児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春の際の窃盗被告事件について被害者の虚偽供述の動機として「検察官が指摘するとおり、児童買春等も含めた本件被害の状況を踏まえると、Bが被害申告をするのは、大きな心身への負担や心理的抵抗を伴うことは容易に推察され、殊更虚偽の被害申告をするとは通常は考え難い。しかしながら、Bは、本件以前に、援助交際を行ったことで警察が介入する事態になった経験を有する中で、今回、同様の行為について警察に相談せざるを得ない状況になったという事情もある。そのような状況の中で、Bの被害者的側面をより強めたり、児童買春のみならず強

 児童買春の際の窃盗被告事件について被害者の虚偽供述の動機として「検察官が指摘するとおり、児童買春等も含めた本件被害の状況を踏まえると、Bが被害申告をするのは、大きな心身への負担や心理的抵抗を伴うことは容易に推察され、殊更虚偽の被害申告をするとは通常は考え難い。しかしながら、Bは、本件以前に、援助交際を行ったことで警察が介入する事態になった経験を有する中で、今回、同様の行為について警察に相談せざるを得ない状況になったという事情もある。そのような状況の中で、Bの被害者的側面をより強めたり、児童買春のみならず強要未遂等も受けた被告人に対して、少しでも罪が重くなるように、虚偽の窃盗被害を作出するということも、あり得ないことではない。交通費が3000円程度であるとの被告人とBとの間のやり取りと辻褄が合うなどしている点も、Bが1万2000円を盗られた旨の虚偽の被害申告を行うために、辻褄の合う周辺事情と関連付けて、具体的かつ一貫した供述をしていることも考えられなくはない。」と判示した事例(千葉地裁h30.2.22)

千葉地方裁判所平成30年02月22日
上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強要未遂、窃盗、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官笹村美智子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
本件公訴事実中、平成29年5月26日付け起訴状記載の公訴事実第3については、被告人は無罪。
理由
罪となるべき事実
第9 被告人は、平成28年10月29日午後4時53分頃から同日午後7時38分頃までの間、(住所略)ホテル「K」(省略)号室において、B(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、Bに対し、現金10万円の対償を供与する約束をして、Bと性交し、もって児童買春をした。
第10 被告人は、前記第9記載の日時・場所において、Bが18歳に満たない児童であることを知りながら、Bに、Bが被告人と性交する姿態、Bに被告人の陰茎を口淫させる姿態、被告人がBの陰部を手指で触る姿態及びその乳房及び陰部を露出させる姿態をとらせ、これらを被告人が使用する動画撮影機能付きスマートフォンで動画撮影し、平成29年1月23日午前5時42分頃から同日午前5時48分頃までの間、東京都内又はその周辺において、同動画のデータ4点を、マイクロSDカードに記録して保存し、もって、児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
第11 被告人は、Dとの性交場面等を撮影した静止画等のデータをインターネット上に公開する旨脅迫し、Dに自己との面会等をさせようと考え、平成28年12月2日、東京都内又はその周辺において、自己が使用する携帯電話機から、Dが使用する携帯電話機に宛てて、「今からでもいいよ! 午前中会わない?」「今から午前中会おう」「じゃあ今からね! 10時Lでいい?」「もういいや 送る」「これ以上言っても無理だね 今日送るから」などと記載した電子メールを送信し、いずれもその頃、埼玉県内又は東京都内において、Dにこれらを閲読させ、被告人との面会等に応じなければDの名誉に危害を加える旨告知してDを脅迫し、Dに義務のないことを行わせようとしたが、Dが拒否したため、その目的を遂げなかった。
第12 被告人は、平成29年1月19日午前10時3分頃から同日午後1時8分頃までの間、東京都(以下略)ホテル「G」(省略)号室において、A(当時16歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、Aに対し、現金10万円の対償を供与する約束をして、Aと性交し、もって児童買春をした。
第13 被告人は、Bとの性交場面等を撮影した前記第10の動画データをインターネット上に公開する旨脅迫し、Bに自己との面会等をさせようと考え、平成29年3月6日から同月14日までの間、東京都内又はその周辺において、自己が使用する携帯電話機から、Bが使用する携帯電話機に宛てて、「いつ会おうか?」「それ動画流して良いって事だよね?」「じゃあ流すね!サイナラ」「なら土日だな!無理ならもういい」などと記載した電子メールを送信し、いずれもその頃、岐阜県内又は三重県内において、Bにこれらを閲読させ、被告人との面会等に応じなければBの名誉に危害を加える旨告知してBを脅迫し、Bに義務のないことを行わせようとしたが、Bが警察に届け出たため、その目的を遂げなかった。

