児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春罪で逆転無罪判決(福岡高裁那覇支部H30.11.14)

 虚偽自白でした。
 事情があって、弁護人不在で宣告されました。
 判決書謄本を取り寄せ中です。
 判例秘書に掲載されました、

判例番号】 L07320582
       児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 福岡高等裁判所那覇支部判決/平成30年(う)第44号
【判決日付】 平成30年11月14日
【判示事項】 被告人が,出会い系サイトで知り合った被害児童(当時16歳)が18歳未満であることを知りながら,金銭供与の約束で性交をし,児童買春をしたとしてその罪に問われた事案。原判決は,被害児童が18歳未満である可能性を認識していた(被害児童の年齢に係る認識を「年齢の知情性」)として,罰金50万円に処したため,被告人が事実誤認等を理由に控訴した。控訴審は,原判決の事実認定は,年齢の知情性を推認する客観的事実関係がないという評価に誤りはないが,被告人供述の解釈に当たり不利益な供述のみを採用し,その証明力の評価を誤り,信用性を肯定するに足りない事情から自白の信用性を認めるなどの事実誤認は論理則・経験則に反しており,事実誤認があるとして,原判決を破棄し,無罪を言い渡した事例
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
       主   文

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-834462.html?fbclid=IwAR3BYK0MJHOCCnphUuLdW2zw1nmUNUR3Lqme43wQTBhU1-CfHIlY4CLuBFE
児童買春で逆転無罪 高裁那覇支部 一審判断「飛躍ある」
2018年11月15日 10:29
 18歳未満と知りながら16歳の女子高生に金銭を渡してみだらな行為をしたなどとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反に問われた60代男性医師=那覇市=の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部の大久保正道裁判長は14日、罰金50万円を言い渡した一審沖縄簡裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。
 一審判決は、男性医師は被害者から21歳と聞かされたが、体形などから18歳未満と推認することができたなどと判断した。
 しかし大久保裁判長は被害者の年齢について男性医師は「漠然とした印象」しか持っていなかったとし、当時の状況や医師の認識から被害者の年齢を認識できたとする判断は「飛躍がある」と指摘した。
 さらに男性医師による捜査段階の自白については医院の経営や患者への悪影響を考えたほか、被害者への罪悪感もあって早期に釈放されるために虚偽の自白をすることはあり得るとした。
 その上で「自白の信用性を肯定するだけの積極的根拠となる事情は見当たらない」と評価し、一審判決の認定には事実誤認があると判断した。
・・・
児童買春の医師 二審で逆転無罪/那覇 自白信用性認めず
2018.11.15 沖縄タイムス社 
 18歳未満と知りながら女子高生にみだらな行為をしたとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(買春)の罪に問われた医師の男性被告(63)の控訴審判決公判が14日、福岡高裁那覇支部であった。大久保正道裁判長は、18歳未満と認識していたという自白の信用性について「肯定するだけの積極的根拠は見当たらない」と判示。罰金50万円だった一審沖縄簡裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。

児童買春の医師 二審で逆転無罪/那覇 自白信用性認めず
2018.11.15 沖縄タイムス社 
 18歳未満と知りながら女子高生にみだらな行為をしたとして、児童買春・
ポルノ禁止法違反(買春)の罪に問われた医師の男性被告(63)の控訴審
決公判が14日、福岡高裁那覇支部であった。大久保正道裁判長は、18歳未
満と認識していたという自白の信用性について「肯定するだけの積極的根拠は
見当たらない」と判示。罰金50万円だった一審沖縄簡裁判決を破棄し、無罪
を言い渡した。

