児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

3号ポルノ製造罪の罪となるべき事実に、「全裸」「半裸」などを摘示していないもの(高松地裁r2.9.17 実刑)

 法令適用によれば3号でも起訴されていますが、「A(当時15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,令和2年2月8日午前11時頃から同日午後4時34分頃までの間に,前記cホテルにおいて,同児童に被告人と性交する等の姿態をとらせ,これらをデジタルカメラで動画又は静止画として撮影し,その動画データ1点及び静止画データ2点を同カメラに装着した電磁的記録媒体であるSDカードに記録させて保存した上」では、1号(児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態)は充たしますが、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり」にはなりません。着衣の性交もありうるからです。「等」ではどういう姿態かわかりません。
 控訴すれば理由不備で破棄されます。名古屋高裁と仙台高裁に判決があります。
 重い罪ばっかりに気をとられて、こういうことになることがあります。成立しない罪で服役することになるので弁護人は判決書を点検してください。

裁判年月日 令和 2年 9月17日 裁判所名 高松地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(わ)118号 ・ 令2(わ)133号 ・ 令2(わ)208号
事件名 児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2020WLJPCA09176006

 上記の者に対する児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官久能裕斗及び弁護人岡朋樹(国選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 
主文

 
 
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は
第1(令和2年4月14日付け起訴状記載の公訴事実(訴因変更後のもの))
 a中学校の教諭として,同校のb部の顧問をしていたものであるが,同校の生徒であり,同部の部員であったA(当時14歳ないし15歳。以下「A」という。)が満18歳に満たない児童であることを知りながら,その立場を利用し
 1 平成31年2月2日,●●●同校●●●室において,A(当時14歳)に自己の陰茎を口淫させる性交類似行為をさせ
 2 令和2年2月8日午前11時頃から同日午後4時34分頃までの間に,高松市〈以下省略〉cホテルにおいて,A(当時15歳)に自己を相手に性交させ
 もって児童に淫行させる行為をし
第2(令和2年4月24日付け起訴状記載の公訴事実)
 A(当時14歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,平成31年2月2日,前記中学校において,同児童に被告人の陰茎を口淫する等の姿態をとらせ,これらをデジタルカメラで動画又は静止画として撮影し,その動画データ1点及び静止画データ3点を同カメラに装着した電磁的記録媒体であるSDカードに記録させて保存した上,同日頃から同月3日頃までの間に,高松市〈以下省略〉の被告人方において,同動画データ1点及び同静止画データ3点を電磁的記録媒体であるハードディスク内に記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
第3(令和2年6月26日付け起訴状記載の公訴事実第1)
 A(当時15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,令和2年2月8日午前11時頃から同日午後4時34分頃までの間に,前記cホテルにおいて,同児童に被告人と性交する等の姿態をとらせ,これらをデジタルカメラで動画又は静止画として撮影し,その動画データ1点及び静止画データ2点を同カメラに装着した電磁的記録媒体であるSDカードに記録させて保存した上,同日頃から同月9日頃までの間に,前記被告人方において,同動画データ1点及び同静止画データ2点を電磁的記録媒体であるハードディスク内に記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
第4(令和2年6月26日付け起訴状記載の公訴事実第2)
 自己の性的好奇心を満たす目的で,令和2年3月24日,高松市〈以下省略〉の駐車場に駐車中の自動車内において,児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態,他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である動画データ4点及び静止画データ69点を記録した児童ポルノであるハードディスク1台を所持し
 たものである。
 (証拠の標目)
 (法令の適用)
 罰条
 判示第1の所為 包括して児童福祉法60条1項,34条1項6号
 判示第2及び第3の各所為 いずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2条3項1号,3号
 判示第4の所為 同法律7条1項前段,2条3項1号,2号,3号
 刑種の選択 いずれも懲役刑選択
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書
 (量刑の理由)
 本件は,①中学校の教諭であった被告人が,顧問として指導していた部活動の部員であった当時14歳ないし15歳の児童Aに対し,その立場を利用して,平成31年2月に同中学校内で自己の陰茎を口淫させ,令和2年2月にホテルで自己を相手に性交させ,もって児童に淫行させ(判示第1),②そのいずれの際にもその性交等の場面を動画及び静止画として撮影して児童ポルノを製造し(判示第2及び第3),③撮影当時17歳のBの性交等の動画及び静止画データを所持した(判示第4)という事案である。

