児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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科刑上一罪である建造物侵入罪と盗撮(埼玉県迷惑行為防止条例違反,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)の比較対照においては,重点的対照主義の立場に従し,重い罪である建造物侵入罪に定められた「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」が処断刑となるとした事例(東京高裁h30.5.24)

第一三〇条(住居侵入等)
 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 弁護人は50万円くらいの罰金にしろと主張したんでしょうか。



速報番号3646号
建造物侵入,埼玉県迷惑行為防止条例違反
平成30年5月24日
東京高等裁判所第2刑事部控訴棄却
【第一審】さいたま簡易裁判所
科刑上一罪である建造物侵入罪と盗撮(埼玉県迷惑行為防止条例違反,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)の比較対照においては,重点的対照主義の立場に従し,重い罪である建造物侵入罪に定められた「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」が処断刑となるとした事例
裁判要旨
数個の罪が科刑上一罪の関係にあるとき,数個の罪の比較対照において,それぞれに選択刑がある場合,法定刑における最も重い刑のみを比較対照すべきとする重点的対照主義の立場によるべきであることは判例実務上確立しているところ,判例上,重点的対照主義は適宜修正されているが,その修正は,重点的対照主義を形式的に適用するだけでは,他の法条の最下限の刑よりも軽く処罰することはできないという,刑法54条1項の趣旨に反する結果になる場合に行われているのであって,本件では,重い罪である建造物侵入罪の刑によって処断することに不都合はなく,判例により重点的対照主義の適用が修正されているものとは事案を異にする。
裁判理由
所論は,仮に,被告人に科すべき刑を罰金10万円とすることが被告人の罪責として軽いということであっても,罰金刑ではなく懲役刑を選択することは,不当に重い量刑であり,10万円を超え50万円以下の罰金刑で処断すべきである,最高裁判例は,形式的に重点的対照主義を適用するのではなく,刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み,適宜,重点的対照主義を修正しており(最高裁昭和28年4月14日第三小法廷判決・刑集7巻4号850頁,同平成19年12月3日第一小法廷決定・刑集61巻9号821頁参照),原判決が,重い罪に選択的に規定されている罰金刑より軽い罪に選択的に規定されている罰金刑が重い場合に,これらを総合判断して罰金刑については軽い罪の罰金刑にしたがうものとする判断は,重点的対照主義として確立された最高裁判例に根本的に違背するものであるとして,10万円を超える罰金刑で処断することはできないと判断しているのは最高裁判例の解釈を誤ったものである,という。そこで検討すると,数個の罪の比較対照において,それぞれに選択刑がある場合に,刑種選択をする前の法定刑における最も重い刑のみを比較対照すべきとする重点的対照主義の立場によるべきことは判例実務上確立しているところである。そして,判例上,重点的対照主義が,刑法54条1項の趣旨等に鑑み,適宜,修正されていることは所論が指摘するとおりであるが,その修正は,刑法54条1項が,数個の罪名中最も重い刑で処断することに加え,他の法条の最下限の刑よりも軽く処罰することはできないという趣旨を含むと解されるところから,例えば,重い罪には罰金刑が選択刑としてあるが,軽い刑には懲役刑しかない場合(前記昭和28年判例の事案)や,重い罪には懲役刑のみしかないが,軽い罪には罰金刑の任意的併科の定めがある場合(前記平成19年判例の事案)など,重点的対照主義を形式的に適用するだけでは,上記の趣旨に反する結果になる場合に行われているのである。本件では,刑法54条1項の趣旨に照らし,重い罪である建造物侵入罪の刑によって処断することに不都合はなく,判例により重点的対照主義の適用が修正されているものとは事案を異にする。そもそも,選択刑の定めがある数個の罪について,その選択刑のそれぞれを比較して,それぞれの重い刑をもって処断刑を形成するというのは,重点的対照主義を修正するものではなく,刑法施行法3条3項が規定する重点的対照主義に反するものであり,判例とは立場を異にする見解である。原判決が,重い罪に選択的に規定されている罰金刑よりも軽い罪に選択的に規定されている罰金刑が重い場合に,これらを総合判断して罰金刑については軽い罪の罰金刑にしたがうものとする判断は,重点的対照主義として確立された最高裁判例に根本的に違背するものであるとしたことに誤りはない。
参照条文
刑法130条前段,埼玉県迷惑行為防止条例12条2項1号,2条4項刑法54条1項,10条,刑法施行法3条3項
備考