児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

5項製造罪(不特定多数)と4項提供罪(不特定多数)は牽連犯(東京高裁)? 併合罪(大阪高裁)?

 大阪は厳しいけど、東京は甘いみたいです。9刑は変説。

東京高裁h20.8.13(第9刑事部)
 6 法令適用の誤りについての職権による指摘
 原判決には,(1)原判示第2の事実について,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項前段,4項前段を適用すべきところを,同法7条5項前段しか適用しなかった点,(2)原判示第3の事実中,児童ポルノ提供及び児童ポルノ提供目的所持について,7条5項前段、4項前段を適用すべきところを,同法7条5項前段,4項後段を適用した点,(3)原判示第2と原判示第3の罪を牽連犯とした上で,原判示第3の児童ポルノ提供目的所持の罪の刑で処断するとしたにもかかわらず,原判示第2の刑種の選択をした点,(4)主文で没収を言い渡したにもかかわらず,その根拠法条を摘示しなかった点で,法令適用の誤りがあるが,これらはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかな誤りとはいえない。

原判決
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さいたま地裁川越支部H20.3.11
(法令の適用)
◇罰条
・判示第1の所為    包括して,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律4条,2条2項1号
・判示第2の所為    包括して,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項前段
・判示第3の所為のうち,
 児童ポルノ提供,児童ポルノ提供目的所持の点
            包括して,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項後段,5項前段
 わいせつ図画販売,わいせつ図画販売目的所持の点
            包括して,刑法175条
・判示第4の所為    組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項前段
◇科刑上一罪の処理   
刑法54条1項前段・後段,10条(判示第3の児童ポルノ提供とわいせつ図画販売,児童ポルノ提供目的所持とわいせつ図画販売目的所持は,それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,判示第2の児童ポルノ製造と判示第3の児童ポルノ提供・わいせつ図画販売,児童ポルノ提供目的所持・わいせつ図画販売目的所持との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重い児童ポルノ提供目的所持の罪の刑で処断)
◇刑種の選択     判示第1,第2の各罪につき,それぞれ懲役刑を選択
            判示第3,第4の各罪につき,いずれも懲役刑及び罰金刑の併科を選択
併合罪の処理     刑法45条前段,懲役刑につき47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重),罰金刑につき,刑法48条2項(判示第3,第4の各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内)
◇未決勾留日数の算入  刑法21条(懲役刑に算入)
◇労役場留置      刑法18条
◇訴訟費用       刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)

(弁護人の主張に対する判断)
2 本件の罪数について
 判示第1(児童買春)の罪数についてみると,本件児童買春(2件)は,被告人が,被害児童との性交等の状況を撮影した画像を収録したDVD−Rを不特定多数人に販売する目的で,1か月余りの間に同一の被害児童に対し繰り返し敢行した犯行であり,同一の犯意に基づいて比較的短期間に反復された犯行であるから,犯意の継続性や犯行態様の同一性等に照らし,包括一罪になると解するのが相当である。
  判示第2(児童ポルノ製造)の罪数についてみると,本件児童ポルノ製造(3件)は,被告人が,不特定多数人に販売する目的で,同一の被害児童との性交等の画像を収録したDVD−Rを繰り返し製造したというものであり,相当期間にわたり反復累行された犯行の一環であることにも照らせば,包括一罪になると解するのが相当である。
  判示第3(児童ポルノ提供・同提供目的所持,わいせつ図画販売・同図画販売目的所持。以下「児童ポルノ提供等」ということがある。)の罪数についてみると,本件児童ポルノ提供・同提供目的所持は,反復累行された営業的な犯行の一環であるから,犯意の継続性や犯行態様の同一性等に照らし,包括一罪であると解される。また,本件わいせつ図画販売・同販売目的所持も,同様に包括一罪であると解される。
  そして,本件児童ポルノ提供・同提供目的所持と本件わいせつ図画販売・同販売目的所持の中には観念的競合の関係に立つものも含まれているので,結局,判示第3(本件児童ポルノ提供等)は全体が科刑上一罪になると解するのが相当である。
  判示第4(犯罪収益仮装)は,児童ポルノの販売を営業的に行っていた被告人が,他人名義の預金口座に代金を振り込ませるという犯罪収益の仮装行為を反復累行していたものであり,犯意の継続性や犯行態様の同一性等に照らし,包括一罪になると解するのが相当である。
  判示第1(児童買春)と判示第2(児童ポルノ製造)との罪数関係についても,同様に,両者は,罪質上通例手段結果の関係にあるとまではいえないので,両者は併合罪になると解するのが相当である。
  判示第1(児童買春)と判示第3(児童ポルノ提供等)の罪との罪数関係についてみると,被告人は,被害児童との性交等の状況を撮影した画像を収録したDVD−Rを不特定多数人に販売する目的で,上記の各犯行に及んでいるが,両者は,罪質上通例手段結果の関係にあるとまではいえないので,両者は併合罪になると解するのが相当である。
  判示第2(児童ポルノ製造)と判示第3(児童ポルノ提供等)との関係についてみると,両者は,罪質上通例手段結果の関係に立つので,両者は牽連犯になると解するのが相当であり,結局,これらの罪は科刑上一罪となる。

