原判決と上告理由を併せて読めば、この部分も「犯人が所有する媒体上に他人のデータがある場合には、没収の関係では、犯人以外の者に属するとは認められない」という判例ですよね。
最決H18.5.16
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061129140602.pdf
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,憲法違反をいう点は,没収に係る光磁気ディスクが犯人以外の者に属するとは認められないから,前提を欠き,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,原判決後の刑の廃止の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
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上告理由第1 憲法29条31条違反、判例違反(MOは没収できない。)
1 問題の所在
本件MOの没収は第三者没収手続によるべきである
すなわち、一審判決が没収の対象としている「光磁気ディスク1枚(平成14年押第22号の1)」には、児童ポルノの画像データの他に、などというフォルダー名で児童ポルノ以外のデータも記録されている。
明らかに、、他人の肖像商号・等も含まれている。
これら顧客のデータについては、被告人以外の者が、プライバシー権・肖像権・著作権・商標権といった人格権・物権を有することが明らかであるから、本MOは一部「犯人以外の者に属する」(刑法19条)といえる。判例も同旨である。
【事件番号】最高裁判所第3小法廷判決/昭和38年(あ)第1071号
【判決日付】昭和40年6月29日
【判示事項】刑法第一九条第二項にいう「犯人以外ノ者ニ属セサルトキニ限ル」の意義
【判決要旨】刑法第一九条第二項にいう「犯人以外ノ者ニ属セサルトキニ限ル」とは、犯人以外の者が、その物の上に所有権その他の物権を保有する限り、これを没収することができないことを明らかにしたものであり、単にその物に関して債権を有するに過ぎないときは、没収の妨げにならない趣旨である。
【参照条文】刑法19−2
【参考文献】最高裁判所刑事判例集19巻4号490頁
最高裁判所裁判集刑事156号65頁
判例タイムズ179号136頁
判例時報417号56頁さらに平成15年3月24日付法務大臣「ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備に関する諮問」 http://www.moj.go.jp/SHINGI/030324-2.htmlでは、
要綱
第八 不正に作られた電磁的記録等の没収
一 不正に作られた電磁的記録又は没収された電磁的記録に係る記録媒体を返還し、又は交付する場合には、当該電磁的記録を消去し、又は当該電磁的記録が不正に利用されないようにする処分をしなければならないものとすること。
二 不正に作られた電磁的記録に係る記録媒体が公務所に属する場合において、当該電磁的記録に係る記録媒体が押収されていないときは、不正に作られた部分を公務所に通知して相当な処分をさせなければならないものとすること。
三 刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法の適用については、被告人以外の者に帰属する電磁的記録は、その者の所有に属するものとみなすものとすること。とされている。
媒体の所有権が被告人に所属していても、被告人以外の者に帰属する電磁的記録がある場合には、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法を適用するというのが法務省の方針である。そして、電磁的記録の帰属については、効用の帰属で決するというのが刑法7条の2の制定時の法務省の説明である。民法の加工の規定を持出すまでもなく、「記録としての効用が他人に属する」場合には、他人の電磁的記録である。
刑法等一部改正法の解説米澤慶治P154
また、「他人ノ」電磁的記録とは、記録としての効用が他人に属する電磁的記録、すなわち記録としての効用が他人の支配、管理下にある電磁的記録をいう。文書毀棄罪における「他人ノ文書」とは、一般に、他人の所有に属する文書をいうものと解されている(例えば、香川・注釈刑法六・五九頁、大塚・注解別法一二一九頁等)が、電磁的記録とは、一定の媒体の上に情報あるいはデータが記録、保存されている状態を表す概念であり、電子計算機本体や輔助記憶装置等システムの価格が高額に上るため、リースにかかるシステムや機材を用いたり計算センターのシステムをタイムシェアリングで利用するなど、媒体に対する所有と記録に対する支配、管理が分離する場合も多いから、その他人性の決定基準としては、その利用実態にかんがみ、端的に記録としての効用の帰属の有無とすべきものであろう。などというフォルダー名に保管されているデータは、加工の規定からみても、効用の帰属からみても、まさに、被告人以外の者に帰属する電磁的記録である。
他方、媒体であるMOが被告人の所有物であることは争いがない。
刑法19条2項は有体物を基準にしているから、犯人の物(MO)の上に、他人の電磁的記録が載っている場合でも、犯人の物として没収されてしまう。刑法第19条2項
2 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。さらに、この場合、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法によっても、電磁的記録の権利者について告知、弁解、防禦の機会が与えられることがない。
