児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

家裁と地裁に分かれたときの不都合

 裁判所が処遇意見を書くのなら、弁護人も言わせてもらう。
 他に実刑判決があるときは、仮釈放されないですよね。無意味ですから。

1 仮釈放要件の不平等
 仮に被告人が
  家裁事件 懲役a年
  地裁事件 懲役b年
という判決を受けたとして、これが確定すると、おそらく重い家裁事件の刑から執行され、法律上はa/3年執行されたところで仮釈放の要件を備えるが、地裁事件の刑期があるから、仮釈放は審理(更生保護法)すらされない。

刑法第28条(仮釈放) 
懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。

刑訴法第474条〔刑の執行の順序〕
二以上の主刑の執行は、罰金及び科料を除いては、その重いものを先にする。但し、検察官は、重い刑の執行を停止して、他の刑の執行をさせることができる。

 結局、家裁事件の刑期は満期まで執行されて、さらに、地裁事件の刑期の1/3が経過するまで(合計a+b/3年)仮釈放の要件を満たさない。
 併合審理されて、仮に刑期が懲役(a+b)年であれば(a+b)÷3年で仮釈放の要件を満たすのとは著しい違いである。
  (a+b)/3−(a+b/3)=2a/3年の損

 474条但書があるから、検察官が裁量によって軽い刑の執行を途中で先行させることは理解できるが、そのように執行される保証がない。
 刑訴法474条が適用される場合には、受刑中に別事件の実刑が確定するとか執行猶予中の再犯の場合があるが、その場合は、数回の裁判を順次経てくるので受刑者も覚悟の上であろう。
 しかし、本件のように、同一被害者に対する児童淫行罪と製造罪とが判例に違反して、別々に執行されるというのは、被告人にとって、予見不可能・回避不可能であって、酷である。

 単に事物管轄の問題で、同時審判可能な事実を分けて判決して、しかも、仮釈放要件においても、併合審理した場合よりも極めて不利益に扱うのは、不合理な差別にほかならない。

 せめて、処遇意見として家裁事件と地裁事件が併合審理された場合と不平等にならないような意見(家裁事件の刑期を1/3終えた時点で地裁事件の刑の執行に変更すること)を付すべきであって、そのような配慮が必要である。

寝屋川の教職員殺傷 少年に懲役12年判決 発達障害「処遇に配慮」/大阪地裁
2006.10.19 読売新聞
 判決の中で、横田裁判長は、少年に対する具体的な処遇方法を挙げ、「少年刑務所で個別的処遇が行われ、犯行の重大さや遺族らに与えた苦しみの深さを心の底から感じられるよう強く希望する」との異例の処遇意見を付けた。
・・・
 少年に対する処遇意見として、横田裁判長は〈1〉少年院での勤務経験のある法務教官を配置し、個別処遇計画を策定する〈2〉成人に達した後も長期的継続的な処遇を行う〈3〉両親や主治医など面会でも治療・教育効果に配慮して柔軟な運用を行う〈4〉刑務所内だけではなく、服役後の社会適応も重視し、仮釈放でもこの点を留意する−−など、具体的な処遇方法を列挙した。

 
2 少年法37条の廃止後との均衡
 平成20年12月15日以降に起訴される児童淫行罪については地方裁判所で審理されることとされている。

法律第七十一号(平二〇・六・一八)
少年法の一部を改正する法律
附 則
 (経過措置)
2 この法律の施行の日前にこの法律による改正前の少年法第三十七条第一項の規定により公訴の提起があった成人の刑事事件については、この法律による改正後の少年法、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定にかかわらず、なお従前の例による。沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(昭和四十六年法律第百二十九号)第二十六条第四項の規定により家庭裁判所が権限を有する成人の刑事事件についても、同様とする。

少年法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令
平成20年10月31日金曜日官報(号外第238号)
少年法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令をここに公布する。
御名御璽
平成二十年十月三十一日
内閣総理大臣 麻生太郎
政令第三百三十五号
少年法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令
内閣は、少年法の一部を改正する法律(平成二十年法律第七十一号)附則第一項の規定に基づき、この政令を制定する。
少年法の一部を改正する法律の施行期日は、平成二十年十二月十五日とする。
法務大臣森英介
内閣総理大臣麻生太郎

 本件も、起訴が遅ければ、家裁事件もまとめて地裁で審理されていたところである。もしそうであれば量刑上の不都合もなければ、仮釈放要件の差別もなかった。
 起訴の時期によって、これほどの不平等があることは許されない。