 (求刑 懲役3年)
 高松地方裁判所刑事部
 (裁判官)

刑事判決書起案の手引き
第2 事実摘示の方法・程度一般
153 1 罪となるべき事実は,それがいかなる構成要件に該当するかが,一読して分かるように,明確にこれを記載しなければならない。そのためには,当言葉犯罪の構成要件要素に当たる事実のすべてを漏れなく記載しなければならない。そのほか,事案に応じいわゆる犯情の軽重を示す事実をも記載する方がよい。
154 他方,他の犯罪をも認定したのではないかと疑わせるおそれのある表現は,できる限り避けなければならない(例えば,屋内での強盗被告事件において,住居侵入の点については有罪の認定をしない事案で.「A方に押し入り」などの言葉を用いることは,たとえ情状を明らかにするつもりであっても,むしろこれを避けるべきである。)。
155 2「( 罪となるべき事実)」の見出しの下に摘示される事実は,それが本来の罪となるべき事実に当たるときはもとより,そうでない事実であっても,証拠によって認定されたものでなければならない。「(犯行に至る経緯)」等の見出しの下に摘示される事実についても同様である。
156 3 罪となるべき事実は,できる限り具体的に,かっ,他の事実と区別できる程度に特定して,これを摘示しなければならない。そのためには,犯罪の日待・場所はもとより,犯罪の手段・方法・結果等についてもできる限り具体的にこれを記載しなければならない。このことは既判力の及ぶ範囲や訴因との同一性を明確にするためにも必要である。
157 4 包括ー罪においては,犯罪の日時・場所・手段等について包括的な判示が許される。
158 5 事実はできる限り明確に摘示しなりればならない。したがって,日時・場所・数量等が証拠によって明らかに認められるのに「ころ」「付近」「等」「くらい」などの言葉を用いることは慎むべきである。
6 被害者の年齢については,それが構成要件に関する事実(刑176後等)である場合を除き,必ずしも檎示の必要はないが,犯罪の成否(脅迫・恐喝・強盗罪等)及び犯情(殺人・傷害罪等)に影響を与えるような場合には,これを摘示するのが通例である。
その方法としては, 「A (当時00歳)」とするのが通例である。 「B(当00年)」, 「C (平成O年O月O日生)」とする例もないではないが, 「当」は,犯罪時の年齢か判決時のそれかが必ずしも明確ではない。
7 犯行に用いた凶器等を罪となるべき事実の中に判示する場合,それが主文で没収を言い渡した物であるときは,河一性を明示するため,裁判所の押収番号(96参照)を記載することが望ましい(168参照)。没収を言い渡さなかった物であるときでも,証拠の標目中に掲げた証拠物との同一性を明示するため,その押収番号を記載する例が多い。
8 事実の摘示は,冗漫にならないように留意しなければならない。
9 事実摘示の末尾に,認定した事実に対する裁判所の法律的評価を明らかにする趣旨で,例えば, 「もって,自己の職務に関し賄賂を収受し」「もって横領し」等の言葉を記載する事例が多いが,この場合, 「自己の職務に関し賄賂を収受し」,「横領し」等の言葉は法律的評価を示すものにすぎないのであって,それ自体犯罪行為の事実的表現ではないことに留意すべきである。
10 併合罪の場合には,各個の犯罪事実ごとに,第1,第2というように番号を付け,かつ,行を改め,科刑上のー罪の場合には,そのようにせずに各事実を続けて摘示するのが通例である(なお, 214, 319参照)。
11 事実を摘示するに当たっては,起訴状等に記載された事実を引用することが許される(規218)。しかし,起訴状等の記載は裁判所の最終的な判断に必ずしも完全に一致するとは限らないから,漫然とこれを引用することがないように留意しなければならない。

