児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

妾・二号など一定期間継続的に特定の相手方と性交取引行為をなす場合であるが、一般的には売春に当たらないとするのが通説である

 マスコミ取材で、こんな解説したけども、放送できるのかなあ。
 「愛人バンク夕暮れ族」も古いしなあ
 しかし「売春」というのは売る側・買われる側・売春婦側の要件で決まる定義なので、買う側が知ってても知らなくても相手方になってしまうと違法な売春になってしまうということです。

売春防止法
第一条(目的)
 この法律は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによつて、売春の防止を図ることを目的とする。
第二条(定義)
 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。
第三条(売春の禁止)
 何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。

注解特別刑法7
三売春およびその相手方となる行為の不処罰
法一条は、売春を、人としての尊厳を害し、性道徳に反し、
本条による禁止については罰則が置かれていない。したがって、本条は、倫理規定(国会審議において政府委員の用いた言葉)ないしは訓示規定である。
売春またはその相手方となる行為を処罰すべきか否かについては、立法過程において最も論議のあったところであるが、賛否両論の根拠をこれまでの議論に現われたところから整理してみると次のとおりである

賛成論
法律が売春の社会悪であることを認め、その防止と取締りを目的とする以上は、社会が納得する程度の制裁規定を置くことは当然である。
売春行為を処罰しないでおいて、売春のための公然の勧誘を処罰することは、筋、が通らないだけでなく、人目につかない方法による売春を野放しにすることになって、法の目的に反する。
売春を処罰しない場合に、売春行為を処罰している条例が失効するとするならば、売春の防止と取締を目的とする法が逆に売春を公認することとなり、失効しないとするならば、法律の精神と条例とが相矛盾して国民はその適従にまどうであろう。
売春を処罰しないでおいて、売春を目的とする業者を処罰することは、理論の根拠を失うものであるし、実際問題としても業者の取締を困難にする。
売春を処罰しない理由として、立証が困難で人権侵害のおそれがあるといわれることがあるが、これは、業者の場合も同様である。
売春婦は弱者であるから処罰には反対であるとする説があるが、処罰とあわせて保護更生施設と転落防止その他社会保障を併行せしめ、売春防止の目的を達成すべきである。
売春を犯罪とすることにより、売春婦を刑罰に代る保安処分に付する道を聞かなければ、売春対策の完壁を期しえない。
売春を処罰しない場合は、売春を買う男性も処罰を免れることとなって、性道徳は無視される結果となる。

反対論
売春婦は、社会的弱者として保護更生の措置の対象とすべきであり、違法性の面では処罰に値するとしても、責任の面では処罰するにしのびない。
売春を助長する行為を網羅的に刑罰の対象とすることによって、売春防止の目的を達成することができ、売春を行うおそれのある者に保護更生の機会を与えることにもなる。
公衆の目にふれるような方法で勧誘をする者については、風紀の維持という公益を保護する立場から処罰の対象としているのであるから、不合理ではないし、売春それ自体を処罰しようとする目的もある程度は達成できる。
売春行為自体を処罰することとした場合においては、立証上困難があり、捜査を徹底しようとすれば、人権侵害を生じかねない。
これまで児童福祉法においても刑法においても被害者と扱われてきた者を犯罪の主体とするについては、検討を要する問題があるばかりでなく、世界の立法例を見ても、売春自体を処罰する場合には、多く浮浪罪その他外表に現われた事由によっている。
もともと性の問題は、それが純然たる私生活の内部のものとしてとどまる限り、これを処罰の対象とする必要はなく、これをあえて処罰の対象としても、取締の実効は収め難いし、特に売春の相手方となる者をも処罰するときは国家権力の怒意的な発動を招きかねない。
 結局、本法においては、罰則が設けられなかったわけであるが、文献に現われこの立法政策上の選択については、ている限りでは、これが賢明であったとする学説が多い

