児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

前払い式の児童ポルノ販売の場合の犯罪収益仮装罪の成立時期は、児童ポルノ提供罪の成立時である。(東京高裁h20.8.13)

 意外でしょ。ちょっと遅れるんですよ。
 学者もわからないようなので、ちょっと噛みついてみました。
 こういうのを「論難」といいます。

 2 控訴理由第2の法令適用の誤り,理由不備について
(1)所論は,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R又はわいせつ図画であるDVD−Rの販売代金を第三者名義の銀行口座に振り込ませて犯罪収益の取得につき事実を仮装したという原判示第4の事実につき,次のとおりの法令適用の誤りと理由不備があるという。
①代金を前払いで振り込ませた段階では前提犯罪たる児童ポルノ提供罪の着手がないから,その代金は犯罪収益に当たらない。
②隠匿行為の時点で犯罪収益性を備えている必要があるところ,振込みは児童ポルノ提供行為の着手前に完了しているのであるから,「隠匿し」たとはいえない。
③原判決は,児童ポルノ提供罪が成立していない代金収受の時点で仮装罪を認めているが,提供行為が行われなかった場合にも仮装罪が成立することになって不当であるし,そのような解釈は,財産権の侵害である。
④前提犯罪の既遂が要件となるならば,訴因において提供罪の既遂が具体的に記載されていなければならないが,原判決にはその記載がなく理由不備である。
(2)第三者名義の口座に児童ポルノ等のDVD−Rの代金が前払いで振り込まれた場合,その代金に対応する児童ポルノ提供又はわいせつ図画販売が行われれば,その代金は児童ポルノ提供又はわいせつ図画販売により得た財産といえるので,その時点で犯罪収益仮装罪の成立が認められる。
所論の①ないし③は,振込時点で代金が犯罪収益といえなければ犯罪収益仮装罪の成立が認められないという前提に立ったものであって,結局のところ,前提を欠く立論である。また,④についてであるが,組織犯罪処罰法10条1項は,その文言からみて,罪となるべき事実において前提犯罪を逐一記載することを要求する趣旨と解することができないので,原判決に理由不備は認められない。

 半田支部は、わいせつ販売罪の着手があればいいと言ってましたよね。さらに遅れるようです。

 「研修」でも結論出せなかった論点ですが、聞いた人はぼろかすに言われます。こういう世界です。



ちなみに同じ控訴理由を大阪高裁でも書いたことがあります

阪高裁h20.4.17
 (3) 所論は、原判決は、原判示第3の犯罪収益取得事実仮装罪の成立を認めて追徴しているが、「犯罪収益」中の「犯罪行為により得た財産」というためには、当該犯罪行為が当該財産取得行為に先行していなければならないことは明らかであるところ、同判示の児童ポルノであるDVDは、代金前払いで提供されたものであり、代金入金の時点においては、いまだ同DVDの提供に着手されていないから、同判示の入金は「犯罪収益」に該当せず、犯罪収益取得事実仮装罪は成立せず、これを追徴するのは憲法29条1項に達反する、というのである。
   しかしながら、前記の立法趣旨や、通常想定される本罪関係の取引形態等に照らして合目的的に考察すると、「犯罪行為により得た財産」は、当該犯罪行為が成立する場合において、その構成要件に該当する行為自体と結び付いて犯人が取得した財産をいい、当該犯罪行為の成立時期と当該財産を得た時期との前後関係を問わないものと解すべきであるから、所論指摘の児童ポルノ提供の前払い代金も、後の機会に当該児童ポルノ提供罪が成立する限り、「犯罪行為により得た財産」として、「犯罪収益」に該当し、これを取得したことを仮装すれば、犯罪収益取得事実仮装罪が成立するというべきであり、そのような犯罪収益を追徴することが憲法29条1項に違反しないことも明らかである。

 理由付けは違いますが、やっぱり児童ポルノ罪の成立が要件になるようです。
 高裁畏るべし。

結局、半田支部の結論が、東京高裁と大阪高裁で追認されているわけです。

名古屋地裁半田支部H15.5.8
2弁護人の主張(1)について
犯罪収益規制法2条2項1号は,財産上不正な利益を得る目的で犯した児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項の罪(児童ポルノ販売罪.別表59号)の犯罪行為により得た財産を「犯罪収益」にあたると規定しており,児童ポルノ販売罪の未遂罪は処罰の対象とされていないから,児童ポルノ販売罪を前提犯罪とする「犯罪収益」といえるためには,児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解される。
しかしながら、このことは,犯罪収益規制法10条1項に規定する犯罪収益の取得につき事実を仮装する行為を実行する段階において,前提犯罪である児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解するものではない。すなわち、児童ポルノ販売罪の実行行為により得た財産の取得につき事実を仮装し,その後に児童ポルノ販売罪が既遂に達した場合は,その既遂時点において,当該仮装行為が,「犯罪収益の取得に関する仮装行為」と法的に評価されることになると解するべきである。
なぜなら,まず第1に,犯罪収益規制法10条は,金融機関を経由することによって犯罪収益をクリーンな外観を有する財産に変えて前提犯罪との関係を隠匿し,あるいはこれらの財産を隠匿する行為は,将来の犯罪活動に再投資されたり,事業活動に投資されて合法的な経済活動に悪影響を及ぼすなどのおそれのある犯罪収益の保持・運用を容易にすることから,これを処罰する趣旨の規定であるところ,犯罪収益の取得は,経験上必ずしも前提犯罪の完了後に行われるものではなく,犯罪遂行の過程においてされることが往々にしてあるから,このように解釈しなければ法め趣旨は達成できない。第2に,前提犯罪の完了を目指して着手した実行行為により得た財産は,取得時点において,既に将来犯罪収益となることが予定されているものであるから,その帰属を仮装する行為は,後に当初の予定どおり前提犯罪が完了したときには,遡って犯罪収益につき事実を仮装した行為にあたると評価するのは自然であり,かつ合理的な見方であるといえるからである。よって,弁護人の主張は採用できない。