被告人には本件の量刑上考慮すべき前科がないこと、被告人の実母が情状証人として出廷し、母親としての責任を痛感し今後の指導監督を行う旨述べていることなど、被告人のために考慮し得る一般情状も認められる。
3 結論
  以上の一般情状は認められるとはいえ、既に指摘したとおり、本件の刑事責任が誠に重大であることに照らせば、被告人については主文の懲役刑は免れないと判断した。
(求刑・懲役15年、主文同旨の没収)

第2刑事部

 (裁判官 青沼潔)

(別紙1) (省略)

(別紙2)
津地裁   R4.11.4 3年     教諭 (量刑の理由)
 本件は、小学校低学年の児童2名に対して、それぞれパンツの中に手を入れ、手指で陰部を弄んだという強制わいせつ事件であり、そのうちの1件は被告人が被害児童の担任であった当時の犯行である。陰部を直接手指で弄ぶという態様は悪質で、被害児童らの性的な知識が未熟であることにつけ込む卑劣な犯行であり、その手口等からして常習性がうかがわれる。被害児童らは、本来、信頼してよいはずの学校の先生に性的自由を大きく侵害されており、その精神的苦痛の大きさは計り知れない。実際に、Aは、事件のことを思い出すこと等から転校を余儀なくされ、Cは、被害の意味が徐々に分かってきて、学校に通えなくなっている。被害者らの成長に深刻な影響を与えたことが強く懸念される状況にあり、各被害児童の保護者が被告人の厳罰を求めるのは当然である。
 以上に加え、被告人は被害児童らに何ら慰謝の措置をとらず、反省の態度がみられないことに照らせば、被告人に前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を最大限考慮しても、執行猶予を選択する余地はなく、主文の実刑が相当であると判断した。
 (検察官岡安広生、藤田琴花、私選弁護人(主任)出口聡一郎、松本浩幸各出席)
 (求刑―懲役6年)
 令和4年11月7日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 潮海二郎 裁判官 芹澤俊明 裁判官 吉澤孝)
 
前橋地裁 太田 R5.2.7 3年   執行猶予 塾講師 (量刑の理由)
 本件は、被告人が、自らが経営するプログラミング教室の生徒であった僅か10歳の被害者の陰茎を触るなどした強制わいせつの事案である。被告人は、男子児童に性的なことも教えてあげたいという気持ちなどから、被害者の心情を顧みずに本件犯行に及んでおり、その動機は身勝手極まりない。被告人は、自らの塾講師としての立場を利用して、指導すべき対象の塾生に対して本件犯行を敢行しており、その手口は卑劣である。犯行態様は、被害者のズボンと下着を脱がせ、被害者の陰茎を直接手で触ったり、陰茎に電動マッサージ機を当てるなどしたものであって悪質である。被害者は、事件後、被害現場付近に近づくことに嫌悪感を示し、被告人に対する恐怖を口にするなど、肉体的な苦痛を被ったのみならず、その精神的苦痛は大きく、将来のある被害者の成長過程に影響を与えることが懸念され、被害者の実母が被告人の厳重処罰を望むのも当然である。これらの事情を考慮すると、被告人の刑事責任は重い。
 一方、被告人の犯行は、前記のとおり、非難の程度は大きいものではあるが、被害者に強度の暴行や脅迫は加えてはおらず、本件犯行の態様や結果、同種事案の量刑傾向を踏まえると、本件が刑の執行を猶予することが許されない事案であるとまではいえない。そして、被告人が本件犯行を認めて反省の弁を述べていること、被告人の母が当公判廷において被告人の身元引受けを誓約していること、被告人に前科前歴がないことなど、被告人のために酌むべき事情が認められる。そこで、被告人に対しては、主文の刑に処した上で、猶予期間を最長の5年間としてその執行を猶予するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役3年)
 前橋地方裁判所太田支部
 (裁判官 竹村友里)
長崎   R4.11.4 3年   一部無罪 教諭 (量刑の理由)
 本件は、小学校低学年の児童2名に対して、それぞれパンツの中に手を入れ、手指で陰部を弄んだという強制わいせつ事件であり、そのうちの1件は被告人が被害児童の担任であった当時の犯行である。陰部を直接手指で弄ぶという態様は悪質で、被害児童らの性的な知識が未熟であることにつけ込む卑劣な犯行であり、その手口等からして常習性がうかがわれる。被害児童らは、本来、信頼してよいはずの学校の先生に性的自由を大きく侵害されており、その精神的苦痛の大きさは計り知れない。実際に、Aは、事件のことを思い出すこと等から転校を余儀なくされ、Cは、被害の意味が徐々に分かってきて、学校に通えなくなっている。被害者らの成長に深刻な影響を与えたことが強く懸念される状況にあり、各被害児童の保護者が被告人の厳罰を求めるのは当然である。
 以上に加え、被告人は被害児童らに何ら慰謝の措置をとらず、反省の態度がみられないことに照らせば、被告人に前科前歴がないことなどの被告人に有利な事情を最大限考慮しても、執行猶予を選択する余地はなく、主文の実刑が相当であると判断した。
 (検察官岡安広生、藤田琴花、私選弁護人(主任)出口聡一郎、松本浩幸各出席)
 (求刑―懲役6年)
 令和4年11月7日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 潮海二郎 裁判官 芹澤俊明 裁判官 吉澤孝)
 