売春防止法 注釈特別刑法第8巻 P697
対償は、売春の相手方から直壌に受ける必要はなく、雇主などの第三者から間接に受けても、賄賂として婦女を提供する場合のように売春の相手方に代わってこれを負担する第三者から受けてもよい。
実務上問題となるのは、いわゆるセット制売春のように、他のサービスの対価と売春の対償とが不可分の関係にある場合である。飲食代が一般に比べて際立って高く、名目は飲食代としながらも、その中に売春の対償が当然含まれていると見られる場合は積極に解し得ょう。これに対し、性交サービスが単に客寄せのためにのみ行われていて、飲食代も一般と変わらず、女給も性交の有無に関係なく売上額に対する一定割合の歩合を受けているような場合は、消極に解されよう。
四「不特定」の相手方と性交するとは、性交するときにおいて不特定であるという意味ではなく、不特定の者の内から任意に相手方を選び、性交の対価に主眼をおいて、その相手方の特定性を重視しないで性交することをいう(最判S32.9.27)。したがって、特定の男女聞において対償を受けて性交しても売春には当たらない。問題となるのは、いわゆる妾、二号など一定期間継続的に特定の相手方と性交取引行為をなす場合であるが、一般的には売春に当たらないとするのが通説である()。しかし、このような場合でも提供される経済的利益と性交との対価関係が露骨であって、当該相手方との関係が終了すれば、さらに不特定の相手方と同様の関係を結ぶものと認められるときには、相手方の特定性を欠き売春に該当する(大阪高裁S34.2.17 最判S32.9.27)

売春の意義とその概要・特別刑法詳解 木宮高彦著
いわゆる「妾」(「二号」ともいう)については、これを売春とみる説もあるが(たとえば、大阪高裁昭二九)、一般的には、売春にあたらないとするのが通説である(後掲最高裁二小沼哨一三了九・二七判決、最高刑集一一巻九号二三八四頁。なお、この判決につき、高橋「いわゆる妾の斡旋と勅令九号第二条違反の成否」最高裁判例解説刑事篇悩三二年度四六八頁参照)ο しかし、その男女間の結びつきの関係において金銭と性交との対価関係が・きわめて露骨であって、精神的結合あるいは場所的恒定性がなく、通常の売春とその形態が近似しているような場合であって、実質的に相手方が不特定と認められるような場合には、妾、二号、オンリー等の名義の如何を問わず、売春と認めるのが相当である(次掲判例参照)。

注解特別刑法7 売春防止法
不特定の相手万
(イ)不特定の相手方とは、不特定の人間のなかの任意の一人、すなわち、売春をする者が性交の対価に主眼を置いて相手方の特定性を重視することなく、不特定の者のなかから任意に選定した相手方(柑41却健一一・)をいう。
したがって、特定の男女間の性交は、たとえ対償を目的とするものであっても、本法にいう売春ではない。
しかし、ある程度継続的に相手方が特定されている場合でも、性交と対償とが切り離すことのできない関係にあり、その相手方との関係が終れば不特定な相手方と同じ関係を結ぶであろうと認められる場合には、不特定であると認めてよいであろう(鵡骨一ιE買い忌f.(二)一頭一五鵡木)。
この関係で問題となるのは、いわゆる「妾」である。


典型的な形での「妾」(油盟諸一抑止…一一・)が相手方の特定性を欠くものでないことについては、学説上ほとんど争いがない(枇駅
最高裁判例も、被告人の経営する結婚相談所と称するところに、専ら生活の援助という金銭的対価を目途として、不特定の男子のなかから旦那となるべき男子の周旋を依頼してきた婦女に対し、これも同様の趣旨で女の斡旋を申し込んだ男のなかから適当と思われる男を選び、手数料をとって引き合わせることが、勅令九号二条の売淫をさせることを内容とする契約にあたるか否かが争われた事案において、上告趣意が、本件は、妾の斡旋であって、売淫契約ではないと主張したのに対し、「一口に妾又は二号といっても、妻に近い性質を有するものから実質的には売春婦とみとめられるものまで各種各様の形態のものがあるというのが現実の社会の実情である。原判決は、これら各種の妾、二号について、いやしくも、淫行とこれに対する対価の提供との結びつきが少しでもある以上、婦女の貞操を対価取引の対象とするものであって売淫をもって目すべきものと論断しているのであるが、妾、二号といっても、右のようにそれらの者の中には本質的には売春婦とみとめられるべきものがあるから、その限りにおいては原判決の右論断は正当である。しかし、原判決のように令二条の趣旨を拡充して、同条が妾、二号のすべてを売淫としてこれを斡旋したものを処罰の対象としているものとすることは解釈の行き過ぎである。けだし、妾、二号関係がその淫行とこれに対する対価の提供の結びつきがある場合であっても、特定の男女間に関する限り反社会性をもたない当事者聞の問題として法律上放任されているものとみとめなければならないからである」と判示している(

