児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「対償供与の約束」は外形的外観的に認定されている。

 webは改築中なので、無難なコンテンツを引越します

 判例では、偽札、見せ金、詐欺等、対償を供与する真意はなくても、外形的外観的に対償供与の約束が認められれば、「対償供与の約束」は認定されている。
 強姦罪との法定刑の差などで、性的自由の放棄は真意に基づいたものが必要だと思うんですが。判例はそういうわけです。

 原判決は、買春行為について、「対償を供与の約束をして、」(2条2項)を認定している。
 しかし、取調済の証拠をみても被告人の真意は、そもそも携帯電話機を買ってやる意思はなかったこと、つまり詐言であったことは明らかである。被告人は、携帯電話を買うと必要書類から身分が明らかになることから、当初より買う意思はなかったのである。
 さらに、被害者の供述をみると、被害者にとっては、当初より金銭ではなく携帯電話を買うことが絶対的不代替的な対償であったことが明かである。被害者にとっても、保護者に無断で購入することができないという意味で、携帯電話でなければならないのである。
 つまり、携帯電話が対償であることは、本件の児童買春合意において、当事者双方にとって重要な要素であって、そこに欺罔・錯誤がある。
 この様な場合は、「対償の供与の約束をして、」(2条2項)に該当しないから、買春罪は成立しない。
 すなわち、児童買春罪の法定刑が懲役3年という軽いものであることからすれば、そもそも児童買春罪の実質は児童が小遣い銭程度の対償で、軽々しく同意して性交等に応じるといういわゆる「援助交際」を禁止することである。
 その程度の金額の対償であることから、対償の約束は、双方真意(真摯な承諾)であることが前提とされており、対償約束自体が最初から詐言であるとか、脅迫が加えられてしぶしぶ約束に応じた場合等は予定されていないというべきである。
 買春罪の法定刑が強姦罪等性犯罪の法定刑よりも軽くされているのは、まがりなりにも児童の自由かつ真摯な承諾があるからである。性的自由の侵害は評価対象外となっているからである。詐言、脅迫によって約束がされた場合には買春罪は適用されないというべきである。
 
 実質的に考えても、被害児童にとっての携帯電話の重要性からすれば、決して被害児童が「軽々しく応じた」ものではない。
 また、児童買春の罪質からして、被害の本質は健全に成長する権利とか児童の福祉であるから、騙しとか強制といった要素は量刑において考慮されるべきではない。それは性的自由の侵害において評価される要素である。
 従って、本件各買春行為には対償供与の約束が認められないから、買春罪は成立しない。
 原判決には法令解釈の誤りがあり、判決に影響を与えることも明らかであるから、原判決は破棄を免れない。
 
 なお、本件が準強姦にあたると主張するものではないが、犯人が詐言を用いた場合は、準強姦罪の「抗拒不能」と評価される場合もあるのである。買春罪の「対償供与の約束」について、形式的に「約束」が在ればよく、その有効無効・成立不成立を一切問わないとするのでは、従来の刑法における性的自由の保護の姿勢と一貫しない。
 形式的に「対償の約束」があればよいというのでは、本当は準強姦罪に問うべき事案が買春罪で処理されるおそれがある、児童買春が強姦を隠蔽するおそれがあるという点を危惧するのである。
 