名古屋高裁H23.7.5
 論旨は,要するに,上記各児童ポルノ製造の事実に関し,(1)各起訴状の公訴事実には,被告人が各児童にとらせた姿態につき「被告人と性交を行う姿態等」(平成22年5月26日付け起訴状公訴事実)又は「性交に係る姿態等」(同年6月1日付け起訴状公訴事実第2,第4,同月29日付け起訴状公訴事実第2)とのみ記載されており,「児童を相手方とする性交に係る児童の姿態」(児童ポルノ処罰法2条3項1号)のほかにいかなる姿態をとらせて撮影したとして起訴しているのか不明瞭であり,各起訴状の罪名及び罰条においても,「児童ポルノ処罰法7条3項,2条3項」とのみ記載されて2条3項各号の記載がないことからすると,訴因が不特定であるというほかなく,これを看過して実体判決をした原審の訴訟手続には法令違反がある,(2)原判決の各犯罪事実には,各児童に「被告人と性交を行う姿態等」をとらせ,これを撮影して児童ポルノを作成したことは示されているが,法令の適用の項で摘示している児童ポルノ処罰法2条3項3号に該当する具体的事実が示されていないから,原判決には理由不備の違法がある,というのである。
 まず,(1)の点について検討すると,各起訴状の公訴事実における犯罪の相手方,日時・場所等の記載は,他の犯罪と識別するに十分なものであり,これによって被告人側の防御の範囲も画されているといえるし,また,各公訴事実の「被告人と性交を行う姿態」あるいは「性交に係る姿態」の記載の直後にいずれも「等」と記載され,罪名及び罰条において,児童ポルノ処罰法7条3項,2条3項と記載され同項の何号であるかが明示されていない,という各起訴状の記載内容をみれば,各児童に同法2条3項1号のみならず2号あるいは3号に該当する姿態をとらせて児童ポルノを製造した事実をも本件各訴因に含まれ得る趣旨を読み取ることができることを併せ考えれば,同項の何号かの明示を欠くことによって,被告人側に対する不意打ちの危険が生じその防御に支障を来すなどともいえない。そうすると,本件各訴因が特定されていないともいえないから,公訴棄却せずに実体判決をした原審の訴訟手続に法令違反はない。
 次に,(2)の点について検討すると,原判決は,犯罪事実第1の2,第2の2,第3の2につき,法令の適用の項において,いずれも児童ポルノ処罰法7条3項,l項,2条3項1号,3号に該当すると判示しているのであるから,各犯罪事実において,同法2条3項1号のみならず3号に該当する姿態をとらせて児童ポルノを製造した旨の具体的事実をも摘示する必要があるというべきである。しかるに,原判決は,上記各犯罪事実において,各児童に「被告人と性交を行う姿態等」をとらせた上,これを写真撮影し,その静止画を記録媒体に記録させて描写し,もって「児童を相手方とする性交に係る児童の姿態等」を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した旨を摘示するにとどまり,児童ポルノ処罰法2条3項3号に該当する姿態をとらせて児童ポルノを製造した旨の具体的事実を摘示していないのであるから,原判決には,上記各事実に関し,罪となるべき事実の記載に理由の不備があるといわざるを得ない。
 論旨はこの点において理由がある。そして,原判決は,原判示第1の2,第2の2,第3の2の各児童ポルノ製造罪とその余の各罪とが刑法45条前段の併合罪の関係にあるものとして1個の刑を科しているから,結局,その余の控訴趣意について判断するまでもなく,原判決は全部につき破棄を免れない。
2 破棄自判
 よって,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当裁判所において更に判決する。
(罪となるべき事実)