阪高裁h20.4.17
 (4) 所論は、原判示第2の児童ポルノ提供目的製造罪、同第1の2の児童ポルノ提供目的所持罪、同第1の1の児童ポルノ提供罪は牽連犯である、というのである。
   しかしながら、前述の児童ポルノ法の立法趣旨、保護法益等に照らすと、同法が児童ポルノ等の製造、所持、提供の各行為を並列的に禁圧する規定を置いているのは、児童ポルノ等が児童の権利を侵害するなど、社会に極めて重大かつ深刻な害悪を流す特質を有するところから、その害悪の流布を防止するため、製造、所持、提供の行為如何を問わず、あらゆる角度から児童ポルノ等に関する行為を列挙してこれらを処罰の対象とする趣旨と解される。したがって、その製造、所持、提供の各行為は、別個独立の行為として、それぞれ一罪として処罰されるべきであり、しかも、これらの犯罪の通常の形態として、その性質上、必然的な手段又は当然の結果という関係にあるなどともいえないから、これらの犯罪を連続して犯したとしても、所論がいうような牽連犯ではなく、併合罪になるものと解すべきである。
   なお、同第1の1の児童ポルノ提供罪と同第1の2の児童ポルノ提供目的所持罪とは、刑法45条前段の併合罪として処理すべきであるのに、両罪を包括一罪として処理した原判決には法令適用の誤りがあるが、これを正当に処理した場合と比較すると、他罪との併合罪という関係もあって、懲役刑の処断刑の範囲は同一であり、罰金刑の合算額に一応は差異を生じることになるが、最終的に、罰金額の点を含め刑の量定が不当であるとまでは認められないことなどに照らすと、その法令適用の誤りは、判決に影響することが明らかであるなどとはいえない。

東京高裁h15.6.4(第9刑事部)
2 罪数関係の誤りをいう論旨について(控訴理由第8,第11,第13,第14)
所論は,
児童ポルノ罪は,個人的法益に対する罪であるから,被害児童毎に包括して一罪が成立し,製造・所持は販売を目的としているから,製造罪,所持罪,販売罪は牽違犯であり,これらはわいせつ図画販売罪・わいせつ図画販売目的所持罪と観念的競合になり,結局,一罪となるが,原判決は,併合罪処理をしており,罪数判断を誤っている(控訴理由第8),などという。
 まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この立法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。
 もっとも,わいせつ図画販売目的所持罪と同販売罪とは包括一罪であるから,結局,原判示第2ないし第4の各罪は一罪として評価されるべきであり,この点で原判決には法令の適用を誤った違法があるが,処断刑期の範囲は同一であるから,判決に影響を及ぼすものではない。

 以前9刑は併合罪説だったんですけどね。