児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

名古屋地裁h16.1.22児童ポルノML送信を公然陳列罪とした事例

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20040603#p2で速報した判決なんですが、弁護人の「弁護人は,本件において,当該画像データの各頒布罪が成立するとするには法律解釈上疑義があり,当該画像データを記憶,蔵置させたMOディスク又はハードディスク等の記憶装置について児童ポルノ及びわいせつ物の公然陳列罪が成立すると解するべきである旨主張する。」という主張は間違ってますよね。
 判例は有体物説で、陳列罪の客体はサーバーのHDDであるとしていますが、メーリングリストの場合は、会員のメールボックスにそれぞれ送り込んで終えば、あとは、会員が何処か一ヵ所のサーバーに見に行くことはないので、陳列罪の客体がどこにも観念できない。
 こんなときは、頒布罪は成立しないと主張すれば足り、陳列罪を主張する必要はなかった。おそらくMLの構造を、web掲載型と混同したのだろう。

名古屋地裁h16.1.22児童ポルノML送信を公然陳列罪とした事例
平成16年1月22日宣告

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画頒布(予備的訴因児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画公然陳列)被告事件

(犯罪事実)

被告人は,

第2 Y株式会社がインターネット上で提供しているメーリングリストサービスに登録されているグループのメンバーであるが,同グループの管理者で,同グループのメールアドレスに送信された電子メールの配信を承認する権限を有するBと共謀の上,メーリングリスト機能を利用して児童ポルノ等を同グループの不特定多数のメンバーに閲覧させようと企て,平成15年5月8日午前6時57分ころ,被告人方において,パーソナルコンピュータを使用し,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び被告人の性器をあわせて撮影した画像データ1画像を,ビル内に設置された前記Y株式会社が管理するサーバーコンピュータに電子メールの添付ファイルとして送信し,その記憶装置内に記憶,蔵置させた上,同月9日午前零時3分ころ,前訂Bが,ウェブ上で同メールを閲覧してその配信を承認し,よって,同画像データをCら不特定多数の者の受信用メールサ・−バーに配信して,同画像を同人らのパーソナルコンピュータで再生閲覧可能な状態を作出し,もって児童ポルノかつわいせつ物を公然と陳列したものである。

なお,判示第2の事実について,検察官は,別紙起訴状記載のとおりの児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下児童買春児童ポルノ禁止法という。)違反(児童ポルノ頒布)及びわいせつ図画頒布の訴因を主位的訴因として掲げているところ,弁護人は,本件において,当該画像データの各頒布罪が成立するとするには法律解釈上疑義があり,当該画像データを記憶,蔵置させたMOディスク又はハードディスク等の記憶装置について児童ポルノ及びわいせつ物の公然陳列罪が成立すると解するべきである旨主張する。この点について検討するに,児童買春児童ポルノ禁止法が頒布の目的物となる児童ポルノとして例示している物がいずれも有体物と解されることからすると,本件画像データは,被告人が判示のサーバーコンピュータの記憶装置内に記憶,蔵置させた電磁的記録であって有体物ではなく,判示画像データ自体が児童ポルノに直接該当すると判断するには疑義があり,同様に,同データ自体が刑法上のわいせつ図画ないしわいせつ物に直接該当するというのにも疑義がある。また,児童ポルノ及びわいせつ図画の各頒布罪にいう頒布行為は,不特定又は多数の者に対する販売以外の方法による交付行為をいうものであるところ,共犯者による同画像データの配信行為については各画像データ自体の占有支配が前記Cらに移転するものではないことから,前記配信行為が頒布に該当するという点についても疑義があるというべきである。

一方で,本件は,判示のとおり,被告人が前記画像データを電子メールの添付ファイルとして判示のサーバーコンピュータに送信し,その記憶装置内に記憶,蔵置させた上,共犯者がメーリングリスト機能を利用して判示メーリングリストサービスに登録されているグループのメンバーのメールサーバーに配信した事案ではあるが,前掲証拠によれば,前記グループは,その入会アドレスに自己のアドレス等を送信すれば自動的に入会でき,メンバーが投稿した画像データについて,同グループの管理者が承認すると,同グループの不特定多数のメンバーに自動的に配信されるシステムになっていると認められることからすると,前記配信行為は,判示のサーバーコンピュータの記憶装置に記憶,蔵置された本件画像データについて不特定多数の者に閲覧可能な状態を作出した行為といえる。よって,主位的訴因についてはこれを認定することができないものの,予備的訴因については,「わいせつ図画」とあるのを「わいせつ物」と認定した以外は,これとほぼ同旨の事実を認定することができるものと判断した。