児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

。「胸は触ったが、性欲のためではない」という弁解

 逮捕状の被疑事実には「専ら性欲を満たすために」などと記載されているので、こういう認否になります。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100331-00000601-yom-soci
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20100331-OYO1T00788.htm?from=main4
中学生にわいせつ行為をしたとして、兵庫県警神戸西署は31日、容疑者(32)(山口県周南市)を兵庫県少年愛護条例違反容疑で逮捕した。「胸は触ったが、性欲のためではない」と一部否認しているという。

兵庫県少年愛護条例
http://web.pref.hyogo.jp/contents/000146014.pdf
(みだらな性行為等の禁止)
第21条何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。

 青少年条例の「わいせつ」というのは、趣旨も違うのに刑法の強制わいせつ罪やわいせつ図画罪と同じ定義になっていて、よくわかりません。

新潟家庭裁判所決定昭和54年10月1日
家庭裁判月報32巻10号104頁
 本件送致事実の要旨は、
 少年は、
1 昭和五四年一月下旬の午後九時三〇分ころ、新潟市○○○○町××××番地×に駐車中の普通乗用自動車内において、A子(昭和三七年五月四日生)が一八歳未満であることを知りながら、同女に対し、接吻をし、その乳房をもてあそぶなどし、もつて青少年に対し、わいせつな行為をし
2 同年三月上旬の午後一〇時ころ、同市○○町×××番地××○○石油給油所に駐車中の普通乗用自動車内において、前記A子が一八歳未満であることを知りながら、同女に対し、接吻をし、その乳房をもてあそぶなどし、もつて青少年に対し、わいせつな行為をしたものである。
というのである。
 本件記録によれば、少年が上記の各行為に出たことを認めることができる。
 ところで、新潟県青少年健全育成条例二〇条一項は、「何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」と規定している。同項は、青少年が心身未成熟であり、不良な性的行為により悪影響を受けやすいことから、青少年の情操を害する反倫理的、反道徳的な性的行為から青少年を保護し、青少年の健全な成長を企図して規定されたものと解され、同項にいう「わいせつな行為」もその趣旨から解釈されなければならない。
 公衆の面前において青少年に対し、公然と性的な行為に及ぶこと、見ず知らずの者同志あるいは不特定の者の間における性的遊戯、青少年の無思慮、無分別に乗じた性的行為など、相互に愛情もなく、人格的結びつきを前提としない行為が本項に該当するものと解することは相当であるが、結婚の意思を前提にしなくとも、相互に愛情を持ち、人格的交流を前提とし、かつその愛情表現として相当程度の範囲における行為についてまで本条例によつて禁ぜられていると解することは相当でない。
 そこで、本件について検討するに、送致記録によれば、少年は当時一八歳、上記A子は当時一六歳で、いずれも新潟市内の定時制高校に通学していたものであり、同人らは昭和五四年一月初めころ知り合い、お互いに異性として意識し、好意を抱き、日曜日あるいは下校後、デートを重ね、その際には接吻を交す関係にあつたこと、その後、同年三月下旬ころからは、デートもまれとなり、同年六月には同女から少年に交際を辞退する旨申し入れたことが認められる。少年及び同女とも、捜査官に対し、愛情が湧かなかつた、愛情がなかつた旨供述しているが、上記の交際の経過に照らしてみれば、愛情と呼ぶかどうかはともかく、お互いに好意を抱いていたことは明らかであり、そのような人格的交流を前提として行われた接吻、乳房の愛撫の程度の行為が、本条例にいう「わいせつな行為」に該当すると解することは相当でない。

福岡高裁H21.9.16
福岡県青少年健全育成条例違反等被告事件
第3 法令適用の誤りの主張について
1原判示第1についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1及び第6)について
(1)弁護人は,①13歳未満の者に対するわいせつな行為を刑法176条後段の強制わいせつ罪よりも軽く処罰する本件条例違反の罪は,憲法94条,地方自治法14条1項に違反し無効である,②本件条例違反の罪は,刑法176条後段の強制わいせつ罪を補完する規定であると解され,被告人の原判示第1の行為は同罪に当たるから,本件条例違反の罪を適用した1審判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあると主張する。
(2)まず,①の主張については,刑法176条後段の強制わいせつ罪は,13歳未満の者の性的自由を保護するとともに,性的な情操を保護することによって,青少年の健全育成を図る趣旨であると解され,青少年の健全な育成を目的とする本件条例違反の罪とその趣旨を共通にする面を有しているが,他方で,たとえ13歳未満の者に対してわいせつな行為に及んだ場合であっても,行為者において,相手の年齢を13歳以上18歳未満であると誤信していたときは,刑法176条後段の強制わいせつ罪の故意を欠くため同罪は成立せず,本件条例違反の罪のみが成立することになる。そして,このような場合について,13歳未満の者の保護を図っている刑法が,行為者を同法176条後段の強制わいせつ罪よりも軽い法定刑を定めた本件条例違反の罪で処罰することを禁止しているとは解されないから,本件条例違反の罪が憲法94条,地方自治法14条1項に違反し無効であるはいえない。
(3)次に,②の主張については,本件条例違反の罪が刑法176条後段の強制わいせつ罪を補完する規定であるとしても,刑事訴訟法が採用する当事者主義的訴訟構造下では,審判の対象である訴因をどのように構成するかは,検察官の合理的裁量に委ねられているから,検察官は,13歳未満の者に対するわいせつな行為をした行為者について,事案の内容や立証の難易,その他諸般の事情を考慮して,刑法176条後段の強制わいせつ罪ではなく,本件条例違反の罪として訴因を構成して起訴することは当然許されると解される(なお,本件条例違反の罪は,強制わいせつ罪と異なり,親告罪ではないが,13歳未満の者に対するわいせつな行為の事案において,被害者やその法定代理人である親権者等が,被害者の名誉等への配慮から事件が公になることを望まず,告訴しなかったり,あるいは告訴を取り下げた場合に,検察官が行為者を本件条例違反の罪で起訴することは現実的には想定しがたいから,13歳未満の者に対するわいせつな行為を本件条例違反の罪として起訴することを許容しても,強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨が没却されるとはいえない)。