3 裁判例
(1)名古屋高裁金沢支部H14.3.28
 曰く、「規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである」とのことである。
 具体的意思の有無に限らず、客観的に約束が必要であり、かつそれで足りるというのである。
名古屋高裁金沢支部
H14.3.28宣告
平成13年(う)第78号
第1 控訴趣意中,事実の誤認の論旨(控訴理由第19)について
 所論は,原判決は,原判示第2,第3の1及び第4の各児童買春(かいしゅん)行為について,対償の供与の約束をしたことを認定したが,証拠によれば,被告人にはこのような高額な対償を支払う意思はなく,詐言であったことが明らかであるとし,このような場合には児童買春(かいしゅん)処罰法2条2項にいう代償の供与の約束をしたことには当たらないから,同法4条の児童買春(かいしゅん)罪(以下,単に「児童買春(かいしゅん)罪」という。)は成立しないという。
 しかしながら,児童買春(かいしゅん)は,児童買春(かいしゅん)の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであることから規制の対象とされたものであるところ,対償の供与の約束が客観的に認められ,これにより性交等がされた場合にあっては,たとえ被告人ないしはその共犯者において現実にこれを供与する具体的な意思がなかったとしても,児童の心身に与える有害性や社会の風潮に及ぼす影響という点に変わりはない。しかも,規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである。関係証拠によれば,原判示第2,第3の1及び第4のいずれにおいてもそのような「対償の供与の約束」があったと認められる。所論は採用できない(なお,所論は,形式的な「対償の供与の約束」でよいというのであれば,準強姦罪で問うべき事案が児童買春(かいしゅん)罪で処理されるおそれがあるとも主張するが,準強姦罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて姦淫した」ことが要件とされているのに対し,児童買春(かいしゅん)罪では対償を供与することによって性交等する関係にあることが必要であって,両者は明らかにその構成要件を異にするから,所論を採用することはできない。)。
(2)大阪高裁H15.9.18
 大阪高裁刑事1部も、対償供与の約束は構成要件であって、客観的に認められることを要し、かつ、それで足りるとする。
 高裁レベルでは外形・外観基準説が標準である。
阪高裁平成15年9月18日平成15年(う)第1号
(2)原判示第1の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第15)及び訴訟手続の法令違反の主張(控訴理由第19)について
所論は,原判示第1の事実について,①原判決は,対償の供与を約束したことを認定しているが,証拠によれば,被告人にはYに対して携帯電話機を買い与える意思はなく,詐言による約束であって,双方の真意に基づく約束とはいえず,また,携帯電話機本体の価格は通常無料であって,反対給付としての経済的利益には当たらないから,児童買春罪の成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり(控訴理由第15),②平成14年6月26日付け起訴状記載の公訴事実には対償の供与の約束の成立時期,場所が特定されておらず,訴因が不特定であるから,公訴棄却をすべきであったのに,実体判決をした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第19),というものである。
しかしながら,①については,被告人は,捜査段階において,携帯電話機を買ってやる約束をしたが,被告人名義で契約するわけにもいかないし,時間もないので,携帯電話機の代わりに現金を交付するつもりであったとの供述をしており,その内心の意思いかんにかかわらず,被告人がYに対して携帯電話機を買い与える約束をして性交に応じさせたことは関係各証拠に照らして明らかであるから,対償の供与の約束があったというべきであり,また,仮に携帯電話機の本体価格が無料であったとしても,取得するには契約手数料等が必要である上,携帯電話機にはその通信回線利用の権利が伴っているから,経済的価値が認められることもいうまでもないところであって,原判決が対償の供与の約束があったと認定したことに誤りはない。
 
(3)広島地方裁判所福山支部H14. 5.29
 偽造通貨による児童買春(かいしゅん)事件も発生している。
 偽造通貨の行使の際には詐欺罪も成立しうるとされているところであって、偽造通貨であることを知っていれば被害児童も児童買春(かいしゅん)に応じないという意味で錯誤に陥っていることも明白である。その場合でも買春(かいしゅん)罪は成立するのである。対償供与の約束がいかに形式的・客観的に判断されているかがわかる。
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/EF601E14EDBC0CE449256BED000313EE/?OpenDocument


[児童ポルノ・児童買春]児童ポルノ・わいせつ画像のメール送信行為の擬律(旧児童ポルノ法 現行刑法)
 児童ポルノ法は対応されたけど、刑法は改正されそうにないので、まだ使えます。
 学部の試験なんかで使えそうです。児童ポルノ判例も引用すると、採点者も知らなかったりします。

第1 メール送信の概念
       大橋充直 ハイテク犯罪捜査入門P52
 
 
第2 販売・頒布罪の成否
 わいせつ物について最高裁H13.7.16*1、児童ポルノについて大阪高裁H15.9.18*2(上告棄却)によって、販売頒布の客体は有体物でなければならないし、販売頒布には現実の占有移転が必要であるから、販売・頒布罪は成立しない。
 
第3 陳列罪の成否
1 陳列概念
 陳列罪におけるわいせつ物・児童ポルノが有体性を要件とすることは同様である。
 前記最決は「同条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。」と述べていることからすると、有体物としてのわいせつ物・児童ポルノが1箇所にある程度継続的に固定されていて、その物に対して不特定多数が認識しうる状態をいう。
 
 なお、web掲載の場合、実際に閲覧者が見ているのは、閲覧者PCにDLされたデータである。それでもサーバーを陳列したと評価できる理由については、最決H13の原審である大阪高裁H11.8.26で判示されている。