平成30年11月14日
判決
上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成30年4月19日沖縄簡易裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官緒方広樹出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。
理由
第1 事案の概要,控訴趣意及び当裁判所の判断の要旨
本件公訴事実の要旨は,被告人が,いわゆる出会い系サイトで知り合った被害児童(当時16歳。以下「被害児童」という。)が18歳未満であることを知りながら,同児童に金銭を供与する約束をしで性交し,児童買春をしたという事案である。原審では,被害児童が18歳未満であることの認識が争点となり,原判決は,被告人は被害児童が18歳未満である可能性を認識していたとして,被告人を罰金50万円に処した(以下,被害児童の年齢に係る認識を「年齢の知情性」という。)。本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び同補充書2通記載のとおりであり,これに対する答弁は検察官緒方広樹作成の答弁書記載のとおりである。
論旨は,要するに,原判決には,①確定的故意の訴因に対して訴因変更なく未必的故意を認めた訴訟手続の法令違反,②年齢の知情性を認めた事実誤認,③被害児童に金銭の供与を約束した時点での年齢の知情性がないのに原判示の罪の成立を認めた法令適用の誤りがあるというのである。当裁判所は,事実誤認の論旨について,年齢の知情性を認めた原判決には事実誤認があり,被告人は無罪であるから,論旨には理由があると判断した。以下,その理由を説明する。
第2事実誤認の論旨について
・・・
ウそうすると,本件では,被告人の自白の信用性を肯定するだけの積極的根拠となる事情は見当たらないというべきであり,被告人の自白の信用性を認めた原判決の判断は,客観的裏付けのない未必的認識を認める自白の信用性に関し,これを認めるだけの積極的な根拠がないまま,その信用性を認めたものといわざるをえない。
(4)以上によれば,原判決の事実認定は,本件において年齢の知情性を推認する客観的事実関係がないという評価は誤りなく行われているが,被告人の公判供述の解釈に当たって,その文脈及び内容からして他の解釈もあり得るのに,被告人に不利益な解釈のみを採用し,かつその証明力の評価を誤り,被告人の自白の信用性を評価するに当たっては,客観証拠から被告人の知情性を推認できず,自白を客観的に裏付ける事情もないという事案の特質を十分に踏まえることなく,信用性を肯定するに足りない事情から自白の信用性を認めたというべきであって,かかる事実認定は論理則,経験則等に反した不合理なものであると認められる。原判決には事実誤認があると認められ,論旨は理由がある。
第3 破棄自判以上のとおり,原判決には事実誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,その余の論旨について判断するまでもなく,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して更に判決する。
本件公訴事実の要旨は前記第1記載のとおりであるが,その犯罪の証明はないので,刑訴法336条により被告人に無罪の言渡しをすることとして,主文のとおり判決する。
平成30年11月14日
福岡高等裁判所那覇支部刑事部

 
 控訴理由の目次くらいは公表できます。控訴理由第2の事実誤認が当たって無罪になってますが、それを外しても控訴理由第3の法令適用の誤りで無罪になるという主張が強力に控えているので、「対償供与約束時点での認識」というのは効いてると思います。
 立証としては、警察の病状照会とか身長体重の統計とか、タナー法の文献などが採用されています

