杉本啓二「少年法37条2項における『前項に掲げる罪の刑をもって処断すべきとき』の判断方法」家裁月報 38巻11号161ー177頁では、一審の手続における判断時期が検討されていますが、原判決に示談して破棄減軽する場合の控訴審ではどうなるのか?
児童福祉法違反と恐喝罪なんか法定刑の懲役刑が同じなので、観念的競合になると、少年法37条、刑法10条で管轄が決まるわけです。
「犯情によってその軽重を定める。」
少年法第37条(公訴の提起)
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
一 未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)の罪
二 未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)の罪
三 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第五十六条又は第六十三条に関する第百十八条の罪、十八歳に満たない者についての第三十二条又は第六十一条、第六十二条若しくは第七十二条に関する第百十九条第一号の罪及び第五十七条から第五十九条まで又は第六十四条に関する第百二十条第一号の罪(これらの罪に関する第百二十一条の規定による事業主の罪を含む。)
四 児童福祉法第六十条及び第六十二条第五号の罪
五 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条及び第九十一条の罪
2 前項に掲げる罪とその他の罪が刑法(明治四十年法律第四十五号)第五十四条第一項に規定する関係にある事件については、前項に掲げる罪の刑をもつて処断すべきときに限り、前項の規定を適用する。
刑法
第54条(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
2 第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。第10条(刑の軽重)
主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。
3 二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。
その「犯情」というのに、「犯罪後の情況」を含めていいですよね。それで刑期変わってくるんだから。
で、控訴審では、原判決後の示談で減軽されることもある。
杉本論文によれば、管轄は、審理の最初から最後まで存在しないとだめだから、控訴審の終結時点で改めて問題となる。
そこで、一審の管轄を見ると、
恐喝+児童淫行罪の事案について、家裁に起訴された場合、恐喝兼児童淫行罪の被害者と、児童淫行罪に限って示談すると、示談した児童淫行罪の犯情は示談していない恐喝罪の犯情と比較すると軽くなって家裁は管轄を失うということもありうる。
恐喝+児童淫行罪の事案について、地裁に起訴された場合、恐喝兼児童淫行罪の被害者と、恐喝罪に限って示談すると、示談した恐喝罪の犯情は示談していない児童淫行罪の犯情と比較すると軽くなって地裁は管轄を失うということもありうる。
これは、控訴審で原判決を破棄した場合でも同じ。続審だから。