児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

How to protect third person’s date upon the subject seizure of illegal data?

 昨日、オーストラリア弁護士から、
  児童ポルノ法はhobbyですか?
って聞かれました。
  just a case
って答えました。
 
 caseでもなけりゃ、罪数やら没収まで考えないでしょ。

多様な社会的責任を担うコンピュータセキュリティ技術

電子媒体上の第三者のデータの没収について
奥 村  徹
奥村&田中法律事務所
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 ISPの巨大サーバーに,ユーザによって一片の違法データが記録された場合,現行刑法においてはデータのみの没収は許されない。没収しようとすれば,ISPを没収手続に参加させた上でサーバーのうち違法データが記録された部分を「有体物」として没収することになる。
 他方,適法なデータを保管しているその他大勢のユーザーは没収手続に参加することができない。
 一片の違法データのためにサーバーごと没収されてしまうというISPの負担を軽減しつつ第三者のデータを適切に保護する方法はないだろうか。

How to protect third person’s date upon the subject seizure of illegal data?
Tohru Okumura (okumura@lawyers.or.jp)
Okumura & Tanaka law office
 The current Penal Code does not authorize to seize the subject illegal data alone when an Internet user make recording of certain illegal data in ISP's oversized servers. A confiscation request shall be honored by confiscation of data in certain server as “tangible property,” and the subject ISP must be joined in the preceding seizure. On the other hand, substantial numbers of database users of the foregoing server are not allowed to participate in the confiscation procedure mentioned above.
The question here is how to (1) protect the server and third person’s date; and (2) mitigate ISP’s burden; upon the subject seizure of illegal data, a part of the entire database.

