最決H21.7.7の併合罪の主張はどうして適法なのかという質問です。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090709090953.pdf
なお,所論にかんがみ,本件第1審判示第3の罪に関する第1審の訴因変更手続の当否につき職権により判断する。
1 原判決の認定によれば,上記訴因変更に関する事実経過は以下のとおりである。
(1) 本件第1審判示第3の罪に関する当初の公訴事実の概要は,「被告人は,前後11回にわたり,3名の者に対し,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R合計11枚及びわいせつ図画であるDVD−R合計25枚を不特定又は多数の者に販売して提供した。」というものであった。
(2) 次に,検察官は,(1)の提供行為を維持したままで,さらに5回の提供行為を追加し,「被告人は,前後16回にわたり,4名の者に対し,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R合計21枚及びわいせつ図画であるDVD−R合計67枚を不特定又は多数の者に販売して提供した。」とする訴因変更を請求し,第1審裁判所はこれを許可した。
・・・・
2 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項にいう児童ポルノを,不特定又は多数の者に提供するとともに,不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合には,児童の権利を擁護しようとする同法の立法趣旨に照らし,同法7条4項の児童ポルノ提供罪と同条5項の同提供目的所持罪とは併合罪の関係にあると解される。
しかし,児童ポルノであり,かつ,刑法175条のわいせつ物である物を,他のわいせつ物である物も含め,不特定又は多数の者に販売して提供するとともに,不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持したという本件のような場合においては,わいせつ物販売と同販売目的所持が包括して一罪を構成すると認められるところ,その一部であるわいせつ物販売と児童ポルノ提供,同じくわいせつ物販売目的所持と児童ポルノ提供目的所持は,それぞれ社会的,自然的事象としては同一の行為であって観念的競合の関係に立つから,結局以上の全体が一罪となるものと解することが相当である。
所論は,児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪とが本来併合罪の関係にある以上,そのように解するのは相当でない旨いうが,採用できない。
3 したがって,これと同旨の見解の下に第1審の訴因変更手続に違法はないとした原判断は,相当である。
上告理由第1 法令違反〜訴因変更の違法
1 はじめに
本件の提供・販売・所持罪の訴因をみると、3/13起訴の販売・提供罪の訴因に、余罪の販売・提供・所持罪が4/18と5/21の訴因変更請求によって追加されている。
検察官がこのような処理を行うのはわいせつ図画罪(刑法175条)が包括一罪だという古い判例に従っているものと推察されるが、児童ポルノ罪という異質で重い罪が伴っている場合にもその古い判例が妥当するのかは疑問である。
この問題についての裁判例は次の4通りある。
(1)わいせつ図画罪と児童ポルノ罪の混合的包括一罪となるという考え方
(2)わいせつ図画罪は包括一罪、児童ポルノ罪も包括一罪として、両者が観念的競合となるという考え方
(3)(各児童ポルノ罪は包括一罪とはならないが)わいせつ図画罪は包括一罪、各わいせつ図画の行為と児童ポルノ罪とは観念的競合、かすがい現象によって、結局、全部科刑上一罪となるという考え方
(4)わいせつ図画と児童ポルノ罪は観念的競合となるが、児童ポルノ罪を伴う場合には、わいせつ図画罪は包括一罪とならず、かすがい現象を認めないという考え方
弁護人の主張は
(4)わいせつ図画と児童ポルノ罪は観念的競合となるが、児童ポルノ罪を伴う場合には、わいせつ図画罪は包括一罪とならず、かすがい現象を認めない
である。
わいせつ図画罪が伴う場合にも、各罪は併合罪であって、一審判決・原判決の罪数判断には誤りがある。
また、併合罪を前提にすると、本件の訴因変更許可は違法無効であるから、追加された訴因については実体判断をした一審判決には訴訟手続の法令違反がある。追認した原判決も誤りである。
併合罪とする裁判例が多数あるのに本件についてのみ一罪としたことは法適用における不合理な差別であるから、一審判決には法令適用に憲法14条違反の違法がある。
いずれにせよ原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違反があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するから、原判決は破棄を免れない(411条1項)。
併合罪の主張であるが、3/13起訴の販売・提供罪の訴因に、余罪の販売・提供・所持罪が4/18と5/21の訴因変更請求によって追加されているのであるから、併合罪となることを前提とすれば、4/18と5/21の訴因変更請求にかかる訴因変更許可は違法無効となって、審判対象が大幅に削られるから、被告人に有利な主張である。
2 児童ポルノ罪の罪数
児童ポルノ罪の保護法益がもっぱら個人的法益であることに照らせば、当然に、複数の児童ポルノ罪相互の関係は併合罪である。
被害児童1名1罪が理想的であり、1行為1罪が次善、包括一罪は最悪の解釈である。
わいせつ図画罪が混合した場合でも同様である。
大規模な児童ポルノ・わいせつ図画販売事件というのは、普通、内偵捜査していても、手堅く捜索に入ったところにあるCDROM数枚とかの所持で現行犯逮捕することが多いですよね。
まず、その所持罪で起訴して、押収した帳簿類の分析で、提供罪・販売罪を起訴してくる。だから、当初起訴分よりも、追送致されてくる事件の方がでかいことがあって、それを訴因変更で加えたことを論難して落としてしまおうという作戦でした。