児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童福祉法淫行させる罪で逮捕、児童買春罪で起訴

 調べてみないと何罪かわからないわけで、
 逮捕罪名と起訴罪名が違うことはあって、普通、おかしくないんです。
 起訴した罪名が間違っていたことがわかっても、訴因・罰条の変更で対応できる。
 

わいせつ:埼玉の警察署協議会委、児童福祉法違反容疑で逮捕−−県警と加須署 - 毎日新聞 (237文字)
 2004年12月8日(水)

高1女子にわいせつ行為した男を起訴 さいたま地検=埼玉 - 読売新聞 (113文字)
 2004年12月28日(火)
元加須署警察協議会委員
児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪でさいたま地裁に起訴した。

 同一事実についてこの事例のように児童福祉法淫行させる罪で逮捕、児童買春罪で起訴することもよく見掛けます。

両罪は観念的競合。特別関係ではない。

名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日
主文 原判決を破棄する。
(6)所論は,児童買春罪と児童福祉法60条1項の児童に淫行をさせる罪」(以下,単に「児童に淫行をさせる罪」という。)とが併存していることによって,ある行為がどちらで処罰されるのかが通常の判断能力を有する一般人において判断することができず,刑罰法規についての予見可能性を損なうから,罪刑法定主義憲法31条)に違反するという(控訴理由第17)。しかし,それぞれの規定における構成要件の内容からすると,一般人の立場において,両者のどちらに,あるいはその双方に該当するか否かの判断は可能というべきであるから,所論は採用できない。

2 児童買春罪,児童ポルノ製造罪と児童に淫行をさせる罪との関係等について(控訴理由第1ないし第6,第16,第18及び第21)
(1)所論は,児童買春罪と児童に淫行をさせる罪とは,行為態様で区別され,後者が成立しない場合に前者が成立するという補充関係にあるとし,本件犯行のように多額の代償を約束して同意を得て性交ないし性交類似行為をするのは児童の純然たる自由意思によるものではなく,児童に淫行をさせる罪に当たり児童買春罪は成立せず,本件各犯行に同罪を適用したことには法令の適用の誤りがあるなどという(控訴理由第1)。
 しかしながら,児童買春罪は,児童買春が児童の権利を侵害し,その心身に有害な影響を与えるとともに,児童を性欲の対象としてとらえる社会風潮を助長することになるため,これを処罰するものであるのに対し,児童に淫行をさせる罪は,国内における心身の未熟な児童の育成の観点から,児童に反倫理的な性行為をさせることがその健全な発育を著しく阻害するためこれを処罰するもので,その処罰根拠を異にし,しかも両罪の規制態様にも差異があることからすると,被告人自身が淫行の相手方になったと認められる場合にあって,その際通常伴われる程度の働きかけを超えて未成熟な児童に淫行を容易にさせ,あるいは助長,促進するといった事実上の影響力を与え淫行をさせる行為をしたと認められるようなときには,両罪に該当することもあり得ると解される。したがって,児童買春罪は常に児童に淫行をさせる罪を補充する関係にあるとする所論は前提において失当である。加えて,多額の対償の供与の約束をして性行為に同意させることが直ちに児童の自由意思を失わせるものとはいい難く,関係証拠によれば,先に述べたとおり(前記第2の1),本件各児童買春行為は対償の供与の約束により児童がその意思によって応じたものと認められるから,法令の適用に誤りはなく(もとより本件事案が訴追裁量を逸脱した起訴であるとは認められない。),所論を採用することはできない。

 ここからは、推測なんですが、警察統計を調べていくと、買春罪ができた後は、児童福祉法淫行罪の立件は減っています。激減といっていいほど。
 高検検事と話す機会があって、その検事の感想では、
   児童福祉法淫行罪は支配関係の立証が難しいから買春罪に落ちることがある。
   少年法37条1項があって訴因変更では対応できない
   (児童福祉法淫行罪で起訴して買春罪に訴因変更することはできない)から、
   起訴段階で、多少難がある児童福祉法淫行罪事案が買春罪に落ちて、地裁に起訴されているのではないか。
とのこと。
 訴訟における立証なんて、やってみないと裁判所の説得に成功するか判らないところがあるわけですが、そのために、訴因罰条の変更の制度があるわけですが、この場合には、そうはいかない。
 少年法37条は成人のある種の刑事事件について、家裁の専属管轄を定めています。
 その結果、児童買春は成立するが児童福祉法淫行罪の成否が微妙な事例については、
 家裁に児童福祉法淫行罪で起訴して、支配関係の立証に失敗して、買春罪に訴因変更すると、その瞬間、家裁は管轄を失いますから、管轄違の判決となる。事件を移送することもできないので、地裁に起訴し直すしかない。
 地裁に児童福祉法淫行罪で起訴すると、冒頭から管轄がないことになる。