はじめに
 本稿では,児童ポルノ製造罪によって生成された児童ポルノである「光磁気ディスク(MO)」に児童ポルノの画像データ以外に,被告人が第三者から預かった合法なデータも記録されている場合についてMOそのもの全部の没収を認めた事例(一審:新潟地裁長岡支部平成14年12月26日 控訴審:東京高裁平成15年6月4日 被告人上告 いずれも公刊物未掲載)を参考に,電子媒体の上に没収の対象となりうる違法な電子データとともに,第三者から預かった適法な電子データが保存されている場合に電子媒体を丸ごと没収せざるを得ないのか,またその際に第三者の権利保護が図られるかを検討した。
1 関係法条
第三者所有の物は通常手続では没収できず(刑法19条2項*1),第三者没収手続を行わなければならない(刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法 以下「応急措置法」)。
2 事件
(1)事案
 児童ポルノ製造罪によって生成された児童ポルノかつ児童ポルノ所持罪の目的物である「光磁気ディスク(MO)」(被告人所有)に,児童ポルノの画像データの他に,被告人がweb作成のために第三者から預かった合法なデータ(顧客から預かった素材)も記録されていた。
(2)一審判決(新潟地裁長岡支部平成14年12月26日公刊物未掲載*2)
 MOに児童ポルノ画像が記録されたという公訴事実には争いがない事件であり,MOの没収が求刑され,判決においてもMOの没収が宣告された。
 一審弁論終結当日にMOの内容の閲覧が許可され,弁護人がMOに第三者のデータが記録されていることを発見した。
(3)控訴審判決*3(東京高裁平成15年6月4日被告人上告 東京高裁判例速報3202号 以下「東京高裁判決」)
 東京高裁判決は,「所論のとおり,本件MOには,ホームページのバックアップデータと推認されるファイルも記録されているが,本件MOが没収されることによって被告人の請負ったホームページの作成,管理が不可能になったとしても,被告人が債務不履行責任を負い,発注者が,被告人や第三者に対し本件MOに保存されている発注者が提供したファイルを無断で使用しないよう請求することはできても,本件MO自体は被告人の所有物であり,発注者等が本件MOについて物権的な権利を有しているとは認められない。また,没収は,物の所有権を観念的に国家に帰属させる処分にすぎず,帰属した物の処分は別個の問題である。仮に国に帰属した後に,国が本件MOを発注者等の権利を害するような使用や処分をしようとした場合には,その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め得る可能性はあるとしても,そのような可能性があることは没収の言い渡しを何ら妨げるものではない。」と判示して,第三者没収手続に依らなくても第三者のデータも没収できるとした。
3 問題の背景
 そもそも,刑法は没収の対象について「有体物」のみを想定しており,犯人に属するかどうかは「有体物」の「所有権」の帰属のみを基準にしている。
 そして,応急措置法制定の契機となった最高裁判所大法廷判決昭和37年11月28日(以下「大法廷判決」)の事例は,「有体物」たる第三者の「所有物」の場合であったことから,応急措置法も応急的に「有体物」たる第三者の「所有権」に関してのみ立法されたのである。
 ところが,今日では,電子媒体が登場し媒体が安価であるために,生の媒体(FD,HDD,MO)よりも,データの価値の方がはるかに大きいことが珍しくない。
 同時に,技術的には,オンラインストレージに代表されるように他人の媒体の上に保管されたデータに対する物権的支配(自由に使用・収益・処分できる権能)を及ぼすことも可能となった。
 他方,構成要件に「電磁的記録」が含まれるに至り,電子データが犯罪に供用されたり,電子データが犯罪によって生成されたりすることも想定されるところとなり,ここでデータを没収の対象とする場合の手続や執行方法が問題となったのである。
4 大法廷判決の射程範囲
 応急措置法制定の契機となった大法廷判決の趣旨は第三者の「財産権」保護であって,第三者の「有体物」の「所有権」に限って保護するというものではない。有体物以外の場合,所有権以外の権利については,解決されない宿題として放置されている*4*5*6。
5 私見
(1)没収の対象の「有体物性」・第三者の権利の「物権性」について
 記録媒体が法的評価を受ける場合,良きにせよ悪きにせよ,実際に評価されるのはその上に記録されたデータの価値である。
 ところで,没収制度の趣旨については,財産の剥脱という財産刑的側面のほかに,目的物の社会的危険性を除去する・犯罪による利得を保持させないという保安処分的な側面もあると説明されているが,かかる制度趣旨からすれば,今日「没収の対象は有体物でなければならない」とか「第三者の権利が物権でなければ保護されない」という理由はない。
 実際,最近の立法例においては有体物でない場合や物権でない場合にも没収が及んでおり,理論的な支障はないことが立法者によっても明らかにされている。例えば,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律16条では,債権も没収の対象になっているし,債権が第三者へ帰属する場合の第三者も手続への参加を認められている。つまり,第三者の「債権」が保護されているのである。また,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律15条では,第三者が「地上権,抵当権その他の権利」(非所有権)を有する場合にも第三者が保護されている。さらには改正刑法草案80条*7でも,第三者の非所有権まで保護されているのである。
 だとすれば,データが違法な存在であるかぎりデータのみを没収すれば,没収は目的を満たすことができるというべきであり,他方,データを支配する第三者と媒体所有者を保護するために第三者没収手続が取られる必要があるということになる。
(2)データの「支配権」概念
 前提として,媒体の所有者が,第三者からデータを預かっている場合の,第三者のデータに対する支配権をどう理解すべきだろうか。
 オンラインストレージを文字通り倉庫に置き直してみると,ユーザーはデータをストレージという倉庫に預けているのと同じ関係であるから,倉庫に預けた物の所有権は預託者にあって受託者にはないのと同様に,データの支配圏は預託者にあって受託者にはない。
 また,東京高裁の事例の場合には,被告人は第三者からweb作成を請負って,注文主(第三者)が提供したデータ・写真・商標等を利用して,完成したものを注文者に納入していたのであるから,請負契約によってそのデータの権利は注文者(第三者)に帰属すると言える。
 この場合の支配権は,媒体所有者に断りなくデータを記録・消去できるのであるから,そのデータを排他的に使用・収益・処分する権限であって,まさに「所有権」と名付けるにふさわしい。
 なお,刑法163条の4第2項*8及び犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案の刑法175条2項*9では,情報ないしデータの「保管」という概念を用いている。これは媒体は第三者が所有,データは犯人が支配するというデータの支配と媒体の支配とが分離した状態を予定した規定である。
(3)第三者に帰属するデータの没収
 私見としては,手続としては,データの支配者及び媒体所有者は,第三者没収手続における「第三者」として扱うこととして,データの一部が消去可能な場合には,データのうち違法部分のみを没収の対象として「部分没収」を行うべきものと考える。
 また,消去による部分没収が不可能な場合に備えて,データの「複写」(バックアップ)という方法による第三者の権利保護を図るべきである。
 なぜなら,これで没収の目的は達成されるし,犯人以外の者の財産権侵害も最小限に抑えることができるからである。
 今日では,電子媒体が登場し,媒体が安価であるために,生媒体(FD,HDD,MO)よりも,データの価値の方がはるかに大きいことが通常であって,その支配権を物権というかどうかは別として財産権として憲法上の保障を受けることは間違いない。
 また,データを故意に破壊する行為が電子計算機損壊等業務妨害罪*10該当するという意味ではデータは刑法上保護されるべき存在である。
 これらの要請を充たすには,データ支配者及び媒体所有者を手続に参加させた上で,一部消去という執行方法や複写という第三者保護方法を導入することが最も妥当である。
(4)東京高裁判決について
 データについては憲法上の「財産権」として保障され,刑法上は「電磁的記録」として厚く保護されているにもかかわらず,東京高裁判決が「電磁的記録」に対する支配権を単なる「請求権」としたことは,没収という局面においてはデータを全く保護しないことを意味し,刑法解釈の統一性を欠く。
 また,これでは,第三者の「有体物」を没収する場合でも,「帰属した物の処分は別個の問題である。仮に国に帰属した後に,国が本件「有体物」を発注者等の権利を害するような使用や処分をしようとした場合には,その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め得る可能性はあるとしても,そのような可能性があることは没収の言い渡しを何ら妨げるものではない。」といえば,第三者没収手続によらなくてもいいことになってしまい,大法廷判決の趣旨にも反する。また,これではデータの支配者は,媒体と共にデータが没収された事実を知りえないから,「その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め」る機会も与えられないことになる。
6 現行法とその問題点
(1)設例
 ある電子媒体上に,犯人(A)が支配する違法なデータ(児童ポルノ画像等)と,無関係のBが支配する合法なデータとが存在する場合(図1)を想定する。
図1
寸法A




