児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「『援助交際サイト』で知り合った児童と性行為をして事後に数万円を払ったが、事前に対償支払う話はしなかった。」という弁解。

 構成要件論として、児童買春罪における対償供与の約束ないし対償供与は、事前にあることが必要です。
 もっとも、
   対償供与の約束は外形的に認められればいい(大阪高裁h15.9.18、名古屋高裁金沢支部h14.3.28)。
   会ってすぐ・・・というのは事実上売買春と推定される(大阪地裁h14.6.20)。
対償供与の約束の時点で相手方が特定されていなくてもよい。(大阪高裁H16.1.15)
   対償供与の約束において金額が特定されていなくてもよい(大阪高裁H16.1.15)
という裁判例に照らすと、
外形的には対償供与の約束が認定される可能性があるので、弁解としては苦しいと思う。

阪高裁h15.9.18
http://courtdomino2.courts.go.jp/Kshanrei.nsf/webview/27642C03FB01140B49256E6700180854/?OpenDocument
,①については,被告人は,捜査段階において,携帯電話機を買ってやる約束をしたが,被告人名義で契約するわけにもいかないし,時間もないので,携帯電話機の代わりに現金を交付するつもりであったとの供述をしており,その内心の意思いかんにかかわらず,被告人がAに対して携帯電話機を買い与える約束をして性交に応じさせたことは関係各証拠に照らして明らかであるから,対償の供与の約束があったというべきであり,

名古屋高等裁判所金沢支部h14.3.28
第1 控訴趣意中,事実の誤認の論旨(控訴理由第19)について
 所論は,原判決は,原判示第2,第3の1及び第4の各児童買春行為について,対償の供与の約束をしたことを認定したが,証拠によれば,被告人にはこのような高額な対償を支払う意思はなく,詐言であったことが明らかであるとし,このような場合には児童買春処罰法2粂2項にいう代償の供与の約束をしたことには当たらないから,同法4条の児童買春罪(以下,単に「児童買春罪」という。)は成立しないという。
 しかしながら,児童買春は,児童買春の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであることから規制の対象とされたものであるところ,対償の供与の約束が客観的に認められ,これにより性交等がされた場合にあっては,たとえ被告人ないしはその共犯者において現実にこれを供与する具体的な意思がなかったとしても,児童の心身に与える有害性や社会の風潮に及ぼす影響という点に変わりはない。しかも,規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである。関係証拠によれば,原判示第2,第3の1及び第4のいずれにおいてもそのような「対償の供与の約束」があったと認められる。所論は採用できない(なお,所論は,形式的な「対償の供与の約束」でよいというのであれば,準強姦罪で問うべき事案が児童買春罪で処理されるおそれがあるとも主張するが,準強姦罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて姦淫した」ことが要件とされているのに対し,児童買春罪では対償を供与することによって性交等する関係にあることが必要であって,両者は明らかにその構成要件を異にするから,所論を採用することはできない。)。

大阪地裁h14.6.20
 なお,周旋者への対償供与については,確かにこれを裏付ける直接の証拠は見あたらないものの,上記3で掲げた証拠によれば,被告人はアジア地域への短期の旅行を繰り返し,現地において多数かつ本件全証拠を検討しても被告人と特別の人的関係の認められない不特定の少女と性交等を行い,本件各事実もその一環として敢行されたものと課められ,このような性交等が周旋者への対価供与なくして行われると解するのは社会通念に照らして著しく困難であるから,これらは,周旋者への対価供与についての被告人の自白を裏付ける情況証拠というべきであり,これらを総合して周旋者への対価供与の各事実を認定した。

