児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

必ず媒体を特定しましょう。

 児童ポルノの害悪は画像データにあるんですが、法律上は媒体に化体していないと児童ポルノにならない。
 判例上も昔から有体物性を求めているのですが、地裁の判決を見ていると、最近、児童ポルノ=有体物であるという意識が薄れてきているようです。油断大敵です。

阪高裁H14.9.10
児童ポルノとは,「写真,ビデオテープその他の物」であって「視覚により認識することができる方法により描写したもの」であることを要するが,有体物を記録媒体とする物であれば,必ずしもその物から直接児童の姿態を視覚により認識できる必要はなく,一定の操作等を経ることで視覚により認識できれば足りるから,写真の場合は現像ないし焼付け等の工程を経てこれが可能になる未現像フイルムや現像済みネガフィルム(以下,撮影済み及び現像済みネガフィルムを「ネガ」という。)は,これに当たると解するべきであるから,本件の場合,児童ポルノ製造罪は撮影により既遂になると解するのが相当である。

阪高裁H14.9.12
しかしながら,(1)の点については,原判決は上記⑤の結論を否定していない上,児童ポルノが本件のように複数の写真が掲載された写真集である場合には,そのうちの1枚の写真が本法2条3項3号の要件を満たしてさえいれば,その余の写真がその要件を満たしているか否かを問わず,その写真集は児童ポルノに当たると解すべきである(なお,所論は,写真集も児童ポルノに当たると解すれば,表現の自由を不当に侵害するし,複数の写真が一冊にまとめられることによって児童の保護も後退すると主張する。しかしながら,1冊にまとめられた複数の写真は,販売等の際には同じ運命をたどるから,これを一体のものとしてみることはその実態に適っている上,所論がいうように個々の被撮影者を特定しなければならないとすれば,そのために多大な時間と労力を要し,ひいては写真集を本法による規制から逃れさせることになり,かえって,児童の保護に適わず,不合理である。)から,本罪の保護法益が個人的法益であるからといって,上記①ないし④の各結論が当然に帰結されるものではないし,また,写真集が児童ポルノに当たり得るからといって,犯情の軽重を判断したり,刑を量定したりする際に,その要件を満たす写真や被撮影者の数を考慮することができないと考える根拠もない。したがって,原判決には所論のような理由のそごはない。

阪高裁h15.9.18
(6)原判示第2の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1,第2)について
所論は,原判示第2の事実について,①有体物に化体しない画像データそのものは児童買春児童ポルノ禁止法2条所定の児童ポルノに該当せず(控訴理由第1),また,②有償の譲渡行為といえるためには現実の交付を伴うことが必要であるところ,本件ではこれがない(控訴理由第2)にもかかわらず,それぞれ児童ポルノである画像データを販売したと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
そこで,検討するに,原判示第2の事実は,被告人が,各購入者に対して,自己がサーバーコンピューター上に開設したホームページのアドレス及びパスワードをメールで送信し,B1及びB2に対してはそれぞれの自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のハードディスクにダウンロードさせる方法で(原判示第2の1及び2の各事実),B3に対してはその自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のフロッピーディスクにダウンロードさせる方法で(同3の事実),児童ポルノである画像データを販売した事実を認定していることが明らかである。ところで,児童買春児童ポルノ禁止法2条3項は,「『児童ポルノ』とは,写真,ビデオテープその他の物であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう。」と規定しており,「その他の物」については,その例示として掲げられている物が写真,ビデオテープであることからすれば,文理解釈上,これらと同様に同条項各号に掲げられた視覚により認識することができる方法により描写した情報が化体された有体物をいうものと解すべきであるところ,関係各証拠によれば,本件において児童ポルノに該当するとされている画像データは,被告人において,契約を結んだ東京都所在の株式会社管理のサーバーコンピューターにホームページを開設し,同コンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶,蔵置させた電磁的記録であり,このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。そして,児童買春児童ポルノ禁止法7条の児童ポルノ販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B1,B2及びB3は,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記B1らのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるB1らに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとでは児童ポルノの販売に該当する事実もないというべきである。
そうすると,原判決には児童買春児童ポルノ禁止法7条所定の児童ポルノ販売罪に該当しない事実を同罪に該当するとして有罪とした法令の解釈適用の誤りがあり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由がある。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9
画像データが児童ポルノであり,ハードディスク等が児童ポルノではないとの所論について(控訴理由第10)所論は,児童ポルノとされるのは画像データそのものであるのに,原判決は,ミニディスク,メモリースティック,ハードディスクという有体物を児童ポルノと認定したのは,法令適用を誤っているとする。
 しかし,法2条3項は,「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体と規定しているのであるから,記録媒体が児童ポルノであるのは明らかである。

