児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

販売罪の実行行為の始期と終期

 機内で考えてモノレールで書いています。
 未遂罪がないので、あんまり考えたことはないですがわいせつ図画とか児童ポルノの販売罪の実行行為って、どこから(着手)どこまで(既遂時期)なんでしょうかね?
 半田支部の判決で、
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050225/1109326968
児童ポルノ販売罪は「未遂」でも代金が先払いされていれば「犯罪収益」になるとか判示されていたので気にかかりました。いつから「未遂」なのか?
 
 ほかの法令の関係で着手時期も考える必要が出てきた。
 しかし、「販売」だからといって、「代金支払」を実行行為にしないでくださいよ。
 「販売」=「有償譲渡」であって、「対価と引き替えに交付されること」ではないですから、貸しでも借りでも交換でも既存の債務との相殺でも譲渡が有償であればよいわけです。 
 保護法益から考えると、着手時期は、物を動かした時・動かそうとした時でしょう。
 既遂時期は、現実に交付されたとき。
 これでいいんですよね。



 もうちょっと半田支部判決を分析してみよう。
 半田支部事件においては、販売罪の着手時期については、売買契約・代金振込・受領時であることについては当事者に争いがなかったようである。
 また、弁護人は販売罪の既遂時期については発送時説を主張している。
 さらに、販売罪の公訴事実に受領が主張されていない事件・証拠上受領がない事実が含まれるようだ。
 
 まず、着手時期については、すでに述べたように、また、頒布罪との均衡から、物の移転開始時(発送時)である。
 また、既遂時期については、買主の受領時である。

 条解刑法と大阪高裁H15.9.18をあげておく。

条解刑法
(わいせつ図画)頒布の既遂時期につき,郵便機関に受け付けられた時点で既遂となるとする見解もあるが,配布先の者の支配に至った時点,あるいはそれと同視できる状態になった時点で既遂になると解される(大判昭和11.1.31)

阪高裁平成15年9月18日
(6)原判示第2の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1,第2)について
所論は,原判示第2の事実について,①有体物に化体しない画像データそのものは児童買春児童ポルノ禁止法2条所定の児童ポルノに該当せず(控訴理由第1),また,②有償の譲渡行為といえるためには現実の交付を伴うことが必要であるところ,本件ではこれがない(控訴理由第2)にもかかわらず,それぞれ児童ポルノである画像データを販売したと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
そこで,検討するに,原判示第2の事実は,被告人が,各購入者に対して,自己がサーバーコンピューター上に開設したホームページのアドレス及びパスワードをメールで送信し,B1及びB2に対してはそれぞれの自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のハードディスクにダウンロードさせる方法で(原判示第2の1及び2の各事実),B3に対してはその自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のフロッピーディスクにダウンロードさせる方法で(同3の事実),児童ポルノである画像データを版売した事実を認定していることが明らかである。ところで,児童買春児童ポルノ禁止法2条3項は,「『児童ポルノ』とは,写真,ビデオテープその他の物であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう。」と規定しており,「その他の物」については,その例示として掲げられている物が写真,ビデオテープであることからすれば,文理解釈上,これらと同様に同条項各号に掲げられた視覚により認識することができる方法により描写した情報が化体された有体物をいうものと解すべきであるところ,関係各証拠によれば,本件において児童ポルノに該当するとされている画像データは,被告人において,契約を結んだ東京都千代田区大手町1丁目6番地の1大手町ビルディング3階所在の株式会社エヌ・テイ・ティエックス管理のサーバーコンピューターにホームページを開設し,同コンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶,蔵置させた電磁的記錬であり,このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。そして,児童買春児童ポルノ禁止法7条の児童ポルノ販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B1,B2及びB3は,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記B1らのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるB1らに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとでは児童ポルノの販売に該当する事実もないというべきである。
そうすると,原判決には児童買春児童ポルノ禁止法7条所定の児童ポルノ販売罪に該当しない事実を同罪に該当するとして有罪とした法令の解釈適用の誤りがあり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由がある。

とすると、そもそも、受領が主張・立証されていない所為については、販売罪の訴因として失当であり、実体判断をしたこと・有罪判決をしたことも失当である。検察官・裁判所の無知である。
 また販売罪の既遂時期については発送時説を主張した弁護人も調査不足である。
 販売罪に着手が認められない以上、犯罪以前の時点であるから、先払いされた代金も犯罪収益ともなり得ない。隠匿罪も成立しない。
 半田支部事件では、罪数や犯罪収益隠匿罪について議論らしきものがみられるが、当事者は前提知識に欠けて、失当な結論に達しているようである。

 ところで、この半田支部判決は執行猶予付であったが、今年になって、この被告人と同姓同名の人が児童ポルノと犯罪収益隠匿で有罪判決を受けたと聞き及んでいる。
 ひょっとして、大変気の毒なことになっているのではないだろうか?
 罪数や実行行為の問題について詳しい学者や弁護士に一言ご相談いただければ防げたような気がします。
 児童ポルノ犯人は悪い奴ですが、適正に法律を解釈適用してあげてその行為を非難するのが裁判所の使命だと思います。