児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

撮影(児童ポルノ製造)+性交等(児童買春)の代金が50万円である場合、買春罪における対償はいくらと認定すべきか?

 控訴理由はますますお下劣になっていきますが、未公開判例を並べていけば出てくる結論であって、理屈としては、合理的ではないか。
 少し前までは、判例も乏しかったので、控訴理由も独創的で、判決はことごとく「弁護人独自の見解(屁理屈)であり採用できない」というのが多かったんですが(当たってるのが悔しいが)、少し裁判例が蓄積されてきたので高裁判決の重みを利用してそれをうまく使って、控訴理由を組み立てています。
 やたら高裁金沢支部判決H14の引用が多いのは、同じ裁判所だからです。3年ぶり2回目の出場。

1 はじめに
 原判決は、被害児童に供与された金員(50万円)を全部「対償」と認定しているが、その中には別罪(児童ポルノ製造)であって社会的にも別個の行為であるモデル撮影の対価も含まれているのであるから、「50万円」という認定には誤りがある。

原判決
第2平成16年8月6日,大阪市所在のホテルにおいて,w(昭和年月日生,当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら
1 同女に対し,現金50万円を対償として供与する約束をして,同女と性交するなどし,もって児童買春をし
2 上記性交の場面をデジタルビデオカメラで撮影するとともにデジタルカメラで撮影することにより,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態奪を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるハードディスクを製造したものである。

2 メール
(1)モデル契約
 メールの時点では、当初はモデル料が20万円+交通費と約束されていた。
 この時点では、性交に対する 対償供与の約束は認められない。
 だとすれば、モデルだけなら20万円、性交を伴えば50万円という料金であるから、メールから客観的に認められる合意としては、性交=児童買春の対価は30万円である。


5 対償供与の約束は外観から客観的に認定される
(1)名古屋高裁金沢支部H14.3.28

第1 控訴趣意中,事実の誤認の論旨(控訴理由第19)について
 所論は,原判決は,原判示第2,第3の1及び第4の各児童買春行為について,対償の供与の約束をしたことを認定したが,証拠によれば,被告人にはこのような高額な対償を支払う意思はなく,詐言であったことが明らかであるとし,このような場合には児童買春処罰法2粂2項にいう代償の供与の約束をしたことには当たらないから,同法4条の児童買春罪(以下,単に「児童買春罪」という。)は成立しないという。
 しかしながら,児童買春は,児童買春の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであることから規制の対象とされたものであるところ,対償の供与の約束が客観的に認められ,これにより性交等がされた場合にあっては,たとえ被告人ないしはその共犯者において現実にこれを供与する具体的な意思がなかったとしても,児童の心身に与える有害性や社会の風潮に及ぼす影響という点に変わりはない。しかも,規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである。関係証拠によれば,原判示第2,第3の1及び第4のいずれにおいてもそのような「対償の供与の約束」があったと認められる。所論は採用できない(なお,所論は,形式的な「対償の供与の約束」でよいというのであれば,準強姦罪で問うべき事案が児童買春罪で処理されるおそれがあるとも主張するが,準強姦罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて姦淫した」ことが要件とされているのに対し,児童買春罪では対償を供与することによって性交等する関係にあることが必要であって,両者は明らかにその構成要件を異にするから,所論を採用することはできない。)。

(2)大阪高裁H15.9.18
 金沢支部の判断は大阪高裁でも追認されている。

(2)原判示第1の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第15)及び訴訟手続の法令違反の主張(控訴理由第19)について
所論は,原判示第1の事実について,①原判決は,対償の供与を約束したことを認定しているが,証拠によれば,被告人にはkに対して携帯電話機を買い与える意思はなく,詐言による約束であって,双方の真意に基づく約束とはいえず,また,携帯電話機本体の価格は通常無料であって,反対給付としての経済的利益には当たらないから,児童買春罪の成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり(控訴理由第15),・・・というものである。
しかしながら,①については,被告人は,捜査段階において,携帯電話機を買ってやる約束をしたが,被告人名義で契約するわけにもいかないし,時間もないので,携帯電話機の代わりに現金を交付するつもりであったとの供述をしており,その内心の意思いかんにかかわらず,被告人がkに対して携帯電話機を買い与える約束をして性交に応じさせたことは関係各証拠に照らして明らかであるから,対償の供与の約束があったというべきであり,また,仮に携帯電話機の本体価格が無料であったとしても,取得するには契約手数料等が必要である上,携帯電話機にはその通信回線利用の権利が伴っているから,経済的価値が認められることもいうまでもないところであって,原判決が対償の供与の約束があったと認定したことに誤りはない。

(3)判例の手法による約束の認定
 メールに客観的に現れている合意内容としても、モデルだけなら20万円、性交を伴えば50万円という料金であるから、判例によっても、性交=児童買春の対価は30万円である。

6 児童買春行為と撮影行為は社会的には別個
 金沢支部判決は、児童買春行為と撮影行為は社会的には別個であって、行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないからという。
 撮影+性交で料金50万円であるところを、性交に撮影を包含させて、性交の対価は50万円ということは判例に照らして許されない。

名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日
(3)所論は,原判示第3の1の買春行為がビデオで撮影しながら行われたものであることから,上記児童買春罪と原判示第3の2の児童ポルノ製造罪とは観念的競合となるともいうが(控訴理由第21),両罪の行為は行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないから,採用することはできない。

7 必ずしも対償金額を明示する必要はない(大阪高裁H16.1.15)
 翻って考えると、刑事裁判所は必ずしも対償金額を明示しなくても、買春罪の成立を認定できるのである。無理して「50万円」と認定する必要はないのである。

8 まとめ〜50万円の対償金額は認定できない。
 結局、検察官は「50万円の対償」を主張し、原判決も認定しているところ、真実は、性交等に対する「50万円の対償供与の約束」は存在しないのであるから、原判決には事実誤認があり、破棄を免れない。