児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

二重起訴・一事不再理・管轄違の各場面における公訴事実同一性の判断基準

 一事不再理の場合は(最高裁H15.10.7)、一方は確定しているので、確定している事件の実体を掘り下げることはできないのですが、それ以外の場合には、実体に入れますし、実体審理に入っているのが普通です。
だから、二重起訴や管轄違の判断基準を訴因に限定するのはおかしいですよね。

(1) 弁護人の主張=二重起訴・一事不再理・管轄違のいずれについても、実体法上一罪の関係であれば足りる
 両事件が実体法上一罪だとして、次に、二重起訴・管轄違・一事不再理を決める基準としては、弁護人は訴因を対照することなく実体法一罪であれば十分と考える。
 実際、少なくとも事物管轄と二重起訴に関する刑訴法10条の「同一事件」の解釈においては、訴因対照ではなく公訴事実が事実上同一であれば足りる。なぜなら、一事不再理効の場合(一方は確定していて証拠関係は調査できない。)と違い、刑訴法10条の場合は両事件の裁判所は、共に未確定であり、共に既に実体審理に適法に立ち入っているから、法10条もその上での「同一事件」が生じた場合の規定であると解されるからである。

 しかも訴因対照説の判例最高裁H15)は一事不再理効のみに関するものであるから、管轄・二重起訴の問題においては、判例は妥当しない。

第10条〔同一事件と数個の訴訟係属〕
?同一事件が事物管轄を異にする数個の裁判所に係属するときは、上級の裁判所が、これを審判する。

 
 実質的な理由はその控訴審判決(東京高裁H14.3.15)に記されている。

東京高等裁判所判決平成14年3月15日
 実質的にみても,前記裁判例のように解すると,単純窃盗の訴因で有罪となった確定判決が存在し,それが後訴において,常習特殊窃盗罪の一部についてなされた有罪判決であると判断された場合,前記確定判決以前に敢行した同様の方法によるすべての窃盗行為に一事不再理効が及び,そのような窃盗の余罪が後になって発覚し,それらを起訴すると,単純窃盗罪として処罰された確定判決は本来は常習特殊窃盗罪の一部についてなされた確定判決であったとして,免訴の裁判を受けることになり,結局,前記余罪については起訴できないことになるが,このことは,盗犯等防止法2条各号所定の方法という危険な方法による窃盗行為を反復累行した犯人を重く処罰しようとする法の趣旨を著しく没却し,不合理な結果となるばかりでなく,前記のように,盗犯等防止法2条各号所定の方法による単純窃盗罪により確定判決を受けた被告人が,それ以前の同種の方法による犯行について,単純窃盗罪として起訴された場合,後訴裁判所としては,両訴因の比較という観点を基礎として検討するだけでは足りず,訴訟条件に関わる免訴事由存否の判断のために,常に両訴因に掲げられた窃盗行為が一つの常習特殊窃盗罪を構成するものであるか否かを検討しなければならず,場合によっては,この点を解明するために証拠調べを重ねなければならないことも考えられるのであって,およそ実務処理上も妥当とはいえない帰結に至ることが明らかである。