控訴理由第1 訴訟手続の法令違反~確定的故意の訴因で未必的故意を認定した際に訴因変更がなかったこと 5
1 年齢知情について、検察官の主張と原判決の認定とで異なり不意打ちがあるから、訴因変更が必要であったこと。 5
①検察官が主張する年齢知情の時点・内容=約束後、ホテルで会った時点で、確定的故意 5
②裁判所が認定した未必的年齢知情の時点・内容=ホテルで会って、性交前時点での未必的故意 6
2 不意打ち 6
3 まとめ 7
控訴理由第2 事実誤認~18歳未満であることについては未必の故意もなかったこと 8
1 はじめに 8
2 被告人に年齢確認義務がないこと 8
(1)本件出会い系サイトは届出済みの適法な出会い系サイトであって、出会い系サイト規制法(インターネット異性紹介事業)で求められる年齢確認義務を果たしているから、児童はいないという信頼は保護されるべきであること 8
(2) 児童買春行為者には年齢確認義務がないこと 10
(3) 児童買春行為には沖縄県青少年保護育成条例の過失処罰条項(=年齢確認義務)は適用されないこと 12
(4)被害児童の犯罪性 14
3 自称21歳につき外見からは16歳との年齢認識の可能性がないこと(一般論) 17
(1)平均身長 統計局ホームページ_日本の統計 2015-第21章 保健衛生 17
(2)法医学における年齢推定の要素 18
①エッセンシャル法医学第3版P312 18
②学生のための法医学P213 18
③臨床のための法医学P157 22
(3)児童ポルノで用いられる外見からの年齢推定方法(タナー法)では陰毛・乳房・身長が重視されて、顔貌は要素ではないこと 23
(4)原判決も「本件女性の語った21歳という年齢と18歳未満とはさほどの年齢差があるわけではなく,その違いにつき感覚で正しく判断できるとはおよそ考え難い」としていること 25
(5)被害児童の言動=自称21歳 27
4 被告人が本件児童を18歳未満と認識する可能性について(具体論) 27
(1) 警察からの病院照会とその回答 27
(2) 年齢要素= 乳房陰毛身長 28
(3)病気の件 30
(4)原判決も「本件女性の語った21歳という年齢と18歳未満とはさほどの年齢差があるわけではなく,その違いにつき感覚で正しく判断できるとはおよそ考え難い」としていること 33
(5)被害児童の言動=自称21歳 34
5 被告人の弁解状況(当初否認→自白) 37
①否認h29.弁解録取(警察) 37
②否認h29.員面 37
③否認h29.員面 38
④否認h29.弁解録取(検察) 38
⑤否認h29.勾留質問調書 38
⑥自白 乙2 h29(員面) 38
⑦自白 乙3 h29(検面) 39
6 虚偽自白 40
①客観的事実に反する 40
②虚偽自白の動機 40
7 原判決の問題点 43
(1)顔つき・体型・会話・外見から18歳未満と疑えないこと 43
(2)適法な出会い系サイトでの年齢確認を信用した者は保護されること 46
(3)被告人の年齢識別能力は一般人レベルであること 49
(4)病気の話の評価 51
(5)自白の信用性 55
8 まとめ 56
控訴理由第3 法令適用の誤り~対償供与の約束の時点で児童であるとの認識がないから「児童との対償供与の約束」があるといえないこと 58
1 児童との対償供与の約束の時点で児童の認識が必要である 58
(1)「対償供与の約束」の実行行為性 58
(2) 買春罪の実行の着手 59
(3)他罪との関係からの説明 60
①周旋罪・勧誘罪との関係 60
②買春誘引罪(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律*12) 60
③ 略図 60
(4) 実行着手としての約束の内容 61
(5)「対償供与の約束」の時点で、児童性についても認識が要件となること 62
(6)「事後の故意」による説明 63
①大コンメンタール刑法第3巻p172 64
②山中敬一刑法総論第2版p309 65
③高橋則夫刑法総論第2版p186 65
④刑事法辞典p346 66
⑤大塚仁刑法概論(総論)第3版p202 67
⑥立石刑法総論第4版p206 68
⑦斉藤信治刑法総論第5版p106 69
⑧岡野光雄刑法要説総論p187 69
⑨大野要説刑法総論[ 改訂版]p219 70
山口厚刑法総論第2版 p375 71
(7)実質的理由(東京高裁H15.5.19) 71
(8)他罪の「約束」における認識 72
売春防止法 72
※刑事裁判実務大系 風俗営業・売春防止(売春 勧誘) 72
判例法研究8特別刑法の罪「売春防止法」 75
② 賄賂約束罪 76
(9)他のパターンの児童買春罪における認識との対比 76
①事前対償供与型児童買春罪の場合 76
②児童以外との約束・供与の児童買春罪の場合 77
2 本件における対償供与の約束 78
(1)約束の時期は犯行前日~当日のメッセージである 78
①検察官の主張=前日・サイト内メール 78
②採用済の証拠によれば前日~当日午前にサイト内メールである。 79
(2)約束時点における年齢自称は「20代前半」であって、被告人の年齢認識は「20代前半」である 82
(3)対償供与の約束は外形で認定されるという判例 85
①大阪高裁h15.9.18*14 85
名古屋高裁金沢支部h14.3.28 86
(4)園田教授の意見書(弁1) 87
(5)小括=約束の時点において児童であるという未必的故意もなかった 91
3 本件児童との対償供与の時点でも児童の認識がないこと 91
4 児童との対償供与の約束の時点で児童の認識がないから、児童買春罪は成立しない。 93