阪高裁H16.1.15
 所論は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律4条の児童買春罪の構成要件は,児童に対して対償を供与し,又はその供与の約束をして,当該児童に対し性交等をすることであるのに,①原判決の罪となるべき事実(犯罪事実)には,児童に対して約束された現金供与が児童に対する性交の対償であることがいずれも摘示されておらず,また,性交の対償に値する利益であることを示す現金の額,大小も摘示されていないから,原判決には理由不備の違法があり(控訴理由第2,第5),②本件の逮捕状及び勾留状の被疑事実,本件起訴状に記載された公訴事実には,それぞれ,被告人が児童に対して供与を約束した現金が児童に対する性交の対償であるとの摘示がなく,いずれもその構成要件を充足していないもので,このような罪とならない事実を被疑事実とする逮捕状及び勾留状に基づく本件の逮捕,勾留には重大な違法があり,違法な逮捕,勾留に引き続いてなされた本件起訴もまた違法であって,本件公訴は棄却すべきであったのにこれを看過して有罪とし,また,違法な逮捕,勾留中の供述を録取した被告人の検察官及び警察官に対する各供述調書には証拠能力がないのに,これを証拠として採用し,事実認定の用に供して原判示の各事実を認定し有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第4,第6),というものである。
 確かに,本件の逮捕状及び勾留状の各被疑事実,さらに,起訴状記載の公訴事実のいずれについても,当該児童に供与を約束した現金が児童に対する性交等の対償であるとの明示がされていないこと,原判示第1及び同第2のいずれの犯罪事実についても,同様にその旨の明示及びその供与を約束した現金の額が摘示されていないが,いずれの摘示についてみても,供与を約束した現金が児童に対する性交の対償であることはその事実の記載ないしは判文から明らかに読みとれるし,現金供与の約束の記載がある以上その金額の摘示までは必ずしも必要としないから,いずれの点においても対慣性の摘示に欠けるところはないというべきであって,所論はいずれも前提を欠き採用できない。論旨はいずれも理由がない。

2 控訴趣意中,理由不備,事実の誤認ないしは法令適用の誤りの主張(控訴理由第1)について
 所論は,原判決は,被告人らと被害児童らの間には,被害児量ら3名が,それぞれ男性3名の誰かから1万円をもらう代わりに,男性3名の誰かと1回あるいは複数回性交をすることの合意が成立したと認められ,具体的に性交の相手が決まった時点で,上記の合意は,男性が性交の相手である児童に現金を与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したというべきであり,対償の供与の約束があったと認定しているが,本件において,性交の相手が決まった時点でその男性が性交の相手方である児童に現金を与え,児童が性交に応じるという約束に具体化したと認定できる証拠はなく,事前に被告人と原判示の各被害児童との間に性交の前に対償供与の約束があったともいえないのであるから,原判決には理由不備の違法があるとともに,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認ないしは法令適用の誤りがある,というものである。
 ところで,原判決が挙示する関係証拠によれば,被告人が原判示の被害児童2名と性交するに至った経緯及び被告人ら3名から被害児童を含む3名の児童に現金が手渡された経緯等は,原判決が争点に対する判断の項第2に説示するとおりであり,これらの事実によれば,被告人ら3名と被害児童ら3名との間では,JR駅に集合する以前に,お互いに相手の誰かと性交し,その対価として,被告人らは1人1万円,合計3万円を支払い,被害児童らはその中から1人1万円を受領するとの合意ができていたものと認められ,このことは,被告人の関係では,被告人は被害児童らに対し,被告人と性交した場合にはその対価を支払うことを申し入れ,被害児童らにおいてこれを了承したものであり,被告人が現実に性交したのはこのうちの2名とであるから,被告人は被告人との性交に応じた被害児童に対して性交の対償として現金の供与を約束したものにほかならず,その時点で,性交の相手方について,その人数の点も含めて特定していないことは,上記のような事情のもとでは対償供与の約束の成否に影響しない。してみると,原判決が被告人と被害児童との間に対償供与の約束ができていたと認定したのは結論において正当である。論旨は理由がない。

3 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張(控訴理由第3)について
 所論は,児童買春罪において,対償供与の約束は実行行為であり,訴因において,その約束が成立した日時,場所の特定がされていなければならないところ,検察官は,原審第8回公判期日において,原判示第1及び第2のいずれの事実についても,児童に対する対償供与の約束はJR駅に集合する前の電話でのやり取りでなされた旨釈明したにもかかわらず,原判決は被告人が児童と性交したホテル「e」で現金供与の約束が成立したと認定しているもので,訴因を逸脱した違法な認定であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものである。
 確かに,原判決は具体的な対償供与の約束は性交の相手が決まった時点で成立したものと認定しているが,そもそも,児童買春罪の訴因としては,対償供与の約束があったことが記載されていれば足り,その約束が成立した日時,場所を記載するまでの必要はないし,本件では対償供与の約束がいつ成立したかの判断の前提となる事実については防御が尽くされているから,原判決が対償供与の約束の成立した時期を検察官の釈明した時期と異なる時期と認定したとしても,被告人の防御権を侵害し,訴因を逸脱して認定したとはいえないから所論は採用できない。論旨は理由がない。