宮崎 延岡 R4.2.25 3年   執行猶予 教諭  (量刑の理由)
 本件は,教師である被告人が,その生徒である被害児童に対し,自己の陰茎を露出して見せつけ,近付けるなどし,強制わいせつに及んだ事案である。
 被告人は,スリルを味わいたい,被害者の反応を楽しみたいといった身勝手な理由で,前記のとおり,被害児童がその場から離れることが心理的に困難な状況を利用し,長時間にわたって,自己の陰茎を執拗に見せつけ,近付けるなどの行為をした。本件犯行は,被害児童の人格を一顧だにしない,非常に悪質な犯行である。被告人が陰茎を被害児童に接触させていない点を踏まえても,被害児童の性的自由が侵害された程度は決して小さくない。しかも,被告人は,自認しているだけでも約6か月間にわたって被害児童に対して同様の行為を繰り返したというのであり,被害児童は,被告人によって口止めされ,被害を申告することもできずに,長期間にわたる被害を受け続けた。そればかりか,被害児童は,本件行為に耐えかねて被害を申告したのに,被告人が捜査段階で犯行を否認したばかりか,被害児童が自分を陥れようとしていると供述するなど被害児童に責任転嫁する態度を取ったこともあって更なる苦痛を強いられた。本件及びその前後の経緯によって被害児童が被った精神的打撃は重大である。被告人は,本来,教師として被害児童を指導・庇護すべき立場にありながら,あろうことかその立場を悪用して本件犯行に及んでおり,強い非難に値する。以上の事情からすれば,本件の犯情は,陰茎を接触させていない点を踏まえても,強制わいせつ事案の中で軽い部類に属するとはいえず,実刑の可能性も排斥されないということができる。
 さらに,一般情状を検討するに,被告人は,自業自得とはいえ懲戒免職処分を受けるなど一定の社会的制裁を受けている。また,現段階までに60万円の被害弁償を申し出ており,引き続き,被害回復に向けた努力をする意向を示している。そして,被告人は,公判において犯行を自白し,反省及び謝罪の弁を述べていること,被告人の妻が今後の監督を約束していること,前科がないことなど被告人に有利に斟酌すべき事情が認められる。これらの事情を考慮すると,被告人に対しては,直ちに実刑に処すよりも,社会内において,改めて被害児童に与えた被害の大きさと向き合い,最大限,被害弁償の措置を尽くさせることで,その更生を図ることが相当であると判断した。
 そこで,主文の懲役刑に処し,その刑事責任を明らかにした上,今回に限り,その執行を猶予することとし,主文のとおり判決する。
 (検察官小嶋陽介,国選弁護人成合陶平 各出席)
 (求刑 懲役3年)
 宮崎地方裁判所延岡支部
 (裁判長裁判官 大淵茂樹 裁判官 中出暁子 裁判官 高木航)
 
