児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

店舗内で強制わいせつ致傷の被害に遭った旨の女性の証言に一定限度で信用性を認めて有罪とした原判決の事実認定は,論理則,経験則等に照らして不合理であるとして,裁判員裁判の原判決を破棄し,無罪とした事例。(大阪高裁h27.2.13)

 原判決は懲役2年(求刑4年)
 裁判員殿の事実認定

http://www.kyotosogo-law.com/blog.html
2015年03月13日 野崎隆史
「原判決を破棄する。被告人は無罪。」
拾井美香弁護士と私が担当していた刑事事件で,先日,大阪高裁にて逆転無罪判決を得ました。
その後,検察官は上告せず,無罪が確定しました。
この事件は,当番弁護士で最初に接見したときから無罪を確信していた事件ですが,無罪となるまで約2年の月日を要しました。
無事冤罪が晴れましたが,それでも失った時間は戻りません。
今後も一人の無辜を出すことのないよう,真摯に弁護活動を続けてまいります。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/952/084952_hanrei.pdf
平成27年2月13日 大阪高等裁判所第6刑事部
主 文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。
理 由
本件控訴の趣意は,弁護人野崎隆史 作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,論旨は訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張である。

・・・・・
本件公訴事実は,被告人が,両手でAの両肩をつかんでその身体を揺さぶるなどした上,両手でAの身体を床に押し倒して,仰向けになったAの両肩を床に押さえつけ,さらに,Aが履いていたタイツ及びショーツを脱がせるなどの暴行を加え,左手で着衣の上からAの乳房を揉むとともに,その陰部を手指で弄ぶなどし,もって強いてわいせつな行為をし,その際,一連の暴行により,Aに前記傷害を負わせたというものであるところ,原判決は,Aの原審証言には疑問を抱かざるを得ない部分が少なくないものの,原判示の限度では信用できるとして,原判示の事実を認定している。しかし,その認定は論理則,経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ない。以下,その理由を説明する。

(1) 被告人の掌紋について
この点のAの原審証言は,被告人に閉店時間であることなどから帰るように言ったところ,被告人が憤慨してカウンターを両手で叩くなどしたので,被告人を店の外に出そうと近づき,タイツとショーツを脱がされるなどしたというものであり,統合捜査報告書(原審甲22)には,店内入り口に近い位置のカウンター上面に,いずれも指先がカウンター内側を向くようにして,被告人の左右掌紋が採取されたような記載があり,写真7(左手),8(右手)も,両方指先が上を向くように並べられている。
しかし,所論が指摘するように,両写真には,掌紋とともに木目様のものと思われる筋が写っているところ,その方向が約90度違っており,写真の向きが違っていることが疑われる。当審で取り調べた捜査報告書(当審検1),遺留指掌紋確認通知書(同2),実況見分調書(同3)及び「強制わいせつ事件の実況見分立ち会い結果について」と題する報告書(同4)によれば,前記統合捜査報告書における被告人の左右掌紋の向きに関する記載及び写真の並べ方は,その原証拠である電話聴取書を作成した検察官が指掌紋を採取した警察官から聴取した内容が不正確なものであったこと等に起因する誤ったものであり,被告人の左右掌紋は,正しくは,カウンター上面(天板)ではなく,外側縁部分に遺留されていたものであり,左手の指先は,カウンターの外側を向き,右手の指先は,カウンター内側より右側を向くような形で,それぞれ遺留されていたと認められる。このような掌紋が遺留された位置や特に左掌紋の向きに照らせば,それらの掌紋が,カウンター内の人を脅すために被告人がカウンターを叩いた際に付いたものであるとは認め難く,被告人の掌紋の付着状況がAの原審証言に適合するものとはいえない
・・・・・・・
(2) Aの原審証言の信用性全般について
被害状況に関するAの主尋問に対する原審証言は,大要,同人が働いていたカウンターバーの当日の営業を終えようとして閉店準備をしてカウンター内にいたときに被告人が入ってきた,帰るよう言ったが,被告人は乱暴な言葉で威嚇し,カウンターを両手で叩くなどした,Aがカウンターから出て,帰るよう言っていたところ,被告人は,Aの肩や腕をつかんでキスをしようとしたり,胸や尻を触ったりし,さらに,Aを押し倒して,タイツ及びショーツを一瞬の隙に脱がせ,陰部を触った,Aは,被告人の股間を蹴るなどし,被告人がひるんだ隙にタイツ等を手に取り,パンプスを履いて店の外に出たら,四つん這いになった被告人が店の表に出たので,ドアを閉め,急いで道路に走っていって,タクシーに乗った,被告人は,タクシーを叩くなどして発車を妨害した,などというものである。
しかし,Aは,捜査段階の初期には,胸を揉まれたり陰部を触られたりした旨の供述をしていなかったことが認められ,Aの原審証言は,その他に触られた部位についても捜査段階よりも増えていることがうかがわれる。また,タイツ等を脱がされた状況については,捜査段階では,脱がされまいと抵抗したが,力ずくで脱がされたような供述をしていた。さらに,Aが負ったという右下腿打撲傷,右大腿打撲傷についても,Aは,捜査段階では,押し倒されたときや,その後抵抗しようとしてもがいているときに,擦りむいたのだと思う旨供述していたのに対し,原審証言では,すねの傷は,被告人の靴に蹴られたときにできたもの,太ももの傷は,斜めに倒された後に,仰向けにされたときにできた傷だと思う旨,捜査段階とは異なる,あるいは捜査段階よりも詳細な証言をしている。
以上のような供述の変遷は,原判決が指摘するように,後に知った事実をもとに辻褄を合わせようとしたり,誇張して供述しているのではないかと疑わせるものであり,被害状況という原審証言の核心部分に限ってみても,その証言には看過できない変遷がみられる。また,Aの原審証言は,後述のように,被害状況について,不自然な点が見られ,被害状況以外についても,変遷等が少なからずみられる。したがって,Aの原審証言を,全面的に信用することはできない。
・・・・・・
第3 破棄自判
よって,刑訴法397条1項,382条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について更に次のとおり判決をする。
本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成25年6月3日午前1時頃から同日午前1時36分頃までの間,京都市a区b町c番地d所在のカウンターバー「C」店内において,Aに対し,強いてわいせつな行為をしようと企て,「われ,ただで済むと思うなよ。分かってんのか。われ,承知せえへんぞ。」などと語気鋭く申し向け,両手で同女の両肩をつかんでその身体を揺さぶるなどした上,両手で同女の身体を床に押し倒して,仰向けになった同女の両肩を床に押さえつけ,さらに,同女が履いていたタイツ及びショーツを脱がせるなどの暴行を加え,左手で着衣の上から同女の乳房を揉むとともに,その陰部を手指で弄ぶなどし,もって強いてわいせつな行為をし,その際,前記一連の暴行により,同女に約1週間の通院加療を要する右下腿打撲傷,右大腿打撲傷の傷害を負わせた」というものであるが,前述のとおり,同公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
平成27年2月13日
大阪高等裁判所第6刑事部