(2)現行法上の実務
 実際には,証拠物として押収されたものの没収されなかったPCのHDDに児童ポルノ等の違法データが記録されている場合は,押収物還付の際に検察官から被告人に対して,任意に違法データの消去に応じることを求めているようである。押収・没収という強制がない以上被告人が応じなければ違法データも返還せざるを得ないというのが原状である。
 なお,東京高裁H14.12.17*11(判例時報1831号155頁 東京高裁判例速報3186号)はストーカーメールを没収するためにはPC全体を没収するするしかないという。(同速報の「備考*12」が実務家の問題意識を示している。なお,略式命令では電子データを没収した事例も見受けられる*13)
(3)場合分け
① 媒体の所有権がA(犯人)であるとき
 現行実務では,没収の対象は有体物を単位とするから,媒体全体が没収対象となる。
 没収対象に権利を有する第三者がいるかどうかを媒体の所有権をもって決するとすれば,この場合は媒体の所有者=犯人であって「第三者」は存在しないから,Bは「第三者」に該当せず,第三者没収手続によらず,合法データを含めて媒体全体を没収できる。
(問題点)
 媒体所有者AはBの代理人ではないから,Bのデータの価値は把握できないし,Aはせいぜい媒体の所有権のみを確保すれば満足するであろうから,Bのために最善の防御を行うことは期待できない。
 Bの権利保護は,事後的に,Aへの損害賠償か,国家賠償によることになる。
 Bは重大な利害関係があるにもかかわらず没収手続には一切関与できない,Bのデータが不代替性のものである場合など,金銭賠償では済まされない損害を受けるおそれもある。
② 媒体の所有権がB(犯罪に関係がない者)であるとき
 現行実務では,没収の対象は有体物を単位とするから,Bの合法データを含む媒体全体が没収対象となる。
 第三者がいるかどうかは媒体の所有権をもって決するから,Bは「第三者」に該当する。データを含めて媒体全体が「第三者所有」となるので,第三者没収手続によらなければ,媒体どころか違法部分すら没収できない。
(問題点)
 実はBは違法部分については支配していないにもかかわらず,第三者没収手続に参加して適切な防御をしないと,媒体全部を没収されることになる。
 また,違法部分が媒体の規模に比較して極めて小さい場合にも,第三者没収手続によらなければ,媒体どころか違法部分すら没収できない。
③ 媒体の所有権がC(犯人Aとも,Bとも関係がない者)であるとき
 現行実務では,没収の対象は有体物を単位とするから,データを含む媒体全体が没収対象となる。
 第三者がいるかどうかは媒体の所有権をもって決するから,Cは「第三者」に該当する。第三者没収手続によらなければ,媒体どころか違法部分すら没収できない。
 また,違法部分が媒体の規模に比較して極めて小さい場合にも,第三者没収手続によらなければ,媒体どころか違法部分すら没収できない。
(問題点)
 実はCは違法部分については支配していないにもかかわらず,第三者没収手続に参加して適切な防御をしないと,媒体全部を没収されることになる。
 CはBの代理人ではないから,データの価値は把握できないし,Cは媒体の所有権のみを確保すれば満足するであろうから,Bのために最善の防御を行うことは期待できない。
 また,Bは「第三者」に該当せず,第三者没収手続に参加できない。Bの権利保護は,事後的に,A・Cへの損害賠償か,国家賠償によることになる。
 Bは重大な利害関係があるにもかかわらず没収手続には一切関与できない,Bのデータが,不代替性のものある場合など,金銭賠償では済まされない損害を受けるおそれもある。
(4)まとめ(図2)
 いずれの場合も媒体全部を没収せざるを得ない反面,適法なデータの支配者(B)が必ずしも没収手続に参加できないことが明らかである。
図2
寸法A