仙台高裁R2.6.25
第3 理由不備の論旨について
1論旨は,「原判決は,罪となるべき事実の第2において,児童ポルノ法2条3項3号に該当する事実を記載していないから,原判決は判決に理由を附さない違法がある」と主張する。
2上記の公訴事実について有罪の言渡しをする場合,罪となるべき事実としては具体的な事実を示さなければならない。原判決は,「被害者に,被告人と性交する姿態等をとらせ,これを被告人のスマートフォンの撮影機能を用いて撮影し,その撮影データ16点を,同スマートフォン本体に内蔵された記録装置に記録させて保存し」と示すにとどまり,児童ポルノ法2条3項3号に該当する事実を示していない。上記記載の「被告人と性交する姿態等」の「等」の中に,同法2条3項3号に該当する事実が含まれていると解するのは困難である。原判決は,有罪の言渡しに必要な罪となるべき事実の記載を欠き,判決に理由を附さない違法があるといわざるを得ない。 ~
論旨は理由がある。原判決は,原判示第2の児童ポルノ製造罪と第1の青少年健全育成条例違反罪とが刑法45条前段の併合罪の関係にあるものとして1個の刑を科しているから,結局,その余の控訴趣意について判断するまでもなく,原判決は全部につき破棄を免れない。
第4破棄自判
よって,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当裁判所において更に判決する。
(罪となるべき事実)

追記
 控訴審は量刑不当で破棄して、こっそりと罪となるべき事実を修正して理由不備を隠しましたが、理由不備だけで破棄されるべき事案です
 理由不備で破棄されるので、量刑不当に対する判断は不要です。

刑事控訴審の手続及び判決書の実際(小林充・法曹会・平成12年)
P78
数個の控訴理由に対する判断順序
控訴理由(職権による破棄事由を含む。)には論理的な先後関係があり、論理的に後順位のものは先順位のものに対して予備的な判断事項であり、先順位の控訴理由が認められるときは後順位のそれに対して判断を示す必要はない(あるいは判断すべきでない。〕と解するのが一般である(最決昭三〇・八・二裁判集一O八・一一、最決昭三三・一一・七七刑集士了一五・三五一三)。もっとも、控訴棄却の判決をする場合には、主張された控訴理由がすべて存在しないことを明らかにするため(法三九六)、それらのすべてについて調査判断を加えることが必要であるから、判断の順序ということも正面からは問題にならない。しかし、この場合でも、原則的には控訴理由の論理的順序に従うのが適切であろう。
ところで、控訴理由の論理的な先後関係としては、
一般的には、①広義の訴訟手続の法令違反〈法三七七ないし三七九)、②事実誤認(法三八二。法三八三①の再審請求事由もこれと同視してよい。)、③法令適用の誤り(法380)、④量刑不当(法三八一)の順序にあるといってよい。事実誤認は訴訟手続が適法に行われたことを論理的に前提とし、その適法な訴訟手続の下における事実認定の当否を問題にするものであり、また法令適用の誤りは訴訟手続が適法に行われ、かっそのような適法な訴訟手続のドにおける事実認定に誤りのないことを論理的に前提とし、さらに量刑不当はこれに加えて適用された法令においても誤りのないことを論理的に前提としていると一般には解されるからである
P82
カ先順位の控訴理由が認められるときは後順位の控訴理由に対しては調査判断を要しない。しかし、破棄理由となった控訴趣意以外の控訴趣意に対しても必要に応じて調査判断をするのが適切なこともあろう。
例えば、自白の任意性の欠如を理由に有罪の原判決を破棄して無罪の白判をしたが、その理由中で、自白の任意性が認められるとしても被告人の有罪を認定できないとする事実誤認の控訴趣意に対しでも判断を示すなどである。

高松高等裁判所
令和2年(う)第137号
令和03年01月21日

 上記の者に対する児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、令和2年9月17日高松地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官岡本安弘及び弁護人岡朋樹(国選)出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役3年に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。

