児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

わいせつ画像のDM送信~「頒布は,不特定又は多数の人に対して物を交付・讓渡することをいう」が、「たまたま1名の顧客に交付・譲渡等したに過ぎない場合であっても, それが不特定又は多数の人に対して交付・譲渡等する意思でされたものであれば,頒布に該当する」

「頒布は,不特定又は多数の人に対して物を交付・讓渡することをいう」が、「たまたま1名の顧客に交付・譲渡等したに過ぎない場合であっても, それが不特定又は多数の人に対して交付・譲渡等する意思でされたものであれば,頒布に該当する」

 「1対1は頒布にあたらない」と考えている相談者が多くて、弁護士ドットコムでもそういう回答をよく見かけます。
 「たまたま1名の顧客に交付・譲渡等したに過ぎない場合であっても, それが不特定又は多数の人に対して交付・譲渡等する意思でされたものであれば,頒布に該当する」ということで、ホントに1対1の送信行為(元彼女、不倫相手)についても「頒布の疑い」で逮捕されることがあります。神戸と大阪と千葉でそういう身柄事件を担当したことがあります。いずれも起訴猶予

      わいせつ図画販売被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/昭和61年(う)第1861号
【判決日付】 昭和62年3月16日
【判示事項】 わいせつのビデオテープを顧客1名に売り渡した事案についてわいせつ図画販売罪が成立するとされた事例
【参照条文】 刑法175
【掲載誌】  判例時報1243号141頁