犯人所有する物(電磁的記録物)の上に蔵置されている他人の電磁的記録も、財産権(憲法29条)の保障・適正手続(憲法31条)の範疇であって、刑法的保護に値することは、刑法本条に電磁的記録記録の諸規定(第7条の2、157条、158条、161条の2〜4、234条の2、246条の2、258条、259条)があること、改正要綱にも
三 刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法の適用については、被告人以外の者に帰属する電磁的記録は、その者の所有に属するものとみなすものとすること。
とその保護が求められていることから、明かである。
一審検察官も、パソコン本体については、没収に適さないとしおり、同じ意見である。
論告要旨
(なお,犯罪組成物件であり,かつ,犯罪供用物件であるパーソナルコンピューター1台は,わいせつ画像等とともに犯罪性のない情報も一体となっているため,没収に適さず,没収から除外した。)しかるに、本件では、犯人所有する物(電磁的記録物)の上に蔵置されている他人の電磁的記録の場合には、刑法、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法、原判決とも、他人に告知弁解等の機会を与えていない。
このような刑法、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法は憲法29条、31条に反して無効である。これらの規定を適用しなかった原判決も憲法29条、31条に反して無効である。当然、第三者没収に関する大法廷判決の趣旨にも反する。判例も挙げておく。
【ID番号】00029701
関税法違反被告事件[第三者没収違憲大法廷判決]
【事件番号】最高裁判所大法廷判決/昭和30年(あ)第995号
【判決日付】昭和37年11月28日
【判示事項】1 旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前の関税法をいう。)第八三条第一項により第三者の所有物を没収することは、憲法第三一条、第二九条に違反するか
2 第三者所有物の没収の違憲を理由として上告することができるか
【判決要旨】1 旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前の関税法をいう。)第八三条第一項の規定により第三者の所有物を没収することは、憲法第三一条、第二九条に違反する。
2 前項の場合、没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、これを違憲であるとして上告をすることができる。
【参照条文】旧関税法(昭和29年法律第61号による改正前)83−1
旧関税法(昭和29年法律第61号による改正前)83−2
旧関税法(昭和29年法律第61号による改正前)83−3
旧関税法(昭和29年法律第61号による改正前)83−4
旧関税法(昭和29年法律第61号による改正前)83−5
憲法29−1
憲法29−2
憲法29−3
憲法31
刑事訴訟法405
【参考文献】最高裁判所刑事判例集16巻11号1577頁
最高裁判所裁判集刑事145号207頁
判例タイムズ139号144頁
判例時報319号15頁
判例時報319号6頁
同第一点および第四点について。旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前の関税法をいう。以下同じ。)八三条一項の規定による没収は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等で犯人の所有または占有するものにつき、その所有権を剥奪して国庫に帰属せしめる処分であつて、被告人以外の第三者が所有者である場合においても、被告人に対する附加刑としての没収の言渡により、当該第三者の所有権剥奪の効果を生ずる趣旨であると解するのが相当である。
しかし、第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。
けだし、憲法二九条一項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同三一条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であつて、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。そして、このことは、右第三者に、事後においていかなる権利救済の方法が認められるかということとは、別個の問題である。然るに、旧関税法八三条一項は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等が被告人以外の第三者の所有に属する場合においてもこれを没収する旨規定しながら、その所有者たる第三者に対し、告知、弁解、防禦の機会を与えるべきことを定めておらず、また刑訴法その他の法令においても、何らかかる手続に関する規定を設けていないのである。従つて、前記旧関税法八三条一項によつて第三者の所有物を没収することは、憲法三一条、二九条に違反するものと断ぜざるをえない。
そして、かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である。のみならず、被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。これと矛盾する昭和二八年(あ)第三〇二六号、同二九年(あ)第三六五五号、各同三五年一〇月一九日当裁判所大法廷言渡の判例は、これを変更するを相当と認める。この判例の趣旨は第三者の財産権保護であって、第三者の所有権に限って保護するというものではない。所有権以外の権利については、解決されない宿題として放置されているのである。
