児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

併合審理の利益

 ここで問題になるとは思いませんでした。
 併合審理の利益とか量刑の困難を理由として家裁の児福も地裁に引き取ったのに、今度は同じ地裁内部で分けるんですか?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090725-00000005-khk-l04
ただ、今回を含め併合罪の関係にある複数の事件の審理を分離し、個々の刑罰を合算した場合、併合罪処理で一括するより重くなるとの見方があり、弁護士側からは「被告の利益を害しかねない」との指摘も出ている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090725-00000013-khk-l04
元仙台高裁部総括判事の泉山禎治弁護士(仙台弁護士会)は「裁判官は併合罪処理に当たり、重い方の罪の刑に軽い方の罪の刑を含ませて刑期を考える」と解説した上で、審理を中断した裁判官の心中を「併合した場合に出る判決の量刑に近づけたいと考えているのではないか」と推察する。
 検察側もこれまで、併合罪処理を前提に求刑内容を検討してきており、今回のようなケースは「まったく未知の世界」(仙台地検幹部)。地検は、求刑の在り方を仙台高検と協議している。
 泉山弁護士は「分離した上で、『実は別件と併合罪の関係です』と説明されても裁判員は混乱するだけ。併合して一体的に刑を考えてもらうべきだ」と指摘。「被告側が起訴内容を争わないなら、併合しても裁判員への負担にはならないはずだ」と話している。


 双方の裁判所が併合審理の利益とかを意識しないと、足したときに重過ぎる量刑になり、意識しすぎると、足してもちょっと軽い量刑になることがあります。
 以前、控訴審でこういう主張をして3割くらい減軽してもらったことがあります。

2 併合審理の利益=分離すると量刑の上の不都合が生じる
 一般論として、判例や裁判官の論稿でも認められる現象である。

最高裁判所大法廷判決昭和28年6月10日
被告人は昭和二四年五月二四日東京地方裁判所で賍物故買により懲役一〇月(三年間執行猶予)及び罰金一万円に処せられ右判決は確定した。被告人の本件賍物故買は前記確定判決よりも前である昭和二三年一一月四、五日頃に犯したものであることは第一審判決の確定したところであるから、この二つの罪は刑法四五条後段の併合罪の関係に立つこと明である。かような併合罪である数罪が前後して起訴されて裁判されるために、前の判決では刑の執行猶予が言渡されていて而して後の裁判において同じく犯人に刑の執行を猶予すべき情状があるにもかかわらず、後の判決では法律上絶対に刑の執行猶予を付することができないという解釈に従うものとすれば、この二つの罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言渡されたであろう場合に比し著しく均衡を失し結局執行猶予の制度の本旨に副わないことになるものと言わなければならない。それ故かかる不合理な結果を生ずる場合に限り刑法二五条一号の「刑ニ処セラレタル」とは実刑を言渡された場合を指すものと解するを相当とする。従て本件のように或罪の判決確定前に犯してそれと併合罪の関係に立つ罪についても犯人の情状次第によつてはその刑の執行を猶予することができるものと解すべきである。それ故かかる場合においては刑法二六条二号にいう「刑ニ処セラレタル」という文句も右と同様に解し後の裁判において刑の執行猶予が言渡された場合には、前の裁判で言渡された刑の執行猶予は取消されることがないものと解するのが相当であると言わなければならない。以上の観点から原判決を見ると、原判決が「本件につき原審裁判言渡当時は勿論現在も尚猶予期間中であり被告人に対しては更に刑の執行を猶予すべき法定の要件を欠く」と判示したのは執行猶予の要件に関する法令の解釈を誤つた法令違反があるものと断ぜざるをえないのである。