判例番号】 L01210258


       昭和22年勅令第9号違反被告事件


【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/昭和29年(あ)第3497号
【判決日付】 昭和32年9月27日
【参照条文】 婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令(昭和22年勅令9号)2
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集11巻9号2384頁
       最高裁判所裁判集刑事120号561頁
       判例時報126号6頁
       刑事裁判資料229号226頁
       刑事裁判資料229号236頁
【評釈論文】 警察研究31巻6号91頁
       主   文
 本件上告を棄却する。
       理   由

 被告人の上告趣意第一点について。
 原判決は昭和二二年勅令九号「売淫をさせた者等の処罰に関する勅令」(以下令という)二条にいう「婦女に売淫させることを内容とする契約」とは婦女に対価を得て淫行をなさしめることを内容とする契約を汎称するものであるとし、「婦女の淫行と婦女えの利益の提供とが切り離すことのできない相対関係にある場合は、たとえその外に婦女の生活援助の趣旨を含めてその利益が提供せられるときであつても、その提供せられる利益の名目如何にかかわらず、婦女に売淫させることを内容とするものと解して妨げない、さすれば生活資料の援助を受ける前提の下に婦女を妾(いわゆる二号)とさせる場合、淫行とこれに対する対価の提供との結びつきが少しでも窺われる以上は婦女をして売淫させるものと認むべきである。」と判示し、さらに「思うに不特定多数の男性に接し淫行毎に対価を得るのと、又特定の者の妾となり生活援助金等の名目下に対価を得るのとを問わず、いやしくも婦女の貞操を対価取引の対象とするがごときは婦女の人権を蔑視し、多かれ少かれその婦女を束縛し、且つ強制して淫行させる結果を招来し婦女の個人自由の伸長を阻害する虞があるから公共の福祉のためこれを取締るのが前示勅令の規定の精神であるとみなければならない」と判示して、被告人が一審判決判示のごとく、A外二名の婦女と、援助名目で女の幹旋を申込んだ男を相手に附近旅館等で性的関係を結ばせ、男から受取る金銭中から、援助斡旋手数料名下に手数料を貰う約束をした事実をもつて令二条にいう「婦女に売淫させることを内容とする契約」をしたものと判断して、同条によつて被告人を処罰した一審判決を維持したのである。おもうに、妾若しくは二号という概念は今日必ずしも明確ではないのであるが、通常、「法律上の妻又は事実上の妻でなくして、主として妻帯の男性から経済上の援助を受けて、これと性的結合関係を継続する女」をいうものと観念してあやまりないであろう。わが国において妾をもつ習俗は古くから主として血族維持を根本基調とする「家」の制度と密接の関係があるものとされ、法制上においてもいわゆる「妻妾二等親」としてみとめられて来たところである。明治時代になつてからも、民法(明治三一年法律九号)によつて初めて法律上から抹消されたのであるが、その後も社会の習俗としては広く行われていることは否定し得ないところであり、殊に、時代の変転にともない性慾的享楽面を主とする関係への転落的傾向が顕著であつて、一口に妾又は二号といつても、妻に近い性質を有するものから実質的には売春婦とみとめられるものまで各種各様の形態のものがあるというのが現実の社会の実情である。
 原判決は、これら各種の妾、二号について、いやしくも、淫行とこれに対する対価の提供との結びつきが少しでもある以上、婦女の貞操を対価取引の対象とするものであつて売淫をもつて目すべきものと論断しているのであるが、妾、二号といつても、右のようにそれらの者の中には本質的には、売春婦とみとめられるべきものがあるから、その限りにおいては原判決の右論断は正当である。しかし、原判決のように令二条の趣旨を拡充して同条が妾、二号のすべてを売淫としてこれを斡旋したものを処罰の対象としているものとすることは解釈の行き過ぎである。けだし、妾、二号関係がその淫行とこれに対する対価の提供との結びつきがある場合であつても、特定の男女間に関する限り反社会性をもたない当事者間の問題として法律上放任されているものとみとめなければならないからである。令二条にいう売淫は、売春防止法(昭和三一年五月二四日法律一一八号)二条が「売春」についていうごとく「対価を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交する」ことをいうものと解釈すべきである。