大コンメンタール刑法第8巻P181
( 3) 未解決の問題この法律には,没収対象物の上に第三者の制限物権が存在する場合の手続,及び,第三者追徴の手続が設けられていない。
この二つの問題ほ,立案当局者によれば,立案の過程で論議されたが, 意識的に解決を図らなかったものであるという(白井=鈴木・解説18頁)。立法当時,政府ほ,「(没収すべき物の上に被告人以外の第三者の担保物権・用益物権等の制限物権が存在する場合について, この法律ではとくに規定を設けなかったことにつき)今回の立法措置の直接の契機となった最高裁判所の違憲判決は,この問題について直接触れていないのでございますが,その趣旨を拡張して推及して参りますならば,没収の効果として対象物件を国が原始取得するという通説がございまして,判例もそういうことになっておりますが, この通説,判例の見解に従います限り, この種の権利, いまお話の抵当権,物権等を有する者についても,訴訟参加その他一定の権利保護のために手続規定が必要であように私も考えるわけでございます。しかし, この種の権利者の保護につきしては,単に手続規定の整備だけでは足りるものでほなくて, その前提といたしまして, 財産権を保障する憲法29条との関係におきまして, この種の権利
存在する場合における没収の制限, あるいほ没収によってこの種の権利者がこうむる損害に対する補償一準備草案では第77条などに補償の規定を置いてりますが, こういったことを定めた実体規定が必要でございまして, このような実体規定を欠くただいまの現行制度におきまして, この主の権利者に防御為の参加を認める手続規定だけをもうけましても, はとんど意味がないと考られます上に, たとえ, そのような手続規定がないために, 対象物件の上にこの種の権利が存在する場合には没収を言い渡し得ないとの解釈がとられたとても, 実務上不都合を生ずることほほとんどないと思われますので, こは心にかかったわけでございますけれども, この解決は, 将来の没収制度の法的整備の際に解決をすることにいたしまして, 今回は, この法案におきましては, 担保物権, 用益物権等の存在するものについては何ら規定をいたして ないというふうにいたしておる次第でございます。」
「ただいまのような場合には没収できないという消極的の立場で進むわけでございます‥…・間違ってそういう権利のある物を本人の物であるというふうに考えて没収した場合にどうなるかという問題があると思いますが, もしもそいう場合には, 国に対しまして正当な補償を求めることもできるという風には考えるわけであります。」(昭和38年5 月21 日衆議院法務委員会竹内政府委.( 法務省刑事局長)答弁,同議録14号2 頁。同旨,白井=鈴木・解説18頁) 旨説明している。没収対象物に第三者が担保物権を有する実例が存する以上,本法がの場合の措置をも整備すべきであったと批判もある(白木豊・没収・追徴と執着保護を巡る諸問題(「現代社会における没収・追徴」所収)79頁)が,本法の緊急の立法の必要性と応急的措置であるとの性格によれば,やむを得なかったと思われる。3 原判決の問題点
原判決は、犯人所有の媒体の上に、犯人の児童ポルノデータと他人から預かっているデータが記録されている場合について、その他人の権利は、データに対する支配権ではなく、犯人に対する請求権であるとして、第三者没収手続は必要ないと判示した。
刑法上も厚く保護されている「電磁的記録」に対する権限を単なる請求権としたことは不当である。
これでは、第三者の「有体物」を没収する場合でも、帰属した物の処分は別個の問題である。仮に国に帰属した後に,国が本件「有体物」を発注者等の権利を害するような使用や処分をしようとした場合には,その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め得る可能性はあるとしても,そのような可能性があることは没収の言い渡しを何ら妨げるものではない。
といえば、第三者没収手続によらなくてもいいことにってしまい、 昭和37年大法廷判決の趣旨にも反する。
また、その他人の権利を物権というか債権というかは別として、電磁的記録の財産性については、今日疑いがないし、憲法上の「財産権保障」にも含まれる(佐藤幸治憲法第三版P565)。原判決の憲法29条違反は明かである。4 電子データの没収についての議論
(1) 問題の所在
そもそも、現行法は没収の対象を有体物のみを想定しており、犯人に属するかどうかは有体物の帰属のみを基準にしているのである。
そして、最高裁判所大法廷判決昭和37年11月28日の事例は、第三者の「所有物」の場合であったことから、応急措置法も応急的に第三者の「所有権」に関してのみ立法されたのである。
ところが、今日では、電子媒体が登場し、媒体が安価であるために、生媒体(FD、HDD、MO)よりも、電磁的記録の価値の方がはるかに大きいことが通常である。
同時に、電磁的記録の価値(データの重要性)は、伝統的な紙媒体と比較して、勝るとも劣らない。
また、他人の媒体の上に保管された電磁的記録に対する物権的支配権(自由に使用・収益・処分できる権能)も観念できる。
さらに、その権限を物権というかどうかは別として財産権として憲法上の保障を受けることは間違いない。(2) 従来の議論
従来の議論は、犯人所有の有体物の上に存する、第三者の制限物権・担保物権の扱いに関するものであるが、いずれも、憲法29条の財産権保障の見地からは、手続参加と補償に関する立法が必要だとしている。
