児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童淫行罪と3項製造罪の罪数関係について、再び東京高裁が判断する(東京高裁H21.10.14)

 しかも9刑。
 学者証人が、ホワイトボードを持ち込んで原田判事に講義していました。

 事案は、地裁(3項製造事件)の控訴で、東京高判H17.12.26の事例でいえば「平成一七年三月二六日の児童ポルノ製造罪(1号・2号ポルノ)」も地裁に起訴してしまって「平成一七年三月二六日の児童淫行罪」は家裁に起訴されていて、まさに、東京高判H17.12.26のいうとおり「他方、本件児童ポルノ製造罪のなかには、それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば、性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号一の一部、同番号二及び三)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり、また、その児童淫行罪と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は、併合罪ではなく、包括的一罪と解するのが、判例実務の一般である。)、かすがいの現象を認めるのであれば、全体として一罪となり、当該児童ポルノ製造罪については、別件淫行罪と併せて、家庭裁判所に起訴すべきことになる。」という結果になるようなものです。

東京高等裁判所平成17年12月26日
高等裁判所刑事裁判速報集平成17年247頁
      判例時報1918号122頁
 一 管轄違い及び二重起訴並びに憲法一四条違反をいう各論旨について(控訴理由第一ないし第三)
 その論旨は、要するに、本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下、「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして、これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた違法があり、また、別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり、原判決には不法に公訴を受理した違法があり、さらに、被告人の行為についてのみ併合審理の利益を奪い、合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法一四条一項違反の違法があるというのである。
 しかしながら、本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は、平成一六年一二月二日から平成一七年二月一七日までの間の前後六回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり、他方、別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は、平成一七年三月二六日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって、これらの両訴因を比較対照してみれば、両訴因が科刑上一罪の関係に立つとは認められないことは明らかである。
 所論は、本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして、本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで、本件児童ポルノ製造罪の一部については、それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号一及び四の各一部、同番号五及び六)、それについては、別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。他方、本件児童ポルノ製造罪のなかには、それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば、性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号一の一部、同番号二及び三)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり、また、その児童淫行罪と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は、併合罪ではなく、包括的一罪と解するのが、判例実務の一般である。)、かすがいの現象を認めるのであれば、全体として一罪となり、当該児童ポルノ製造罪については、別件淫行罪と併せて、家庭裁判所に起訴すべきことになる。かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが、その当否はおくとして、かかる場合でも、検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで、当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に、別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば、そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば、検察官として、当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって、すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和五九年一月二七日第一小法廷決定・刑集三八巻一号一三六頁、最高裁平成一五年四月二三日大法廷判決・刑集五七巻四号四六七頁)。そして、児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて、法定刑の上限はもとより、量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると、検察官が児童淫行罪の訴因について、証拠上も確実なものに限るのはもとより、被害児童の心情等をも考慮して、その一部に限定して起訴するのは、合理的であるといわなければならない。また、そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ、そうした場合には、児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから、所論も強調するように、併合の利益が失われたり、二重評価の危険性が生じて、被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると、裁判所としては、かすがいになる児童淫行罪が起訴されないことにより、必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
そこで、児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては、別件淫行罪との併合の利益を考慮し、かつ、量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば、かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって、憲法一四条違反の主張を含め、所論はいずれも採用できない。
(裁判長裁判官 原田國男 裁判官 池本壽美子 森 浩史)