理由
 本件控訴の趣意は、量刑不当の主張であり、刑の執行を猶予すべきであるというのである。
 本件は、中学校の教諭であった被告人が、(1)同校の生徒で、自己が顧問をする部活動の部員であった被害児童(以下「A」という。)が満18歳に満たない児童であることを知りながら、その立場を利用し、〈1〉平成31年2月に同校内で当時14歳のAに自己の陰茎を口淫させ(原判示第1の1)、〈2〉令和2年2月にホテルで当時15歳のAに自己を相手に性交させ(原判示第1の2)、もって児童に淫行させる行為をし、(2)(1)の各行為の際に、Aの口淫又は性交等する等の姿態をデジタルカメラで撮影し、その動画データ等をハードディスク等に記録して保存させて、それぞれ児童ポルノを製造し(原判示第2及び第3)、(3)令和2年3月、駐車中の自動車内において、児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を描写した動画データ等を記録した児童ポルノであるハードディスク1台を所持した(原判示第4)という事案である。
 原判決は、被告人が中学校の教諭として、その生徒であるAを指導し、健全な成長を支えるべき立場にありながら、部活動の指導を通じてAが被告人を尊敬していたことや、その判断力の未熟さに乗じ、Aに対する影響力を行使して、性交等の淫行をさせたもので、教師としてあるまじき卑劣な犯行であること、被告人は、平成30年11月頃からAの裸の写真を撮影するようになって、原判示第1の1の犯行に至り、その後は、毎月のように性交等を重ねる中で原判示第1の2の犯行に至ったもので、Aの健全育成に対する阻害の程度が大きいこと、被告人は、自己の性的欲望を満たすためにAに対する各犯行に及んだもので、その意思決定は強い非難に値すること、上記のAに関する児童ポルノを製造したほか、別の女児の児童ポルノの所持にも及んでいて、非難の程度は一層強いことを指摘し、他方で、Aに300万円を支払って示談していること、被告人が罪を認めて反省悔悟の態度を示していること、本件により懲戒免職処分を受けたこと、前科前歴がないことを考慮しても、刑の執行を猶予するのは相当ではないとして、被告人を懲役1年8月に処した。
 原判決の量刑事情の認定及び評価は概ね相当であるが、本件各犯行の行為責任の重さの程度やAとの間で示談が成立したこと等を踏まえると、原判決の量刑は、同種事案の中で重い傾向にあるとはいえる。もっとも、本件が上記のとおり相応の悪質性を有することなどからすれば、その量刑が重過ぎて不当であるとまではいえない。
 所論は、〈1〉被告人が複数回にわたって実名報道された上、懲戒免職処分のみならず退職金の全部不支給処分を受けるなどの社会的制裁を受けたこと、〈2〉被告人が実刑となった場合には、高齢の父親の生活が危機に瀕するおそれがあることなどを十分に考慮すべきであると主張する。しかし、これらはいずれも一般情状であり、考慮するにも限度があることからすれば、原判決の量刑を左右するものとはいえない。
 もっとも、被告人が、原判決後、教職とは全く異なる職場においてまじめに勤務し、勤務先の会社が被告人の雇用を継続したい旨の希望を述べるに至るなど、更生の意欲を強く示していること、原判示第4の被害児童に30万円を支払って示談したことが認められる。これらの事情に加えて、同種事案の量刑傾向や上記の量刑事情を併せ考慮すると、被告人に対しては、直ちに実刑に処するのではなく、社会内で更生する機会を与えることが相当になったといえる。
 そこで、刑訴法397条2項により原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して、被告事件について更に次のとおり判決する。
 原判決の認定した罪となるべき事実(ただし、原判示第2の「同児童に被告人の陰茎を口淫する等の姿態」とあるのを「同児童に被告人の陰茎を口淫する姿態及び乳房を露出した姿態」と、原判示第3の「同児童に被告人と性交する等の姿態」とあるのを「同児童に被告人の陰茎を口淫し、被告人と性交する姿態及び陰部や乳房を露出した姿態」と訂正する。)に原判決挙示の法令を適用し(刑種の選択及び併合罪の処理を含む。ただし、罰条のうち「判示第2及び第3の所為 いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2条3項1号、3号」とあるのを「判示第2及び第3の所為 いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項1号、3号」と訂正する。)、その処断刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し、情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し、原審及び当審の訴訟費用については、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
第1部
 (裁判長裁判官 杉山愼治 裁判官 安達拓 裁判官 井草健太)