(5)解決方法
図3
寸法A




 立法論としては,いずれの場合も,データの一部が消去可能な場合には,データのうち違法な部分のみ(図3)を没収の対象として,部分没収するという制度を設けるべきである。これによって没収の目的は達成されるし,犯人以外の財産権侵害も最少に抑えることができる。
 この場合,媒体への影響もありうること,第三者のデータに影響を与えない執行方法を検討する必要があること,バックアップによるデータ保護の機会を与える必要があることから,媒体所有者及びデータの支配者に対する第三者没収の手続が必要となると考える。
 他方,データの一部消去ができない場合は,媒体+データを没収するしかない。その場合,犯人以外の媒体所有者やデータの支配者がいる場合には,全員に対して第三者没収手続を取り,バックアップの機会を与える必要がある。
 結局,何れの場合も媒体所有者とデータの支配者に対する第三者没収の手続が必要となる。
 現行実務についても,没収制度と第三者のデータ保護との調和を図るために,応急措置法2条の「所有」「物」の概念を緩やかに解して,媒体所有者とデータの支配者に対して第三者没収手続を行い,かつ,証拠物を保管する捜査機関や検察官の裁量により第三者にデータのバックアップの機会を与えるように運用を改めることは可能である。
7 改正動向
(1)刑事訴訟法改正案*14
 改正案は差押の段階で差押えを受けた者に対して媒体の交付・複写という制度を設け,没収の段階で電磁的記録については「消去」という没収方法を設けた。
 しかし,データバックアップの機会を与えるなどデータの所有者を保護する制度は設けられていない。
(2)刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法の改正案
 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案には「被告人以外の者に帰属する電磁的記録は,その者の所有に属するものとみなす」との規定が設けられている*15。これによって,犯人以外のデータが記録されている場合にはデータの支配者に対しても第三者没収手続が取られることになる。
 しかし,データの一部消去という没収方法や,データバックアップの機会を与えるなどデータの支配者を保護する制度は設けられていない。
8 課題 
(1)「被告人以外の者に帰属する」(応急措置法1条の2)とはどのような状態か?
 電磁的記録不正作出罪では「効用の帰属先」が重視されるが,没収の段階では,データの財産性が重視されるから「帰属する」というのも財産権保護の観点から理解されるべきであるといえる。
 そういう意味では,個人情報や会社の機密情報についての情報の主体に支配権はあるのかという問題も生じるであろう。
(2)データが帰属する者からの「複写」が認められていない。
 刑事訴訟法123条3項の複写の規定は差押を受ける者についてのみ認められたものであって,「データが帰属する者」を保護する規定ではない。データの支配者の財産権保護としては作用しない。
 技術的には電子媒体の「複写」が可能であることは条文上も確認されているのであるから,没収対象物上のデータに権利を有する者も,「複写」による権利保護の手続を設ける必要がある。
以上

