児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「販売罪」から「提供罪」からの改正をどう評価するか?

 今日は法廷で裁判官と議論してきました。

裁判所 数回の児童ポルノ販売罪は一罪だと考える。訴因変更を許可する
弁護人 いまどきの児童ポルノ法に「販売罪」なんてないですよ。「提供罪」です。

という程度の議論。

 裁判所が法令適用を誤るのは見過ごせないし、訴因変更による追加の事実をそぎ落とせば軽くなるはずだから。

 刑法175のころから「販売罪」は営業犯を処罰する趣旨だから、複数回でも包括評価するというのが判例。特定少数への単発の販売行為は処罰しないが、不特定多数への継続反復的販売行為を処罰するという、行為の反復性による法益侵害(法益侵害の深さ)に着目するもの。だから(包括)一罪。
 児童ポルノの「販売罪」(7条1項)についても同様。
 しかし、現行法には「販売罪」はなく「提供罪」。
 しかも提供罪の行為類型としては特定少数に対するもの(1項)と不特定多数に対するもの(4項)に分かれている。4項には公然陳列も並んで規定されている。
 改正法の提供罪は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰する趣旨であって、拡散の危険が高いほど重く処罰する趣旨であること、法益侵害の幅に着目したものである。
 行為の反復性による法益侵害(法益侵害の深さ)に着目するものではないことがわかる。
 だとすれば、複数回の提供行為は、1項でも4項でも包括評価する根拠がない。

 だいたい、ここまで細かく規制した場合には、併合罪になるというのが薬物事犯における判例の傾向だと思うのです。

刑法
第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

改正前
http://www.moj.go.jp/KEIJI/h01.html
児童ポルノ頒布等)
第七条  児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
3  第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html
児童ポルノ提供等)
第七条  児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3  前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4  児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6  第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 わいせつ図画については数回の販売行為も包括一罪と評価されることがあるが(大審院S10.11.11等)、それはわいせつ図画販売罪の職業犯性や保護法益による例外的な扱いである。
 その大審院S10.11.11は「不特定多衆に対しておこなう目的に出でた有償的譲渡にして性質上反復される多数の行為を包含するものであるから複数回の販売行為は包括的に一個の犯罪として処罰すべきである」とその理由を述べるが、児童ポルノについては、職業的に行われるがゆえに処罰されるのではなく、1回でも被害児童の権利を侵害するがゆえに処罰されるのであるから、そもそも包括評価する理由がない。

 また、山火氏もわいせつ図画罪の職業犯性による例外的取り扱いであると分析している。
山火正則「包括的一罪」(『判例刑法研究ー4.未遂・共犯・罪数』P279)*1

 児童ポルノ罪については、その個人的法益性を重視すると、一回性の売買や特定少数に対する売買や無償譲渡もわいせつ図画以上の当罰性を有するから、(職業犯を処罰する趣旨ではないから)販売=包括一罪とすることは許されない。
 実際、昨年の改正によって、販売罪は姿を消し、代わりに提供罪が登場し、しかも、特定少数提供罪(7条1項)と不特定多数提供罪(7条4項)がもうけられたのである。児童ポルノについては一回性の行為も処罰するのであって 、各罪の法定刑のバランス(1項提供罪は1回性の提供行為を予定しているから数回行えば数罪となる。その場合の処断刑期は併合罪加重され、4年6月となる。数個の4項提供罪を包括一罪とすると、数回でも5年となり、数回の1項提供罪の処断刑期と近接する。わかりやすく言えば、1項提供罪を2回行うと懲役4年6月になるが4項提供罪を1万回行っても懲役5年に止まる)を考えると、特定少数提供罪(7条1項)も不特定多数提供罪(7条4項)も複数回行えば併合罪になることは明かである。