       理   由

 本件控訴の趣意は、弁護人海部安昌、同相原宏各作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官小林永和作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。
 一 弁護人海部安昌の控訴趣意第一(理由不備の主張)について
 論旨は、わいせつ図画販売罪が成立するためには、わいせつ図画を不特定又は多数の人に売ることが必要であり、一回の売渡しをもって右販売罪が成立するとするには、その売渡しが、不特定の人を相手方とするものであることのほか、不特定又は多数の人を対象とする反復の意思のもとになされたものであることが必要であるとされており、右要件は、判決の「罪となるべき事実」に判示されなければならないところ、原判決は、被告人が昭和六〇年一一月一〇日Aにわいせつビデオテープ二巻を売り渡した、という、A一人に対するただ一回の売渡しの事実を認定し、もって被告人がわいせつ図画を販売したものと判示しているが、右Aが特定人であれば右販売罪は成立しないのであるから、同人が不特定人であることの判示は不可欠であるのに、その旨の判示をしておらず、また、右売渡しが反復の意思をもってなされたことの判示もなく、原判決の右判示によっては、わいせつ図画販売罪の成立を認定するに由なきものであって、右の点において原判決には理由不備の違法がある旨主張する。
 そこで検討するに、刑法一七五条のわいせつ図画販売罪について有罪判決をするには、罪となるべき事実として、当該わいせつ図画を不特定又は多数の者に有償譲渡したという、「販売」にあたる事実を判示すべきであり、本件のように、当該行為が一人の者に対する一回の売渡しである場合には、それが不特定の者に対する売渡しであって、反復の意思でなされたものであることが明らかであるように判示すべきものと解されるところ、原判決は、罪となるべき事実として、「被告人は、静岡県浜松市丸塚町《番地略》所在のビデオテープのレンタル業『ビデオショップ甲田』店を経営している者であるが、昭和六〇年一一月一〇日ころ、同店前駐車場において、Aに対し、男女性交の場面等を露骨かつ詳細に撮影したわいせつのビデオテープ二巻を代金二万四〇〇〇円で売り渡し、もってわいせつの図画を販売したものである。」と判示しており、右判示事実自体からも、レンタル業とはいえ、ビデオテープを扱う店を経営する者である被告人が、本件わいせつビデオテープ二巻を客であるAに売り渡したものであり、原判決が「もってわいせつ図画を販売したものである」と認定判断しているように、右売渡しが、不特定の客に対する有償譲渡、すなわち、刑法一七五条にいう販売にあたるものであることを読みとることができるものというべきであって、原判決に所論の理由不備があるとはいえない。
 論旨は理由がない。
 二 弁護人相原宏の控訴趣意一(法令解釈の誤りの主張)について
 論旨は、刑法一七五条にいう販売とは、不特定又は多数の人に対する有償譲渡をいうところ、被告人が販売した相手先はAただ一人である上、同人は以前から甲田店の顧客であり、被告人はAから頼まれて、ビデオテープを販売したものであって、原判決は、刑法一七五条所定の販売の解釈を誤って適用したものである旨主張する。
 しかしながら、刑法一七五条にいう販売の意義は所論のとおりであるが、原判決挙示の関係証拠によれば、右Aが前記店の不特定の客の一人であること、被告人は、本件以外にも、同人に対し、あるいは他の者に対し、わいせつビデオテープを売り渡して利益をあげており、本件起訴にかかる売渡しもその一環であることが認められ、これがわいせつ図画の販売にあたることは明白であって、被告人の本件所為について、同条を適用した原判決の法令の解釈適用に誤りがあるとは認められない。
 論旨は理由がない。
 三 弁護人海部安昌の控訴趣意第二及び同相原宏の控訴趣意二(量刑不当の主張)について
 論旨は、いずれも、被告人を実刑に処した原判決の量刑不当を主張するものであるが、本件は、わいせつビデオテープ二巻の販売の事案であるところ、右犯行の罪質、動機及び態様に加え、被告人は、昭和五七年二月にはわいせつビデオテープを輸入するなどした関税法違反の罪により、同年五月にはわいせつ文書等販売教唆罪により、そして同年九月にはわいせつ文書等所持罪により、いずれも罰金刑に処せられているほか、同五八年一一月一日にはわいせつ文書等所持罪により懲役六月、三年間執行猶予の判決(同月一六日確定)を受けているにもかかわらず、厳に自重自戒すべきその猶予の期間中に本件犯行を重ねたものであって、遵法精神に乏しいものといわざるを得ないことなどを考慮すると、犯情は芳しくない。従って、被告人は、Aからの働きかけがあったところから本件犯行に及んだものであって、この種ビデオテープを手広く売り捌いていたものとまでは認められず、本件については深く反省後悔していること、その他、被告人の年令、健康状態、家庭の状況等、被告人のために斟酌しうる各所論指摘の諸点(なお、前記執行猶予の期間は原判決の言渡し前に満了している。)を勘案してみても、原審記録及び証拠物に徴する限り、原判決が被告人に対し懲役七月の実刑をもって臨んだのはやむを得ないところであったものと思われる。
 しかしながら、当審における事実取調べの結果によれば、被告人は、二度と再び本件のような犯行にかかわることのないようにするべく、転業を決意し、原判決後、本年三月九日に至り、前記ビデオショップの営業を譲渡しており、その反省改悛の情には酌むべきものが認められ、これに、前示の被告人の年令、健康状態など、原判決の前後にわたる諸般の事情を総合して、被告人に対する量刑を再考してみると、現時点においてなお原判決の実刑を維持することは、いささか被告人に酷に失するものと思われ、被告人に対しては、今一度刑の執行を猶予し、自力更生の機会を与えるのが、刑政の本旨にも適う、相当な処遇であると思料される。
 よって、刑事訴訟法三九七条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、被告事件について更に次のとおり判決する。
 原判決が認定した、被告人のわいせつ図画販売の所為に刑法一七五条、罰金等臨時措置法三条一項一号を適用し、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役七月に処し、前記情状にかんがみ、刑法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 船田三雄 裁判官 龍岡資晃 川島貴志郎)

判例番号】 L02720374
       わいせつ図画頒布等被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/昭和47年(う)第877号
【判決日付】 昭和47年7月14日
【判示事項】 わいせつ図画を特定の1人に対して無償交付したにすぎない場合でも同図画の頒布罪が成立するとされた事例
【参照条文】 刑法175
【掲載誌】  東京高等裁判所判決時報刑事23巻7号136頁
       判例タイムズ288号381頁