福井   R3.7.2 2年 4月   保育士 【量刑の理由】
 被告人は,保育士という幼児の養護及び教育を責務とする立場にありながら,その立場を利用し,まだ幼くその行為の意味を理解できず抵抗しない担当クラスの幼児2名に対し,合計3回にわたりわいせつな行為をした。このような被害者との関係性,被害者の属性,被害人数及び件数を踏まえれば,本件は極めて卑劣で悪質な犯行であるというべきである。
 将来被害者らが,被告人にされた行為の意味を理解し又は知った時のショックは計り知れず,健全な成育への悪影響も懸念される。被害者らの家族が峻烈な処罰感情を有しているのも当然のことである。
 一方,本件各犯行の態様は,暴行や脅迫を伴うものではないという点では穏当といえ,被害者らが実際の恐怖心を感じたとは認められない。しかしながら,暴行や脅迫をその要件としない刑法176条後段の罪において,この点を過度に被告人に有利に評価することはできない。
 以上の点に加え,本件各わいせつ行為をスマートフォンで撮影した児童ポルノ製造の罪3件も併せ考えれば,被告人の行為責任は相応に重く,被告人に前科前歴がないことなどを踏まえても刑の執行を猶予できる事案ではない。
 被告人はまだ若く,真摯に反省し,自己の性的嗜好と向き合い,2度と同様の犯行をしないよう,ワークブックの実践やカウンセリングへの通院をしている。さらに,今後は保育士として就労することはせず子供に近寄らない旨を誓約し,母親も監督を誓約している。本件は,再犯可能性が高い犯罪類型には当たるものの,以上の点からすれば,被告人の更生には一定の期待が持てる。しかしながら,前記のとおり,行為責任の観点から実刑はやむを得ないから,これらの点は刑期の面で十分に考慮することとする。その他,Aとの間で,宥恕の意思が示されているわけではないものの示談が成立していること,余罪被害者2名との間でも示談が成立していること,本件は広く報道され,一定の社会的制裁を受けていることなども考慮した上で,主文のとおりの刑を科す。
 (求刑 懲役3年6月,主文同旨の没収)
 福井地方裁判所刑事部
 (裁判官 日巻功一朗)
 
熊本   R3.5.20 3年     教諭 (量刑の理由)
 本件は,小学校の教諭であった被告人が,同小学校に通う当時9歳又は10歳の女子児童に対して,学校内で,自己を相手とする性交類似行為をした児童福祉法違反(判示第1)と,わいせつな行為をした強制わいせつ(判示第2)の事案である。
 判示第1の犯行について見ると,被告人は,複数回にわたり,着衣の中に手を差し入れてその膣内に自己の手指を挿入するなどしており,被害者の性的自由に対する侵害の程度が大きい行為に及んでいる。また,判示第2の犯行では,当時理科室には他の児童もいたというのに,被告人は,大胆にも,被害者の着衣の中に手を差し入れて,直接その両胸を複数回撫で,さらには,下着の上からその下腹部を撫でるなどして,執拗にわいせつな行為をしている。このように,被告人は,学校の教諭という立場を利用して卑劣で悪質な犯行を重ねており,その意思決定は強い非難に値する。
 被害者は,本来信頼してよいはずの学校の先生から,肉体的・精神的苦痛を伴う性的な被害を受けたのであって,未だ幼い被害者の心身に与えた悪影響は大きく,今後の健全な成長への影響も懸念されることからすれば,被害者の両親が被告人の厳罰を望むのは当然である。
 以上に指摘した本件犯情の悪さからすれば,被告人が各犯行を認めていることや,被害者に対して謝罪の言葉を述べていることのほか,前科が見当たらないこと,被告人の弟が更生への協力を申し出ていること,被告人において,約100万円を供託し,供託金取戻請求権を放棄していること,本件により懲戒免職処分を受けたこと等の事情を最大限考慮しても,本件が刑の執行を猶予するのが相当な事案であるとは認められない。被告人は,主文の実刑を免れない。
 (求刑―懲役4年)
 熊本地方裁判所刑事部
 (裁判官 山口智子
 
高知   R3.4.13 1年 6月   教諭 (量刑の理由)
 本件は教諭として中学校に勤務し,部活動の顧問として指導していた部員の1人である被害者に強いてわいせつな行為をしたという事案である。その犯行態様は2晩にわたって畏怖困惑して全く抵抗できない状態の被害者に判示のとおりのわいせつ行為を行うという執拗かつ悪質なものであり,本件は成人男性としての分別はもとより教諭や部活動の顧問としての良識をも欠くこと甚だしい事案である。14歳の中学生である被害者が被った精神的打撃は大きく,被害者は現時点でも心身の不調を訴え,殆ど登校することも出来ない様子であり,被告人を信頼して我が子を合宿に参加させた両親は多大な衝撃を受けており,激しい憤りを表明している。被害者やその両親が被告人の厳重処罰を求めるのも当然である。
 以上の検討結果によれば,本件はこの種事犯の中でも相応の当罰性を有しており,相当程度の慰謝の措置が取られない限り,実刑は免れない事案である。この点に関し,被告人は被害者に150万円を一括して支払う旨の被害弁償の提示をしたが,被害者側に受領を拒否された状況であり,現時点において相当程度の慰謝の措置が取られたとは認め難く,実刑は免れない。もっとも,刑期については,以上の諸事情に加え,被告人が前科・前歴を有しておらず,一応反省の態度を示していることなどをも考慮し,主文の程度とするのが相当と判断した。
 (求刑・懲役2年6月)
 高知地方裁判所刑事部
 (裁判官 吉井広幸)
 