*1
刑法19条第2項本文
 没収は,犯人以外の者に属しない物に限り,これをすることができる。
*2
新潟地裁長岡支部平成14年12月26日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
主文
 懲役2年 執行猶予4年
 押収してある光磁気ディスク1枚(平成14年押第22号の1)及びビデオテープ69巻(同号の2ないし70)をいずれも没収する。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 販売の目的をもって,別紙一覧表A記載のとおり,平成13年12月27日から平成14年4月26日までの間,前後8回にわたり,新潟県所在の「ホテル」206号室ほか6か所において,M(当時17歳)ほか2名が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童らを相手方とする性交場面又は性交類似行為場面若しくは性器等をビデオカメラで撮影し,同ビデオカメラに装着したビデオテープ12巻に記録,蔵置させるとともに,同児童らを相手方とする性交場面又は性交類似行為場面若しくは性器等を露骨にデジタルカメラで撮影した画像データを同デジタルカメラに装着したコンパクトフラッシュ等を経由した上,平成13年12月27日から平成14年2月11日までの間,被告人方において,パーソナルコンピューターを使用し,同画像データ51画像を光磁気ディスク1枚に記録,蔵置させ,もって,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識できる方法により描写するなどした児童ポルノを製造し,
第2 平成13年12月下旬ころ,Tに対し,性器等を露骨に撮影した映像がパーソナルコンピューターの画面に再生,表現できる情報を記録したわいせつ図画であるコンパクトディスク題名「××」1枚を,T方へ郵送して頒布し
第3
1 別紙一覧表1記載のとおり,平成14年1月27日ころから同年4月16日ころまでの間,前後5回にわたり,Kほか2名に対し,郵送の方法で,前記Mほか1名が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童らを相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,性器等を露骨に撮影した映像がパーソナルコンピューターの画面に再生,表現できる情報を記録したわいせつ図画であるコンパクトディスク題名「Yの1日」等5枚及び前記Mほか1名を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,前記行為等を露骨に撮影したわいせつのビデオテープ題名「Mちやん」等4巻を代金合計4万8000円で販売し,
2 別紙一覧表2記載のとおり,同年4月28日ころ及び同年5月中旬ころ,Kほか1名に対し,郵送の方法で,男女の性交場面及び性器等を露骨に撮影した映像がパーソナルコンピューターの画面に再生,表現できる情報を記録したわいせつ図画であるコンパクトディスク題名「Yちゃん」等3枚及び男女の性交場面等を露骨に撮影したわいせつのビデオテープ(ラベルにBと記載のあるもの)1巻を代金合計1万6000円で販売し,
第4販売の目的をもって,同年7月15日午後零時10分ころ,被告人方において,前記Mほか2名が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童らを相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等の映像がパーソナルコンピューターの画面に再生,表現できる情報を記録したわいせつ図画であるパーソナルコンピューター上のハードディスク,光磁気ディスク1枚(平成14年押第22号の1)及び別紙一覧表3記載のとおり,18歳に満たない児童である前記Mほか2名を相手方とする男女の性交場面等を露骨に撮影した児童ポルノであり,かつ,わいせつのビデオテープ(デジタルビデオテープ,8ミリビデオテープ,VHSビデオテープ)題名「Y」等29巻(同号の2ないし30)を所持するとともに,別紙一覧表4記載のとおり,男女の性交場面及び性器等を露骨に撮影したわいせつのビデオテープ(前同)題名「D」等40巻(同号の31ないし70)を所持したものである。