特に、児童福祉法違反の場合の併合の利益については、池本判事も指摘しているところである。

池本「児童の性的虐待と刑事法」判例タイムズ1081号
2 審理上の難点
前記の家庭裁判所の専属管轄の定めは、反面他の事件は家庭裁判所では審理できないのであるから、審理に当たって、事件の併合ができず、思いがけぬ不都合が生じることがある。同一の被告人が、例えば覚せい剤使用と淫行罪で逮捕された場合に、覚せい剤取締法違反事件は地方裁判所に、児童福祉法違反事件は家庭裁判所に起訴しなければならない。これら二つの事件は別々に審理され、それぞれに判決をするので、通常の地方裁判所での審理のように、審理をできる限り一括して行い、併合罪処理された刑を量走するというわけにいかない。先行する裁判所が当該事件での刑を決め、遅れた裁判所が刑法四五条後段の併合罪として同法五〇条によりさらに処断することになる。しかし、それにしても、蕃理期間も絶対的に長くなり、二つともに実刑判決を受けた被告人の場合は重罰感を感じることは往々にしてあり、かかる事情がしばしば控訴審での量刑不当で原審破棄の結果を招く。もちろんこのような事態は、確定裁判後に古い前の事件が起訴されたときに地方裁判所でもあることではある。

そのために刑法五〇条が存在し、地方裁判所でも、場合により主文二つの判決となることもあるが、家庭裁判所では、前後の事件がいわば見えているのに併合審理できないのはいかにも不自然でもどかしい。これがしばしば生じる不都合である。

 最近になって、植村判事も併合の利益が害されることなどを理由にして少年法37条廃止論を唱えられている。
    植村立郎「司法改革期における少年法に関する若干の考察ー少年法37条の削除についてー」判例タイムズ1197

 もう一方の事件を考慮できないことにより量刑に支障が出ることは原田判事も指摘する。
原田國男「量刑判断の実際」 増補版P196

 池本判事も「審理上の難点」を指摘されている。
池本寿美子「児童の性的虐待と刑事法」判例タイムズ1081


 その結果、少年法37条は廃止されることになったのだが、その際の国会審議*72*73においても、「量刑上の不都合」が強調されている。

004/006] 169 - 衆 - 法務委員会 - 14号 平成20年05月30日
○大野政府参考人
 さらに、今のような家裁管轄の状況ですと、当該の成人につきまして、家裁が管轄を有する少年法三十七条一項に掲げる事件とそれ以外の地裁が管轄を有する事件がいわゆる併合罪の関係にある場合に、家裁と地裁に別々に訴えを提起することになりまして、それによって審理期間が不当に長くなったり、あるいは併合して一括して審理された場合とは異なる刑が言い渡されるという不都合があるわけであります。
 また、家裁管轄の成人の刑事事件につきましては、家庭裁判所に起訴されるということで、簡易裁判所で出されることになる略式命令による処理ができないという不都合もあるわけです。
 そこで、今回、少年法三十七条を削除いたしまして、同条一項に掲げられた少年の福祉に係る成人の刑事事件につきましても、ほかの事件と同様に地方裁判所等で取り扱うこととしたものであります。

[001/006] 169 - 参 - 法務委員会 - 16号 平成20年06月10日
○政府参考人(大野恒太郎君) 
 かえって、今のような少年の福祉を害する成人の刑事事件を家裁の管轄にしておりますと不都合な点があるのではないかというような指摘もなされております。
 一つは、家裁の管轄を有する少年の福祉を害する事件とそれ以外の事件があった場合に、併合罪と申しますけれども、があった場合に、家裁と地裁に別々に訴訟を提起するということになりますと審理期間が長くなります。あるいはまとめて審理された場合と異なる刑が言い渡されることもあるというような点が指摘されております。
 また、家裁専属管轄の成人の刑事事件というものを設けますと、いわゆる略式命令による罰金の処理という簡易迅速な処理が認められない。これは簡裁の管轄とされておりますので、家裁ではそうした手続が取れないというような不都合もございます。
 そうしたことで、今回、少年法三十七条を削除いたしまして、児童福祉法違反等成人の刑事事件につきましては、ほかの事件と同様に地方裁判所で取り扱うものとしたわけであります。

