児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ罪の個人的法益が読み取れない理由

 だから社会的法益だと主張すると、極端に個人的法益説の判決を書いてくれます。

 このように、刑罰法規の基本である保護法益について多くの裁判所に理解されていない法律というのは、立法技術的に問題があると言うべきである。

 児童ポルノ罪はどうして個人的法益に対する罪であると読めないのか?
 法文上、人に対する罪ではなく物に関わる罪であると規定されており、しかも、被害者無き犯罪の典型であるわいせつ図画罪(刑法175条)と体裁が似ているからである。
 すなわち、情報流通に関する犯罪(流布犯)としては、刑法にも名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪が存在するが、すべて、対象が「人の」「人を」と規定されていて、人に対する罪であること・個人的法益であることが明確にされている。

刑法第230条(名誉毀損) 
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

第233条(信用毀損及び業務妨害) 
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 印刷物などの有体物を媒介とする場合もあるが、媒体による限定はないので、個人的法益であることに誤解は生じない。

 ところが、改正前の児童ポルノ法は、刑法175条をそのまま流用して設けられた。刑法175条は風俗に関する罪であって被害者無き犯罪の典型である。しかも、明治40年制定であるから、規制対象が有体物とされている。
 児童ポルノ法がこのような刑法の規定を真似たために、児童ポルノ罪も被害者無き犯罪であって、物に対する罪であるとの理解が広がった。

刑法第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

旧法
第二条  
3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

第七条  児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
3 第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 対象を有体物に限定して、「公然陳列」という刑法に由来する概念を用いている点で、現行法の体裁も基本的には刑法175条にならっていると読める。旧法の個人的法益性が読み取りづらい体裁を追認したのである。

現行法
第2条(定義)
この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 実際、解釈において「物」にこだわった裁判例も多く見受けられる。
①大阪地裁H13.2.21*1
②大阪高裁h14.9.12*2
名古屋高裁金沢支部h17.6.9*3
 裁判所の弁護をすれば、法文の体裁に従って、忠実に解釈した結果であって、児童ポルノ罪の被害者を見失うのも無理もない。
 被害児童への攻撃であること、媒介手段は有体物に限らないことを明示すべきである。

 例えば、製造罪の構成要件は「児童の姿態を撮影した者」とすればいいわけですよ。
 迷惑条例の例があります。

http://www.pref.shiga.jp/jourei/reisys/honbun/ak00111301.html
滋賀県迷惑行為等防止条例
第3条 何人も、公共の場所または公共の乗物において、みだりに人を著しくしゆう恥させ、または人に不安もしくは嫌悪を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
(2) 衣服等で覆われている人の身体または下着をのぞき見し、または撮影すること。
2 何人も、公共の場所または公共の乗物において、写真機等を使用して透かして見る方法により、みだりに衣服等で覆われている人の身体または下着の映像を見、または撮影してはならない。
3 何人も、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部または一部を着けない状態でいる場所における当該状態にある人の姿態をみだりに撮影してはならない。