なお、国家賠償で財産権補償が与えられるのは当たり前の話であって、それなら、最高裁判所大法廷判決昭和37年11月28日の事例も国家賠償で解決すればよいことになる。
新版注釈刑事訴訟法第7巻P366
新版注釈刑事訴訟法第7巻P369
大コンメンタール刑事訴訟法第7巻P404(3) 電磁的記録の没収方法
本件で押収されたものの没収されなかったPCのHDDにも児童ポルノが記録されているのであるが、検察官からは、被告人に対して、児童ポルノ部分の消去に応じること=電磁的記録の「所有権放棄」を求めているという。
PCのHDDについては、被告人の合法的な電磁的記録が記録されているので、没収を求刑しなかったそうである。(1審論告参照)没収しないで所有権放棄を求めるというのは、法益保護の面からは誠におぼつかない手続であるし、適正手続とはかけ離れている。
どうしてこんなことになるかというと、媒体の一部が児童ポルノである場合、法益保護の見地からは、必要最低限「児童ポルノ部分」を没収する必要があるが、没収するとなると「媒体全部」の没収となり、検察官は「媒体全部」を処分(刑訴法496)せざるを得ないことになり、弊害が大きいからである。
端的に「児童ポルノである電磁的記録の消去」という没収の執行方法があれば、手続的にも実体法的にも問題ないところであり、立法論として求められるところである。
また、児童ポルノ以外の電磁的記録の支配権者の財産権保護の見地からは、「児童ポルノである電磁的記録の消去」という執行方法以外の没収は、憲法29条違反である。5 最近の議論
(1) 法制審議会議事録
法制審議会における、電磁的記録の没収についての説明である。
電磁的記録を押収する手続規定を設けると、没収についての実体法・手続法も必要となるである。
たとえば、大手プロバイダーのサーバーで児童ポルノが陳列されている場合に、児童ポルノデータを押収したのはいいが、没収できないという事態になるのである。(2) 指宿論文
指宿教授の問題意識も弁護人と同じである。
サイバー犯罪条約の要請もあって違法な電磁的記録を押収する規定を整備しても、没収できなければ、所有者に還付せざるを得なくなるというのは誰が見てもおかしいから、この際、没収についても規定が必要だと述べているのである。
法律時報 2003.6 指宿論文 変わる捜査の対象物からデータへ
6 弁護人の見解
そもそも、現行法は没収の対象を有体物のみを想定しており、犯人に属するかどうかは有体物の帰属のみを基準にしているのである。
そして、最高裁判所大法廷判決昭和37年11月28日の事例は、第三者の「所有物」の場合であったことから、応急措置法も応急的に第三者の「所有権」に関してのみ立法されたのである。
ところが、今日では、電子媒体が登場し、媒体が安価であるために、生媒体(FD、HDD、MO)よりも、電磁的記録の価値の方がはるかに大きいことが通常である。
同時に、電磁的記録の価値(データの重要性)は、伝統的な紙媒体と比較して、勝るとも劣らない。今日、研究データやコンピュータソフトも電磁的記録という存在形式でしか存在しないのが通常であり、オンラインストレージされている研究データや開発中のソフトが同一サーバーに保存されていた児童ポルノと一緒に没収された場合の第三者の損害は計り知れない。電子計算機損壊等業務妨害罪に匹敵する犯罪である。また、他人の媒体の上に保管された電磁的記録に対する物権的支配権(自由に使用・収益・処分できる権能)も観念できる。
さらに、その権限を物権というかどうかは別として財産権として憲法上の保障を受けることは間違いない。従来の議論は、犯人所有の有体物の上に存する、第三者の制限物権・担保物権の扱いに関するものであるが、いずれも、憲法29条の財産権保障の見地からは、手続参加と補償に関する立法が必要だとしている。
なお、国家賠償で財産権補償が与えられるのは当たり前の話であって、それなら、最高裁判所大法廷判決昭和37年11月28日の事例も国家賠償で解決すればよいことになる。
端的に「児童ポルノである電磁的記録の消去」という没収の執行方法があれば、手続的にも実体法的にも問題ないところであり、立法論として求められるところである。
また、児童ポルノ以外の電磁的記録の支配権者の財産権保護の見地からは、「児童ポルノである電磁的記録の消去」という執行方法以外の没収は、憲法29条違反である。↑
東京高裁H15.6.4
3 MOの没収について(控訴理由第2)
所論は,本件MOには被告人がホームページの作成・管理を依頼されている顧客のデータが保管されており,顧客のデータについては,被告人以外の者が,プライバシー権,肖像権,著作権,商標権という人格権,物権を有することが明らかであり,本件MOは細部が犯人以外の者に属するのであって,これを没収することは刑法19条に違反し,憲法31条,29条にも違反する,という。
所論のとおり,本件MOには,ホームページのバックアップデータと推認されるファイルも記録されているが,本件MOが没収されることによって被告人の請負ったホームページの作成,管理が不可能になったとしても,被告人が債務不履行責任を負い,発注者が,被告人や第三者に対し本件MOに保存されている発注者が提供したファイルを無断で使用しないよう請求することはできても,本件MO自体は被告人の所有物であり,発注者等が本件MOについて物権的な権利を有しているとは認められない。また,没収は,物の所有権を観念的に国家に帰属させる処分にすぎず,帰属した物の処分は別個の問題である。仮に国に帰属した後に,国が本件MOを発注者等の権利を害するような使用や処分をしようとした場合には,その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め得る可能性はあるとしても,そのような可能性があることは没収の言い渡しを何ら妨げるものではない。