 奥村だからなんでも福祉犯に関連づけると思われるかもしれませんが、併合審理の利益の話になると、なぜかいきなり児童淫行罪と3項製造罪が出てくるのです。

原田國男「量刑をめぐる諸問題−裁判員裁判の実施を迎えて−」判例タイムズ1242号P86
6 非併合判決に対する量刑統一の必要性
併合の利益というものは,実体法上のものではなく,手続上の併合審理の利益ともいえよう。このような場合には,それぞれの裁判所で一般予防・特別予防に関する一般情状が重複して考慮されるおそれがあるから,控訴審でこの二重評価をできるだけ解消する必要が生じる。控訴審における客観的併合については,現在のところ一般に行われていない。家庭裁判所管轄事件と地方裁判所管轄事件(例えば,児童福祉法違反の罪と児童買春等処罰法違反の罪)がそれぞれ控訴された場合,それぞれ各部に配点されるので,偶然同一の部にでも配点されない限り,各部で各別に審理がなされるため,弁護人から併合の請求が出されることがある。例えば,児童買春等処罰法違反の罪について,地方裁判所で執行猶予付きの懲役刑の判決を得ても,児童福祉法違反の罪について,家庭裁判所実刑の判決を受けていると,その確定により執行猶予も取り消されるために,結果的には合計刑期が重めになることもあるから,同一の部で審理・判決をしてほしいというのである72)。
 しかし,このような場合に,客観的併合をした例は今のところ聞かない。それは,事実上の調整も可能であることなどによるものであろう。しかしながら,裁判員裁判において前記のように非対象事件と対象事件との非併合処理が多くなってくるとすれば,単なる事実上の調整では不十分で,控訴審における客観的併合の必要性も高まることも予想される。この場合には,各原判決を破棄して,併合罪処理をして一つの統一刑を定めることが可能かなどの理論的検討が必要であろう。

72)児童淫行罪と児童ポルノ製造罪について,合計の量刑が重くなるので,これを調整するために,二重評価禁止の原則を適用して,管轄を異にするため法律上併合審理が認められない場合について,併合による利益を実際上考慮すべきことを判示した判例がある(東京高判平成17年12月26日判例時報1918 号122 頁)。この事例は,いわゆる「かすがい」現象で全体が一罪になる場合でも,検察官による「かすがい」に当たる犯罪の不起訴裁量を認めるが,そのために併合審理ができないことの不利益を量刑上考慮すべきであるとするものである。なお,この判例の指摘する問題は,むしろ,将来,児童淫行罪等の家庭裁判所専属管轄の成人事件を地方裁判所に移管することにより抜本的に解決すべきであろう。最近,この主張をテーマにした論考として,植村立郎「司法改革期における少年法に関する若干の考察」判例タイムズ1197 号60頁以下がある。

東京高等裁判所刑事部部総括裁判官研究会「控訴審における裁判員裁判の審査の在り方」判例タイムズ1296号P13
公平の理念に関して,共犯者間の量刑lの均衡をどう考えるかについて意見を交わした。従来の実務では!共犯者の刑の均衡を重視し,各別に審理が行われた場合でも,控訴審で他の共犯者の判決書を取り調べ、その結果第l審判決を量刑不当として破棄することも少なくなかった。しかし裁判員裁判では。基本的に共犯者について併合審理が行われず,各別に審埋されることが多くなると予想されているがその場合には各被告人の審理で提出される証拠が違うため量刑の基礎となる事情も違ってくる。また,行為責任の観点から量刑を考えるといっても,裁判体ないし裁判員によってどのような要素を量刑上重視するかの見方は異なり得るであろう。したがって共犯者の刑の均衡という観点は,裁判員裁判では,従来よりは重視されなくなることも予想される。この点は,まずは第1審の量刑判断の問題であり,按訴審の量刑審査の基準はこれを受けて考えることになるが,今後さらに検討を嬰するものと思われる。このようなところがほぼ全員に共通の認識であった。

追記
 児童に対する強制わいせつ致傷罪の機会に3項製造罪も行われて、「併合罪」だとして分離された場合、罪数処理(観念的競合?)によっては
 1 二重起訴ではなかったか
 2 軽い製造罪を先に確定させると一事不再理効が及ぶのか
 3 どっちも性犯罪なので、一般情状はまるまる二重評価されているんじゃないか
という問題が生じます。というか、そういう主張をしますよ。