少年法
第37条(公訴の提起) 
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
一 未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)の罪
二 未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)の罪
三 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第五十六条又は第六十三条に関する第百十八条の罪、十八歳に満たない者についての第三十二条又は第六十一条、第六十二条若しくは第七十二条に関する第百十九条第一号の罪及び第五十七条から第五十九条まで又は第六十四条に関する第百二十条第一号の罪(これらの罪に関する第百二十一条の規定による事業主の罪を含む。)
四 児童福祉法第六十条及び第六十二条第五号の罪
五 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条及び第九十一条の罪
2 前項に掲げる罪とその他の罪が刑法(明治四十年法律第四十五号)第五十四条第一項に規定する関係にある事件については、前項に掲げる罪の刑をもつて処断すべきときに限り、前項の規定を適用する。

 こうなると、児童福祉法淫行罪の成否が微妙な事例は、起訴段階で、児童福祉法淫行罪をあきらめて、買春罪のみになってしまい、審理の途中で児童福祉法淫行罪に訴因変更されるとか児童福祉法淫行罪から買春罪に訴因変更されることはないということです。
 分かり易くいえば、審理の末児童福祉法淫行罪となりうる事件でも、起訴検察官が弱気だったら、買春罪に落ちてしまい、裁判所が検察官立証を眺めて児童福祉法淫行罪で裁くことができない。結局、児童福祉法淫行犯人が起訴段階で逃げている。

 児童福祉法淫行罪は懲役10年(同一児童に反復しても一罪)、買春罪は懲役5年(同一児童に反復すると併合罪併合罪加重で懲役7.5年)。
 少年法37条は制度的におかしいです。

 買春罪の罪数に関する裁判例を紹介します。
 罪数論に引っ掛けると、保護法益の判断が引き出せるようです。

東京高裁H16.2.19
1 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成名義の平成16年1月14日付け控訴趣意書記載のとおりであるから,これを引用する。
二2 控訴趣意中,法令適用の誤り等の主張について
(1)原判示第1ないし第4の各事実について
諭旨は,要するに,原判決は,罪となるべき事実第1ないし第4として,被告人が,平成14年8月12日,同年9月12日,同月22日及び同年10月6日の四日間に,被告人方において,いずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,当時16歳の女児に対し,現金の対償を供与する約束をして,同児童と性交したとの事実を認定判示した上,これを併合罪としているが,同一被害児童に対する複数回の買春行為はもとより,児童買春罪の保護法益は社会的法益であって,被害児童を異にしても全体として包括一罪の関係にあるというべきであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
しかしながら,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「本法」ともいう。)が買春の相手方となった児童の権利を擁護するものであることは法の目的に照らして明らかであり,買春罪の保護法益は一次的には当該児童の健全な心身と解すべきであるから,買春によりこれが侵害される都度独立して同罪が成立すると解するのが相当であって,これを包括一罪とすべきいわれはない。原判決には所論のような法令適用の誤りはなく,論旨は理由がない。

阪高裁平成16年1月15日
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書(平成15年10月16日付け)及び控訴理由補充書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。
5 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張(控訴理由第8)について
 所論は,原判示の各事実は,被害児童が異なり2名であるものの,1個の対償供与の約束に基づいて同一日時,場所で実行された犯行であるから観念的競合とすべきであり,あるいは,児童買春罪の保護法益と罪数についての解釈が確定していない以上,被告人に有利に解して包括一罪と評価すべきであるから,これを併合罪として処断した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。しかし,児童買春罪は,児童買春がその性交等の対象となった当該児童の権利を侵害し,その心身に有害な影響を与えるとともに,児童を性欲の対象としてとらえる社会風潮を助長し,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えることになるため,これを処罰の対象としているのであって,社会的法益のみならず,当該児童の権利保護にも処罰根拠があり,その個人的法益も保護法益であるから,被害児童が異なり,一個の行為とはいえない原判示第1の事実と同第2の事実について,これを併合罪として処断した原判決に法令適用の誤りはないというべきである。論旨は理由がない。

 児童買春罪の罪数については、もうわかりましたね。
 児童買春罪が行為が直接対人的ですから、児童ポルノ罪とは違って、被害者が観念しやすいです。
 社会的法益を強調する学説があったので、それに乗っかってみました。