       判 決 理 由

 所論は、原判決がその第一の一、二において、わいせつ図画頒布の事実を認定し、これに刑法第百七十五条前段を適用しているけれども、もともと「頒布」とは不特定または多数人に対し無償で交付することをいうのであるが、本件において頒布を受けたのは関根孝平という特定人であるから、特定人に対する無償交付は「頒布」ということはできない。これを頒布行為であるとした原判決は法令の解釈適用を誤つたもので、判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
 よつて案ずるに、わいせつ図画の頒布罪が成立するためには、わいせつ図画を不特定または多数人に無償交付することを要することは所論のとおりであるが、不特定または多数人に対してなす目的のもとに無償交付がなされるかぎり、特定の一人に対して二回の無償交付をなしたに止まる場合といえども、これを「頒布」行為というを妨げないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原判決挙示の判示第一の一、二関係の諸証拠を総合すると、本件わいせつ写真集は、nにたのまれて、被告人が自分の分をも含めて三千部をo綜合印刷のt営業部長に依頼して作成したものの一部であり、被告人はパチンコ店「牡丹」で同店々員sに対し八ミリのわいせつフィルムを賃貸したいと申し入れたことがあること、被告人が「牡丹」に来るとき、いつも黒皮製の鞄の中の紙袋に、わいせつブック、春画をもつていたこと、sは他の店員から、被告人が他の店員にもわいせつ物を売りに来たことがあると聞いたことがあること、被告人がsに交付したものと、同種のものをkにも販売していること、などの諸事実が認められ、これらの事実を総合すると、被告人にはわいせつ図画を不特定または多数人に対して交付する目的があつたと認定するのが相当である。このような目的のもとにsに対して本件図画を無償交付した以上、これを「頒布」行為と評価するに何ら間然するところはない。これと同旨に出た原判決には何ら所論のような法令の解釈適用の誤りはなく、論旨は理由がなく、採用できない。

条解刑法
4) 頒布
1項前段の頒布は,不特定又は多数の人に対して物を交付・讓渡することをいい(平成23年改正前の頒布につき大判大15・3・5集5-78, 同販売につき最判昭34.3.5集133-275) ,平成23年の改正によって設けられた1項後段の頒布は‘不特定又は多数の人の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいう(最決平26・11・25集689-1053)。送信時に何らかの直接的行為を要するものではなく顧客のダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用した場合は, それにより送信されたデータを当該顧客の記録媒体上に記録・保存させれば,頒布に当たる(前掲最決平26・11・25)。
頒布は,有償であると無償であるとを問わず, 賃貸行為も含まれる。平成23年の改正までは, 「頒布」のほかに「販売」を規定していたため, 頒布は販売以外の態様をいうものと解されていたが‘ この改正で「販売」が削除されたため, 「頒布」は有償・無償の両者を含む概念であることが明らかになった。
不特定又は多数の人への交付・譲渡等であるから,不特定かつ多数の場合のみでなく,不特定かつ少数の場合も,特定かつ多数の場合も, それに該当する。たまたま1名の顧客に交付・譲渡等したに過ぎない場合であっても, それが不特定又は多数の人に対して交付・譲渡等する意思でされたものであれば,頒布に該当する(東京高判昭47.7・14判夕288381,東京高判昭62・3・16判時1243-141)。また,不特定の者が入会できる以上は, 会員組織として会員に配布する形態をとっていても‘不特定の者に頒布したものといえる(東京高判昭33.3.31判タ81-50)。同様に,譲渡の相手方が会員に限られてはいても, 多数の組織会員から拠金名義で金員を徴収して, わいせつ文書である機関誌を譲渡した場合は, 多数の人に対するものとして,頒布に当たる(東京高判昭43・9・10高集21-4-353)。