千葉   R3.3.6 3年 6月   教諭 (量刑の理由)
 本件は,小学校の講師であった被告人が,自らが担任を務めるクラスの女子児童3名に対し,手で直接陰部を触るなどの行為に及んだ強制わいせつの事案である。
 本件各犯行は,担任という立場を利用し,当時小学校1年生である各被害者がクラス担任として長時間行動を共にし被告人に全面的な信頼を寄せていたことにつけ込んで敢行された卑劣で悪質なものである。犯行態様は,授業中,休憩時間や給食の時間に,外側から内部の様子を確認することのできない倉庫内に各被害者を連れ込み,下着などを脱がせた上,陰部を直接手で触るというものであって,いずれも短時間ではあったが,各被害者の性的自由を害する程度も小さくない。各被害者は,全面的な信頼を寄せていた担任から性的被害を受けたのであって,各被害者が今後成長していく過程で本件被害のことを思い出すことなどにより,大きな精神的苦痛を及ぼしかねず,それぞれの健全な成長に悪影響を及ぼすことも懸念される。各被害者の保護者が被告人の厳罰を望むのは当然のことである。上記のとおりクラスの担任という立場を悪用した悪質な犯行を3回も繰り返したということも考慮すると,被告人の刑責は重いというべきである。
 以上に加え,被告人が,各犯行を否認し,一切の反省の態度が認められず,各犯行について格別被告人に酌むべき事情はないところ,同種事犯の量刑傾向も踏まえて検討すると,被告人にこれまで前科前歴がないなどの被告人にとって酌むべき事情を考慮しても,主文掲記の実刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑:懲役5年)
 千葉地方裁判所刑事第5部
 (裁判長裁判官 小池健治 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 髙橋真歩)
千葉 松戸 R3.3.1 6年     保育士 (量刑の理由)
 本件は,保育園に勤務する保育士がそこに通う児童3名に対して強制性交等1件及び強制わいせつ2件に及んだ事案である。
 被告人は,保育士として児童や保護者から全面的に信頼を付与される立場にありながら,被害児童らが被告人を慕っていたことを悪用して本件を重ねており,被害児童らの尊厳を踏みにじる悪質なものである。他の職員の目を盗み,保護者への発覚を防ぐため被害児童らに口止めをしている点も卑劣といえる。被害児童らは,安心して過ごせるはずの場所で信頼する被告人から手淫等のわいせつ行為や口腔性交を受けたもので,被害児童及びその保護者らの精神的な痛手は大きく,被害児童らの健全な成長に悪影響を及ぼすことも懸念される。被告人は,被害児童や保護者らの心情を顧みることなく,自己の性的欲求を満たすため,本件に及んでおり,その動機は身勝手極まりないものである。通院先から忠告されていたのにこれを無視して本件施設に勤務するなどしたその経緯からも,性犯罪に対する被告人の性向の根深さがうかがわれる。
 このように,本件事案の客観的な重さの程度や被告人の法益軽視の自己本位的な意思決定及びこれに付随する犯罪性向は強い責任非難に値し,同種事案の量刑傾向にも照らすと,本件は同種事案の中でも比較的重い部類に属し,後記一般情状を十分に考慮しても,刑の全部執行猶予が相当でないことはもとより,酌量減軽すべき事案でもないことが明らかである。
 そこで,一般情状をみると,被害児童の保護者らや保育園関係者の処罰感情が厳しいのは当然である一方,被告人において,事実を認め反省の弁を述べていること,Bに対して200万円の被害弁償を済ませ,C及びAとの関係では各100万円の被害弁償を行う準備をして弁護人に預託していること,再度性犯罪防止プログラムを受講する意向を示すなど更生の意欲がみられること,実父が今後の監督を申し出ていること,前科前歴がないこと等,被告人にとって有利な事情も認められる。
 そこで,以上の犯情及び一般情状を併せ考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役7年)
 千葉地方裁判所松戸支部刑事部
 (裁判長裁判官 本間敏広 裁判官 新崎長俊 裁判官 本田真理子)
 
