欺罔や偽造通貨行使を伴う買春罪で、凖強姦罪は成立するかという話なんですが、法益関係的錯誤理論によれば、姦淫行為の動機に錯誤があるだけで、姦淫行為には錯誤はないから、準強姦罪は成立しないそうです。
文献集めています。
1. B&Aレビュー 刑事法学の動き 森永真綱「被害者の承諾における欺罔・錯誤(一)(二・完)」 / 浅田 和茂
法律時報. 76(5) (通号 943) [2004.5]2. 被害者の同意と錯誤理論 (特集 刑法と民法の交錯--その一断面) / 塩谷 毅
刑法雑誌. 43(1) [2003.7]3. 被害者の承諾における欺罔・錯誤(2・完) / 森永 真綱
関西大学法学論集. 53(1) [2003.6]4. 被害者の承諾における欺罔・錯誤(1) / 森永 真綱
関西大学法学論集. 52(3) [2002.12]5. 研修講座 新刑事法セミナー(99)被害者を欺罔し錯誤に陥れて姦淫する行為と準強姦罪 / 錦織 聖
研修. (632) [2001.2]「法益関係的錯誤」があるときにのみ被害者の承諾が無効となり,準強姦罪が成立するという見解が有力です。
この見解によれば,被害者を欺岡し錯誤に陥れて姦淫行為に及んだという場合には,被害者が姦淫行為自体は承諾し,ただ承諾をするに至った動機原因に錯誤があるにすぎないので「法益関係的錯誤」がなく、準強姦罪が成立しないものとされます。一方この見解に対して「自由意思喪失的錯誤」の有無を問題とする見解も提唱されるなど,この問題について議論が深まってきています。
1. 「法益関係的錯誤」説の解釈論的意義 / 山口 厚
司法研修所論集. 2003(2) (通号 111) [2004.3]標 題 錯誤に基づく被害者の同意
著者名 林幹人
誌名等 松尾浩也先生古稀祝賀論文集 上巻 芝原邦爾,西田典之,井上正仁編 有斐閣
2 標 題 「被害者の錯誤について」佐伯仁志(神戸法学年報1号)(刑事法学の動き)
著者名 中義勝
誌名等 法律時報 [ISSN:03873420] (日本評論社) 59(10) 1987.9 p137〜140
一介の弁護士がそんな新理論をしるはずもなく、
騙した児童買春は、強姦罪で擬律しろ
と吠えているわけですが、名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日(公刊物未掲載)は、騙して対償の供与の約束をした場合でも、凖強姦罪は成立しないというのですから法益関係的錯誤理論を採用しているものといえるでしょう。
準強姦野郎にとってそんな都合のいい理屈があるとは知らなんだ。
名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日(公刊物未掲載)
第1 控訴趣意中,事実の誤認の論旨(控訴理由第19)について
所論は,原判決は,原判示第2,第3の1及び第4の各児童買春行為について,対償の供与の約束をしたことを認定したが,証拠によれば,被告人にはこのような高額な対償を支払う意思はなく,詐言であったことが明らかであるとし,このような場合には児童買春処罰法2粂2項にいう代償の供与の約束をしたことには当たらないから,同法4条の児童買春罪(以下,単に「児童買春罪」という。)は成立しないという。
しかしながら,児童買春は,児童買春の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであることから規制の対象とされたものであるところ,対償の供与の約束が客観的に認められ,これにより性交等がされた場合にあっては,たとえ被告人ないしはその共犯者において現実にこれを供与する具体的な意思がなかったとしても,児童の心身に与える有害性や社会の風潮に及ぼす影響という点に変わりはない。しかも,規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである。関係証拠によれば,原判示第2,第3の1及び第4のいずれにおいてもそのような「対償の供与の約束」があったと認められる。所論は採用できない(なお,所論は,形式的な「対償の供与の約束」でよいというのであれば,準強姦罪で問うべき事案が児童買春罪で処理されるおそれがあるとも主張するが,準強姦罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて姦淫した」ことが要件とされているのに対し,児童買春罪では対償を供与することによって性交等する関係にあることが必要であって,両者は明らかにその構成要件を異にするから,所論を採用することはできない。)。
第2 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の論旨(控訴理由第4及び第23)について
1 所論は,原判示第2ないし第4の各行為は,被害者らの真摯な承諾なく抗拒不能の状態でされたもので,強姦,準強姦,強制わいせつ,準強制わいせつ罪に当たるとし,いずれについても被害者らの告訴はなく,親告罪たる強姦罪等の一部起訴は許されないから,本件起訴は違法であって訴訟手続の法令違反があるという(控訴理由第23)。
しかしながら,児童買春罪や児童買春処罰法7条2項の児童ポルノ製造罪(以下,単に「児童ポルノ製造罪」という。)は親告罪ではなく,しかも強姦罪等とは構成要件を異にしていて,児童買春罪等が強姦罪等と不可分の一体をなすとはいえず,原判示第2ないし第4が強姦罪等の一部起訴であるとはいえないから,告訴欠如の如何を論ずるまでもなく(最高裁昭和28年12月16日大法廷判決・刑集7巻12号2550貢参照),所論は失当である。なお,被告人の捜査段階及び原審公判の供述,共犯者の捜査段階の供述並びに被害者らの各供述によると,被告人らが被害者らに対して,畏怖させるような脅迫言辞を申し向けたことは認められない上,被害者らが性交等に及ぶ際あるいはその後の被告人らとのやりとりをみると,被害者らが恐怖心もあって買春に応じたと述べる部分もあるものの,他方で,買春行為の後,明日は行かないから,1日目の分だけお金を払って欲しい旨の電子メールを被告人に送信したり(原判示第2),これだけ恥ずかしい思いをしたのだからお金はもらって当然と思い,振込みでなく現金で欲しい旨申し出,受取りのため被告人が説明した場所に赴いたり(同第3の1),2度にわたって性交等に応じ,しかも2度目の際被告人に名刺を要求してこれを受け取り,記載してあった電話番号に電話をかけたり(同第4)していることなどが認められ,これら言動からすると,所論指摘の点を踏まえても,被害者らは対償の供与の約束により買春行為に応じたものと認めるのが相当であり,各被害者が抗拒不能の状況にあったということはできない。