児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

詐欺による児童買春行為について

 真実は1円も払うつもりが無いのに児童と10万の対償供与の約束をして性交したという場合の強姦罪の成否。偽札の場合も含む。
 真摯な承諾があれば強姦罪なんですが、曲田説によれば、「被侵害者にとって10万円という利益がどの程度の意味をもっていたかが問題となる。被侵害者においては、その利益を得たいという意思がある程度強くなっており、それゆえに性交することに同意したというととが認められ、かっ、そのような価値判断をするにいたった原因がもっぱら行為者の欺罔にあるといえるばあいには、強姦罪の成立が認められてよい」ということになるんでしょうか?
 まあ、判例は反対。

曲田統「生命・身体に対する罪における『被侵害者の錯誤と同意』」札幌学院法学 第24巻第1号 鈴木敬夫教授退職記念号

2.事例処理
一万円を払うからと偽って被侵害者から同意を得て、同者を殴ったという事例については、被侵害者にとって一万円という利益がどの程度の意味をもっていたかが問題となる。被侵害者においては、その利益を得たいという意思がある程度強くなっており、それゆえに殴られることに同意したというととが認められ、かっ、そのような価値判断をするにいたった原因がもっぱら行為者の欺罔にあるといえるばあいには、暴行罪の成立が認められてよい。
同罪の成立を、被侵害者が今日の食料もないほど貧しいといった(緊急避難類似の状況が認められる)ばあいに限定する必要はない。緊急避難類似の状況でなければ意思決定の自由の阻害を肯定できないというわけではないからである。
一万円には魅力を感じなかったものの、友人関係を保持したいと考えて詞意したようなばあいや、対して、一万円を得たいとは思ったものの、もっぱら親友からの話というととを重く捉えて同意したというようなばあいには、暴行罪の成立は否定されるべきである。

名古屋高等裁判所金沢支部
平成14年3月28日宣告
1 所論は,原判示第2ないし第4の各行為は,被害者らの真摯な承諾なく抗拒不能の状態でされたもので,強姦,準強姦,強制わいせつ,準強制わいせつ罪に当たるとし,いずれについても被害者らの告訴はなく,親告罪たる強姦罪等の一部起訴は許されないから,本件起訴は違法であって訴訟手続の法令違反があるという(控訴理由第23)。
 しかしながら,児童買春罪や児童買春処罰法7条2項の児童ポルノ製造罪(以下,単に「児童ポルノ製造罪」という。)は親告罪ではなく,しかも強姦罪等とは構成要件を異にしていて,児童買春罪等が強姦罪等と不可分の一体をなすとはいえず,原判示第2ないし第4が強姦罪等の一部起訴であるとはいえないから,告訴欠如の如何を論ずるまでもなく(最高裁昭和28年12月16日大法廷判決・刑集7巻12号2550貢参照),所論は失当である。なお,被告人の捜査段階及び原審公判の供述,共犯者の捜査段階の供述並びに被害者らの各供述によると,被告人らが被害者らに対して,畏怖させるような脅迫言辞を申し向けたことは認められない上,被害者らが性交等に及ぶ際あるいはその後の被告人らとのやりとりをみると,被害者らが恐怖心もあって買春に応じたと述べる部分もあるものの,他方で,買春行為の後,明日は行かないから,1日目の分だけお金を払って欲しい旨の電子メールを被告人に送信したり(原判示第2),これだけ恥ずかしい思いをしたのだからお金はもらって当然と思い,振込みでなく現金で欲しい旨申し出,受取りのため被告人が説明した場所に赴いたり(同第3の1),2度にわたって性交等に応じ,しかも2度目の際被告人に名刺を要求してこれを受け取り,記載してあった電話番号に電話をかけたり(同第4)していることなどが認められ,これら言動からすると,所論指摘の点を踏まえても,被害者らは対償の供与の約束により買春行為に応じたものと認めるのが相当であり,各被害者が抗拒不能の状況にあったということはできない。