 
福井   R3.2.26 3年   保護観察 教諭 (量刑の事情)
 本件各犯行は,いずれも下着を脱がせて直接その陰部を触るというもので,被害児童に強い屈辱感や羞恥心を生じさせる悪質な態様である。個別に被害児童らを呼び出して,二人きりになる機会を作出するなど,計画的でもある。手段として暴力や脅迫的言辞を伴うものではないが,教師という立場の小学生に対する圧倒的優位に乗じた犯行という点で,その悪質性に遜色はない。そして,被害児童らは,その人格を軽視した犯行にさらされ,それぞれ現に嫌悪感を抱いている上,成長に伴って傷つきを深めることも強く懸念される。
 なお,被告人は,性器に関する教育を施す意図があった旨供述するが,このような意図を標榜すること自体から,本件が常習的犯行の一環であったことをうかがえる。そして,このような意図からは被害児童の性器を触る必要までは生じ得ないこと,被告人が学校側に一切を相談・報告していないこと,被害児童に対して口止めをしていたこと等に照らせば,本件各犯行は,専ら被告人の性的欲求が発露したものであって,教育の意図というのは,被告人が犯行を正当化するために身勝手にもそう思い込もうとしたに過ぎないものと見るべきである。
 以上によれば被告人の刑事責任は重く,同種事案の量刑の動向に鑑みると,実刑を検討して然るべき事案といえる。
 しかしながら他方,被害の回復とは到底評価できないものの,判示のうち2件については宥恕文言を含む示談が成立し,残る1件に関しても示談に向けた努力はされているようにうかがわれる。また,被告人は,当然ながら失職しており,法廷で自己の過ちについては認めた上,医療的なケアを受けたり今後は児童に関わらない職に就くなどして再犯防止に努める姿勢を示している。同居の両親もそれぞれの立場から被告人を監督・支援することを約している。このように,若年で前科のない被告人を直ちに実刑に処するにはやや躊躇を覚える事情も見受けられるところである。
 そこで,被告人に対しては,最長期の執行猶予を付し,その間,保護観察所による専門的指導を受けさせることによって更生と再犯防止を期すのを相当と認め,主文の刑を量定した。
 (求刑 懲役4年)
 福井地方裁判所刑事部
 (裁判官 西谷大吾)
大阪   R2.12.9 2年     保育士 (量刑の理由)
 保育園職員であった被告人が,同保育園において,同園の5歳児の被害者2名に対し,同人らがプール遊び後全裸でいた際,胸や陰部付近を触ったり,胸をもんだりするなどしており,本件は,幼くわいせつ行為の意味も理解しておらず全く抵抗しない被害者らに対し,保育園職員としての立場を利用して行われた犯行であって,被告人の行ったわいせつ行為が短時間にとどまることを踏まえても,卑劣で悪質な犯行である。被害者らは,毎日通っていた保育園で,親しい職員であった被告人から,突然,胸や陰部を直接触られるといった被害を受けており,本件各犯行が被害者らの今後の健全な育成に悪影響を与えることが強く懸念され,各被害者の母親が被告人に対し厳重な処罰を求めるのも至極当然のことである。他方,被告人は,被害者らに対し何らの慰謝の措置も講じていない。
 また,被告人は,わずか1か月の間に園児に対するわいせつ行為を2回も行っている上,目撃者の面前で堂々と犯行に及んでおり,この種事犯に対する抵抗感が相当に低下しているといわざるを得ず,その意思決定は強く非難される。
 以上に照らすと,被告人の刑事責任は相応に重いというべきである。
 そして,被告人が本件各犯行を否認し,反省の態度がみられないこと,前科前歴がないことなどの事情も考慮すると,主文の刑が相当である。
 (求刑 懲役3年6月)
 令和2年12月10日
 大阪地方裁判所第8刑事部
 (裁判長裁判官 松本圭史 裁判官 後藤有己 裁判官 加納紅実)
 
 
 〈以下省略〉