*3
東京高裁平成15年6月4日
3 MOの没収について(控訴理由第2)
所論は,本件MOには被告人がホームページの作成・管理を依頼されている顧客のデ−タが保管されており,顧客のデータについては,被告人以外の者が,プライバシー権,肖像権,著作権,商標権という人格権,物権を有することが明らかであり,本件MOは一部が犯人以外の者に属するのであって,これを没収することは刑法19条に違反し,憲法31条,29条にも違反する,という。
所論のとおり,本件MOには,ホームページのバックアップデータと推認されるファイルも記録されているが,本件MOが没収されることによって被告人の請負ったホームページの作成,管理が不可能になったとしても,被告人が債務不履行責任を負い,発注者が,被告人や第三者に対し本件MOに保存されている発注者が提供したファイルを無断で使用しないよう請求することはできても,本件MO自体は被告人の所有物であり,発注者等が本件MOについて物権的な権利を有しているとは認められない。また,没収は,物の所有権を観念的に国家に帰属させる処分にすぎず,帰属した物の処分は別個の問題である。仮に国に帰属した後に,国が本件MOを発注者等の権利を害するような使用や処分をしようとした場合には,その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め得る可能性はあるとしても,そのような可能性があることは没収の言い渡しを何ら妨げるものではない。
論旨はいずれも理由がない。
*4
コンメンタール刑法第8巻P181
(3) 未解決の問題
 この法律には,没収対象物の上に第三者の制限物権が存在する場合の手続,及び,第三者追徴の手続が設けられていない。
 この二つの問題は,立案当局者によれば,立案の過程で論議されたが, 意識的に解決を図らなかったものであるという(白井=鈴木・解説18頁)。
*5
第43国会衆議院法務委員会会議録昭和38年05月21日
*6
第43国会衆議院法務委員会会議録昭和38年06月04日
*7
改正刑法草案第80条本文(補償)
没収すべき物が,第三者の所有に属し,又は第三者の物権を負担しているときは,その損害に対し補償を与えなければならない。
*8
刑法第163条の4第2項
不正に取得された第百六十三条の二第一項の電磁的記録の情報を,前項の目的で保管した者も,同項と同様とする。
*9
http://www.moj.go.jp/HOUAN/KEIHO5/refer02.pdf
*10
刑法第234条の2
人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し,若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え,又はその他の方法により,電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず,又は使用目的に反する動作をさせて,人の業務を妨害した者は,五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する
*11
東京高裁H14.12.17
付言するに,没収は,目的物に対する所有権その他の物権を失わせ,これを国庫に帰属させる効果を生じさせるものであるから,有体物のみを対象とし,かつ,独立性を有しない物の一部分のみの没収は観念することができないのであり,ましてや,有体物でない,本件各パソコン中に記録されている電磁記録のうち,犯罪に関するもののみを抹消するなどして,これをもって没収とすることは,現行法上は,法が予定していないというべきである。なお,偽造・変造文書につき偽造・変造部分に限った没収が可能であるのは,当該部分に偽造・変造である旨の表示をすることによって社会的危険性を喪失させることが可能であると共に,その余の部分が独立の効用を有する場合も少なくないことに照らし,法が特に認めたもの(刑訴法四九八条一項にその執行方法の規定がある。)であって,独立性を有しない物の一部や,有体物でない電磁情報の一部に限り没収することを現行法は予定していないと解される。
*12
東京高裁判例速報3186号
○備考
本件は,没収に関する規定が制定された当時には全く予想されていなかった事例であり,今後本件と同種の事例(例えば,携帯電話の利用等)が多発するものと予想されるので,犯行に供したパソコン,携帯電話等の没収の根拠,方法等につき,十分検討すべきものと思われる。なお,研修613号(99/7)の「磁気ディスクの偽造データの入ったファイルの処分について」においても,パソコンのファイルの没収の可否等につき解説がなされている。
*13
千葉簡裁 略式命令H15.10.21 関税法違反
千葉区検察庁で保管中のハードディスクドライブ1点に記録された,わいせつファイル6572ファイル(平成15年千葉検領4024号符号1)を没収する。
*14
http://www.moj.go.jp/HOUAN/KEIHO5/refer02.pdf
刑事訴訟法第百二十三条第三項中「前二項」を「前三項」に改め,同条第二項の次に次の一項を加える。
押収物が第百十条の二の規定により電磁的記録を移転し,又は移転させた上差し押さえた記録媒体で置の必要がないものである場合において,差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者,所持者又は保管者とが異なるときは,被告事件の終結を待たないで,決定で,当該差押えを受けた者に対し,当該記録媒体を交付し,又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。
第四百九十八条の次に次の一条を加える。
第四百九十八条の二
1 不正に作られた電磁的記録又は没収された電磁的記録に係る記録媒体を返還し,又は交付する場合には,当該電磁的記録を消去し,又は当該電磁的記録が不正に利用されないようにする処分をしなけばならない。
*15
http://www.moj.go.jp/HOUAN/KEIHO5/refer02.pdf