しかし、ここに「不特定」ということは、もとより性交するときにおいて不特定であるという意味ではなく、不特定の男子のうちから任意に相手方を選定し性交の対価に主眼をおいて、相手方の特定性を重視しないということを意味するのであつて、たとえ、その相手方との関係が相当の期間に及んでいても、その相手方との関係が終了すれば更に不特定の男子のうちの任意の一人と同様の関係を結ぶであろうことが予想される場合においては、なお、相手方は右にいう意味において不特定であると解するを相当とする。そこで問題となるのは、本件において被告人がその結合について斡旋したとせられる男女間の関係が右にいわゆる不特定性を帯びたものであつたかどうかである。原判決の支持した一審判決の挙示する証拠関係をしさいに検討すると、本件の婦女たちは被告人の経営する「千歳」の標札をかかげた結婚相談所と称するところに、だれか生活の援助をして呉れる、いわゆる「旦那」の斡旋を依頼したものであることがわかる。もとより特定した男子との結合を依頼したものでなく、専ら、生活の援助という金銭的価対を目途として不特定の男子の中から、旦那となるべき男子の周旋を依頼してその旨の申込みをし、被告人もその趣旨を了承して、これも同様の趣旨で女の斡旋を申込んだ男の中から適当と思われる男を選んで手数料をとつてこれら男女を結合せしめたものである。生活援助というからには相当の期間その関係の継続すべきことを予定していたことは、うかがわれるけれども、この婦女たちの意向にも、被告人の意向にも、若し一人の男との関係が切れた場合には、更に新たな男との結合をめざしているものであることは十分に理解されるところである。この男女間の結びつき関係は金銭と性交との対価関係がきわめて露骨であつて、その間に何らの精神的要素をみとむべくもない。その関係の場所も、附近の旅館等がその都度利用せられて場所的恒定性もなく通常の売淫とその形態が近似している。以上の見地からみれば、本件男女関係は、妾、二号の名称いかんにかかわらず、「不特定性」のものといわなければならない。(たまたま、この結合の結果特定の男とその関係が相当長期に亘つて継続した事実があつたとしても被告人が斡旋した当時における相手方の不特定性はこれによつて消殺されるものとみることはできない。)そして、この斡旋の結果、被告人と契約した婦女にとつて、被告人に対し、多かれ、少かれ相手方たる男に貞操を提供すべき何らかの拘束を受けることも疑いのない事実である。以上の事実関係を基礎として、原判決を考察すれば、原判決が、一審判決認定の被告人の所為は、A外二名の婦女との間に令二条にいわゆる「婦女に売淫させることを内容とする契約をした」ものに該当するものとして、同条により被告人を処断した一審判決を容認したのは、結局において正当であるといわなければならない。
 論旨は、ひつきよう単なる法令違反の主張を出でず刑訴四〇五条の適法な上告理由とならないのみならず、原判決に結局、判決に影響を及ぼすべき法令違反のないこと前説示のとおりである。同第二点乃至第六点について。論旨は違憲をいう点もあるけれども、実質は単なる法令違反を主張するもので刑訴四〇五条の適法な上告の理由とならない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。よつて同四一四条、三九六条により裁判官小谷勝重、同河村大助の少数意見をのぞく裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。被告人の論旨第一点について、裁判官小谷勝重、裁判官河村大助の少数意見は左のとおりである。原判決は、昭和二二年勅令第九号二条の解釈として「生活資料の援助を受ける前提の下に婦女を妾(いわゆる二号)とさせる場合、淫行とこれに対する対価の提供との結びつきが少しでも窺われる以上は婦女をして売淫をさせるものと認むべきである。弁護人は妾契約は貞操義務を生じ生活援助金の支出ある以上他の男性との性行関係は絶対に許されないからこの点において単純な売淫とは大きな差異がある旨主張するが妾たる婦女においてその男性一人を守ることが同人から利益の提供があるがために因るものと認められるかぎり淫行に対する対価であるとする面においては淫行の都度対価を得る売淫と本質的に差異があるものということはできない。思うに不特定多数の男性に接し淫行毎に対価を得るのと、又特定の者の妾となり生活援助金等の名目下に対価を得るのとを問わず、いやしくも婦女の貞操を対価取引の対象とするが如きは婦女の人権を蔑視し多かれ少かれその婦女を束縛し且つ強制して淫行させる結果を招来し婦女の個人自由の伸長を阻害する虞があるから公共の福祉のためこれを取締るのが前示勅令の規定の精神であるとみなければなちないのである。」となし、特定の者の妾となり、生活援助金等の名目下に対価を得ると、不特定多数の男性に接し、淫行毎に対価を得るとを問わず、これを取締るのが前記勅令の規定の精神であるとの趣旨を判示している。そしてその判示を前提として、本件被告人は、A外二名に売淫をさせることを内容とする契約をしたものに該当するとした第一審判決を是認したのである。