東京高裁H20.9.18
 2 しかしながら,職権をもって調査すると,原判決には以下に説示するとおりの訴訟手続の法令違反があり,この点において破棄を免れない。
 (1)原審記録及び当審における事実取調べの結果によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
   ア 被告人は,平成18年,市内のホテルにおいて,当時17歳の女子児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,現金4万円の対価を供与して同児童と性交し,もって児童買春した(原判示第1の事実)。
   イ 上記児童買春の際に,被告人は,同ホテル内において,同児童に衣服の全部又は一部を着けない姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものをとらせ,これを所携のデジタルカメラで撮影し,上記姿態を同カメラ内蔵の記録媒体であるピクチャーカードに視覚により認識することができる方法により描写した。
   ウ 次いで,被告人は,同日,同市内の被告人方において,上記デジタルカメラをパーソナルコンピューターに直接接続し,上記ピクチャーカードに記録した上記姿態に係る画像データを上記パーソナルコンピューター内蔵の記録媒体であるハードディスクに視覚により認識することができる方法により描写した。その上で,被告人は,上記ピクチャーカードに記録した上記姿態に係る画像データは消去した。
 なお,その際,被告人は,上記ピクチャーカードに記録した画像データを,まず上記ハードディスクのCドライブのフォルダの1つであるデスクトップに作成したフォルダに複写したが,その後の平成19年3月26日には,上記ハードディスクのDドライブに作成したフォルダ(D:¥)にそのデータをそのまま移動させた。しかし,上記パーソナルコンピューターに内蔵されたハ ードディスクは,物理的に1台の装置であり,それを見掛け上(論理上)複数のドライブに分割して,Cドライブ,Dドライブとして使用していたにすぎないものであった。
   エ 原判示第2の事実に係る起訴状(平成19年11月5日付け)には,被告人に対する公訴事実として,要旨「被告人は,平成18年,市内のホテルにおいて,当時17歳の女子児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童をして,その乳房及び陰部を露出させるなどの姿態をとらせた上,これをデジタルカメラで撮影し,その画像データを記憶させ,同日ころ,同市内の被告人方において,前記画像データをパーソナルコンピューターに記憶,蔵置させ,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態等であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ20画像を製造した」との記載がなされ(以下,単に「本件公訴事実」という。),これに対する罪名及び罰条として,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反 同法律第7条第3項・第1項,第2条第3項第2号・第3号」が挙げられている(以下,この項において,本件公訴事実に関する事件を「本件」という。)。
   オ 原判決は,(罪となるべき事実)の項で,第2の事実として,本件公訴事実と同旨の事実を認定し,(法令の適用)の項で,罰条として,同法7条3項,1項,2条3項2号,3号を摘示し,刑種の選択以下の法令適用に及んでいる。
 (2)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,この項において,単に「法」という。)にいう「児童ポルノ」とは,「写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態 二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの 三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義されている(法2条3項)。
 したがって,本件のような電磁的記録に係る事案において,児童ポルノとは,画像データ等の電磁的記録自体ではなく,当該電磁的記録に係る記録媒体(フロッピーディスク,CD−ROM,MOディスク,DVD,メモリーカード,ハードディスク等)を指すものといわなければならない(この点を指摘する所論は正当である。)。
 (3)本件公訴事実は,上記(1)エのとおりの記載がなされ,罪名及び罰条の記載や公訴事実の記載全体の体裁からすれば,法7条3項の児童ポルノ製造罪に該当する事実が起訴されたものであると解されるところ,公訴事実中に,「もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態等であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ20画像を製造した」と記載されており,結論として電磁的記録である画像データ自体が児童ポルノに該当するとしているものと解さざるを得ず,これが上記(2)の法の解釈を誤解したことに基づく誤った記載であることは明らかである。そして,上記(1)ア〜ウの事実関係を前提とすると,本件において,製造行為の客体である児童ポルノに該当し得るものは,デジタルカメラに内蔵されたピクチャーカード,あるいはパーソナルコンピューターに内蔵されたハードディスクが考えられるところ,本件公訴事実中にはこれらが挙げられておらず,製造行為の客体である児童ポルノが明示されているとはいえない。
 他方,本件公訴事実においては,製造行為の日時・場所については特定されており,その方法についても「児童をしてその乳房及び陰部を露出させるなどの姿態をとらせた上,これをデジタルカメラで撮影し,その画像データを記憶させ,(中略)前記画像データをパーソナルコンピューターに記憶,蔵置させ」という程度には記載がなされており,訴因としておよそ釈明の余地がないほど不明確なものとはいえず,訴因の補正又は変更により十分対処できる程度のものといい得るから,このような場合,原審としては,検察官に対し,本件公訴事実について釈明を求め,電磁的記録である画像データ自体を児童ポルノであるとする誤った記載は撤回削除させ,製造行為の客体である児童ポルノが何であるかについて明らかにさせるなど,訴因の記載を明確にさせた上で,審理すべきであったといわなければならない。
 しかるに,原審は,そのような措置をとることなく,訴因不明確なまま審理を終結し,あまつさえ「もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態等であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ20画像を製造した」という本件公訴事実中の明確に誤った記載までそのまま漫然と踏襲して,上記(1)オのとおり事実を認定し,かつ,法令の適用をしているのであるから,原審の訴訟手続には法令の違反があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。
 したがって,弁護人のその余の控訴趣意に対する判断をするまでもなく,原判決は破棄を免れない。