【事件番号】大阪高等裁判所判決/平成9年(う)第1052号
【判決日付】平成11年8月26日
本件の罪につき、わいせつ図画を「公然と陳列した」というためには、わいせつ図画を不特定又は多数の者にとって観覧可能な状態に置くことで足りると解するのが相当であるところ、本件においては、被告人は、わいせつ面データ又はマスク処理ソフトの利用、入手に係るホームページのリンク情報とマスク処理を施してわいせつ性を隠蔽させた画像データをインターネット通信のプロバイダーのサーバーコンピューターに送信して、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させるとともに、右わいせつ画像等をダウンロードできるホームページを作成して開設したところ、さらに、他のホームページと相互にリンクさせたり、サーチエンジンに登録したりして、一般ないし多数の会員に向けて公開していたとの事情も相俟って、不特定又は多数のインターネット利用者が、右わいせつ画像データ等の存在を知り得、右わいせつ画像データ等に容易にアクセスしてこれをダウンロードし、自己のパソコンの画面上にて再生したり、マスクを外したりして、わいせつ画像を再生閲覧した状態が生じていたものということかできるから、被告人がわいせつ画像データ等をそのダウンロードを可能とする被告人開設のホームページのあるプロバイダーのサーバーコンピューターに送信し、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させた行為をもって、わいせつ図画を「公然と陳列した」ものと認めることができ、インターネット利用者か、本件ホームページにアクセスしてから右わいせつ画像を閲覧するに至るまでの一連の行為は、わいせつ図画の陳列行為が既に終了した後になされるものに過ぎず、したがって、右の閲覧そのものが、利用者らのパソコンのハードディスク内に記憶、蔵置させた画像データを再生してするものであることは、本件の罪の成否に何ら影響を及ぼすものではないというべきである。

 つまり、ユーザーが、直接閲覧するわいせつ画像は、本件の場合、ユーザー側のパソコンのハードディスクに一旦ダウンロードされ記憶された画像データに基つき、そのパソコン画面に表示されることになるとはいうものの、右ユーザー側パソコンの画像データと本件ハードディスクに記憶・蔵置された画像データとの間には、これらによって表示されるわいせつ画像につき同一性が認められるから、サーバーから画像データがDLされて、それがクライアントPCに表示されている状態は、クライアントPCからサーバーHDDを見ているのと同視できるというのである。
 有体物であるサーバーに同一データがあって、それに接続してデータを受信して閲覧者PCに表示されるという点を強調して、かろうじて、サーバーの陳列と評価しているのである。
 
2 メール送受信過程
 では、メールの送受信によって、わいせつ画像・児童ポルノ画像が送られる場合に、法律が予定する有体物としてのわいせつ物・児童ポルノが認められるであろうか?
 まず、メール送信の場合、送信者の手元には、一応、送信したデータが残るが、任意に削除しえて、削除しても、メールは到達する。
 また、経由したサーバーに、メールデータが保存される場合もあるが、そうでない場合もあり、保存されなくてもメールは到達する。
 しかも、受信者は、メールに添付されたデータを画像に再構成して、受信者PC上で、画像を見ているのであって、送信者PCやサーバー上に接続して見ているわけではない。

 つまり、メールで送信された場合、有体物としてのわいせつ・児童ポルノが存在するのは、受信者PCだけである。
 
 これは、メーリングリストメールマガジンでも同じである。
 
3 メール送受信過程を「陳列」と評価できるか?
 メールの場合、受信者はネットから一旦メールデータを受信してから受信者PCに表示させるのであって、閲覧するときにはオフラインである。サーバーには接続されていない。
 しかも、受信した時には、送信者PCにもサーバーにも画像データが保存されていないことがありうるのであって、判例理論が前提とする「サーバーに同一データが存在する」という条件を満たさない。
 つまり、有体物としてのわいせつ物・児童ポルノが1箇所にある程度継続的に固定されていて、その物に対して不特定多数が認識しうる状態は認められない。
 従って、メール送信は陳列に当たらない。
 
4 裁判例
 データ送信を陳列とした裁判例としては、岡山地裁H9.12.15*3があるが、わいせつ物について最高裁H13.7.16*4、児童ポルノについて大阪高裁H15.9.18*5(上告棄却)によって、わいせつ物・児童ポルノについて有体物性が要求されているから、今日では妥当しない。