(一部無罪の理由)
 当裁判所は、平成29年5月26日付け起訴状記載の公訴事実第3の窃盗の事実については無罪と判断したので、その理由を説明する。
 上記公訴事実の要旨は、被告人が、判示第9記載の日時・場所において、Bの財布内からB所有の現金約1万2000円を抜き取り窃取した、というものである。弁護人は、被告人は窃盗を行っておらず、無罪であると主張し、被告人も、上記日時・場所において、Bと性交するなどしたことは間違いないが、現金を盗ってはいない旨供述している。これに対し、検察官は、被告人から現金約1万2000円を盗られた旨述べるBの公判供述を根拠として、上記公訴事実は認められると主張している。
 そこで、Bの公判供述の信用性について検討する。Bは、当公判廷において、次のとおり供述している。すなわち、Bは、判示第9記載の日時・場所において、被告人と2度にわたって性交した。被告人は、1度目と2度目の性交の間に、Bの財布をバッグから取り出して、Bの学生証を探すなどしていた。被告人は、財布を触っている際に、Bの自宅からNまでの交通費を聞いてきた。Bは、もしかしたらお金を取られるかもしれないと思ったので、新幹線で3000円ぐらいで来たと、少し高めに答えた。その後、被告人が、Bの財布からお札を取って、被告人の財布の中に入れるのが見えた。被告人と会う前は、財布の中には、1万5000円ぐらい(内訳は一万円札1枚と千円札5枚)が入っていたのに、被告人と別れて駅に行く途中で財布の中身を確認すると、3000円ぐらい(千円札3枚)に減っていた。
 Bの上記供述は、当時の心境も交えた具体的なものである。財布の中身が3000円程度に減っていたという点は、自宅からNまでの交通費が3000円程度であるとの被告人とBとの間のやり取りとも辻褄が合うもので、Bの供述は一貫した内容となっている。また、被告人の他の被害児童に対する児童買春等の犯行状況をみると、被告人は、被害児童の帰宅分の交通費を気に掛ける傾向があることがうかがわれ、交通費相当額が財布の中に残っていたというのは、このような被告人の行動傾向とも整合している。以上の点は、検察官も指摘しているとおり、Bの供述の信用性を肯定する根拠となる事情といい得る。
 しかしながら、Bの供述には、客観的な裏付けとなるような事情は見当たらない。また、被害申告の経緯をみても、Bは平成29年3月11日に警察に相談しているところ、当初は、被告人から児童買春や強要の被害を受けていることを申告するのみで、窃盗の被害については申告していなかった。この点は、検察官も指摘するとおり、被告人から性交場面等の動画をインターネット上に流すと告げられて脅されていたという、当時のBの状況を踏まえると、当初の申告に窃盗が含まれていないとしても、不自然ではないが、他方で、被害申告の経緯は、Bの供述の信用性を裏付けるものと評価することも困難である。
 また、Bは、Nで買い物をするために、もともと財布に入っていた5000円に、1万円札を追加で入れて自宅を出た、この1万5000円は親からもらった小遣いであり、小遣いの月額は5000円である旨供述している。Bのこの供述を前提とすると、Bは、小遣い3か月分に相当する現金を持ってNに向かったことになる。しかしながら、Bと被告人との間の事件直前のメールのやり取りを見ると、Bは金銭的に余裕がなく、被告人から児童買春の対償を得られることに執着していることもうかがわれることなどからすると、約1万5000円を持って自宅を出たというBの上記供述にはやや不自然な面があることも否めない。
 さらに、虚偽供述の動機についてみると、検察官が指摘するとおり、児童買春等も含めた本件被害の状況を踏まえると、Bが被害申告をするのは、大きな心身への負担や心理的抵抗を伴うことは容易に推察され、殊更虚偽の被害申告をするとは通常は考え難い。しかしながら、Bは、本件以前に、援助交際を行ったことで警察が介入する事態になった経験を有する中で、今回、同様の行為について警察に相談せざるを得ない状況になったという事情もある。そのような状況の中で、Bの被害者的側面をより強めたり、児童買春のみならず強要未遂等も受けた被告人に対して、少しでも罪が重くなるように、虚偽の窃盗被害を作出するということも、あり得ないことではない。交通費が3000円程度であるとの被告人とBとの間のやり取りと辻褄が合うなどしている点も、Bが1万2000円を盗られた旨の虚偽の被害申告を行うために、辻褄の合う周辺事情と関連付けて、具体的かつ一貫した供述をしていることも考えられなくはない。
 以上によれば、Bの供述の信用性を肯定する根拠となる前記諸事情を踏まえてもなお、Bが虚偽の供述を行っている可能性は残ると言わざるを得ない。他方で、被告人供述については、これを排斥するような事情は見当たらない。
 そうすると、前記窃盗の公訴事実については、合理的な疑いを差し挟む余地がないほどの証明がなされたとはいえないから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役4年)
刑事第4部
 (裁判官 伊藤大介