 しかしながら、前記勅令二条に所謂売淫とは、婦女が対価を得て不特定な男子と性交する行為をいうのてあつて、即ち対価さえ受ければ、不特定な男子の中から、だれとでも性交する行為を指すものと解すべきである。けだし、不特定人を相手とする売淫行為は、必然的に公衆衛生及び風紀維持の面で社会性を伴い、放任すべからざる社会悪となるからである。ところで「妾」は通常相手方たる男子から経済的援助を受けるが、それは男女それぞれ自主的な行動の主体として性関係を続ける二人間の私生活であつて、不特定人を相手とする売淫のような社会性を欠くものであることは明らかである。勿論妾契約は公の秩序善良の風俗に反するものとして私法上無効になるにしても、前記勅令二条の「売淫」には当らないことは明確であるといわなければならない。昭和三一年法律第一一八号売春防止法でも『この法律で「売春」とは、対価を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう』と定義されており、この定義は売淫又は売春に対する従来の観念を採用したものというべきである。おもうに第一審判決及び原審判決はいずれも右売春防止法制定以前である昭和二九年になされたものであるが勅令九号は一九四六年(昭和二一年)一月二一日及び同年九月六日の両度にわたる連合軍最高司令官の公娼廃止の指令に基き制定されたものであるところ、同指令中「又直接間接婦人を束縛又は強制して娼婦とさせることを目的としている総ての契約と協定を無効ならしめるやう命ずるものである」とあることにより、第一審及び原審判決は、妾契約は右「直接間接婦人を束縛するもの」故、妾契約もまた本勅令の対象に当るとの誤解に基因した結果ではないかとの疑を抱かせるに足るものである。
 しかして、原審は本件各公訴事実を、対価を得て不特定人と性交することを約するところの所謂売淫と見たのか、或は特定の者を相手とする所謂妾契約と見たのかについてはその判示必ずしも明確ではないけれども、本件は所謂妾契約で売淫行為ではないとの控訴趣意第一点に対し、特定の者の妾となつて、生活援助金の名目の下に、対価を得る所謂妾契約と雖も、勅令九号二条にいう「売淫」に当るものとして判示しているところがら見れば、本件は所謂妾契約をなしたものであるとの事実を認めこれに対して前記勅令を適用しているものと見るべきである。しかも原審の認容した第一審判決挙示の証拠によれば、本件三人の女性、なかんづくAについては、明確に妾関係の成立とその継続を認めることができるのである。即ち当初Aは、被告人に対し「一生援助をして貰える人で自分の気持の的のふであること、ただ男女関係の性行丈けを欲する人は困る」旨申出たこと、Aは被告人から援助者である男を紹介されて、二度程面会してから援助を受けること、即ち妾となつてもよいと決意し、その旨被告人にも話したこと、その後引続き当該男性と妾関係が継続して、現在はアパートを借り受けて貰つて住んでいること、現在主人(即ち相手方)と平穏で幸福な生活をしていること及び感謝の気持で被告人に礼に行つたこと等の趣旨の供述(記録一三七丁以下)から見ても、純然たる妾関係の成立及び継続がうかがわれるのである。多数意見は「この婦女たちの意向にも、被告人の意向にも若し一人の男との関係が切れた場合には、更に新たな男との結合をめざしているものであることは十分に理解されるところである。この男女間の結びつき関係は金銭と性交との対価関係が極めて露骨であつてその間に何らの精神的要素をみとむべくもない。その関係の場所も、附近の旅館等がその都度利用せられて、場所的恒定性もなく通常の売淫とその形態が近似している。以上の見地からみれば、本件男女関係は、妾、二号の名称いかんにかかわらず「不特定性」のものといわなければならない」と説示しているが、右のうち当初附近の旅館等が利用されたこと以外は証拠上これを見出すことが困難である。また仮りに以上多数意見のような事実が認められるとしても、それは妾としての生活が確立されるまでの過程においてはかかる事実関係の発生は常識上想像し得るところであつて、之をもつて直ちに売淫又は売春行為におけると同様の「相手方の不特定性」を認定することは全く行き過ぎであると考える。以上の理由により、所謂妾関係を売淫に当るものとの前提に立つてなした原判決は、前示勅令九号二条の解釈適用を誤つた違法があり、此違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであつてこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるから、原判決を破棄するを相当と思料する。
 検察官 安平政吉出席
  昭和三二年九月二七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一